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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十四章 『脈動する大罪、コリエンテを駆けろ!』
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第五百七十五話 『四天王足る強さ』

 炎と氷が上空でぶつかり合い、衝撃が島中を駆け巡る。氷に追われていたレヴィ達もただならぬ気配を肌で感じていた。



「氷が止まったと思ったら、どうにも外が騒がしいな」



「妙な魔力を感じるよ、氷は止まったけど依然としてコピー悪魔は染み出てくるし嫉妬でぷんすかだよ」

「来た道は凍ってるし、この先は行き止まりだし、いっそ壁ぶち抜いて進もうか」



「レディとは思えない力技だなぁ、コピーとはいえここは工場……元を正確にコピーしているのなら尚更繊細な調査が…………」



「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」



 後方の壁をぶち破り、クロノがレヴィとバロンの間をすり抜ける。背中に張り付いた切り札の首からペンダントが垂れ下がり、肥大化したそれは激突寸前だった氷を抉るように食い千切る。そのまま形容しがたい姿になったリコーラをクッションに、クロノとセツナはズルズルと床に広がった。



「お前等の切り札はとんでもないタイミングでとんでもない登場をするね」



「うーん! 豪快!」



「勢いのままに山を蹴り破ったクロノを私は一生許すことは無いだろう……」



「勢いを殺そうとしたんだよ……! あの野郎、一歩間違えたら死んでたぞ……」

「リコーラさん、助かったよありがとう……」



「ゲロゲロ……」



「うぎゃあああああああああっ!?」



 キラキラした何かを切り札に向けて吐き出すリコーラ、どうやら食べた氷の味は最悪だったようだ。



「この氷、いや魔力……? ゲロマズだよー……」



「こっち向くなーーっ! うわあああああああっ!」



「っていうかここは……?」



「さてさて、説明したい事はこちらも山ほどあるんだが……一先ずこの気配はなんなんだい?」



「肌がピリピリ嫉妬で焼けるよ、外で何が起きてるのさ」



「あぁ、外ね……怪物同士が戦ってる」



 空を埋め尽くすツララの嵐が一瞬で蒸発し、紅い一閃が氷塊に激突する。閃光が爆ぜ蒸気が周囲を包み込み、次の瞬間両者の拳がぶつかり合った衝撃が蒸気どころか雲まで吹き飛ばす。



「なんだっけかぁ? 最初にお前が氷から出てきた時言った言葉」

「ルーンは何処? だっけぇ? プルプル震えて弱そうだったよな」



「…………」



「城中走り回って、仲間は何処だのルーンは何処だの、泣き喚いてさぁ」

「魔王様を見て傑作だった、あの絶望面は最高だった、お前の居た部屋にあったその大剣を抱えて大泣きしてたよなぁ……!」

「今の魔王様はお飾りとはいえ、実力は間違いない、強いんだよ分かるか小娘」

「四天王とは魔王直属の部下、魔物達の多様な摂理の中にある絶対的強者の称号、分かるか小娘」

「強者にしか務まらん、強者にこそ相応しい、誉れ高き四天王の座は……!」



「分かっているよ、私に負けた貴様には相応しくないな」



「あはははははははっ!! そうだ俺は負けたんだよお前にっ!!」



 狂ったように笑う男は、出会った時から強さに執着するような鬼だった。氷の魔力を宿した二本角の蒼鬼は、セシルの知る四天王ではなかった。全てを失い、全てが狂ったように映る世界でこの男はセシルを笑った。どうやら自分が閉じ込められていた氷は魔王城の中で安置されていたらしく、その特別扱いはこの男の癇に障っていたらしい。



「仲間に縋り! みっともなく泣き喚き! 王の在り方に口を挟む! そんな小娘に俺は後れを取った!」

「自分で自分が許せなくなったよ、あのような屈辱は初めてだった!」



「なんだ? まさかそんな理由で悪魔に身を落としたか?」



「そんな理由っ!? 強さ無くして理想を語れる世界がどこにある?」

「多様な種、多様な摂理、入り混じる混沌の世で我を通す絶対最低基準は強さだっ! それを失う事は死を意味するっ!」

「取り戻す為ならどんな道でも押し通るさ! 幾らでも墜ちてやろうっ! お前を倒し俺はもう一度強さを掴むっ!」



「ふむ、強くある事が貴様の基準か」

「あの時の問いをもう一度お前に投げるとする、お前にとって四天王とはなんだ」



「答えは変わらん! 強さの証よっ!!」



 霧雨は右腕に氷を纏い、巨大な金棒のように硬化させる。大振りで振るわれるそれをセシルは尻尾の一撃で破壊した。飛び散る氷の破片に、セシルの失望したような眼光が反射する。



『ルーンにとって、四天王ってなんだ?』



『突然だね、どうしたの?』



『リジャイドが言ってた、ルーンが四天王に与えた影響は大きいって、波紋は魔物達全体に広がるだろうって』



『魔王を除けば、四天王達が一番魔物達全体に影響を及ぼすだろうからね』

『しかしなんだと来たか……一言で説明するのは難しいなぁ』



『殺し合ったりしてるだろ? なのにリジャイドはお前と一緒に居る、訳が分かんない』



『腕吹っ飛ばされた事もあったなぁ、そういえば朧さん元気にしてるかなぁ』



『腕吹っ飛ばした相手と仲良くしてるとか狂気の沙汰だ』



『仲良く……うん、それだね』

『僕の夢は、皆との共存の世界……四天王が周りに与える影響が大きいなら、四天王と仲良くなれば近道』

『だから、友達かな……あはは』



『向こうはそう思ってないかもしれないぞ?』



『そうだねぇ、うーん……セシルはさ、自分の全部を説明出来る?』



『……ん?』



『生き物は、特に人間は色んな物事に意味を求めると思うんだ』

『どうしてここに居るんだろう、どうして生まれてきたんだろう、小さい事から大きな事まで、時には軽く、時には大きく意味を求めて考える……正しく説明出来る子はきっと居ない』

『答えなんかないんだから、だからそれぞれがそれぞれの意味を当てはめる、それは他の影響で揺れ動いたりもするんだ』

『四天王と戦った、語り合った、その中で僕は聞いてみたんだ、どうして四天王を務めているのか』

『みんな重たい物を背負っていて、使命みたいなのがあって、それを大事にして、魔王にも心から尽くしていて』

『格好良いんだ、頑張ってる、精一杯自分を持ってて、キラキラしてる』

『僕は知り合ってきた魔物達全員大好きだけど、その中でもやっぱり四天王の皆が一番尊敬出来る』

『確固たる自己を持ち、己の意味を輝かせる者達、僕は彼等を尊敬するし、だからこそ友でありたい』

『彼等と共に在りたい、そう願うから、それを諦めない……だから友達じゃないって言われても追いかけるさ』



 そう語る大馬鹿は、目をキラキラと輝かせていた。本当に、心から、大好きを感じさせていた。



『……でもお前とずっと一緒に居るから、リジャイドは四天王を辞めさせられるかもしれないぞ』



『リジャイド自身はそれでも構わないって言うかもね、でも空席を作っちゃうとあいつが困るかなぁ』

『うーん、誰か僕から推薦してみようか』



『本気で言ってるの? 喧嘩売ってるようなものじゃない』



『いっそセシルが四天王になってみれば? 同じ龍族の血を引いてるし』

『もう僕等友達だし、近道だよ!』



『ほんとバカ……わけわかんないよ』



『冷たい事言うなよー、ほっぺモチモチ』



『やめ、やめろーーっ!』



 人の頬を勝手にモチモチしながら、あいつは笑っていた。あの後、四天王の空席に着いたのは暗獄と呼ばれし地獄の一つ。死闘の末、ルーンは地獄とも絆を紡いだ。波紋は間違いなく広がっていた。当時の四天王達は、セシルから見ても尊敬の対象だった。優しかった、強かった、格好良かった、暖かかった、大好きだった。



 目覚めて、全てが狂っていた。濁っていた、くすんでいた。暗獄は魔王になっていて、自分の知る輝きは消えていた。四天王達も変わり果て、セシルにはぼやけて見えていた。そんな中、見知らぬ鬼が自分を弱い弱いと笑っていた。だから聞いてみたんだ、お前にとって四天王とは何か。すぐに答えは返ってきた、強さの証だと。そうだ、四天王は強い。けどそれで終わりじゃない、そこで終わっちゃ駄目なんだ。四天王が強さの意味を持つんじゃない、意味ある強さこそ四天王足るのだ。ルーンが大好きだった四天王の名を、空っぽのまま名乗るんじゃない。




 だから戦って奪った、その名を背負った。お前如きにこの名は渡さない、背負わせない。あいつが、あの時の自分が憧れたこの場所は、そんなに軽くはない。



「答えが変わらないのなら、私もあの時と同じ言葉を返そう」

「貴様に四天王は相応しくない、己の為だけにこの名を名乗る馬鹿タレにはな」

「お前の言う通り、多様な摂理入り混じる魔の世情は強さを求められる」

「だからこそ、四天王は模範となるのだ……この名の下に集う全てに意味と意思を伝えるんだ」

「今の四天王はどいつもこいつも好き勝手に……特にお前は自己完結の強さの称号だ……? ふざけるなよ……」

「……本来私如きが語るのもおこがましい称号なんだ、四天王を馬鹿にするな……」

「私達の憧れを馬鹿にするなっ!! 四天王の名を穢す事は、絶対に許さんっ!!」



 セシルの放った炎撃が霧雨の右半身を消し飛ばす。一瞬怯んだ霧雨だが、態勢を立て直し右半身を徐々に再生させる。失った部分を氷が形作り、肉体を構成した。



「小娘が、浅い理想で四天王の名を穢しているのはどっちだ……?」



「魔王が腑抜けの今、四天王が世を纏めるのが筋だろう」

「最近手伝わされて分かったが、乱れている、根っこまで乱れきっている」

「鳥は本当に何もしていないし、狐はジパング内で精一杯……その他全てを変幻一人でこなしていたとはな……私も最近まで身勝手な振る舞いをしていたからデカい事は言えないが……あまりにも……!」

「特に貴様、鍵を奪ったのは私への当てつけか? それとも誘い出す為の餌か? どちらでも構わん、貴様は己のつまらん欲の為に龍族を襲い鍵を奪った」



「情報が早いねぇ、これは四天王の証、弱者に持たせた奴が悪い」

「適当に扱ったお前も悪い、お前の罪だろう」

「お前の軽率な行動で、同族が傷ついた……頼りにならない四天王だなぁっ!」



「言い訳はしない、私自身龍族とは良い仲でもない」

「だが、律する立場である以上見て見ぬふりは出来ん…………今の私は四天王だ、己が力不足を痛感していても、一度背負った立場からは逃げられない」

「今は、情けない姿を見せる訳にはいかない相手が居るんだ」

「いつか来る未来の為、私は魔物側を正すと決めた」

「この背中を追ってくる馬鹿タレの為に、誇れる姿を見せなければいけない」

「私が誇る強さには、譲れない意味が宿っている…………悪いが貴様如きには負けられん」

「当然だが、この名も渡すわけにはいかない」



「じゃあ奪うまでよっ!!」



「出来るモノならやってみろ、愚か者がっ!!」



 再びぶつかり合い、衝撃が島を揺らす。力だけじゃない、欲と想いのぶつかり合いだ。譲れない想いは幾つもある、その全てを背負っている。冠した名に相応しい自分になって、約束を果たす。胸を張れる自分でなければ、クロノを待つなんて出来やしない。守るべき全ての為に、セシルはその身を焦がす。



 セシルの手の中で、ヴァンダルギオンは静かに脈動する。時を待つように、誰にも気づかれないよう、ゆっくりと。



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