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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十四章 『脈動する大罪、コリエンテを駆けろ!』
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第五百七十二話 『理想は陽炎と共に』

 爆音が響き、砕けた氷が宙を舞う。クロノ達が暴れ出すと同時にレヴィは翼を広げ、戦場を回り込むように飛び立った。その後を、バロンは地上を走り追いかける。



「さてさて、二人っきりのお散歩と参りましょうか」



「女のケツ追いかける奴にロクな奴はいないよ」



「またまたぁ、本気出せば振り切れるくせに追いつける速度で飛んでるじゃない? ルト様は勿論俺達だって君を信じたいのよ」

「君の背負った肩書きはあまりにも重い、最低保証はどうあっても必要なのさ、悪いね」



「別に、慣れてるよ」



「慣れちゃいけないなぁ、それは」

「救いたい相手に気を遣われている、己の無力さに反吐が出るぜ」



「そっちがどう思おうと勝手だけど、皆がレヴィみたいだと思わない方が良いよ」

「レヴィだって許せない気持ちはある、滅茶苦茶にしてやりたいってのは本心だよ」

「それでもレヴィは、仲間を優先しただけ……復讐を優先する奴だって居るよ」

「特にそっちの主戦力はマルスの器なんだ、導火線は簡単に火が付くよ」



「煽りになると?」



「事実なったからね、レヴィには心当たりがあるんだよ、二名ほど怒り狂うの間違いなしな奴が」



 複雑に絡み合う縁が対立を呼び起こす、罪の象徴とされている大罪の悪魔を救うなんて簡単な話じゃない。明確に敵対しているなら、尚の事言葉は届かない。心を揺さぶる何かが、不可欠だ。



「危険な橋だが、まぁ仕方ない必要な事だ」

「少なくても、君達の心を大きく揺さぶる最大の切り札でもある」



「良く言うよ」



「憤怒の悪魔がクロノ君に宿ったのはこっちとしても予想外、そしてそのまま味方入りしたのも想定外、向こうサイドもそれは同じだろう」

「イレギュラーってのは、長丁場になればなるほど乱れを生むのさ」

「この戦い、乱れを制した方が未来を取る」



「……未来、ね」



 口を閉ざし、レヴィは顔を上げる。島の中央に位置する山まで、二人は肩を並べ突き進むのだった。






 その頃、クロノとセシルは襲い来る氷人形に包囲されていた。砕いても砕いても新しい氷が次々と地面の下から生えてくる。



「キリがないなぁ……」



「クロノーーーー!! 前も後ろも囲まれてるぞーーーーーーーー!!」



「はっはっは、大層な歓迎ではないか」



「なんで笑ってるんだこいつはーーーーっ!!」



 背中のセツナが騒がしいが、確かに状況はあまり良くはない。それでも、クロノの気分は乗っていた。



(クロノさぁ、こんな状況なのにワクワクしてない?)



(どうせセシルが居るからだよ、対抗心を隠さなくなった)



(……それは、私達も……だけど)



(負けられねぇわな、俺達の立場的にも、クロノが交わした約束的にも)



「好き勝手言いやがって……そうだよ、その通り」



「さて、私は急いでいるのでな……馬鹿タレと肩を並べて遊んでいる場合ではない」

「先に行くぞ、精々私の背を追いかけてこい」



 右の爪を構え、セシルは大振りで大気を割く。切り裂かれた虚空は火を噴き、前方を大きく薙ぎ払う。地面を踏み締め、すぐ後ろに居たセシルの姿は爆炎を突き破っていった。



「ひぃっ!? 消え、消えたぞ……!」



「させるかっ!」



 単純な速度じゃとてもじゃないが及ばない、だけどそう動くのは予想出来ていた。水で予測し、風で感知し、振動で捉え、全てを燃やし喰らい付く。全ての自然体を駆使し、クロノは吹き荒れる爆炎が生み出した気流に乗って飛び上がる。炎を操り、荒ぶる風を背にセシルの後を追う。



「クロノ毎回言ってるけど切り札の事忘れてないよなあああああああああああああああ!?」



「セツナ! 加速するからしっかり掴まってろよ!」



「加速してから言うなああああああああああああっ!! あと断りを入れれば良いって話でもないぞおおおっ!?」



「舌噛むぜっ! 気を付けろっ!」



「うぎゃあああああああああああああああああっ!」



 加速し、地上を突き進むセシルを追う。炎を纏い氷人形を蹴散らしていく姿を捉えるが、そんなセシルを取り囲むように巨大な氷が渦を巻いている。どうせ、セシルは次の瞬間には周囲を薙ぎ払うだろう。だが、氷の動きはそれを想定して動いている。一撃じゃ砕けるだけ、セシルの次の動作が来る前に氷は形を変え第二波を生む。氷の中で渦巻く嫌な魔力は、虎視眈々とセシルの隙を狙っている。



(……この氷……)



「はぁっ!!」



 尻尾で周囲を薙ぎ払ったセシルだが、氷は即座に形を変える。無数のツララがセシルを狙うが、飛び込んできたクロノがセシルの炎を風で巻き上げツララを消し飛ばす。



「余計な真似を」



「なぁ、この氷お前狙いだよな」



「そうだな、恐らくこの氷の使い手こそ私が用のある奴だ」



「ふーん、つまりお前の前の四天王さんってわけね」

「この氷、凄い悪意を感じるんだけど?」



「『氷装』の霧雨、以前の奴が使う氷はこんな色じゃなかった」



「霧雨君ってばセシルちゃんにぶちのめされて闇墜ちしたんかなぁ」



「さっきも言ったけど、俺達はこの島で悪魔が目撃されてるから調査に来た」

「色んな悪魔と戦って、嫌な気配を沢山感じてきた、だから俺にも分かる」

「この氷からは、悪魔の気配がする」



「霧雨の種族はなんだったか、ディムラ」



「悪魔やないのは確かやねぇ、鬼人種オーガの亜種の蒼鬼だった筈やけど」



 ピースが集まっていく、嫌なピースが。想定以上の敵が、秘密が、この先に待っている気がした。



「くだらん」



 吐き捨てるように零し、セシルは周囲の氷を熱波で吹き飛ばす。近くに居るクロノとセツナに熱の影響はない、何をどうやったか今のクロノじゃ理解が及ばない。



「私の獲物だ、貴様が難しい事を考える必要はない」



「俺はそのレベルの大物が隠そうとしてる何かを危惧してるの、最初からお前の心配なんてしてねぇ」

「必要のない事に気を遣うほど、簡単な道じゃない」



「良く言うわ、寄り道だらけの浮気者のくせに」



「はぁっ!?」



「早く追いついてこい、私の気は長くない」



「言われるまでもねぇよ、すぐに追い抜いてやる」



「…………馬鹿タレが、そう簡単に追いつかせるものか」

「この背中は、そう簡単に届かせちゃいけないんだよ」



 一瞬、セシルは笑ったように見えた。陽炎のような焔を残し、再びセシルの姿は前方に消える。影すら踏めない、圧倒的な加速だ。氷はセシルを追い、クロノは殆どノーマークになる。




「…………遠いなぁ」




「クロノ、なんで嬉しそうなんだ?」




「ん? あれが俺の目標の一つだから、いやほんと早いな遠すぎるだろ」




「目標が遠いと辛くないのか?」




「夢や目標が遠くて、手が届かないくらい離れてて、俺は何回も潰れそうになったんだ」

「諦めかけた俺をぶん殴って、立ち上がらせてくれたのがあいつだったんだ」

「遠くても走れば良い、諦めずに進めばいい、一緒に旅をして何度も教えてもらった」

「近づける事を教えてくれた、だから辛くない、俺は諦めが悪いしな」

「追いかける背中は幾つかあるんだけど、あいつの背中は特に眩しいから、チラチラ振り返ってるのが笑えて来る」

「辛いとか以前に足が勝手に動くんだよ、追いつきたい気持ちが止まらない、俺の原動力になってる」

「セツナが切り札として、みんなに応えたいって気持ちと一緒だよ、理屈じゃないんだ」




「私と同じ……クロノにもそういうのあるんだな」




「当然、俺も夢を追う者だからな」




「おいクロノ、悠長に喋ってるが夢に置き去りにされてんぞ」




 フェルドの声で気づいたが、氷が全てセシルを追っているので完全に取り残されている。戦闘音も遠く離れており、蚊帳の外だ。



「これじゃ居ても居なくても同じだねぇ」



「外野だね、これは」



「……クロノ、格好悪い」



「畳み掛けてくるねぇ……お前達さぁ……」



「プルプルしてる場合じゃねぇぞ、このままじゃお前が追いつく前にあいつ終わらせかねないぜ」



「だーーーーーーーーっ!! 待てこらセシルーーーーーーーーーーーーーッ!!」



「ぎゃああああああああああっ!? 急に加速するなあああああああああああっ!!」



 クロノがセシルに振り回されている頃、バロン達は山の中腹辺りで妙な物を見つけていた。



「随分機械的な扉だねぇ 人の手が入ってるのはこれで間違いないっと」



「開かないね、どうしようか」



「またまたぁ、レヴィちゃんってばお茶目なんだから」

「君にそういうの関係ないでしょうに、頼らせ上手だねぇ」



「…………単純にレヴィが居なかったらどうしてたか気になるんだけど」



「ん? ぶち破ってたかな」



「嫉妬しちゃうくらい力技だね、嫌いじゃないけど」

「『自己解釈の両天秤ワンマン・テンペランス』……開かない扉も巡れば開く」



 レヴィの力で、閉ざされていた機械の扉はあっさりと開いた。それと同時に、バロンの口が開かなくなった。



「むぐぐ……」



「開く要素で扉は開けた、閉じる要素はそこにぶつけた」

「まぁ暫くしたら効果切れるしそれまで黙ってて、レヴィは静かなのが好き」



「むぐ、むぐぐ……(クールな君はとても魅力的だね)」



「さてさて何が待っているかな、嫉妬しちゃうくらい……の……」



 中に広がっていたのは、自然とかけ離れた機械的な工場。散らばる金属片、そして多数の武器。オイルの匂いがレヴィの顔を歪ませた。



「うーん、ラベネの近くの孤島でこのような工場が……おかしいねぇ、フローラル姫は超絶天才の開発者だけど、自然界への配慮は忘れない筈」



(!? もう喋れるの!?)



「こんな風に自然界? エコ? 知ったこっちゃねぇって感じなのはゲルトのやり方だなぁ」

「勝手にこんな工場作って、武器でも量産してるのかな? 戦争でもおっぱじめようってのか」

「いやぁでも変だねぇ、数か月前のラベネとのやり取りじゃこの島にこんな施設は無かった」

「調査にはうちの子達だって関わってる、見逃す筈がないんだよ」



「何が言いたいの? 早く言わないと嫉妬だよ」



「人間業じゃないってことさ、割と悪魔ってコツコツしたの好きだよね」

「嫌がらせや悪い事を仕込む時は、特にさ」



 次の瞬間、開いた筈の扉が勝手に閉ざされた。そして、壁や天井の隙間から黒い影のようなモノが無数に伸びてきた。工場内に赤いランプが輝き、警報が鳴り響く。



「はぁ……君、隠密班のリーダーって嘘でしょ」



「はっはっは、隠し切れぬ煌めきのオーラが恨めしいな」

「まぁ実際、ここで隠密をする必要はなさそうだ」



「悪魔の匂いがするよ、レヴィが言うのもなんだけど気に入らない匂いだよ」



 強行突破こそ、最短ルートだ。



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