第五百六十七話 『輝くダイヤ』
「! 便利な移動法だね、嫉妬しちゃうよ」
「さて、ここはどの辺なのかな……?」
ゲートを潜り、クロノ達はコリエンテの土を踏む。ゲートを開いてくれた鍵持ちの流魔水渦メンバーが近くに居る筈だ。キョロキョロと辺りを見渡すと、どうやらここはエイムグルカのようだ。
「精霊学校のあった町だね、ラベネから少し離れてるけどどうしてここに……?」
「また切り札の知らない場所だな! このまま作戦が進行していくと切り札の神経は磨り減る一方! せめて合間合間に気を抜きたいぞ!」
「前向きなのか後ろ向きなのか分からないね、嫉妬はしないけど」
「勿論後ろ向きだが下がるとみんなガッカリするので前方に背を向けガクガクと進むんだ!」
「なにそれ、愉快な切り札だね」
「私は頼りになる切り札になりたいんだ!」
「私が嫉妬するくらいの切り札目指しなよ」
興味なさげに振舞うが、なんだかんだレヴィはセツナと普通に話している。こうしていると、大罪の名を背負った『化け物』にはとても見えない。やはり、見て見ないと、触れてみないと分からない事は沢山ある。悪魔に対しクロノはまだ抵抗があるが、決めつけて拒絶するのは悪い事だとはっきりわかる。だから、向き合う事を諦めちゃいけないんだ。
「悪か善か、確かめてから戦いたいもんだな」
「ん? クロノなんか言ったか?」
「いや、ゲートを開いた奴が見当たらないなぁって」
目立たないように町の端にゲートは開いているが、それにしたって人気が無さ過ぎる。気配も感じ取れず、正直途方に暮れてた。
「んー? 流魔水渦の人が居ると思うんだけど……」
「レヴィには良くわからないけど、器くんの足元で段ボールが動いてるよ」
「あははレヴィちゃん何意味の分かんないことを」
足元に段ボールがにじり寄っていた、軽くホラーだ何も感じなかったぞ。
(!? 俺の自然体で何も感じ取れなかった……!? アホみたいな隠れ方だけど気配の隠し方は本物……! 中身は間違いなく手練れだ……!)
中身を格上と断定、クロノは先手を打って段ボールを引き剥がしにかかる。クロノの速度を上回り、段ボールは異常な速さでクロノの脇を抜ける。そのままセツナの隣に移動し、危機感は更に上がる。相手の動きは只者じゃない事をはっきりと理解させてきた、格上に好き放題動かれては搔き乱されるばかりだ。特に相手は流魔水渦、ほぼ100%魔物だ。味方なのは間違いないが、味方だからって危害を加えてこないとは限らない。現に世界で一番信用している精霊達だって時には敵に回る日もある。
「俺の全力で、引っぺがすっ!!」
「凄く白熱してるけど僕達に不当な評価が下った気がするね」
「スピード勝負だよぉっ! いっけぇクロノォッ!」
「いや怖いがっ!? 近くの切り札が吹っ飛びそうなんだがぁっ!」
全力で踏み込み、相手の動きを感知、先回りするように地面を滑り、クロノは段ボールの急所を狙う。伸ばした手を弾くように、『中身』は段ボールを上に投げ捨てた。
(弾かれ……しまった誘い込まれた……!)
無防備になったクロノに、段ボールの中身が襲い掛かるっ!
「わ、……ひ、ぁ…………がぉー…………」
顔を真っ赤にした淫魔がクロノを驚かすっ! 効果は無かった。
「えっと……」
「きゅぅ」
「えっとっ!?」
そして気絶した、なんなんだ一体。
「ああああああああああああっ!! そうじゃないだろうがあああああああああああああああ!」
「違うだろシトリンあと少し頑張ればいけただろっ! 最初が肝心だって言ったじゃんかガッツが足りないんだよガッツがぁっ!!」
「お前っ! それでも淫魔かよぉっ!!」
「わー悪魔だ退治しなきゃー」
「ぐわーーーっ!!」
諸悪の根源をひっ捕らえたクロノ達、知ってる事を全部吐いて貰うことにした。
「確か小悪魔のコロンちゃんだったねぇ、一回流魔水渦のアジトであったっけ」
「気を失った子は淫魔のシトリンさんだったな、君達がゲートを開いたのか?」
「ふっふっふ、クロノ君ご一行さん? 情報の価値を理解していないのかな?」
「あたし達は流魔水渦の裏方、諜報部隊っ! 例え何があろうとも、大切な情報を簡単に教えるわけが」
「翼毟ってみるか」
「想像の100倍バイオレンスッ!!! ごめんってお茶目な悪戯だったんだよぉっ!」
「シトリンにちょっと度胸を付けてやろうと思って! 悪気は無かったんだぁ!」
「っていうか驚かす方がビビって気絶とかマジうける、あはははっ!」
「セツナ、切り札としてこの子に罰を与えてあげなさい」
「え!? 私が!?」
「やーん、セツナちゃん虐めるのぉ?」
(くはっ! うちの切り札とか脳みそスッカラカンだし上手い事やれば余裕で逃げられんぜぐへへっ!)
「心の声が駄々漏れだし反省してないな、セツナ首元」
「あっ! そうか!」
「切り札必殺っ! ビックリお仕置きマン・サモンリコーラッ!」
「ごはーん」
「ぬわあああああああああああああああああっ!?」
セツナが首から外し天高く掲げたペンダントは、己が欲のままに性悪小悪魔を飲み込むのだった。
「負けたぜ、完敗さ……君達になら、託せるよ……あたしは君達のような子を待っていたんだ……」
「ねぇ、レヴィ急いでるんだけど」
「そうだな、シトリンさん起こして話を聞こう」
「待って待ってよ! 半分お遊びだったけどあたし達だって真面目に理由あんだって!!」
「大体シトリンがやりたくてあんなおふざけすると思ってんの? あんなのあたしくらいしか楽しめないっての!」
「小さいのに中々欲に忠実な悪魔だね、嫉妬しちゃうよ」
「うちのリーダーがどうしてもって言うからさ、なんか準備まで時間を稼げって……」
「リーダー?」
『その通りだよっ! ベイビーちゃん達っ!!』
クロノの声に重なるように、馬鹿でかい声が響き渡る。もう既に良い予感は欠片もしていない。
「おっと噂をすれば……! シトリン起きろパンツ丸出しだぞーーーーっ! 嘘だけど」
「~~~~~~~~~~~~~~っ!? っ! っ!!?」
「ほら手伝うよ! やんないとリーダーへそ曲げるんだから!」
飛び起きたシトリンの手を引き、コロンは翼を広げ空に舞い上がる。どこからともなく取り出した紙吹雪を上空から撒き散らし、虚空より飛び出してきた影の登場を派手に彩る。影はキラキラと降り注ぐ紙吹雪を右手でなぞり、指を鳴らしてみせる。舞い踊る紙吹雪の一片一片の位置が一瞬で入れ替わり、ポーズを決める男の演出は最高のボルテージを見せた。
「流魔水渦、絵札が一人…………ダイヤのバロン・グリットラーです」
「最初に言っておくが少年、俺に惚れるなよ?」
「惚れねぇよ」
「ふふ、最初はみんなそう言うんだ、でもダメさ、衝動は止められない」
「俺の魅力は、どうしたって全てを引き付ける……生き物が重力に抗えないように、万物は俺の煌めきに抗えない……」
「また変なの出てきたよ……」
まるで舞台の上で喜劇を演じる役者のように派手な格好をした変人が顕現した。決めポーズを取っているところ悪いが、クロノの中では彼は初対面の時マイラにフルコンボを決められズタボロにされていた人という印象しかない。
「照れるな照れるな、俺は男は好かんが君のように可愛い顔をした子はサービスだ! モテる秘訣なら特別に教えてあげよう!」
「いや要らんよ、それより大罪の」
「勿論分かっているさ、俺ほどの男になれば君の求める全てが分かっている! 既に調べ終わっているんだ任せておくがいい!」
「精霊学校無き今っ! このエイムグルカは正直特徴のない辺鄙な町だと言える、だがそれは素人の考えだ!」
「この町には、意外と美女が多い……」
「ふんっ!!」
「おうっ!?」
失礼を承知で、クロノはバロンの首筋に手刀を叩き込む。崩れ落ちるバロンを隅の方に置いておき、散らばった紙吹雪の掃除をしているコロンとシトリンに目を向けた。
「この場にまともな奴居ねぇのか」
「失礼しちゃうなぁ、あたし達はそれよりはまともでしょうよ!」
「……ぁ…………ぃ……」
「会話が通じない……いや待てよ……?」
唯一まともそうなシトリンは恥ずかしがって声が聞こえない、だが意思疎通をしようとしているのなら……。クロノは一縷の望みをかけ、水の自然体でシトリンの思考を読み取ってみる。
(すいません、聞こえているなら口に出さなくても良いんで応えてください……!)
(ひゃわっ!? 脳内に直接声が……!)
(やった! すいません貴女しかまともな人が居ないんです)
(……あ、はい、知ってます)
(コロンちゃんはまぁ良いんです、悪い子じゃないんです)
(でも私達諜報部隊のリーダーは、その、女の子好きのチャラ馬鹿ですから)
(絵札なんですよね!?)
(実力は、ありますよ、はい……)
(でも現実、馬鹿な上司なんて沢山いるでしょ? ははは……)
(思考が重い……)
(エイムグルカでの情報収集もそろそろ終わるところでしたので、丁度良かったです)
(ここからは私達が同行します、宜しくお願いしますね)
ようやくまともな会話が成立しているように見えるが、これはクロノとシトリンの脳内での会話だ。既に現実のシトリンの姿はクロノの前には無く、代わりに動く段ボールが徘徊している状況だ。
「ごそごそ……こそこそ……」
「あーーーっ!! 悪戯がしたーーーーーーい!」
「はっ! 世界が、輝きを待っている……!」
「ねぇ、レヴィ一人で行っていいかな」
「俺も不安になってきたぜ……」
「…………ん? なんでこんな空気になってるんだ!? 切り札の知らない内に何が起こってるんだ!?」
「なんでみんな不安そうにしてるんだっ!? なぁおいっ!」
何度も言うが、大きな戦いが迫っている。なのにこの惨状、大丈夫なのだろうか……?




