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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四十三章 『幻牢樹林、渦巻く嫉妬と心の声』
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第五百六十二話 『後片付け』

 攻めてきた悪魔達の大半は捕えられ、逃走した者も森の外で見張っている流魔水渦によって捕まるのは時間の問題。ネプトゥヌスは正気に戻り、大罪の悪魔であるレヴィも大人しくしてくれている。メリュシャンは戦闘の影響でボロボロだが、その王は満足そうに妹を抱き抱え笑っていた。国の修繕の為か、上空では鳥人種ハーピーが慌ただしく飛び回っている。



「森の中にどうしてこんなに鳥人種ハーピーが?」



「ん? こいつらは昔とっ捕まえて僕が直々に調教したんだよ」

「元空族怒涛ハーバーバイオレンス、名前くらい知ってるよね」



 知らない筈がない、ラティール王から聞かされた昔話に出てきた名前。クロノ自身も幼い頃被害を被った村を見た事がある。鳥人種ハーピーのみで構成された荒くれ集団で、現四天王のシアが傷つく原因を作った集団だ。



「討魔紅蓮が着々と組み上げた作戦に横槍入れた時にね、勿体ないから捕まえて引き入れた」

「やってる事は流魔水渦と同じ魔物の保護だけどうちは優しくない、二度と迷惑行為は許さない、更生すれば良し、しなければ地獄を見せる」



「…………ラティール王は知ってるのかよ」



「知ってるよ」



 あっけらかんと答えるカラヴェラ王だが、こいつらがかき回したせいでラティールとシアは離れ離れになった。正直、良く思える筈がない。



「その件もあるから、手は抜いてない」

「二度と人様に迷惑はかけないし、メリュシャンの為に良く働く労働力と化してるよ」

「悪いけど僕は立場が立場、受け入れた者全てに優しさなんて振り撒けない、道具のように扱う事もある」

「利用できる全てを使って突き進む、いつか僕の手を離れて笑える未来に送り出せるその日まで」

「何もかもを利用する屑はこの国で僕一人だけ、それでいいんだ、みんなは使われ虐められヒィヒィ言いながら過ごせばいい、共存を成した世界で被害者から解放されて笑えばいい」

「僕は正義の味方にはなれないからね、いつか来る日の為にヒーロー役が欲しかったんだよ」



「……カリアと同盟組んでる以上、楽に消えられるとは思うなよ」

「ラティール王はお人好しだからな」



「……あいつは頑張ったと思うよ、良く持ち直したもんだ」

「あの国と同盟を組めたのは大きな一歩だった これ間違ってもあいつに言うなよ?」



「どうしようかな、あんたとラティール王なら俺はラティール王の肩を持つし」



「はは、生意気なクソガキだ」

「流魔水渦やお仲間を集めてくれ、今後の話ついでに最低限の食事でも振舞おう」



「おいおい、今国の復興中じゃ……」



「国はいつでも直せる、大事なのはここに生きる命だ」

「真っ当な命なら、どんな状況も立て直せる、足元が死屍累々でも僕は皆の手を引き光を目指す」

「走り出したあの日から、止まる事を知らないんだ」



「なるほど、ぶっ壊れてる」

(君が言うのか?)



 憤怒の悪魔に突っ込まれながら、クロノは仲間の元へ走る。復旧を手伝いながら、振舞われた果物や肉を皆で楽しんだ。



「結局、あんたに助けられちゃったわね」



「アクアさん達の声が届いたから、どうにかなったんだよ」



「そこの人魚達は役に立ってないけどね、レヴィに手も足も出なかったし」

「あ、足は無かったね、家族の絆だかなんだかに嫉妬が止まらないよ」



「なんで当たり前のように一緒にいるのよこいつっ!!」



「アクア、レヴィちゃんも大変だったんだ……良くしてあげてくれ」



「うぐぐ……兄様がなんでそいつの肩を持つのよ……」



「情も湧くさ、僕の嫉妬と共に在ったわけだしね」

「僕自身恥ずかしい姿を見せたけど、正直クロノ君の事をまだどう思えばいいかわからないし、向き合う時間が欲しいけど……これからはどうか力になりたい」

「少しでも、レヴィちゃんの助けになりたい」



「兄さまが言うなら、これからも私『は』流魔水渦及びクロノ君の剣となりましょう」



「強調すんなっ! あたしだって手伝うわよ!! 貸しっぱなしとか冗談じゃないわ!」

「ちゃんと、感謝してるしさ……」



「あははは」



「……どうせ上っ面だけだよ、レヴィは悪魔だしね、どうせすぐに……うわっぷ」



「えへへ、マリアーナって言います! 仲良くしようね!」

「もう僕達のお兄ちゃんに迷惑かけちゃ駄目だよ!」



「…………バカみたい……嫉妬しちゃうよ、その単純さ」



 マリアーナに引かれ、レヴィは人魚達の輪に囲まれていく。彼女の身柄は流魔水渦が受け入れる事になり、厳重監視の建前で保護される事になった。敵意はマルスのおかげで消え去り、乱暴な手を使うことなく大罪の一人を引き入れる事が出来た。噂通りの危険な力は持っているが、話が通じない相手じゃない。



「とりあえず、解決かな」



(……感謝するよ、クロノ)



「ん?」



(諦めずに、離さずに済んだ)

(僕は皆を救いたい、皆が復讐の螺旋に囚われているなら助けたい)



「あぁ、お前達を利用しようとしてる奴等は許さねぇ」

「後五人、必ず救い出す」



 裏の無いマリアーナに振り回され、レヴィは嫉妬の暇もなく連れ回される。その表情には、少しだけの笑みがあった。レヴィにはもう危険はなさそうだが、残りの五人が必ずしもそうとは限らない。だが、知ってしまった以上は無視できない。



「こらクロノ! 何呆けてるんだ!! 今回も活躍した切り札を褒めろ!」

「大体良い所は持っていくし! 最後は吹っ飛んだ切り札を無視するし! 大体さっきはなんだクロノからクロノじゃない声がするし! 聞いてた話と違って切り札の頭はノット切り札だぞ! 大罪は倒して封印しろって言われてたのに気が付いたら仲良くやってるし! 通信じゃルトも可愛いからオッケーって言うし! 大罪は敵なのか私は封印すれば良いのか友達になれば良いのかどうなんだはっきり教えてくれないとわからないぞ!」



「落ち着けセツナ、ほらこの果物美味しいぞ」



「美味しいな! すっごくおちついた!」

「誤魔化されないからな!! リコーラもなんとか言ってやれ! あれいないっ!」



 ペンダント型になりセツナの首からぶら下がっている筈のリコーラは、向こうに見える山積みの料理と遊んでいた。



「切り札ちゃん~! めっちゃ旨いよこれ~!」



「お前切り札の尊厳とご飯のどっちが大事なんだ!!」



「え、うーん…………」



「悩むなぁっ!」



「まぁまぁセツナ、今回もめでたしめでたしで終わったんだから……」



「ぐぬぬ……リコーラのバーカ! お前なんか!」



「仲間は大事にしろ、後悔してからじゃ遅い」



「ふぇ?」



 突然マルスに身体の自由を奪われた。別に今更警戒とかしないが、いきなりは結構驚く。



「どん底に辛い時、仲間の存在は必ず救いになる」

「君が追い込まれた時は、大切な仲間の事を思い出せ」



「……? クロノじゃないのか」

「よくわからないし、みんなは大事だぞ……でも私の中で思い出せる記憶は、きっと少ないぞ」



「……例え君が思い出せなくても、仲間達が君を大切に想う気持ちは確かにあるんだ」

「目に見えなくて気づきにくいけど、それは確かに自分を支えてくれている」

「失ってからじゃ遅いんだ、どうか大切にしてほしい……『それ』は当たり前と思えるからこそ、儚くて尊い」



「…………当たり前だから、尊い」



「喋りすぎたな、僕は引っ込むよ」

「クロノ、レヴィを頼んだ」



 そう言って、マルスは奥底に引きこもった。クロノの自我が表に戻り、同時に精霊達も姿を現す。



「ふぅ、突然な奴だ」



「もう僕達の声も届かないとこまで潜ったね、同じ場所に居れば良いのに」



「少しもお話出来なかったよぉ」



「敵対してねぇって分かっただけで収穫だろ、利害の一致がある以上協力体制は組めた」



「…………セツナ、どう、したの? 考え、ごと?」



「うあ……えっと」



 いつもの無表情だが、マルスの言葉を聞いた辺りから少し様子が変だ。遠くで飯を食うリコーラや、復旧作業中の流魔水渦達を見つめている。



「遠慮とかする必要ないだろ、お前の仲間達だ」



「……少しな、近寄りがたいあれがあるんだ」

「名前も覚えてない奴だっている、私が知らない内に傷つけてる事もある、あった」

「貰ってばかりなんだ、私は……覚えてないのに、忘れて傷つけてるのに、みんな笑って許してくれて……何も返せない私が嫌なんだ」

「だから、どうせ忘れるなら、傷つけるなら、接しない方が良いとか思って……別に寂しくないぞ、切り札は孤高なんだ」



「何度も言わせるなよ、必ず思い出せる」

「それに俺といれば忘れないだろ、何故か知らないけど」

「思い出せるか不安なら、今から繋いでいくのだって有りだろ」

「マルスの言う通り、仲間との時間は大切にしな」



「……うん……私ご飯食べてくるぞ!」

「リコーラ! 何が一番美味しいのかおすすめを教えてくれ!」



「え? 切り札ちゃんが一番美味しいに決まってるよー!」



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああっ!」



 一歩踏み出した切り札がゲームオーバーになったが、とりあえず今日は放っておこう。目を逸らし、クロノも適当に料理を取りに行く事にする。腹が膨れたら、復旧の手伝いでもしよう。そう思っていると、クロノはたまたまリザと鉢合わせた。



「あ、リザさん?」



「クロノ君! 会えたぁ……!」



「そっか、リザさんも今回の作戦に協力してくれてたんだ」



「カリアからの派遣でね、エルフからも何人か来てて……リーガルさんとゴルトさん、ランナちゃんは森の外にいるよ、後で合流するはず」



 森の結界は一部弱まっており、そこから出入りが可能になっていた。カラヴェラ王の妹が森全体の操作を行っているらしい。



「捕まえた悪魔達は迅魔旋風と流魔水渦で尋問だって、情報を聞き出した後はそのまま引き込むと」



 流魔水渦側は味方に引き入れようとするだろうが、迅魔旋風はまず魔力を全て樹に吸い出させると言っていた。悪魔の無力化と樹の魔力補給を同時に済ませたいらしい。生贄を辞めた以上、森の木々は定期的に魔力を補給しないと持たないらしいのだ。



「魔力を失った悪魔はその後王の手で調教……めっちゃ笑ってたなぁ」

「森の一部をピリカがぶっ飛ばしたから謝ったけど、『あの辺りは父や少し前まで国で笑ってたクソ共を肥料にした樹だったから大丈夫さ! ミルメルにそういう配置にして貰っていたからね!』って笑ってたしなぁ……」



 ルーツを知った以上、とてもじゃないが笑えない。特に今は宴会モードで多くの者が飲み食い笑う賑やかな雰囲気だが、その中にカラヴェラとミルメルの姿は無い。実は先ほど少し探したのだが、カラヴェラとミルメルは少し森に入った場所で花を添えていた。樹に向かって、祈るように手を合わせていた。その周辺の木々から、悲しいような寂しいような命の音がした。とても声をかけられず、クロノは戻ってきたのだ。



(あの樹……きっと二人のお母さんの……)



「えっと、クロノ君?」



「頑張らないとな、俺も」



 事実を知っても、すぐに何かを変えられるほど自分は凄くない。一歩一歩、前を見据えるしかないのだ。顔を上げたクロノだが、背後で何かが吹っ飛ぶような音がした。振り返るとレラが空を舞っている。



「あぁなぁたぁはぁ……! 何の種族でぇすかああああああああああ」



「なにこのエルフーーーーーーー!」



「やめろピリカァッ!! 復旧の邪魔をするなぁ!!」



「退いてレー君っ! 未知と触れ合えないっ!!」



「いや俺正論しか言ってなごふぁあああああっ!?」



 復旧の妨害、流魔水渦の皆に被害、悪魔との戦闘以上にダメージを追うレラ、役満レベルの災害がそこにいた。



「不味いよクロノ君!」



「料理美味しいですね」



「他のエルフだっているんだよ!? あんなに未知反応出してると集まってエルフ連鎖が起きちゃうよ!」



「エルフと過ごす中でリザさんの知識はどんな化学反応したの? その連鎖が悪いモノだって事しか分かんないや」



「止めないと!!」



 前を見据えた結果、身内を止める羽目になった。クロノはため息をつきながら、ピリカを宥めに駆け出す。駆け出した瞬間、悪寒を感じ身を翻す。水の力を腕に走らせ、虚空に斬撃を反射的に放つ。レラとピリカも即座に反応し、二人の魔法がクロノの攻撃を追いかける形で放たれる。








「ヒヒャッ 見つけたァ……!」








 空間が歪み、クロノ達の攻撃は上空に跳ね上げられる。重力が圧縮され、見えない槌のような乱打がメリュシャンに降り注ぐ。樹と一体化した城が一撃で半壊し、一つの影が城に侵入した。



「なんだっ!?」



「げほっ……悪魔っ!? 全員拘束したって……!」



 土煙が上がる中、半壊した城から翼を広げた悪魔が飛び出してきた。その手には、悪魔の技能デモンズスキルが握られている。それ以上に、クロノはその悪魔に反応した。



「ジュディアッ!!!」




「やぁ精霊使い、奇遇だなぁ」

「力、ヨコセ……全部、全部……ヒヒ……強欲の、手に……っ!!」



 元勇者であり、精霊狩りを名乗って犯罪行為を繰り返していた男。強欲を宿したその姿は、前より悪魔化が進んでいた。平穏が壊れるのは、いつだって突然に。



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