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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第一章 『旅立ち』
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第五話 『確かな希望』

 目が覚めたらベッドの上だった。そして横を見る、と例のリザードマンが床で丸まって寝ていた。




「夢じゃなかったのかよ……」




 体の節々がズキズキする、散々ぶっ飛ばされたからだ、あれだけぶっ飛ばされ、大きな音を立てたが、村の皆は気がつかなかったらしい。



「マジで俺の家の場所に感謝だな……うん」



 右の横腹を抑えながら立ち上がる、昨日最後に尻尾をぶち込まれた場所だ、正直めちゃ痛い。その痛みの元を拵えた当人を見る。真紅の長髪、整った顔立ちに身に纏う雰囲気 何か特別な感じがした、というか普通に美人だ。



「黙ってりゃ可愛いのに……」



 ボソッと呟く。



「ほう? 惚れたか?」



 しかし聞かれていた。



「おわあああああああああああっ!?」




「朝からうるさいな、人間というのは……」



 何やら振り回されている気がする……。




「さて人間よ、一つ聞きたいことが有る」




「つか何でまだいるんだよ、お前」




 昨日散々ボコボコにされた手前、少し警戒する。



「聞きたいことが有ったからに決まってるだろうが」



 確かにそうだな、と納得した。



「貴様、昨夜の言葉は本気か?」



 昨夜の言葉……心当たりは一つしかなかった。



「俺の夢のことか?」



「いや、昨夜私にプロポーズしただろう? あの言葉は本気か?」



「記憶にございませんっ!!」



「そうだろうな、嘘だからな」



 昨日の殺意が蘇りそうになるのを押さえ、話を本題に戻す。



「俺の夢の話だよな……?」



「あぁそうだ、人と魔の者達が手を取り合い、共存する世界……そう言ったな」



「あぁ、俺の夢だ」



 馬鹿にされるのは慣れている、だが自分の理想だ、真剣な顔つきで答えた。




「…………ふふっ」




「あはっ……はは……」



「アーハッハッハッハッハハハハハハッハッハッハッ!!!!!」



 これ以上無いくらい笑われた……。



 尻尾をバタバタさせて床をバンバン叩いている、正直馬鹿にされるのが慣れているクロノも、ここまで笑われたのは初めてだ。……真面目に凹んだ。



「いい加減にしないと泣くぞっ!?」



 心が砕けそうになる音が聞こえたので、講義の言葉を投げかける



「ひーっ……すまんな……人の夢を笑うなど……いや、失敬……」



 目尻に涙を浮かべ謝罪する、正直割と手遅れなLVで、精神的ダメージを負ったのだが……。



「いやな、人間は詰まらん種族と思っていたのだがなぁ……」



 クロノを見つめるその眼は、真剣なモノだった。



「中々、面白い馬鹿がいるものだな…」



 出会ってから始めて見せる笑顔に、クロノは少しドキッとした。



「それってけなしてる?」



 紛らわす為に会話を続ける。



「いや、それはないな」



 再び真剣な眼で、ニヤリと笑う。



「やはり貴様、勇者になれなくて良かったかも知れんぞ?」



 その言葉に怪訝な顔をするクロノ、気にせずに少女は続ける。




「勇者など詰まらん奴らばかりだ、正義の為だの、悪を滅せよだの……」



「こちらの都合など聞きゃしない」



 確かに知性のある魔物からしてみれば、そういった勇者は迷惑極まりない存在だろう。



「貴様が本当に魔物と心を通じ合わせ、共存の世界を作りたいのならば……」



 尻尾でこちらを指差し(?)ながら続ける。



「勇者ではない貴様の言葉なら、届く奴がいるやも知れんな」



 その言葉は、クロノにとって天から差し込む希望だった。



「ほ、本当か!?」



 飛びつくように問う。



「考えてみろ、間抜けが」

「魔物からすれば勇者なんぞ、注意するべき最たる例だ」



 言われてみればそうである。



「そんな危険人物から『共存しようぜ!』、なんて言われて……はいと答えると思うか?」

「まともに取り合う馬鹿はいないぞ」



 その通りである……。



「その点、貴様の言葉は少なくとも……『勇者』の奴よりは届くのではないか?」




「お、おぉ……!」



 希望が僅かだが、繋がった気がした。



「まぁ、戯言を抜かす餌と思われても、仕方ないかも知れぬがなぁ……」





「お前、俺をイジメて楽しいか!?」




 僅かに繋がった希望を、切断された気分である。



「さて、私はそろそろ行くぞ」



 そう言って立ち上がる。



「森に落とした物を、探さねばならないしな」



 そういえばこの竜人種リザードマンは何故、空から降ってきたのだろうか……。



 それを聞こうと振り返ると、すでに姿は無かった。



「……めちゃ早いなぁおい」



 まぁ、もういないのなら仕方が無い、何だかんだで、世話になってしまったのかも知れない。おかげで吹っ切れた、勇者じゃなくてもいいのだ。




「旅に出よう、世界を巡ろう!」




 互いの事を知らないのなら、分かり合えるはずもない。ならば知りに行こう、多種族のことをもっと深く、図鑑で読むだけでは理解などできるはずがないのだ。勇者選別に落ちて、落ち込んでいたクロノはもういなかった。




「さて、やってやろうじゃねぇか!」




 旅の荷造りをしながら、クロノはワクワクする心を抑え切れなかった、消えかけていた希望が、確かに繋がったのだから。




「待ってろよ! 他種族共!!」




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