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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第七章 『駆ける獣、吼える獣、差し伸べる人』
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第四十七話 『ケンタウロス族の住居』

「うーん、そろそろだと思うんだけどなぁ」



 ケンタウロスの住居を目指すクロノ一行、既に街道を外れ一時間は経とうとしていた。ただ真っ直ぐ進めば辿り着くと言われたのだが、少々不安を感じ始めるクロノ。



「一直線に進めって言われて迷うのは、ある意味特技のレベルだよぉ」



 エティルが頭の上で感心するように言う。




「まだ迷った訳じゃないだろっ!? てか迷い様がないだろっ!?」




「このまま海が見えてきそうな勢いだな」




 焦るクロノに追い討ちをかけるセシル、その目はとても冷たい。ちなみに最近頼りにしているアルディは、歩くのに飽きたらしく姿を消していた。


 この精霊の『姿を消す』と言うのは、契約者の心の中とでも言うべき場所に戻る事の様だ。つまり砕いて言えばアルディは今、クロノの中で楽して進んでいる状態にある。



(うぅ、セシルの視線が痛い……)



 味方にメンタルをチクチクされながらクロノは進む、これで本当に海でも見えてきたら違う意味で絶望的だ。もはや神に祈る気持ちで、ゴツゴツとした岩場を進んで行く。



 この岩の向こうは海だろうか、もしそうならどうしよう、そんな事を考えながら巨大な岩をよじ登る。そして開けた視界の先に、小さな集落の様なモノが映る。



 薄く緑が張った大地に転々と、明らかな人工物が建っていた。




「あっ……」




 思わず声を零す、恐らくあれが……。





「セシル、あれって……!」








「そこの人間っ! 止まれぇっ!!」








 クロノの声を遮るように、澄んだ声が辺りに響いた。声のした方向はクロノ達の頭上、一際大きな岩の上だ。見上げると特徴的なシルエットが浮かんでいる。




「はぁっ!」




 声の主は掛け声と共に、クロノ達の正面に飛び降りてくる。人の上半身、下半身は馬、間違いなくケンタウロスだ。



 整った顔立ちをした美しい女性だ、金色のロングヘアを風に泳がせながら器用に着地する。そして着地すると同時、腰から剣を引き抜きこちらに切っ先を向けた。



「貴様等……この先、いやまさにこの場所が我等ケンタウロス族の領地と知っての狼藉か!?」

「目的は何だ、金か、土地か、名誉か、それともただの道楽か!?」



「ふっ……だが残念だったな、我等は貴様等の様な悪党に屈するほど、弱き種族では無いぞ!」

「さぁ来い! 我が剣の錆にしてくれるっ! 我等が信念、折れるモノなら折ってみろ!」



 物凄い勢いで勝手に話を進めていくケンタウロスに、クロノは慌てて弁明する




「ちょ、待ってくれ! 俺達は別に戦意は……」




「問答無用! 悪はこの世に不要だぁ!」




 本当に問答無用で斬りかかって来る、クロノはその凶剣を咄嗟にしゃがんで避けた。




「どわっ!? どこが知的で理性のある友好的な種族だよっ!?」




 今まで出会ったどの他族より危険である、会話すら成立していなかった。




「受けてみろ、我が白刃の裁き!」




「いや、だから……!」




 勢いよく駆け寄って追撃を行おうとするケンタウロス、クロノは受けに回ってはまずいと判断し、応戦の構えを取る。



「アルディッ!」



(やれやれだね……)



「「精霊技能エレメントフォース・金剛!」」



 大地の力を身に纏い、横薙ぎにされる剣を上半身の動きだけでいなす。そして両手で剣を持つ手を掴み、両足に力を入れる。




「話を聞け! 弾丸野郎がっ!!」




 そのままケンタウロスの巨体を背負い投げた、大地の力が無ければ出来ない芸当である。




「……ッ!」




 大きく放り投げたが、相手も空中で体勢を立て直し難なく着地する。だが予想外だったのか、その表情は驚きに染まっていた。




「わ、私を投げ飛ばすとは……その力……見事! 敵ながらそれは認めよう!」


「だが私にも誇りがある、貴様がどれほど強大な敵だろうと、決して屈する事は……」






「いや、貴様面倒くさいぞ」






 この場の誰もが思っていたが、言ってはいけないと思って言わなかった一言を、セシルが言い放つ。そしてその一言はどんな強力な槍よりも強く、目の前のケンタウロスの胸を貫いた。




「なっ……めんどっ……き、きさ……貴様!? ケンタウロス族の誇りをめんど……事もあろうに面倒くさいだと!?」







「いや、誇り云々以前に貴様のキャラがめんどい」






 たまにこの火吹きトカゲの言動に、感心すら覚えるクロノだった。意外とメンタル面が脆かったのか、目の前のケンタウロスは目を点にして固まっていた。




「…………はっ!」




「お、おのれ……ロニア様にも同じ事を言われたばかりだと言うのに~……!」




 同族にまで面倒くさいと言われるとは……相当である。



「ってちょっと待て、ロニア様?」



「もしかして、ケンタウロス族の長の?」



 そんなクロノの声に顔を輝かせるケンタウロス、そして高らかに語りだした。



「そうだ! 我等がケンタウロスの長であり、最も強きケンタウロス!」

「その名こそサテュロス・ロニア! 強く、美しく、そして気高く、とても優しい!」



「老若男女問わず憧れを集め、絶対的な支持を持つケンタウロス族の憧れの方だ!」

「本来貴様の様な人間がその名を口にしていいはずが…………」








「貴様等っ!! ロニア様が目当てかっ!!!」

「おのれ許せん! 許す事などできようかっ! ここで土に還してくれるっ!」







「うわーん……会話が全然進まない……」






 今までで一番、クロノの心が折れそうだった。




「ロニア様を狙うとは……例えこの命を散らせる事になろうとも貴様等の企みは……!」



「……めんどいな、貴様」



「……! ……と、とにかく! 貴様等は私のこの剣がっ!」



「少しは黙って向かってこれんのか」



「……いや、だから……」



「その声が既に50%くらい面倒くさい成分を含んでいるのだな」



「あの……」



「喋れば喋るほど面倒くさいぞ、貴様」



「……………………」






「セシル、泣きそうになってるからその辺にしてやってくれ」

「何か、可哀想になってきた」




「ん、そうか♪」




 途中から明らかに楽しんでいた、絶対間違いない。言葉だけでズタズタにされたケンタウロスが哀れになり、クロノは燃え尽きている少女に歩み寄る。




「あの、俺達は別に争いに来た訳じゃなくてだな……?」

「えっと…マークセージの人から聞いてないか? 同盟の話……」



「俺達はその件で話をしに来ただけなんだよ」





「……」





 真っ白に燃え尽きている少女は、虚ろな目をこちらに向ける。そして先ほどまでの勢いは欠片も感じさせないか細い声で、『あぁ……その話か……』と呟いた。




「面倒くさいんだ……私は面倒くさい女……ふははは……」




 予想以上に気にしていたのか、精神に多大なダメージを負っているらしい。このままでは違う意味で話が進まない為、クロノは仕方なく口を開く。




「い、いや……俺は別にそうは思わなかったぞ?」




「当然だっ! 私が面倒くさいはずは無い!」

「ケンタウロス族の信念は揺るがないっ! ふはははははっ!!」




(めんどくせぇ……)



(クロノ、本音出てるよ)



(面白い人だねぇ、ん? 面白い馬?)



 一瞬で復活したケンタウロスに流石に苦笑いのクロノ、ここで彼女に構っていたら日が暮れてしまう為、クロノはさっさと話を切り出す事にした。




「えっと、俺はクロノ、貴方の名前は……」




「うむ、先に名乗るとは中々分かってるな」

「我が名はセントール! アッシリア・セントール! 誇り高き我が名を記憶に刻むといいぞ!」



 剣を天高く掲げ、堂々と名乗るセントールだったが、セシルの『うぜぇ……』と語る視線を見た瞬間に、顔色が変わっていく。





「あ、いや……スイマセン……」





 視線だけで、先ほど出会ったばかりの他族に謝罪させるセシルであった……。既に心は折られてしまっているらしい。




「謝らなくてもいいからさ、出来ればロニアさんに取り次いでくれると助かるんだけど……」




「ふははっ! ロニア様は多忙な方! 私如きが取次ぎなど出来るものかっ!」




「清々しいほど役立たずだな」




「セシル、お前が脅す度泣きそうになってるから止めてやれよ」




「分かった分かった」




 顔が笑っている、絶対に分かってない。



「くっ……役立たずと言われて黙っていては、ケンタウロス族の恥っ!」


「ここで待っていろ! なんとかロニア様を呼んでくるっ!」



 そう言うと、セントールは長い髪を靡かせながら集落に向かって駆けて行った。






「何か、どっと疲れたな……」






 クロノは既に限界が近かった。




「あらあら……お疲れのご様子ですわね……」

「宜しければ、我が集落で休んでいってくださいませ」





「あぁ、すいません……ご好意に甘えさせてもら……」





「って誰だアンタはっ!?」





 いつの間にか背後に立っていた白馬のケンタウロスに、クロノは飛び上がって驚く。下半身は白馬のそれ、上半身は白の長髪が美しい絶世の美女だ。




 その美しさは初対面のクロノが固まるほどだった。




「申し遅れました、わたくし、サテュロス・ロニアと申します」

「この集落の代表者をさせて頂いております、どうか御見知り置きを……」



 セントールが探しに行ったケンタウロス族の長が、目の前に現れてしまった。




「え……あれ……?」




「この女は私達が領土に踏み込んだ瞬間に、既に私達の存在に気が付いていた」



「今の今まで出て来なかったのは、何か理由でもあるのか」





「セントールちゃんが虐められてる様子が可愛かったから、つい♪」





 目眩がするほどの美しい笑顔なのだが、その理由は意外とゲスい。




「まぁそれは置いておいて、話は大体検討が付いております」

「マークセージの王が提案した、同盟の件でございますね?」




「見たところ勇者でも無い普通の一般人と……」




「……ふふっ、可愛らしい人化でございますね♪」




 一目でセシルの人間化を見破った、流石種族の代表者だ、その力量は確からしい。



「チィ……元々専門ではないからな……」


「そもそもそんな事はどうでもいい、私はただの傍観者だからな」





「ただの傍観者が、セントールちゃんを虐めてくださったのですか?」


「可哀想なセントールちゃん……けどそんな所も可愛いですわ♪」





 この人(?)も多少の変わり者の匂いがする、ここまでのクロノの経験がそう告げていた。




「あっと……すいません、ぼーっとしてしまって……」




「種族が違えど、客人を雑に扱うなど以ての外……」

わたくしはともかく、客人に立ち話をさせるなど無礼ですわね」




 そう言うと、ロニアは集落に向かって歩き始めた。




「どうぞこちらに、お話はわたくしの住居でゆっくりとお聞きしますわ」




 こうして、クロノ一行はケンタウロス族の長、サテュロス・ロニアに招かれ、どうにかケンタウロス族の住居に入る事が出来たのだった。



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