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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第六章 『星の鎧・ノーム』
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第四十話 『君の背中は、僕が護る』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 もう随分昔の事だ、この場所にあった国の名前すら霞んでしまっていた。


 人間達が勝手に集まり、勝手に僕達を信仰し、その国は生まれた。


 望んで出来た繋がりでもなかったが、ノームの力は守りの力。

 

 守護することこそノームの真髄、両者の関係は良好な物だったと言える。


 だが、その関係は理不尽とも言える言いがかりによって容易く壊れた。


 国を巨大な砂嵐が襲い、その災害をノームが呼び込んだと人々は言ったのだ。


 真実は勿論違う、ノーム達は国を護る為必死に力を使った。


 しかし、天災レベルの力の前に……何も出来なかったのだ。





「そう、何も出来なかった」





 それは事実、波紋は広がり、国は内部から崩壊していった。


 こちらに非は無いだろう、だが、一体のノームは国を護れなかった事を悔いていた。


 それはノームとしての有り方、『守護』を成し遂げれなかった後悔から来るもの。


 悔やみ続けるノームの前に、一人の人間が現れた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~













____________________数百年前____________________





「おっ君もノームだよね?」



「少し良いかな?」




 その人間は、不意に背後から声をかけてきた。


 僕はあの日からずっと、この場所で立ち尽くしている。人は愚か、建物も何も無くなった、見る影も残さぬこの場所で。




「人間か、こんな砂漠に何の用だ?」




「ノームと契約したいんだけど、良かったら僕と契約してくれないかなって」




 契約希望者か、今まで何度もそう言った奴が訪ねてきたっけ。




「……悪いが、他を当たってくれ」


「僕はここから、動くつもりは無い」




 契約を結んでも、いつかはその繋がりを失う。それに、自分なんかではその『いつか』まで繋がりを守る事も出来やしない。




「ん~? えーっと……?」







「『どうせ自分には何も守れやしない』、か」



「決め付けるのは良くないと思うけどなぁ」



 心の中を覗いたかのように、人間が口を開く。どうして分かったか疑問に思い振り返る、人間は2体の精霊を従えていた。




「ウンディーネの力による心鏡の瞳か、覗き見とは趣味が悪いな」




「ごめんごめん、随分悩んでるみたいだったからさ」


「けど、決め付けは良くないよ?」




 少年はそう言って微笑みかけてくる、誰かと会話のキャッチボールをするのは久しぶりだ。




「性格上、割り切れないんだ」

「どうしても、悔やんでも悔やみきれないんだよ」




「違った結末が有ったかも知れない、他の方法が有ったのかも知れない」

「そう思うと、ここから動けなくなる」




 他のノームには割り切って考えてる者も居る。けれど、自分にはそれが出来なかった。どうしても、後悔が自分を苦しめてくるのだ。




「うん、良いね」



「凄く人間らしい、凄く良いよ」




 自分の呟きを聞きながら、人間は何やら訳の分からない事を言いながらうんうん頷いていた。




「ねぇ、やっぱり僕と契約してくれないか?」




「断ったはずだよ?」




「後悔して立ち止まっていても何も変わらない、ちょっとでいいから動いてみないか?」




 こっちの都合は知った事ではないと言わんばかりに、人間はしつこく契約を迫ってきた。あまりにしつこい為、こっちのペースも徐々に乱され始める。




「ねぇ、頼むよ、契約を」




「いい加減しつこいな……諦めてくれないか……」




「君が契約してくれたら、万事解決だよ」




「その言葉の意味を、辞書で調べ直したほうが良いと思うよ」




 日も落ち始めているというのに、人間は自分の隣に座り込んでひたすら頼み込んできていた。これではこちらが持ちそうに無い。




「はぁ……分かった、ゲームをしよう」




「押し相撲で僕に勝てたら、契約してあげるよ」

「僕に負けたら諦めてくれ、いいね?」




「僕を見定めるってわけだね、勿論いいよ!」




 人間は凄く良い笑顔で応じた。勿論、見定めたりするつもりは無い。



 一撃で吹き飛ばしてさっさと諦めてもらおう、そう思っていた。



 だが、ゲームの説明を終えると人間は予想外の行動を取った。




「よっと……」




 目の前の人間は、土俵の中で腰を下ろし座り込んだのだ。しかも従えている2体の精霊とリンクする気配も無い。




「……馬鹿にしてるのかい?」





「まさか! 僕を見定めるってんだからさ」


「ありのままでいこうと思って、ルール違反じゃないでしょ?」



 この掴み所の無い人間は、一体何を考えているのだろうか。呆気に取られ固まってしまう、そんなノームを見て人間は楽しそうに笑った。




「予想外だろー? こうするのはさ」

「僕とゲームしなかったら、こうする奴がいるなんて思いもしなかったろ?」




「……何が言いたいんだ?」




「する訳無い、出来る訳無い、決め付けは良くないって事さ」

「自分で決め付けたら、それ以上何も出来なくなるだろ?」





「僕は、可能性を狭める事はしたくないんだ」





 人間は笑顔だったが、その言葉は真剣なものを纏っていた。



「確かに、する訳無いとは思ったが……」

「それが、何になるって言うんだ!」



 この人間と話していると変になりそうだ、早々に吹き飛んでもらおうとノームは拳を振りかぶる。その拳を軽く蹴り飛ばし、人間は後方に回転しつつ飛んで着地した。




「うーん、一発でも当たったらゲームオーバーだねこりゃ」




「いつまでも避けられると思わないほうが良い、自分の身を案じるなら精霊の力を使ったらどうだい?」




「この身一つで君を認めさせてみせるよ、ここまでそうしてきたんだからね」




 そう言って笑う人間に拳を振るう、一発でも当たればこちらの勝ちだ。……だと言うのに、その一発が当たらない。




「……っ! ちょこまかと!」




「ねぇ、このゲームって土俵の外に出せば勝ちだよね?」




「うん? あぁ、そうだけど……!?」




 ヒョイヒョイ拳を避けながら、人間は土俵際ギリギリで足を止めた。




「もらったっ!」




 大きく踏み込み、人間の顔目掛けて拳を振るう。その拳を掻い潜り、人間はこちらの脚を払い飛ばした。




「!?」




 単純な足払いではない、足元の砂ごと抉るような早く鋭い足払いだ。その一瞬でノームの体勢が崩れる。



 倒れそうになるノームの背に手を回し、位置を入れ替えるように人間は自分の背後にノームを押した。その先は土俵の外、流れるようにノームは勝負に負けてしまった。




「やった、勝ったー!」




 ガッツポーズで喜ぶ人間だが、ノームの方はポカーンとしていた。人間相手にあっさり負けたのだ、そうなるのも当然である。




「ははっ……人間相手に、この様か……やっぱり僕は……」




 言いかけるノームの頭に拳が降ってきた。ガキンッと鈍い音が響き、拳を振り下ろした人間が悶絶する。




「……何をしてるんだ?」




「あのね……そんなネガティブ思考はだめだって」




「失敗したなら、次失敗しないよう頑張ろうよ」

「その為に、続きがあるんだからさ」




 拳を押さえながら涙目になっているが、それでも笑顔を絶やさず人間は言った。




「守れなかったなら、次は守りきってみせる! くらいの根性を見せようよ」




「誰だって失敗する、人だって、魔物だって、精霊だって、失敗するよ」




「けど、失敗して始めて見える物だってあるんだからさ」

「それを知れたんなら、もう一回やってみないと損でしょ?」



 その言葉に、それでもノームは悩んでしまう、躊躇ってしまう。そんな様子のノームに、人間は近づいて行く。




「僕の夢はね、人も魔物も、種族なんて関係なく幸せに暮らせる世界を成す事なんだ」



「どんな種族も手を取り合って、笑い合ってる世界が僕の理想なんだ」




 その言葉にノームは顔を上げた、この場所にあった国は共存に失敗し滅んだ国だ。自分は知っている、それがどれだけ難しい事かを……。



「うん、分かってるよ、難しい事だって事は」



「けど、きっと出来ると信じてる」



「僕は、それを信じてる」



「だから、その夢を成す為に…僕と契約して欲しい」



「昔ここにあった君達の国も、共存の世を成して僕が元通りにしてみせる」



「ちっぽけで、何の根拠も無い約束だけど……」




「その約束を守る為、君の力を貸して欲しいんだ」





 そう言って、人間は手を差し出してきた。









 ただの人間の、世迷言と言ってしまえばそれまでだろう。


 それでも、不思議と信じてみたくなった。


 共存の世界、もう一度それが現実の物になるなら……。


 今度は世界中の種族の共存の世界だ、凄まじく難しい道のりだろう。



 だが、気が付けばその手を取っていた。









「……君の名前は?」





「……そんなの、無い」





「君もか……精霊ってのは……」




「……それじゃあ、アルディオン」

「僕は君を、アルディオンって呼ぶよ」




「僕はルーン、ルーン・リボルト」




 自己紹介を通じて名づけられた、凄く自然に名前を貰った。




「今度こそ、護って見せるよ……」

「約束を果たそうとする君自身を、護ってみせる」



「宜しく頼むよ、ルーン」



 いつの間にか、自分の顔も笑顔を浮かべていた。




____________________________________________




(……あぁ、そうだったな、そうだった……)





「……ん……?」



「起きたか」



 岩場で寝かされていたクロノが目を覚ます、額には包帯が巻かれていた。既に日は落ち、辺りは暗くなっていたが、焚き火の火が周囲を照らしている。




 クロノが体を起こすと、アルディオンが声をかけてきた。



「……ゲームは君の勝ちだ、君の力は見せて貰ったよ」

「それを踏まえて、少し聞きたい事があるんだ」





「聞きたい事?」





「君は、ゲームの途中に共存の世界がどうとか言っていたね」

「君は……本当にその世界を成せると思うのか」



「仮に、僕達の前の契約者、ルーンすら失敗した夢だとしても……」




 不安を隠しきれない様子で問う、この答えによって自分の気持ちが決まる。そんなアルディオンに、クロノは即答する。






「正直な、分からない」






「出来ると決め付ける事も、出来ないと決め付ける事も、俺には出来ないし……分からない」



「だから進めるし、進みたい」



「分からないまま、投げ出す事が一番嫌だ」



「まだ旅に出て短いけど、色んな体験をして、色々な事を知ったんだ」



「それを無駄にしたくない、知っちまったから……」




「今の俺が言えるのは、俺はその世界を成せると信じてる」




「その事だけは、疑いたくないんだ」




 真っ直ぐと、アルディオンの目を見て答えた。


 立ち上がり、アルディオンに手を差し出す。




「俺には諦めないくらいしか出来ないけど……」

「絶対に投げ出したりしない、自分の夢を諦めたりしない」




「だから、お前の力を貸して欲しい」




 アルディオンには、手を差し出してきたクロノの姿が在りし日のルーンと重なって見えていた。




「……確かに、目に砂でも入っていたかな……」




「数百年……またここで立ち止まって、ウダウダ悩んで……」

「何も、変わってないじゃないか……」



「確かにあいつに貰ったのに……また、見失っていた……」



「見えていなかったのは、僕の方だったみたいだね……エティル」

「ルーンの気持ちを汲んでやれてなかったのは、僕の方だ」




 エティルに対し謝罪するアルディオン、それと同時にクロノの手を取った。




「数々の暴言を許して欲しい、クロノ、と言ったよね」



「もう一度問う、君が力を求めるのは、何故だい?」




 答えは決まっている。





「共存の世界を、成す為だ」





 その言葉に、アルディオンは優しい笑顔を浮かべる。その頬には、一筋の涙が流れていた。




「君は確かにルーンとは違う、全然似てないのに、凄く似ている」



「ルーンと同じ様に、信じてみたくなる……」



「君のその夢、その理想を……僕も護りたい」




「君の背中は僕が護る、夢に向かって真っ直ぐ進んでくれ、クロノ」




 クロノの体を光が包み込む、エティルの時と同じ契約の光だ。アルディオンはクロノを認め、契約を結んだのだ。





「僕の事はアルディでいい、宜しく頼むよ、クロノ」




「……あぁ! 宜しくな、アルディ!」





 笑い合う両者を岩の陰から見ていたセシルは、満足そうな笑みを浮かべていた。そして、クロノの心の中でエティルもまた、嬉しそうに笑っていた。





 少しずつ、ほんの少しずつだが、過去と今とが結び付いていく。クロノの旅はまだ始まったばかりだ。



次回でノーム編は終わりです、次章はビースト編!

クロノ君がまともに他族と戦う事になる章です! お楽しみに!

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