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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第一章 『旅立ち』
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第三話 『神様なんていやしない』

 図書館からクロノが飛び出してから、ローはずっと考えていた、クロノが読んでいた本、そのどれもが他種族関係の物だった。自分も何度も読んだ本だったが、クロノは自分とは全く違う気持ちで読んでいたのだろう。




「あいつも曲がらないよなぁ……尊敬するぜ、ホント」




 昔、クロノとその母親が村に来た時の事を思い出す、銀髪の少年と母親は田舎の小さな村では目立ち、かなり浮いていたのを覚えている。




 クロノの第一印象は、正直に言えば『変な奴』だった。




 自分は昔から勇者に憧れていて、弱い人を守れる男になると決めていた、その為、魔物とは子供ながらに『倒すべき敵』とインプットされていたのだ。



 なのにクロノは『魔物とも仲良くなれる』と言う始末、当然村では『浮きすぎた』存在だった。



 母親が死んだ後もそれは変わらなかったが、村の子供達に何を言われても、クロノは意見を変えなかった。



 そんなクロノが、村の外れの川辺で泣いているのを見つけたのだ。なんてことは無い、ただの気まぐれで声をかけた。話を聞いてやったのも、ただの気まぐれ……のはずだった。



 クロノは自分とは全く違う考えを持っていた、それは良い、人間100人いれば100人変わり者だ、それぞれの考えはあるだろう。だがクロノは、今まで人類でこんな事を考えた者がいるのだろうか? と子供ながらに思う理想を抱いていた。



 自分がガキだったからだろうか? 微かに高揚した。コイツの理想の世界が実現したら、それこそ夢のような世界かもしれない。本当に、全ての種族が手を取り合える世界が実現したら……!




「そうさ、俺はお前を信じてみたくなったんだ」




 ローは小さく呟く、誰もいない図書館で……。




「お前の夢を、俺も信じてみたくなったんだ」




 だからあの時、手を差し伸べた。 



 見てみたかったのだ、その世界を。



 ローは自分の右手に視線を落とす。



 右手の人差し指に付けられている指輪を見て、ローは目を閉じた、指輪には数字が刻まれていた 『1272-17』と。











 その頃、クロノは村外れの川原で物思いにふけっていた。



「はぁ……ホントどうしようかなぁ……」



 川に石を投げつけながらため息をつく17歳の少年、なんというか幸薄い光景だ、クロノは、左手の人差し指にはめられた指輪を見る。



 子供の頃にローがくれたお揃いの指輪だ。指輪と言っても高価なものではない、装飾も何も無い、シルバー製のリングだった。



 勇者選別を合格した者は勇者としての証、勇者のナンバーを手持ちの装備に刻まれる。子供の頃ローと約束したのだ、このお揃いの指輪に勇者の証を刻もうと。




「……はぁ……」




 深いため息を吐き、川原で寝転がる。




「夢も希望も無いってか……泣きたいよまったく……」




 そう言って目を閉じた、諦めの悪いほうの自分でも正直結構堪えていた。自分の他種族との共存理論を成す為には、勇者になるのが最も現実的であり、唯一と言ってもいい方法だった。しかし、それが不可能とあっては、自分の頭じゃもう策は生まれてこなかった。



「あぁ……神様がいるって言うなら、何か望みの一つ位俺にくださいよー」



 その神が存在しているからこんな目にあっていることも忘れ、クロノは神に祈る。









 その瞬間、対岸の森に何かが墜落した。







「!?」







 何かが落ちてきた衝撃とその音でクロノは飛び起きる、対岸の森では何やら土煙が上がっていた。森の中ほどに『何か』は落ちたらしい。気が付けば日が暮れ始め、不気味な沈黙が辺りを支配していた。




「は……ははっ……マジで神様からの贈り物……な訳ねぇよな」




 冗談を言いつつも思考を巡らせる、村から少し離れていると言っても徒歩数分の距離だ。




(もし、もしだ……魔物であるなら……)




 放置など出来るわけがない、自分は勇者選別に落ちたといっても勇者志望であった身だ。自分の村の近くに魔物が現れた可能性を、放置できるはずがない。




「行くしかねぇよなぁ……」




 正直、勇者志望と言っても実践経験などない、格好つけても怖いものは怖い、対岸へ渡り、森の中を散策する、『何か』が墜落した地点へは案外簡単に辿り着いた。




(何かいる……っ!)




 煙が舞っている中に動く影を見つけ、クロノは反射的に体を低くする。




「おいおい、神様マジかよ……」




 そこにいたのは、竜人種リザードマンの女の子だった、真紅の長髪に鱗に覆われた尻尾 間違い無い、図鑑で何度も見ている。




(どうする……あっちに敵意がなければ……いや、でも!)




 パニックになりかける脳内、そこに……。




「人間か? 人間だな?」




 鋭い視線を向ける、リザードマンの少女。




(しっかり気がついてらっしゃるーっ!!)




 その言葉で脳内は、完全にクラッシュした。




「人間はあまり好みではないのだが……仕方が無いか……」




 そう言って、舌で唇を舐める竜人種リザードマン竜人種リザードマンは肉食という知識が、クロノの頭の中を過ぎった。




(神様、俺が一体何をした!?)




 本気で泣き出しそうになるが、泣いてる場合ではない、絶賛命の危機だ。




(初戦がリザードマンって……! あぁクソッタレがぁ!!)




 半泣きで構えを取る。クロノは武器の扱いが下手で、体捌きを重点的に7年間磨いてきた。その構えを見て、リザードマンの少女は表情を変えた。




「やる気か? ほぉ面白い……せいぜい楽しませろよ…?」




 心底面白そうな顔に。竜人種リザードマンは戦闘を好む種族という知識が、クロノの頭を過ぎる。




(相手を喜ばせてどうすんだ、俺の馬鹿野郎!?)





「さぁて……行くぞ!」




 殺る気満々といった様子で、竜人種リザードマンの少女が飛び掛ってくる。



(畜生、神様なんて大っ嫌いだ!!)




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