表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五章 『退魔の力と半人半鬼』
35/866

第三十三話 『半人半鬼』

 見知らぬ魔物の少女に殺してくれと頼まれたクロノは、面食らってしまっていた。



「いきなり殺してくれって……意味が分かんないぞ!?」


「しかも何で俺に頼む!?」




「他族の方と一緒に行動していましたので、それに精霊と契約されているようですし……」

「……一般の方にはこのような頼みは出来ません、大抵逃げられてしまいます……」



 少女はセシルと一緒にいる時からこちらを見ていたらしい、しかも精霊の存在にも気がついていた。少女の言い分は分かるが、それでも殺してくれなんて頼みを『OK、任せろ』なんて言えるはずも無い。



「いきなり殺せとか言われても、困るよ」


「とりあえず理由を聞かせてくれないか?」



 どんな理由でも殺す訳が無いが、訳有りなのは確かだろう。話を聞かねば考える事も出来ない、この少女から話を聞くのが先決だ。




「……私は死なないといけないのです」

「それが、あの人の為ですから」




「あの人?」




 クロノの疑問の声に少し顔を曇らせ、少女は自分の前髪を掻き分ける。額から伸びる一本の角があらわになった。



「……私は鬼の母と、人間の父の間に生まれた混血種なんです」

「両親に先立たれ、たった一人で生きてきました」



「人からは魔物扱い、鬼の者達には半血の半端者と疎まれてきました」



 そう語る少女の表情は暗い、混血種に対する世間の目はかなり厳しいと聞く。クロノからすれば種の壁を越えた素晴らしい話なのだが、『常識』ではそれは基本的にタブーだ。




「生きる意味も見出せなかったある日、退治屋を名乗る人達に捕らえられたんです」

「殺されずに捕らえられた理由は、私が半分人間だからでした」



「魔物として殺すか、人として見逃すか……それを決めるまで牢に入れられました」

「まぁ、結果は殺す事に決まったらしいですけど」



「だけど、一人の退治屋が私を牢から逃がしてくれたんです」




 クロノとしては、信じられない話だった。魔物必滅の考えが強い退治屋が、捕らえた他族を逃がすなんて聞いた事がなかった。


 他族を理解しようとせず、殺すような真似をする退治屋をクロノは好きになれないでいた。そんな退治屋の有り方に、疑問を抱く人物がいたと言うのだろうか。




「牢から抜け出ても、私には行く当てもありませんからね……」

「どうして私なんかを逃がしてくれたのか気になって、彼の周りをうろついてました」



「ばれないようにしてましたけど、きっと気づいてたと思います……」



『えへへ……』と笑う少女だが、その表情は再び曇ってしまう。




「ある日、聞いちゃったんです……私を逃がした罰を与えられるって話……」

「責任を取って、逃げた私を討ち取る様に指示を受ける彼を見たんです」




「私を討ち取れなければ、彼は罰を受けます」




 そこまで話し、少女は目を閉じる。




「私は、生きていてもどうにもなりません」

「誰からも必要とされず、生きる意味も分かりません」



「そんな私を、深い意味なんて無かったかも知れないけど……彼は助けてくれた」



「……嬉しかったです」

「初めて、他人に優しくしてもらった気がします」



「だから、私のせいで彼が罰を受けるのは嫌です」

「だから、何度も彼に殺されようとしました」




「だけど、彼は私を殺そうとしませんでした」




 目を開いた少女は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。




「彼も私を討ち取ろうと表面上は襲い掛かってくる、だけど最後には私を逃がすんです」


「私が逃げられるように、最後には手を止めるんです……」


「私が逃げようとしなくても、川に吹き飛ばしたり、色々な手で逃がすんです……」




「私は……殺されたいのに……!」




 俯き、震える声で少女は言った。



「だから、お願いします……私を殺してください」


「私が死ねば、彼は……」






「ふざけんな、大馬鹿野郎っ!」






 少女の言葉を遮り、クロノは思わず叫んでしまう。




「俺はその人の事全然知らないけど、その人は絶対そんな事望んでない」


「お前が死んだらその人がどう思うか考えろ、お前が死んでも絶対その人の為にならない!」




「……ッ」



「けど……っ!」




「生きる意味が分からない? 誰からも必要とされない?」

「その人はお前に生きて欲しいから逃がしたんだぞ!」



「その人の事を想うなら、そいつの為に生きようとしろよっ!」




「……うっ……あっ…………」




 少女は泣き崩れてしまう、クロノは頭を掻き毟りながら続けた。




「お前、名前は?」



「シオン、です……」




「シオン、お前といればその退治屋に会えるよな?」


「え、はい……多分」




「よし、一緒に来い」

「その退治屋にも言いたい事がある」



 半鬼の少女・シオンを連れ、クロノは町の外で待つセシルの元へ向かった。



 二人が去った後、物陰から二人の会話を聞いていた一人の男がニヤリと笑い、その後を追って行った。



























 セシルの一撃で気絶していた少年が意識を取り戻す、少年は木にもたれかかる様に寝かされていた。



「む、起きたか」



 目覚めた少年にセシルが声をかける。




「……問答無用で襲い掛かった俺を、殺さないのか」




「問答無用で魔を討つお前等と違って、私には理性があるものでな」




「そうか……」




 少年をそう言うと、俯き自分の手を見つめていた。




「変わった退治屋だな、貴様」

「魔を討つ事に迷いを持った退治屋など、始めて見るぞ」




「別に、なりたくて退治屋になった訳じゃない」

「魔物が憎くて退治屋になった奴等とは違う、生きる為にもがいてたら退治屋になってただけだ」



「ガキの頃に両親が死んで、ゴミを漁って生きてきた」

「そんな俺が身につけた力が、魔物殺しの固有技能スキルメント・『退魔』だったんだ」



「必死に生きようともがいて、足掻いて、気がついたら退治屋になってた」




「生きる為、魔物を踏み台にしてきたか」

「世の中は弱肉強食、別に珍しい話でもないがな」



「だが、今更それに疑問を抱いたか?」




 少年はその言葉に顔を上げ、口を開く。




「分からなくなったんだ、俺は何の為に生きたかったのか」

「数え切れない魔物を殺して、そこまでして何で生きようとしたのか」



「……最初は疑問も抱かなかった、魔物は人の敵……死んで当然の存在だって思ってた」


「けど、最近本当にそうなのか分からなくなってきたんだ」




 多くの魔物を見て、本当に殺さなくてはならないのか分からない者もいた。




それに……。




「他人とは思えない様な魔物が、一人いてな……」






『お前は、人なのか、魔物なのか?』




『……分かりません…』




『お前、無抵抗で捕まったそうだな? 死ぬのが怖くないのか』



『……生きてる意味が、分からないんです』

『誰からも必要とされませんから、私が死んで貴方達の手柄になるなら、それも悪くないです』



『誰からも必要とされて無いなら、死んでいるのと同じですから……』






『もう、生きるのに必死になるの……疲れちゃいました……えへへ……』







 牢屋の中で、力無く笑う少女が、自分と重なって見えた。




 もし自分に『退魔』のスキルが宿らなかったら、自分もこうなっていたのかもしれない。何より、自分はただガムシャラに生きようとしただけだ。



 どうして生きているのか分からなかった、多くの魔物を殺してまで何故生きようとしたのだろう。



 生きる意味が分からないと言う、目の前の少女の言葉が深く胸に突き刺さった。そして、気がつけば少女を牢から逃がしていた。



 魔物だとかは関係ない、死んで欲しくなかった、生きる意味を見つけて欲しかったのだ。







「我ながら呆れる……今まで何体の魔物を殺してきたと思ってるんだろうな……」



「今更、魔物殺しに疑問を持ったところで……遅すぎる」

「そんな俺が、魔物相手に『死んで欲しくなかった』……反吐が出るよな」




 少年は力無く笑い、自分の手を見つめていた。




「結局、俺は何をしたいんだろうな……」

「自分でも分からねぇ……」








「分かんないを理由にして、逃げてんじゃねぇよ」








 少年の呟きに、誰かが力強く答えた。声の方向に少年が目を向けると、見知らぬ少年と見知った少女の姿があった。




「買出しにどれだけかかっているのだ、と言いたい所だが……そう来たか」




 セシルは声の方向を尻目に、ニヤッと笑う。声を上げたのは、勿論クロノだ。



「あっ……」



「…………」



 シオンと少年は一瞬目が合うが、互いに目を逸らす。




「アンタが例の退治屋だな?」



「……カイトだ」



「俺はクロノ、アンタに言いたい事がある」

「臆病者のアンタにな」



 緊迫した空気が辺りを包み込む、クロノは怒っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ