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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四章 『子供のハーピーと人の王』
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Episode:ロー ① 『互いの道を』

このお話はサブストーリー的な感じです。

本編の裏で進んでいくお話の一つです。

『ロー! 俺達は絶対、勇者になろう!』


『約束だぞ!』



 そう言って互いに笑い、拳を合わせた。


 子供の頃、毎日のようにお互いの夢を語り合った。


 そんな昔の夢から覚め、ロート・ルイン…愛称・ローは体を起こした。




「……夢、か」




 荷馬車に揺られながら呟く、いつの間にか寝てしまっていたらしい。



 カリアからとある国を目指し、ローは旅に出ていた。荷物を運ぶついでだからと、荷馬車に乗せて貰ったのだ。




 ローは自分の右手の指輪を見る、『1272-17』、自分の勇者番号だ。




 最初の数字は年度、次の数字はその年の何番目の勇者かを表す。ローは1272年で17番目に加護が降りてきた勇者、という訳だ。


 ちなみにこの年度は、勇者制度が生まれてからの数えである。




「なんつーか、有り難味が薄れるよな、これ」




 勇者なんて人間が100人いれば、1人はいるような存在だ。勇者の特権で生活が楽になるから、勇者を目指す者もいる。



 ローが目指す勇者像は、現代では死滅しかけているのも事実だった。



「なんでアイツには、加護が降りてこなかったのかなぁ……」



 アイツとはクロノの事だ、クロノがどれだけ努力していたかは良く知っている。努力だけなら、自分よりしていたかも知れない。

 


 世に溢れかえっている『自称・勇者』共よりよっぽど勇者らしかった。そんな奴等に資格があって、クロノに無い訳が無いとローは思う。




「もしアイツの夢が原因だって言うなら、酷い話だよなぁ」




 ゴロンと寝転がり、右手を上に伸ばす。


 外からの日差しで、指輪がキラリと光った。




 クロノは夢の為に勇者を目指した、その夢のせいで勇者の資格無しとなったのなら、笑い話にもならない。



 クロノの夢は他族との交流、共存だ。基本的に勇者は、魔物を滅する存在、クロノの夢はその真逆の考えである。




 だが、あくまでそれは『基本的』には、だ。




 誰が決めたのか分からないその『普通』を覆し、新しい可能性を創り出す。クロノは、そんな変革をもたらす可能性を秘めた存在だと、ローは思う。



 嘗て、泣いていたクロノに勇者への道を示してやったのは、ローだ。それからずっと一緒に過ごしてきた、弟のように思っていた。



 勇者選別に落ち、再び道を見失い、落ち込んでいると思っていた。そんなクロノはいつの間にか立ち直り、勇者の証を持たずに、旅立ちを決意していた。



(あの泣き虫が、いつの間にか強くなったもんだぜ)



(血反吐吐いてまで勇者を目指して、それでも届かなかったんだぞ?)



(それなのに、もっと遠いだろう夢は、諦めねぇってか)




 アイツは諦めだけは悪かった、本当に悪かった。


 どんな困難にも立ち向かうだろう、勇者じゃなくても、だ。




「アイツが折れてねぇなら、勇者になった俺が、遅れを取るわけにはいかねぇよな」




 夢を誓い合った指輪を眺め、右手を強く握り締める。


 ローにとって、この指輪は何より大事な物だ。


 勇者の証が刻まれているからではない、それよりもっと大事な物が昔から込められているのだ。弟分が夢の為に旅に出た、自分も負けていられない。




 自分自身の夢、『弱者を守れる強い男』を目指すのだ。




 そんな事を考えていると、馬車の動きが止まった。まだ目的地につくような時間では、ないはずだ。



 馬の嘶きと、御者の短い悲鳴が聞こえた。




(なんだ……?)




 異常事態を察し、馬車から飛び降りる。馬車は数人の男達に、包囲されていた。




(盗賊の類か……)




 周囲を見渡す、どうやら盗賊の襲撃にあったらしい。その人数は7人、全員が剣を構えている。



「んだよ、もう一人いたのか?」



「ヘイ兄ちゃん、有り金全部出せば、命だけは助けてやってもいいぜ?」



 なんとも悪党らしい言い分である、ローは溜息をつく。



「別に急ぎの旅って訳じゃないが……」



「盗賊なんぞにくれてやる金は勿論、時間も勿体無いしな」



 そう言いながら、自分の愛剣を腰から引き抜く。




「代わりといっちゃなんだが、生傷を拵えてやるよ」




 挑発的な笑みを浮かべ、盗賊に剣を向ける。その言葉と同時、盗賊の一人が御者に向かって走り出した。



「フッ!」



 盗賊の手が伸びるより早く、ローの一撃が盗賊を殴り飛ばす。剣の鞘により横薙ぎが側頭部に直撃し、そのまま倒れ込む。



「この人が怪我したら、誰がこの馬車を動かすんだっての」



「真っ先に弱い奴を狙うってのは、戦法上は正しいが、やっぱ気に入らないわ」



 ローの一撃を見て、盗賊共は警戒の色を強める。そして、2人同時にローに突っ込んできた。



 2人の盗賊はローに向け殆ど同時に剣を振るう、それをローは鞘と剣で受け流した。そのまま体を回転させつつ、前へ運ぶ。




「相手が悪かったな、お前等」




 1人を蹴り飛ばし、もう一人の首筋を鞘による打撃で殴り飛ばす。残りの盗賊共に向き直り、ローはにかっと笑った。




「まだ新米だが、俺は勇者だ」



「年端もいかねぇ小僧が言うと、何かダセェモノがあるが……悪事を働くテメェらは見過ごせねぇな」




「成敗してやるよ、三流共」




 ローはカリアの町にある、剣術指南所をトップで卒業した男だ。鞘を剣と共に扱う独自のスタイルは、身軽なローが勝手に生み出した型である。



 クロノに『二刀流でよくね?』と突っ込まれたが、こっちの方が軽いので気に入っている。



 ラティール王から学んだ(一部改造済み)王宮の剣術も取り入れたローの剣は、城の兵士にすら止められぬ物となっていた。




「チィ!」




 ローの斜め後ろにいた盗賊の一人が、ナイフを投げた。そのナイフを、ローは鞘の口で受け止める。




「なぁ!?」




「うーん、勇者としての初の戦闘で、少しばかり緊張してるからなぁ……」




 ナイフを止められ驚く男を尻目に、ローは首を鳴らしながら嘆く。



「今逃げるなら、特別に見逃してやってもいいぜ』




「ガキが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」




 残った盗賊が、ローに襲い掛かってきた。ローもそれに答え、前方に駆け出す。




(ガキねぇ……、そのガキにむきになってるアンタ等は何なのよ……)



(大体、大の大人が大人数でさぁ……)



(そういうの、嫌いなんだよなっ!)




 目の前の男に向かい、ローは鞘を投げつけた。男の首に、鞘尻が突き刺さる。




「うごぇ!?」




 その痛みで、動きが止まる。その一瞬でローは、相手の目の前に飛び込んでいた。



 そのまま鞘ごと、相手を蹴り上げる。相手の顔は上に、跳ね上がり、鞘も天高く蹴り上がった。




「死ね、小僧!」




 横から斬りかかって来る男が一人、残りの2人は背後だ。



「やなこった! 簡単に死ねとか言うなっ!」



 剣を振ろうとする男にナイフを投げつける、先ほど受け止めたナイフだ。ナイフは男の右手に刺さり、その痛みで男は剣を落とす。




「痛ぇ!?」




「そらぁっ!」

 



 痛みで怯んだ隙に、思いっきり蹴り飛ばす。そして、すぐさま背後に振り返る。



 2人の盗賊がローに向かって、突っ込んできていた。



 そして、先ほど上に蹴り上げた鞘がローと盗賊の間に落ちてくる。ローは剣を逆手で持ち、狙いを定める。




叉矢打さやうちっ!」




 剣による一撃が鞘を弾き飛ばす、矢のように打ち出されたそれは、盗賊の胸部に直撃した。



 さらにローは、その鞘目掛けて突きを繰り出す。速度を乗せた突きが直撃するが、剣は鞘に収まり致命傷にはならない。

 


 突きの威力をまともに受け止めた男は、その一撃で意識を失う。



「さて、後はアンタ一人だな」




「あ、ぐ……」



 勝ち目無しと判断したのか、残った一人は降伏したようだ。




「んじゃ、行こうか?」




 剣を収め、呆気に取られていた御者に声をかける。黒の長髪をゴムで束ね直しながら、ローは御者台に飛び乗った。




「え、あの、捕まえたりはしないんで……?」




「捕まえて、どうやって町まで護送すんのさ」


「荷馬車に乗せるには7人は無理があるだろー、嬉しくない荷物乗せるスペースは無いっしょ?」



 別に珍しい話ではない、いちいち襲ってきた盗賊を捕まえていてはきりが無い。だからこそ、勇者を護衛として付ける者が多いのだ。



 基本的には盗賊は、返り討ち&放置である。



(まぁ、荒っぽいゆうしゃは返り討ち=始末ころすらしいけどな)



 何とも、血生臭い話だ。



 再び荷馬車が動き出した、もうそろそろ目的地に辿り着くだろう。



「いやぁ、しかし助かりましたよ……」


「兄さんがいなきゃ、どうなってたか……」




「気にしなくていいよ、俺は勇者だからな」


「当然の事をしたまでだ」



(勇者だから……この台詞言ってみたかったんだよなぁ……)



 内心にやけ顔なのだが『大した事じゃないさ』、と格好つけているローであった。



「しかし兄さん、勇者様が一体、ヒューズ港に何の用で?」



 ヒューズ港は、アノールド大陸の東方面に存在する港だ。盤世界ファンタジア最大の大陸、デフェール大陸への船が出ている。




「ん、まぁ修行みたいなもんだな」




 デフェール大陸には、世界最大規模の大会が開かれるコロシアムが存在する。最も国が多く、最も強き者が集まる大陸だ。




 『弱き者を守る、強き勇者』を目指すには、ピッタリの場所である。




(クロノ……ガキの頃の誓い通り、俺は進む!)



(どこかで会えると信じてるぜ、クロノ……!)



(また会う日まで、折れんじゃねぇぞ……っ!)







 クロノとロー、二人の道が交差するのは、まだ遠い話。



 しかし、理想までの道が砕け散るのは、そう遠くない話…。



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