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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四章 『子供のハーピーと人の王』
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第二十九話 『憂いの晴れた、歌声を』

(クロノー! 朝だよー!)



 頭の中に直接響く、斬新な目覚ましでクロノは目覚める。精霊技能エレメントフォースで消耗し、意識を失ったクロノは、城の客室で寝かされていた。



(結局、次の日の朝まで寝てたのか……)



 今後も精霊技能エレメントフォースを使うたび気絶していたら話にならない。真剣に扱いの練習をする必要があるな、とクロノは体を起こしながら思う。



「それは当然だけど、今は先にやる事があるよね」



 エティルが頭の上に現れる。



「あぁ……王とピュアに会いに行こう」



 昨日の騒動の後、どうなったのかを確かめる必要がある。クロノは客室から飛び出していった。



(ピュアは城の人とうまくやれるのかな……)


(それと、町の人達は受け入れてくれるのかな……)



 王は考えがあると言っていたが、クロノは不安だった。



 他族との共存を訴えただけで、クロノが向けられた視線を思い出す。ピュアはその、『他族』そのものだ。




「とにかくピュアを探そう、まずは……」







「きゃー! ピュアちゃん可愛いです!」



「よくお似合いですよ、そのお洋服!」



「えへへ~……」




 広間でメイドの周りを飛び回るピュアを見つけ、クロノは壁に激突した。




「……は?」




「あ、くろの?」



 クロノの不安を他所に、ピュアの表情はとても明るかった。



「くろのーっ!」



 ピュアは壁に激突し、尻餅をついているクロノに近寄ってくる。




「あーっと……、俺の頭じゃ状況についていけてないんだが……」




「あ、クロノ様でございますね」



「目覚めたら謁見の間に顔を出すよう、王が申しておりましたよ」



 メイドの一人がクロノに気がつき、そう言った。クロノはその言葉に従い、謁見の間に急ぐ。



 ピュアはクロノに手を振りながら、メイドに連れられていった。




「ラティール王、クロノです!」




「おぉ、クロノ! 目が覚めたか!」


「まったく、崖から飛び降りるなど無茶をするんじゃない……!」



 『寿命が縮んだじゃないか』、などと言いながら王は玉座から立ち上がる。



「いや、座ったままで良いと思うんですけど……」



「まぁまぁ、小さな事はどうでもいいんだよ」



 王としての振る舞いの欠片も感じられなかった……。毎度の事ながら呆れてしまうクロノは、部屋の隅のセシルに気がつく。



「セシル?」



「寝過ぎだ、軟弱者が」



 壁にもたれ、腕を組みながら口を開くセシル。



「彼女からは少し、話を聞かせて貰っていたんだよ」



「ピュアの母親の件とかね」




「そうだ、ピュアはどうなってるんですか?」


「城の人とか、町の人には何て……」




「んーそうだね……少し長くなるけど、いいかな?」



 その言葉にクロノは頷く、それを聞きにきたのだ。



「城の者達には、ピュアの紹介は済ませた、勿論警戒している者も残っている」

「ただ、ピュアは魔物と言ってもまだ子供だ」



「最初は警戒していた者も、その純粋さにやられたようでね……」



 その結果が先ほどのメイド達なのだろう、思わずクロノは乾いた笑みを浮かべる。



「それと、先ほど町の者達に挨拶に行ったよ」


「ピュア本人を連れて、ね」



 ラティール王は窓の方を向き、話を続ける。














「やぁ、賑わっているね」



 港の市場に、当然の様に現れる王、民衆は溜息交じりで反応した。



「王、また城を抜け出したんですかぁ?」



「王様! 活きの良い魚入ってますよ!」




「魚は旨そうだが、今日は少し真面目な用事なんだ」

「そうだね、出来るだけ人を港に集めてくれるかな?」



「例の盗難の被害者は、必ず集まって欲しい」



 王のその言葉に民衆は顔を固くする、そしてすぐに動き出し始めた。



(ふむ、やはり不安の色が濃いな……)


(まぁ、僕が不安そうにしてちゃダメだよね)



 そう思い、足元のピュアに目をやる。マントで姿を隠してはいるが、その体は緊張でガチガチだ。



「大丈夫、難しく考えなくていいんだ」


「君が伝えたい事を伝えるんだ、偽らずに真っ直ぐに」



 きっと、それが一番の解決策だろう。ピュアはコクリと頷いた。



 しばらくして、港にちょっとした人だかりが出来ていた。集まった人達に向き合うように、ラティール王は立っている。



「今日は皆に、大事な話があるんだ」




「何ですか王様、改まっちゃって……?」



 いつも通りに振舞おうとしてはいるが、周囲の人々の顔は曇っている。大体の用件は、察しがついているのだろう。




「単刀直入に言おう、例の泥棒を捕らえた」




 周囲がざわつく、それは『魔物』を捕らえたと言う事だ。その魔物をどうするか、それを聞かなければ民は安心出来ないだろう。



「お、王! その泥棒は……」




「そして今から、その泥棒本人が、皆に話があるそうだ」



 その言葉の意味が分からず、一瞬沈黙が流れる。その隙に王は、ピュアのマントを外してやった。



 ピュアの羽が民衆の前に晒される。



鳥人種ハーピーだ……!」



「……えっ……子供?」



 様々な声が上がっているが、恐怖と言うよりは困惑の色が濃い。



 両手が羽なのと、脚が鳥類の物なのを覗けば、6~7才の少女だ。魔物と言っても、これでは心の底から恐怖するほうが難しい。



 民衆はどう反応していいのかが分からない様子だ。



「あ、う……」



 ピュアも緊張で体を固めていた、その小さな背中を、ラティール王は優しく押してやる。



 意を決し、ピュアは一歩前に踏み出した。民衆は一瞬、ざわつく。








「たべものをぬすんで、ごめんなさい……っ!」







「……え?」







 震える声で謝罪するピュアに、民衆は呆気に取られる、というか、ラティール王にも予想外な言葉だった。



(言いたい事を言えとは言ったけど……)


(真っ先に出てきたのが、謝罪の言葉、か……)



 自分自身、辛い思いをしていただろう。


 生きる為に已むなく取った犯罪行為、それに対する謝罪の言葉を、真っ先に口にした。


 年端もいかぬ子供が、救いを求めるより先に、自分の罪を償おうとしたのだ。



(なるほど、この子は少し、良い子過ぎるかな)



 その行動に、助けてやりたいという気持ちが強くなってくる。




「えっと、王?」




民衆はただただ困惑している、ピュアは次の言葉を考えているが、出てこないようだ。




「この子は親に捨てられたようでね、自分の命を繋ぐ為に窃盗を行ったんだ」


「一人孤独に耐え、怯えながら毎日を過ごしてきた」


「そして昨日、ある男の手を借りて、僕に助けを求めてきたんだ」



 王はピュアに歩み寄り、その頭を撫でる。



「この国は一度、内乱で揺れ動いた」



「先王が信じることを恐れなければ、国が彼女・・を恐れなければ、結果は違ったかも知れない」



「僕はこの子と、友人の言葉で目が覚めた」



「先王の残した傷跡は、未だ皆の心に残っているだろう」



「だが、僕はもう一度、自分の気持ちを信じたいと思う」



「僕はこの子を助けたいと思う、それは、僕一人では無理な事だ」



「僕に力を、貸して欲しい」



 そう言って、ラティール王は民に向かって頭を下げる。



「王! 止めてください、貴方は王なんですよっ!?」




「僕はあの時から、何も成せていない」


「父上の代から何も変えられていない、惨めな男だ」




「そんな事……」




「だから今、変えてみようと思う」


「それが正しい事かは分からない、この自分の気持ちが正しいかは分からない」


「だけど僕を信じて欲しい、共に新たな道を見つけて欲しい」


「頼む……!」



 頭を下げたまま、民衆に向かい言い放つ、ピュアもそれを見て、頭を下げた。




「たすけてください……、おねがいします……!」




 しばらく沈黙が続いたが、一人の男がピュアに近づいた。




「おう嬢ちゃん、俺の店から盗んだ魚は旨かったかい?」




「え、あ……」




 男の迫力に、ピュアは涙目になって後ずさる。



「魚が好きなのか、あ?」




「うぅ……」



 半泣きで、コクコクと頷く。




「そうか……」




 男はピュアの頭を、優しく撫でた。



「え?」




「今度は前から普通にきな、旨い魚を食わせてやるよ」



「だからもう盗んじゃだめだぜ?」



 そう言って、笑う。



「……っ!」




「王、俺達だって、あんな思いは二度と御免ですよ」


「結局、俺達は裏切った側だ」


「俺達は先王の事も、あの人の事も裏切った……」


「そんな俺達にもう一度、信じるチャンスをくれるってんなら、全力で着いて行きますよ」


「それが俺達が出来る、あの人への償いなんだ」





「……ありがとう」


「今日からカリアは、新しいスタートを切った」


「今後とも、宜しく頼むよ……親愛なる民よ」













「……って感じかな?」



「じゃあ……!」



「あぁ、ピュアは町の者に受け入れられた」

「万事解決、とはいかないが……とりあえずは心配いらないよ」



「今頃メイド達と、町に出てるんじゃないかな?」



 本当に良かった、クロノはその場にヘナヘナと座り込んでしまう。



「へへっ……やっぱラティール王は凄いですよ……」


「王に頼んで、良かった…」




「つまりは、ピュアちゃんの可愛さの勝利だねっ!」


「可愛いは正義! つまりあたしも正義だねっ!」



 いきなり現れたエティルが、台無しにしてくれた。



「色々台無しだよ馬鹿野郎っ!」



「まぁピュアちゃんの可愛さは、間違いなく役に立ったとは思うよ?」



 メイドの反応を思い出し、クロノは頭を抱える。



「めっちゃ大変な問題だと思ったのに、一部は単純すぎやしないかな……」



「結局、それが人と他族の距離間なのではないか?」



 セシルが口を開く。



「双方が思うほど、距離は離れていないのだ」


「互いが勝手に、壁を高くしているだけだな」




「……そうだな」



 それは逆に言えば、壁さえなんとかすれば、関わり合うのはそう難しくないという事だ。



「……さて、そろそろ港へ向かおうか」




「へ?」



 唐突に、王が口を開く。



「セシルさんから聞いたよ、ウィルダネスに向かうんだろう?」

「そろそろウィルダネス行きの船が出る、僕も見送りたいからね」



「ほらほら、早く準備する!」



 当然の様に王も港へ行くようだ、兵士達も止める事を諦めている。まぁ護衛の兵も来るようだし、問題は無いのか……。




「なんだかなぁ……」




 そんな王に連れられ、クロノとセシルは港へ向かった。













「あ、ピュア!」



 港までの道中、町でピュアに出会った。



「くろのー!」



 メイド数人と一緒に、町を回っていたらしい。住民からは警戒の目も向けられているが、ピュアならすぐにそんな目も無くなるだろう。




「くろの、せしる、えてぃる、いっちゃうの?」




 背中の荷物を見て、ピュアは顔を曇らせる。




「ん……あぁ、まぁな」




「…………」




 凄い勢いで落ち込んでしまった……。



「大丈夫、また会えるって!」



「……くろの、ピュアのおかあさん、さがしてくれるんだよね?」


「せしるが、おしえてくれた」



 ピュアは俯きながらそう言った。



「ピュア、おかあさんにまたあえる?」




「……!」



「あぁ……! 俺に任せろ、絶対に見つけてやる!」


「約束だ!」



 笑顔でそう言い切り、小指を差し出す。ピュアの羽と結ばせ、指きり(?)を交わす。




「ピュア、今はこの国の民が、君の家族だ」


「クロノは約束を破らない、安心して待っていよう」



 そう言って、ラティール王はピュアを撫でる。



「……うんっ!」



 ピュアは太陽のような笑顔を浮かべ、頷いた。









 港で船が来るまでの待機時間、ラティール王がクロノに袋を差し出した。



「クロノ、依頼の報酬だ」




「え、ありがとうございま…………っ!?」



 袋の中身を確認し、クロノの脳内が悲鳴を上げる。袋の中には、クロノが見たことが無いほどの大金が入っていたのだ。クロノの最初の旅立ち資金の、10倍は入っている。



「こんなに受け取れる訳ないでしょうっ!?」



「予定の報酬の何十倍ですかこれぇ!」



 面白いほど動揺し、袋を返そうとする。ラティール王はそれを、笑いながら拒んだ。




「クロノ、君は勇者じゃない」




 そして突然、真剣な顔でラティール王はクロノに向き合った。




「……え?」




「そして、君の夢の道のりは、とても険しいものになるだろう」

「けどね、不思議と君は進んでいってくれると信じられる」



「君の言葉は、不思議な力を持っているよ、強い力を持っている」

「馬鹿げた夢でも、信じてみたくなる」




「そのお金は、依頼の報酬と、僕個人の感謝の気持ち、それとね」




 クロノの肩に手を置き、ラティール王は笑顔になる。




「証無き勇者への、餞別だよ」




「……っ!」




「この国の王として、君の友人として、旅の無事を祈っている」

「君の旅は、世界にとって大事な旅になる、不思議とそんな気がするんだ」



「……頑張れよ、クロノ」



 思わず涙が出そうになるのを堪え、クロノは笑う。



「……はいっ!!」



 そうして、ラティール王と握手を交わし、大型船へ乗り込む。



「……セシル、俺さ」




「……ん?」



 船に乗り込み、港から手を振っているピュアと王を見つめながらクロノは呟くように言う。



「お前にぶっ飛ばされなかったら、今でも、村でウジウジしてたと思う」



「ぶっ飛ばされて、旅立ちを決意したけど、正直プランも何も無くてさ」

「お前が居なきゃ、四大陸を巡るような本格的な旅になってなかったと思う」



「だから、上手く言えないんだけどさ……」



「……ありがとな」



 いつもの様に『キモイ』とか言われると思ったが、セシルは黙って聞いていた。



「……そうか」



「そうだな、本格的な旅になってしまったな」



「せいぜい頑張れ、期待に答えられるようにな」





「……おうっ!」


「あっ、そうだ!」




 何かを思い出したように、クロノは甲板から身を乗り出した。




「ラティール王ーっ! 近い内にエルフの二人組が訪ねてくるかもしれませんけどーっ!」



「俺の知り合いなんで、図書館にでも案内してやってくれませんかーっ!」




 あの二人が森を出たら、恐らく真っ先に目指すのは、一番近いこの町だろう。



「エ、エルフ?」



「友達なんですーっ!!」



 いきなりの爆弾発言である、他族の『友達』とは……。




(本当に、面白い子だよ……)




「あぁ! 任せてくれっ!」




 そう言って親指を立てる、クロノの友人なら問題はないだろう。知り合った経緯でも聞いてみようと、ラティール王は心で笑う。



 そんなラティール王の隣で、ピュアが目を閉じ、息を吸い込んだ。




「~~~♪ ~~♪♪」




「……ピュア?」





「む?」



「……歌?」



「綺麗な声だねぇ……!」



 頭の上にエティルが現れ、そう零す。




 透き通るような美しい声の歌だ。


 前回聴いた時のような、寂しさを感じさせる歌ではない。


 心が落ち着く、明るさに満ちた歌だった。





「……最高の、見送りだな」




「あぁ、そうだな」




 そうこうしてる内に、船が動き出す。




 目的地は砂の大陸・ウィルダネス、目的は大地の精霊・ノームとの契約だ。




「こっからが、本格的なスタートだ……!」


「行くぞ、ウィルダネス! 待ってろよ、ノーム!!」




「おーーっ!!」




 クロノの掛け声にエティルが合わせる、これから3日間は船の上だと言う事、をセシルは黙っていた。



次回は新章の前のちょっとした短編です、具体的にはロー君視点です。

多分1話で終わる事でしょう。


クロノ視点のお話はノーム編の前に一つの章を挟みます。

タイトルは『半人半鬼編』と決まっておりますのでお楽しみに。



(あぁ、早く四精霊揃えたい・・・)

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