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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第一章 『旅立ち』
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第二話 『神の加護』

 カリアの街からさらに西、街道を進むとクロノやローの済む小さな村がある。カーリ村と呼ばれているその村は小さいながらも中々に活気のある平和な村だった。クロノはそんな村の少し奥に位置する小屋に一人で住んでいた、自分のベッドに顔から飛び込み物思いにふける。



「ローの言う事は……やっぱ正しいよなぁ……」

「実際俺、勇者選別にも落ちたし……」



 【勇者選別】とは各町に存在する大聖堂で毎年行われる行事のようなものだ。年齢性別問わずに、勇者として魔物と戦う覚悟を示すものに、勇者としての称号とその証を授ける儀式である。



 しかし、誰でも勇者になれる訳でもない。魔物との戦いは当然命がけになることもある。多種族への知識、戦闘能力、勇者になる志、そういったものを示せぬ者には、勇者の称号は得られないのだ。



 そして自身の能力を示した者へは最後の試練、神の加護を受けられるかという試練が与えられる。この加護が降りてこない者には、勇者の称号は与えられない。言うならば、勇者は神からのお墨付きという証明でもあるのだ。




 そして、クロノはこの『神の加護』が降りてこなかったのだ。




「うああああっ!! なんだってんだよ! 俺に勇者の資格は有りませんってかーっ!」




 枕を壁に投げつけながら半泣きで叫ぶ、しかし、すぐに俯き呟く。



「……魔物と仲良くしたいとか言ってる俺に、資格はねぇってか……」



 胡座をかきながら俯くクロノは、自分の幼い時の頃を思い出していた。自分が物心付いた頃、父親はいなかった、母親と共に色んな場所を巡っていた記憶が微かに残っている。ある日、クロノが6歳の時に崖から足を滑らせ落下してしまった、崖の中腹辺りの出っ張りに滑り落ちたクロノは途方に暮れ、ただただ泣いていた。



 そこを鳥人種ハーピーに救われたのだ。魔物を始めて見たクロノは、最初は恐怖した、しかし自分を必死に抱きかかえ、崖の上に運んでくれたハーピーの少女からは、当時6歳のクロノも悪意を感じないことは分かった。



 「どうして助けてくれたの?」そう問うクロノに、当時のクロノより少し年上であろうハーピーの少女は「困ってるみたいだったから♪」と即答した。




「母さんにその事言ったら……母さん言ったよな……魔物とだって分かり合えるって……」




 クロノの母親は笑顔で息子にそう言ったのだ、分かり合える、理解し合えると。クロノは思えばその言葉を聞いてから、共存の世界に憧れを抱いたのかもしれない。




 同時に、その言葉を心から信じて言った母親のことも大好きだった。その母親はクロノが7歳の頃に流行り病で倒れた、カーリ村に行き着き、そこで死んだのだ。



 母の最期を看取ったクロノは、今でもその光景を思い出す、母の手を握り締め、大声で泣いたあの日を忘れることはできないだろう。そして母の最後の言葉も、クロノの胸に深く突き刺さっていた。



「貴方はきっと世界を変えられる、自分を信じてねクロノ……」



「貴方ならきっと……出来ると信じてるわ……」



 最後まで笑顔で、息子を信じて母は逝った。





「その結果がこれだよっ!」





 自虐も限界点を超え、いっそ清清しくなる。




「あぁ……情けなくて涙が止まらねぇよ……勇者になる為にスゲェ努力したってのに……」




 母が死に、カーリ村で世話になる事になったクロノは当時自分より一つ上のローと出会った。川原で泣いているところを見つけられ、自分の悩みや泣き言を、当時のローは嫌味一つ言わないで聞いてくれたのだ。




 そして当時のローは、クロノに手を差し伸べた。




「だったらさ、勇者になればいいぞ!」



 にっと笑顔で、そう言ってくれた。




「勇、者……?」




「あぁ! 勇者になってさ、全部お前が変えちゃえばいいじゃんかっ!」



 あの頃のクロノには、眩し過ぎるほどに。



「俺もさ、勇者になりたいんだ! 悪い奴をぶっ飛ばして、皆を守ってやれるほど強くなりたい!」



「その為に毎日剣の修行を欠かしてないんだ! お前も勇者になろうぜ!」



 そう言って手を差し出した、その手を泣きながら取った。




「あははっ 泣き虫じゃ勇者にはなれないぞ?」





「……っ! 泣いてないよ!」




 ぐいっと涙を拭い、無理やりに笑ってみせた。それから毎日二人で勇者を目指して頑張った、勉強も、戦闘技術も、毎日毎日努力した。




 そしてクロノ17歳 ロー18歳の今年 二人は勇者選別に望んだのだ。




「その結果が、加護が降りてこないから資格無しだあああああぁぁっ!?」




 もはや何を呪えばいいのだろうか、神か?




「ローは合格したし、正直どんな顔して会えばいいんだよぉ……」




 ローの合格は心の底からめでたいと思っているのだが、自分の落ちた理由があまりにもあんまりなので情けなさがクロノの飽和量を超えてしまっていた。




 母の言葉も、友の言葉も、神の加護(笑)で全てパーである。




 勇者選別は毎年行われている、故に次のチャンスも有ると言えば有るのだが……。




「加護が降りてこなかった者に、再び加護が降りることはまず無い……、かぁ……」




 勇者選別で落ちた者が、能力不足ならば次の年までに努力でなんとかなった事例もある。しかし加護が降りなかった者に、再び加護が降りる事はまず無いとされていた。



 そもそも『神の加護』とは神が対象の潜在能力を見定め、下す物だ、潜在する力は努力ではどうにもならず、一度ダメと言われればそれが覆ることはまず無いのだろう。つまりクロノは実質『詰んで』いるのだ。



「神様……マジ殴りたいっす……」



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