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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四章 『子供のハーピーと人の王』
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第二十七話 『その声は、きっと届く』

「ふわぁ……」


 城門の前で、ピュアは城を見上げていた。



「おっきーねー!」



「おーさまも、おっきー人なの?」



 目を輝かせてはしゃいでいるピュアが微笑ましい、こちらも顔が綻んでしまう。



「あははっ、ラティール王は俺より少し背が高いくらいだよ」



 頭を撫でてやりながら、そう答える。



「クロノ、王に会うにはどうするつもりだ?」



「んー、一応顔見知りだから、警護の兵に頼めば取り次いで貰えると思うよ」



 そう言って、門の警護をしている兵士に歩み寄っていく。



「あのーすいません」


「ん? クロノ君じゃないか」


「王から話は聞いているよ、盗人騒ぎの件だろう?」


「はい、その事で王と話がしたいのですが……」


「分かった、少し待っていてくれ」



 そう言って、兵の一人が城に入っていく。王が前もって、話を付けてくれていたのだろう。



(ありがたいけど、何か拍子抜けだ……)



(クロノ、大変なのはここからだよぉ)



 心の中で、エティルが話しかけてくる。



(いくらクロノが王様と友達だからって、簡単にはいかないと思うよ?)


(王様の立場ってのがあるし、人の町で魔物の子の世話を頼むなんて……)



 しかも、泥棒騒ぎを起こした張本人でもある。



(まぁ、難しい頼みだってのは分かってるさ)


(でも、何もしないで諦めたら、何も変えれないんだ)



 自分には大きすぎる『何か』を変える為、行動を起こす。迷ってる暇は無い、そんな暇があるなら、頭を働かせろ。



 そうして、クロノ達は兵に案内されて城へ入って行った。











「随分と早かったね、何か収穫はあったかい?」



 ラティール王は、謁見の間でクロノに微笑みかける。



 兵に隠れて町に出ていた時の格好とは、大違いの服装だ。純白のマントが、高貴なイメージを与えてくる。



 まぁ本人曰く、『動きにくいから嫌い』な服らしいが。



「王……玉座に座っていてもいいんですけど」



 王は自らの玉座を放置し、クロノの目の前まで歩み寄ってきていた。



「ずっと座っていても退屈じゃないか、それに距離を置いて話すなど無礼だよ」



「単に座っていたくないだけでしょうに……」



「クロノ、君も跪くなんてやめてくれよ」

「君と僕の仲じゃないか」



 そう言って手を差し出し、立ち上がるように言う。この王と話しているとどうも、敬意が空回りしている気がする



 差し出された手を掴み、立ち上がる。すると王は、立ち上がったクロノの横に並んだ。




(大事な話があるみたいだね?)




 そのまま耳元で聞いてくる、この王は、やはり勘が鋭すぎる。



(はい、出来れば、兵の居ないところで話したいのですが……)



(分かった、話を合わせてくれ)



 そう言うと、クロノの正面に直る



「さて、例の騒ぎの件なんだけどね」



「あ、はい」



「その報告を聞く前に、少し王の暇潰しに付き合ってくれないかい?」



「城に訪ねて着てくれたのも、随分久しぶりだしねぇ」

「旅の話でも、聞かせてくれないか?」



 そう笑顔で聞いてくる、ある意味、この王だから出来る事だ。



「変わりませんねぇ……まぁいいですけど」



「よし、なら庭に行こうじゃないか!」



 そう言って歩き出す王に、大臣が近寄ってくる。



「王……護衛も付けずにそのような事は……」



「友と話すのに、見張りを付けよと申すか」

「兵に部屋の扉を見張らせる、立ち入りは許さん」



「王、御自分の立場をですな……」



「友を勘ぐるような行いをしろと?」

「他国の者ならともかく、数年の付き合いがあるクロノなのだぞ?」




 王がそう言うと、大臣がこちらを見てくる。そしてしばらく考え込んだ後、溜息を零した。




「クロノ殿、あまり長話は遠慮してくだされ」


「このお方はこれでも我が国の王、どうかご理解を」



「は、はい……分かってます」



 子供の頃は毎日、ローと共に城に忍び込み、大臣に頭痛の種を作ってきたものだ。申し訳なく思いつつ、結局は許してくれる優しさに感謝する。



「よし、大臣の許しも出たし、行くとしよう」


「クロノの仲間達も、どうぞこちらへ」



 そう言って、壁際で待っていたセシルとピュアを呼ぶ。そのまま、王の自室へ招かれた。









「久しぶりですねぇ、懐かしいです」



 そう言って周りを見渡す、王の自室から出られる王の庭だ。



 『狭苦しい部屋にいたら体にカビが生える!』と言う王の意見により、自室から繋げられた広い庭。中心の噴水と、石畳がちょっとした公園の様なイメージを与える。



 ガーデニングもされており、子供の頃はこの庭でよく王と遊んだものだ。



 庭の西側は城壁で、昔はそこに穴が空いておりそこから進入していたのだ。(今は塞がれている)西側は海に面する崖でもあるので、子供の頃はよく危険だから止めろと叱られた。



 それでも止めなかったので、穴を塞がれたのだが、代わりに王が裏口を付けたので意味がなかった。



 もっとも、城壁から崖までは200mほど距離があるので、そこまで危険では無いのだが…。



「この庭は、僕が一番落ち着ける空間でもあるからね、お気に入りの場所だよ」



「それに、ここで君達と遊んでいた思い出は、僕の宝物だからね」



「君達の語る純粋な夢、それは疲れきっていた僕にとっては、大きな力になったものだ」




「王は俺達といつも、真っ直ぐ向き合ってくれましたしね」


「俺にとっても、ローにとっても、王は大きな存在です」



 クロノは心からそう思っているのだが、ラティール王は少し顔を曇らせる。



「その言葉は嬉しいけどね、僕はクロノが言うほどの人間じゃないよ」

「先王の行いを正す事も出来ず、現状維持が精一杯」



「民から信頼を寄せられていても、その信頼に応える術が、僕には分からない」

「何が正しいのか、今でも分からないんだ」



 始めてラティール王に会った日を、思い出す。ローと庭から進入し、そこで涙を流していた王に出会ったのだ。



 先王、ラティール王の父君はある過ち故に、命を落とした。そして20代半ばだったラティールに、王位が移動したのだ。



 民の反感を買い、国は大きく揺れ動いていた。父を失い、民の信頼も無くし、当時の若き王は、絶望に沈んでいたと言う。



 今でこそ民から信頼を集め、明るく振舞ってはいるが、その時の不安は未だ消えてはいないのだろう。



「僕は、未だに何も成せていない」



「……情けない王だと、自分でも嫌気が差すよ」



 そう言い、王は歯噛みする。だが、クロノの心配そうな表情を見てハッとした様子で顔を上げる。



「あははっ……すまないね、泣き言を言ってしまって……」



「本題に入ろう、何か話があってきたんだろう?」




「あ、はい……泥棒騒ぎの件で……」




「それは、後ろの小さな少女と関係あるのかな?」



 そう言いつつ、クロノの後ろのピュアを見る。ピュアはビクッとして、クロノにしがみついた。




「単刀直入に言えば、この子が犯人です」




 そう言って、ピュアの頭を撫でる。



 その言葉にラティール王は一瞬硬直した。



「……なんとまぁ、可愛らしい泥棒さんだね……」



 民や勇者が怯えていた魔物泥棒の正体が、目の前の少女だと言うのだ。呆気に取られるのも、無理は無いだろう。



「やはり、魔物かい?」



「はい、鳥人種ハーピーの子供です」


 そう言って、クロノはピュアのマントを外してやる。窮屈だったのか、ピュアは羽を広げてパタパタしている。



「君が泥棒さん?」



 ラティール王は、屈んでピュアに問いかける。



 ピュアは無言で、コクリと頷いた。



「クロノ、君の頼みはこの子の事だね?」

「事情が有りそうだ、詳しく聞かせてくれるかい?」




「はい、勿論です」




そして、クロノは自分の知りえるピュアの境遇と、自分の考えをラティールに話した。この子を助けたいと言う事、その為に、この子を王に任せたいと言う事を。










「……なるほど、事情は分かったよ」



 噴水の傍のベンチに腰掛けながら、ラティール王は難しい顔をしていた。



「君の言い分は理解できる、僕も助けてやりたいと思う……」



「だが……魔物の子を預かるなんて、民がどう思うか……」



 そう言って、庭を飛び回るピュアを見る。セシルが相手をしてやっている様で、その表情は明るい。



「あの子に敵意はありません! 町の人は、俺が説得してみせます!」



 無茶を言っているのは分かっているが、何とか食い下がる



「あの子は、純粋すぎる」


「あの子に敵意は無くとも、こちらの敵意にすぐ気がつくだろう」


「そうなれば、傷つくのはあの子だ」




「うっ……」




「君の夢にも関係ある事だが、この問題は簡単じゃない」


「勿論、僕も何とかしてやりたいとは思うが……」



 そう言って俯き、ラティール王は黙ってしまう。



 やはり、何も変えれないのだろうか。そう考え込むクロノの袖が、何かに引っ張られた。




「くろの……」




 見れば、不安そうな顔でピュアが見上げてきていた。



(なに、諦めかけてんだ俺は……)


(諦めたら、この子はどうなる……!)



 自分の袖を掴んでいる、ピュアの羽を握り返す。





「……俺は、共存の世界を信じてます」




「……クロノ?」




 ラティール王は、その言葉に顔を上げる。




「どんなに難しくても、可能性は0じゃないって信じてます」

「種族が違ったら助けたらダメなんですか、手を差し伸べられないんですか」



「絶対、違うはずです、助けたいって思える筈なんです!」

「その気持ちがあるなら、共存は絶対出来るはずなんだ…!」



「この子は助けを求めています! こんな小さな子が、助けてって言ってるんです!」

「その声は、きっと届くって信じたいんです!」



「お願いします! 力を貸して下さい!」





 そう言って頭を下げる、自分一人ではどうすることも出来ないのだ。



「おねがい、します?」



 そんなクロノを真似して、ピュアも頭を下げた。




「…………クロノ……」



 クロノの真っ直ぐな思いに、ラティールは驚く。そして目の前の魔物は、人間である自分に助けてくれと、頭を下げているのだ。



 そしてラティールは、目の前の少女が震えているのに気がつく。



「……何故、震えているんだい?」



 その言葉に、ピュアは顔を上げる。



「……こわい、から……」



 そして、すぐ隣のクロノにしがみつきながら答えた。



「貴様らが恐れる魔物は、逆に人を恐れているようだぞ?」



「貴様等は、互いを知らなすぎるのだ」



 セシルが怯えているピュアの頭を撫でてやりながら、口を開く。



「双方が歩み寄らねば、何も変わらん」



「貴様に、この子の声は届かないのか?」



 ラティール王の目を見据え、セシルは問いかけた。




 ラティール王は目を閉じ、考える。何も変えられなかった自分が、力になれるのだろうか。



 こんな、頼りない王の自分に……。



「君は、僕に助けて欲しいのかい……?」


「何も、出来ないかも知れないんだよ?」





「ピュア、ひとりやだ……!」



「もう、こわいのやだ、さむいのやだ、つらいの、やだよ……」



「たすけて、ほしいよ……」



 その言葉に、ピュアは即答する。





「……もう一度、聞くが」





「貴様にその声は、届かないのか?」






 セシルのその言葉を合図に、ラティール王は手を伸ばす。そして、ピュアの頭を撫でた。




「……♪」




 気持ち良さそうに、ピュアは笑顔を浮かべた。



「……何が正しいのかは、まだ僕には分からないけど」



「この子を助ける事は、きっと間違いじゃないね……」



「クロノ、顔を上げてくれ」



「僕も信じてみよう、町の皆にもきっと届く」



 その言葉にクロノは顔を上げ、笑顔を浮かべる。




「王……!」




「友が頼ってくれているんだ、王として助けにならないと」


「それに、可愛らしい少女を泣かせるのは、僕の主義に反するからね」




 そう言ってウィンクするラティール王、これで希望が繋がった。



 そう思った矢先、部屋の扉が開かれた。






「なっ!?」



「王、そろそろ時間です……っ!?」



 兵士の一人が部屋に入ってくる、当然、ピュアを見て顔色を変えた。




「魔物……? 王! 下がってくださいっ!!」



 そう言い放つと、腰から剣を引き抜いた。



「ひっ……!?」




「……っ! 待て! 剣を収めろっ!」



 王の制止は届かない、城内に魔物の姿を捉えた兵士は、ピュアに向かって斬りかかる。



「くそっ!」



クロノは咄嗟にピュアを庇う、兵士の剣を蹴りで弾き飛ばした。




「わっ……うわああああんっ!」




 自身に向けられた殺気に恐怖し、ピュアは飛び上がる。




「待て! ピュア!!」




 クロノは呼び止めるが、ピュアは空へと飛び去っていく。西側・・の城壁を飛び越え、そのまま真っ直ぐ飛んで行ってしまう。




(まずい! あっちの方は!)




 クロノも駆け出す、あのまま真っ直ぐ行けば、崖だ。




「クロノ!?」




「ピュアはまだ上手く飛べないんです! あのままじゃ落ちる!!」




 特に、冷静さを欠いている今の状況はかなり危険だ。クロノは裏口を蹴り破り、ピュアを追いかける。



 既にピュアは足場の無い場所を飛んでいた、あそこから落ちたら崖下の海まで落下する。そうなれば、命は無い。



「ピュア! 戻って来い! ピュア!」




「クロノ! ダメだよ、聞こえてない!」



 エティルがすぐ横に現れる、確かにあれだけ高度を上げていれば、声は届かない。



「まずいよ! あんな飛び方じゃっ!」



 エティルが声を上げた瞬間、ピュアの羽ばたきが不安定になる。



 そして……。






「……………………ッ!!!」






 その小さな体が、落下を始めた。



 

 それを目で確認した瞬間、クロノは崖に向かって走り出していた。


 クロノを追い、裏口から出てきたラティール王は、崖に向かって走るクロノを視界に捕らえる。





「クロノ……? おい待て! 何をするつもりだっ!!」





(このままじゃ間に合わない、それに届かないっ!)




(つか俺に何が出来るってんだ!? このまま走っていって、何が出来る!?)




 それでも、見ているだけなんて出来る訳がない。孤独に怯え、助けを求めていた少女が、こんな事で死んで良い訳が無い、そんな事、認められるわけがないっ!




「エティルッ!!」




「うんっ!」




 精霊技能エレメントフォース・疾風を発動する、後のことなんて今はどうでもいい。





(絶対、死なせないっ!!)





 一気に加速し、クロノは崖から飛び出した。







「あの、馬鹿タレが……!」




 崖から飛び出すクロノを見て、セシルが呟く。



(自分も死ぬつもりか、馬鹿がっ!)



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