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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四章 『子供のハーピーと人の王』
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第二十五話 『捨て子のハーピー』

 前回、クロノ達は泥棒を見事追い詰めたのだが……。



「うえええええええええええええんっ!!」



「どう見ても、子供を泣かせてるようにしか見えんな」



 いつの間に追いついたのか、セシルが冷たい目でこちらを見てくる。



「いや、泣かせたのは俺じゃなくてだな……」



 嘘は言っていないが、それでも謎の罪悪感がクロノのメンタルを削っていく。



「よしよし、痛かったねー」



 エティルは泣きじゃくるハーピーの頭を、優しく撫でてやっていた。



「ん、いたかった……」


「もう大丈夫だからねー、だからいきなり逃げたりしたらメーッだよぉ?」


「ん……わかった……」



 小さな見た目に、子供っぽい性格をしてるエティルの意外すぎる姿に、クロノは密かに驚く。子供の扱いがあまり得意じゃないクロノにとっては、助かるのも事実ではあるが……。



「やはり意外だ……」



「ルーンが従えていた精霊の中では、エティルは一番年上だったからな」


「まぁ精霊は、年齢を余り気にしないフシもあるがな」



 セシルが呆気に取られるクロノに、軽く説明する。




「まぁ、それは置いといてだ」




 クロノはハーピーの子供に向き直る。6~7才だろうか、エティルになだめられ、少しは落ち着きを取り戻している。



(この子が、泥棒騒ぎの犯人ねぇ……)



 この子をラティール王に引き渡せば、それでこの騒動は解決なのだろうが……。




「それでいいのか?」




 まるで、考えてる事を見透かされているようなタイミングで、セシルが聞いてくる。



「……良くないっすね」



「少なくても、俺が納得できない」



 子供といえ魔物だ、このまま引き渡すと何をされるか分からない。そして事情を知らないクロノには、庇う事も出来ないだろう。




「とりあえず話を聞いてからだ、幸い町の外だしな」




 町から少し離れた場所で、クロノは町の方に視線を移す。今さっき盗難事件があったばかりだと言うのに、町からは追っ手の一人も出てこない。



「騒ぎになってはいるけど、誰も追いかけてこないのな」



「あぁ、怯えているようだったがな」



「怯えて?」



 セシルの言葉にクロノは眉をひそめ、すぐに納得したように頭を搔く。



「犯人が魔物だから、関わりたくないってか……」



 目撃情報が出ても、誰も犯人を突き止めようとしないのはつまり……。



「怖いから、か」



 一般人はともかく、勇者の証を持つ者までそれなのだから、呆れて物も言えない。



 他族を知ろうとしないで、一切の関わりを拒絶する。それが世界の常識であり、『普通』だった。



 クロノはハーピーの子に視線をやる、エティルのおかげで緊張もほぐれ、笑顔を浮かべている。町の人間が恐れる、『魔物泥棒』の蓋を開けてみれば、こんな少女だ。



「やっぱ、おかしいよな」


「どっちからか歩み寄らないと、何も変わらない」


「このままでいいはず……ねぇよ……」



 この騒動はただ解決するだけじゃダメだ、それじゃ何も変わらない。クロノは直感でそう思い、ハーピーの子へ歩み寄る。



「どうするつもりだ?」



 そんなクロノの背に、セシルが問いかける。



「言ったろ、まずは話を聞いてからだ」



 そう言って、ハーピーの子の前にしゃがみこむ。




 ビクッと体を強張らせクロノの方を見るハーピー、その目は警戒の色が強い。



「俺はクロノ、君の名前を教えて欲しいんだけど……」



 出来るだけ柔らかに言葉を繋ぐ、怯えられては話を聞くも何も無い。




「……ピュア」




 カチカチに緊張しながらも、答えてくれた。



「なぁピュアちゃん? どうして食べ物を盗んだりしたんだ?」



「…………」



俯いて、黙り込んでしまう。



(うぅ……沈黙が辛い……)



(もー、子供相手に圧力かけすぎだよぉ!)



 心の中でエティルに怒られる、ここは任せたほうがよさそうだ。



(悪いエティル、頼んでいいか?)



(んー、しょうがないなぁ……)



 そう心で言うと、エティルはピュアの目の前まで飛んでいく。






「ピュアちゃん、あたし達怒ってないよ?」



「え?」



「怒ってると思ったー?」



 アハハッとエティルは笑う。



「それとも、怒られると思った?」



「……」



「だいじょーぶ……何も聞かないで怒ったりしないよぉ」



「怒られると思ったってことは、悪い事だって分かってたんだよね?」



「うん……」



 俯きながら、頷く。



「けど、理由があったんだよね?」


「悪い事を平気で出来るような子は、ピュアちゃんみたいな顔しないもんね」



「う、ん……」



 目の前の少女は、涙を零しながら頷いた、その体は震えている。



「どうしてこんな事したのか、聞かせてくれる?」



涙を流すピュアの頭を撫でながら、エティルは優しい声で続ける。ピュアはコクリと頷いた。











「ピュアね、ひとりなの」



 数分後、落ち着きを取り戻したピュアは口を開く。



「おかあさんといっしょにこっちきたんだけど、おかあさんいなくなったの」


「このちかくでまってなさいって、いわれたんだけどね」


「かえって、こなくなっちゃったの」




「おなかすいても、ごはんなくて……」


「にんげんはしゅぞく?がちがうから、ちかづいちゃだめっていわれてて……」


「でも、おなかすいて……」




「それで、盗んだのか……?」



 クロノは、小さく問う。




「……ごめんなさいぃ……」




 消え入りそうな声で響く、謝罪の言葉、ピュアは頭を抱えて怯えていた。その姿に、クロノは思わず目を背ける。



 再び泣き出してしまったピュアをなだめる為、エティルが近づいていく。




(なんだよ、それ……)


(それってつまり、捨てられたって事なのか!?)




「……これで、あの時の歌にも納得がついた」



 セシルが腕組みをしながら、口を開いた。



「歌って……窃盗直前に聞こえるって言われてた歌か?」



「あぁ、鳥人種ハーピーの歌には意図があると、貴様は言ったな」



「あの歌は、母親を呼んでいたのだ」



 美しい声に寂しさが混じった歌、それは孤独から来る物だったのだ。窃盗の直前に母を呼ぶ歌を歌う……、それは罪悪感と孤独から救って欲しいという、意思表示だったのだ。




「母さんに、会いたかっただけ……」




 母親の死を目の前で経験したクロノには、ピュアの気持ちが少し分かった。母親に置き去りにされ、涙を流す少女を、どうにかしてやりたいと思う。



「ピュア、母と共にこっちにきたと言ったな?」



「なら、貴様等はどこからきたのだ?」



 クロノが考え込んでいると、セシルがピュアに質問をした。



「うぇる、みす……」

「おかあさんがおしえてくれた、ピュアはうぇるみすでうまれたんだよって」



「ウェルミスって……魔王が居るっていう、あのウェルミスか!?」



「クロノ、重要なのはそこではない」



 セシルが真剣な顔で言う。



「ピュア、貴様の母がそれを教えてくれたのは、いつだ?」



「……こっちにきてから、だよ?」



 やはりか、とセシルは一人で頷いている。



「何がやはり、なんだよ?」



 その問いに答えず、セシルはクロノの手を取り引っ張っていく。



「エティル、その子の相手を頼む」



「ふえ? 了解ー」



 ピュアの相手をエティルに任せ、セシルとクロノはピュアから距離を取る。




「どうしたんだ?」



「あの子の母親、どうなったのだと思う?」



 手を離し、クロノに向き合ってセシルは言う。その眼差しは、セシルが真剣な話をする時の物だ。



 クロノは少し考え、言い辛そうに口を開く。



「酷かも知れないけど、ピュアを捨ててどこかに行ったか……」



「それか、ピュアの所に戻る途中に……殺されたか」



 あまり言いたくは無かったが、勇者に見つかったのなら、有り得る可能性だ。クロノ自身、認めたくない可能性ではあるが……。



「ふむ、なら仮に捨てたと仮定するが」


「何故、わざわざ大陸を跨いだと思う?」



「そりゃ、近くだと戻ってくるかもしれないからじゃないのか?」



「飛ぶのもまだ不慣れな、子供がか?」



「まぁ大陸を跨ぐのはやりすぎだろうけど……」




「そして何故、人の町に近い場所に捨てたと思う?」


「違う言い方をするならば、食料が流通する場の近く、か」




「……それって……」


「いや、でも勇者に見つかるリスクも……」



「貴様、アノールド大陸の勇者が何と呼ばれるか、知らん訳あるまい」





 四大陸で最も戦意がないとされるのが、アノールド大陸の勇者だ。アノールド大陸の別名は、『最弱の大陸』。



 自然豊かなアノールドは農業や漁業が盛んであり、戦闘の風習は少ない。その為、アノールド大陸の勇者は良く言えば『温厚』、悪く言えば『腰抜け』が多いとも言われている。




「わざわざ捨てる場に『最弱の大陸』を選び、人の町の近くに捨てていった」



「そして何より、大陸を跨いだ後(・・・・・・・)に生まれ故郷の名を教えた意味を考えるとな」



「私はどうしても、ピュアの母が、ただ我が子を捨てたとは考えられんのだ」




 そもそも、鳥人種ハーピーの親子の絆はとても強い、鳥人種ハーピーの親は、命に代えても子を守るとも言われている。そんな種族が子を捨てるだろうか。




「じゃあ、ピュアの母親は……」




「私の勝手な想像に過ぎないのだが……」


「何か、事情があったのではないか?」



 子を捨てなければいけない事情、仮にそんなものがあるのなら普通の事情ではない。それでも、我が子に生き延びて欲しいと言う母の願いからの行動ならば……。




「その願いを、無駄にするわけにはいかないな」




「今の話は、私のつまらん妄想だぞ?」


「それを簡単に、信じていいのか?」



 セシルはそう言うが、信じるに決まっている。




「セシルの言葉だ、それだけで十分信じられるよ」



「それに、今の話が絵空事に過ぎなくてもさ」




 クロノは離れた所で、エティルと笑っているピュアを見る。




「あの子を放っておくなんて、俺には出来ない」


「今の話が的外れでも、あの子を見捨てる理由にはならないよ」




「……そうか」



 そう言って、セシルは笑った。






 人だろうが魔物だろうが、涙を流す子供を助けるのに、大層な理由なんて要らない。それが正しいのか、偽善かなんてどうだっていい。




(助けたいから助けるんだ、文句あるかっ!)




 そんな心の声は、離れていたエティルにきっちり届いていた。



「ふふっ……文句無いよ、クロノ♪」



「……?」



 急に嬉しそうに呟いたエティルに、ピュアは首を傾げていた。



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