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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第四章 『子供のハーピーと人の王』
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第二十三話 『王からの依頼』

 夜が明け、クロノ達はカリア街を目指し歩を進めていた。



「なぁエティル、他の精霊達はどんなゲームを挑んでくるんだ?」



「んー、分かんないよぉ」



 やはりクロノの頭の上に座りながら、エティルは答える。



「ルーンと契約したの、あたしが最後だったから、ルーンとみんながどんなゲームしたか知らないの」



「みんなに聞いても、真面目に答えてくれたのはフェルド君だけだったしなぁ……」



「それがマジバトルですね、分かります……」



 今のクロノでは相手にならないのは確実、旅の道中で力を付けなければならないようだ。



「そんな事よりクロノ、駆けっこしようよぉ」



「またか!? 正直もうヘトヘトなんだが……」


「つかそっち飛んでるじゃんか。それってズルじゃないか!?」



 さっきからエティルは『風に乗る修行』、と言って駆けっこを要求していた。



「だからぁ、風に上手く乗ればそんなに疲れないのにぃ」

「風に逆らって動くから、遅いし疲れるんだよぉ」



 とは言うが、正直『風に乗る』というのが良く分からない。



「風の流れは前より感じるけど、それに乗るってのがなぁ……」



「クロノはまだ精霊技能エレメントフォースが下手だから、長く続かないでしょ?」


「あたしと強くリンクしてない状態でも、ちょっとは動けないとダメだよぉ」



 昨日の持続時間を思い出す、確かにアレでは乱用どころか、一回くらいしか戦闘で使えない。



(一回ってか、一瞬か……?)


 精霊技能エレメントフォースの扱いも練習が必要だが、それに頼りきりなのは良くないだろう。エティルの言う通り、普段から力をうまく使えるようにならなくてはいけない。



「まぁエティルの力を少しでも使えねば、アルディの奴との契約は絶望的だろうしな」



「奴の性格的に、それだけで契約を断られかねんぞ」



 横からセシルがそう告げる。



「前途多難って奴か……そうこうしてる内にカリアが見えてきたな」



 途中何度かエティルと駆けっこしてたせいで、結構速く着いたようだ。



 カリアの街・正式名はカリア城下町、海に面した町で、漁業や貿易で賑わうアノールド大陸最大の町だ。


 城下町から海側の街道を行くと、カリア城に辿り着く、丘の上に建つその城からは、城下町が一望できた。



 クロノは幼い頃、良くローと共に城に忍び込んでは叱られたものだ。




「船を都合良く出してもらえるかな」


「つか、セシルが町に入ったら騒ぎになるんじゃ……」



「それは心配無い」



 そう言うとセシルの尻尾が引っ込んだ、手足を覆っていた真紅の鱗も消えていく。



「は!?」



「むぅ、やはり無駄に疲れるから、人間化は好かんな」



 その姿はどこからどう見ても人間だ。馬鹿でかい剣を担いでいる点を覗けば、凄まじい美女だった。



「えーっと……セシルだよな?」



「貴様は目も悪いのか?」

「人間化が出来る魔物は、意外と多いのだぞ」



 そう言ってカリアに向かって歩き出す、クロノもそれに続いた。



「そういえばクロノ、金はあるのか?」



 セシルは前を向いたまま問うが、クロノの返事は無い。



「クロノ?」



 振り返ると、クロノは荷物を確認しながら固まっている。



「やばい……、そういえば船代なんて持ってないぞ……」



 旅立ち資金は食料などで塵と消えていた。予想外の同行者も出来た上に、旅立ち当初は海を跨ぐ予定など無かったからだ。



「いや、それにしてもノープラン過ぎるだろう」



「貴様は本当に、大馬鹿だな……」



 返す言葉も無い、クロノはガックリと肩を落とした。











 カリアの広場、クロノはベンチに腰をかけながら、項垂れていた。その隣でセシルは立ちながら、クロノをジト目で睨んでいる。



「金をどう稼ぐかも、考えておらんとはな」


「出費を加速させたセシルにも、責任あるんだぞ……」


「ぬ……? だ、だとしても、貴様は考えが足り無すぎだ」


「うぅ……」



 金が無くて行き詰るとは、なんとも現実は非情である。



「依頼板で何とかなると思ったんだよ……」




 依頼板とは、殆どの町に存在する、住民達の依頼が載せられる看板だ。依頼内容は探し物を探してくれや、別の町までの護衛、中には王族からの依頼も貼り出される事もあった。



 当然、報酬が支払われる為、クロノは依頼を受けて金を稼ごうとも思ったのだが……。



「依頼の殆どが『求む勇者』なんだよなぁ……」



 大抵の依頼は、最低限の実力が認められている勇者に宛てたものだ。勇者の証を持たないクロノには、そういった依頼は受けられない。



「クッソー! 勇者は何でも屋じゃないってのにさぁ……!」



 結果、金稼ぎの手段も絶たれ、クロノは途方に暮れているわけだ。



「クロノクロノ、今の人が貼った依頼、求む勇者じゃないよぉ?」



 依頼板の近くで見張っていたのか、エティルが声を上げる。たった今貼られた依頼らしい、依頼人もすぐ傍にいた。



「ん? どんな依頼だ、って貴方は!?」




「あれ、クロノじゃないか?」



 依頼人は、クロノがよく知る人物だった、いや、この街にいる人物なら誰でも知っているだろう。



 頭から布を被り、顔を隠してはいるがクロノには分かる。30代半ばのその男は、カリア城の王、ラティール王に間違いなかった。



「お、王!? どうしてここにっ!?」


「ちょっ、声が大きいよ!」


「むぐっ!」


 ラティール王は慌ててクロノの口を塞ぐ、周囲の人に聞かれた様子は無い。



「お忍びで城下町に降りて来てるんだ、騒ぎになったら城に連れ戻されるだろうに……」



「ぷはっ……またですか? 城の兵士達が怒りますよ……?」




 クロノが子供の頃からこの王は変わらない、こうやってよく城を抜け出しているのだ。いい歳して、とんでもない王である。



 だが、クロノはこの王のことが好きだった。



 住民の声を近くで聞くため、城から離れて街の様子を見にきているのだ。護衛も付けず、身分の違いなど関係なく、親身に民の言葉に耳を傾ける王なのだ。


 クロノやローも幼い時によく、稽古をつけて貰ったり、一緒に遊んでもらったりした。王に会いによく城に忍び込んでは、兵士に世話になったりもした。


 民からの信頼も厚く、何だかんだで良い王だ。



「しかし、久しぶりだなクロノ」


「最近は顔が見えなくて、心配してたんだぞ?」



「あ、それは……旅に出てたもので」



 『旅?』、と不思議そうな顔をした王は、クロノの背後のセシルに気が付く。



「なんだクロノ、可愛い彼女でも出来たのか?」



「なっ、違いますよっ!!」



「あぁ、違う」



 二人、ほぼ同時に否定する。



「というか、王が何故依頼板に……?」



 そう言って、依頼板の内容を確認する。



「泥棒を捕まえて欲しい……?」




「……あぁ、少し困っていてね」



 そう言って、ベンチに腰を下ろす。



「ここ最近、城下町で盗難騒ぎが起きているんだ」


「犯人の目撃情報から推測する限り、犯人は人ではない」



 その言葉に、クロノとセシルは反応する。



「……魔物の仕業か?」



 セシルは問うが、ラティール王は難しい顔をしていた。


「恐らく、だがね」


「目撃情報は黒い影だったとか、素早い何かが飛んでいったとか、だからね」


「少なくても、相手は飛べる事から見て、人ではないのは確かだ」


「それと、犯行の前には必ず歌が聞こえるらしいんだ」




「歌?」



 クロノは思わず聞き返す、何ともロマンティックな泥棒だ。



「それも、美しい声の歌らしいよ」


「まぁそれは置いといてだ、民からその泥棒を何とかしてくれと言われているのだがね……」



 そこで、ラティール王は肩を落とす。



「情けない事に、相手が魔物の可能性があるからか……勇者達はまったく集まってくれないんだ」


「仕方なく勇者問わずと、依頼板にコソコソと依頼を出す羽目になっているんだよ……」



 ハハハ……っと乾いた笑みを浮かべる王、クロノも顔が引きつっていた。



「勇者が聞いて呆れるな、肩書きだけの腰抜け共が」



 セシルの言葉に王は項垂れる。



「言い返す言葉も無いよ、僕自身で犯人を追おうとしたら、城の兵士に止められるしね」


「民が困ってるというのに、王というのはまったく……、何も出来ないじゃないか……』



 悔しそうに歯噛みする、王という立場上、ラティール自身は動けないのだ。




「クロノ」



「あぁ、分かってるよ」



 セシルが何かを言おうとするが、クロノが頷いて遮る。



「王、俺がその犯人を捕まえますよ」


「え、クロノが?」


「はい、魔物が相手なら、俺がやります」


「しかし、危険かも知れないんだぞ?」



 その言葉に、クロノは笑う。




「王様、俺の夢覚えてますよね?」




「え、あぁ……忘れるはずがないよ」


「あんな夢を語ったのは、君だけだったからね」




「俺は今、その夢を成す為に旅をしてるんです」


「だから、他族が関わってるっていうなら、ほっとけないです」



 そう言い終わると同時、エティルがクロノの頭の上に現れる。



「あたしの力を使えば、犯人なんてすぐ捕まえれるよっ!」



「エティル? お前どこ行ってたんだ?」



 さっきから姿が見えないと思っていたら、突然現れたエティルにクロノは問いかける。



「知らない人だったから、一応引っ込んだの」


「消えてる時も、心で会話は出来るから、安心してね♪」



 精霊というのは、便利な能力を持ってるらしい。



「その子は、シルフかい?」



 驚いたように、ラティール王は言う。




 クロノの事は、彼が子供の頃から知っている。勇者を目指し頑張っていたが、ついこの間の勇者選別に、落ちたと聞いていた。



(随分落ち込んでいると思ったんだけどな……)



 不思議な夢を抱いていた少年は、どうやらその夢の為に旅に出たらしい。勇者の証も持たずに、精霊と契約まで果たして……。



(本当に、不思議な子だな)


(子供ってのは、成長が早くて困る)



 そう心で思い、ラティールは薄く笑う。





「そういう訳で、この馬鹿が問題は解決する」



「貴様は王らしく、玉座で民を信じて待っていろ」



 そう言って、セシルが剣を担ぎ直した。



「セシルっ! お前口の利き方ってのがだな!?」



「やかましいぞ」



 目の前の少年になら、不思議と任せてもいい気がした。



「分かった、頼んだよ」



 そう言って、ラティールは笑顔を見せる。その言葉に、クロノも笑顔で応じた。



「任せてくださいっ!」



「あははっ まるで勇者みたいだな、クロノ」



「証は無いから、偽勇者だがな……」



「何でセシルはそう言うことを言うかなぁ!?」






 こうして、王からの依頼である、泥棒探しが始まった。



新章突入!

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