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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第三章 『月の翼・シルフ』
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第二十一話 『契約』

「……?」



 クロノが目を開けると夜空が見えた、どうやら横に寝かされているらしい。



「む、起きたか?」



 横からセシルの声が聞こえる。



「……どうなったんだ?」



 首だけ動かし、セシルの方を向いて聞く。



「それは私が聞きたいのだが」


「突然貴様が吹っ飛んでくるわ、エティルは顔を真っ赤にしたまま何も喋らんわ……」


「どうなっているのだ」



 見ればセシルのすぐ隣に、エティルが浮いていた。まだ少し、顔が赤い。



 クロノは体を起こし、立ち上がる。



「あの、さっきのは事故でだな……?」



「わ、分かってるよぉ……」



 と言っても顔を逸らされる、何と言うかやりにくい空気だ。



 両者だんまりが続く、セシルだけが怪訝な顔をしていた。



「何かあったのか?」



「胸触られたんだよぉ……」



 その言葉にセシルがこちらを向く、友人の胸を揉んだとか真っ二つにされてもおかしくない。クロノは咄嗟に身構える。



「そうか、ならゲームはクロノが勝ったようだな?」



 しかしセシルは、あっけらんと話題を変えた。



「セシルちゃんっ!? あたしおっぱい触られてるんですけどっ!?」


「凄い辱めを受けたんだよぉ!?」



 やはり気にしてるなぁ、とクロノが罪悪感を抱く。



「ん? あぁそうか」


「クール過ぎるよぉ! 友達が恥ずかしさで顔真っ赤なんだよぉ!?」


「まぁ、そんなことはどうでもいいとしてだな」



 華麗すぎるスルースキルに、エティルは白目のまま固まっていた。



「ゲームはクロノが勝ったのだろう? どうだ、コイツの力は」



 その言葉に、エティルは真剣な顔に戻った。




「うん、ちゃんと見せて貰ったよ」




 そう言って、クロノに向き直る。



「クロノ君、最後の動きはお見事だったよぉ」



「あたしの完敗だねっ」



 笑顔でそう言ってくれる、ようやく勝った実感が沸いてきた。




「一つ、聞かせてくれるかな」



「ん、何?」



「クロノ君は、風の流れが見えたの?」




 自分の動きについてこれたのは、間違いなく風を感じたからだ。だが、それは人の身で簡単に出来る事ではない。




「正直に言えば、分かんないや」


「ただ必死だったから、まだ良く分かんない」





「分からないのに、最後あんなに自信満々だったの?」




 自分を追い詰めた時のクロノは笑っていた、その笑顔が分からなかった。あの局面で何故笑えたのか、風の流れを完全に読めもしないで、何故余裕を持って笑えたのか。




「自信があった訳じゃないよ」


「作戦通りいったのが、嬉しかったのもあるし」


「何より楽しかったからかな」



 また、笑顔で言った。




「楽しかった……?」




「エティルは、楽しくなかったのか?」


「楽しそうに笑ってると思ったんだけどな……」



 その笑顔に、エティルは『彼』と出会った時の事を思い出していた。











________数百年前________




「はい、捕まえた~!」



「え、……えぇっ!?」



 背後から頭に手を乗せられ、一瞬何が起こったのか分からなくなる。人間に後ろを取られたのだ、それも仕方が無い。



「嘘っ! 君一体何したのっ!?」



「嘘じゃないし、何もしてないよ?」



「そんなっ! なら人間に捕まるわけっ!」



 契約を条件にゲームを始めたが、ほんの数十分で捕まってしまった。しかも人間相手にだ、理解できない。



「だって、精霊の力も使わない、ただの人間にあたしが捕まるわけ……」



「大体、何で精霊の力を使わないのっ!?」



 目の前の人間はノーム、ウンディーネ、サラマンダーを従えていた、なのにその力を使わなかったのだ。




「ん~? 何かフェアじゃないじゃん?」



「僕が君と契約したいから、僕の力を示すって言ってるのにさ、他の精霊の力使ったらズルくない?」



 その言葉に、シルフは口が塞がらない。



「う、うぅ~……」



「悔しい?」



 悔しくないはずが無い、人間に瞬殺されたのだ、プライドもズタズタである。




「勝負に負けて悔しいのは、人も精霊も一緒だよね」



「うん、やっぱ変わらないよな……おんなじだ」



 なにやら勝手に納得しているが、訳が分からない。



「もう一戦、しよっか♪」



「……へ?」



「悔しいんでしょ? 何度でも付き合うよ?」



 この人間は、自分を馬鹿にしているのだろうか?



「あんまり舐めないでよねっ!?」



「舐めてないよ、本気本気」



「馬鹿にしてっ! 後悔しても知らないよっ!」









 その後、数時間挑み続けたが結果は0勝26敗。人間相手に、惨敗である。




「なんでぇ~……何で勝てないのぉ~……?」




 すでに飛ぶ力も尽き、小石に持たれかかっていた。何度やっても、10分も逃げ切ることができなかったのだ。



「あははっ! 日が暮れてきちゃったねぇ」



 汗を流しながら良い笑顔を浮かべるこの少年、流石に息は乱れているが、まだまだ元気だ。その姿を見て、本当に人間なのか疑ってしまう。



「まだやる?」



「もういいよぉ~……何か、勝てる気がしないよぉ……」



「そっか、うあ~疲れた~!」



 笑顔でその場に腰を下ろす少年に、シルフは疑問を抱く。




「ねぇ、何で笑ってるの?」




 最初は馬鹿にされてるのかと思ったが、少年は心の底から笑っていた。鬼ごっこを始めた最初から、ずっとだ。




「そりゃ、嬉しいし、楽しいからだよ」


「僕はさ、種族関係なく仲良くできる、そんな共存の世界が夢なんだよ」




「なにそれぇ……無理に決まってるよぉ……」



 変な人間だとは思ったが、その夢まで変だった。




「本当に、無理かなぁ?」




 少年は空を見上げて、そう呟く。



「今だって、人間とシルフって他族同士なのに、鬼ごっこだよ?」



「これって交流じゃない?」



「単純な事でも、お互い楽しいって事で繋がってた、これは立派な共存だと思うなぁ」



 少年はそう言って笑っていた、本当に楽しそうに。



「……あたしは楽しくなかったよぉ」



「ウッソだぁ~ めっちゃ笑ってたじゃんかー!」



「わ、笑ってなんかなかったよぉっ!」



 嘘だーと笑う少年に、シルフはそれを必死に否定した。



「ち、違うもん! 楽しくなんてなかったってばっ!」



「あはははっ! 分かった、分かったってば」



「何で笑うの~~っ!?」


 完全にからかわれている、シルフは顔が赤くなるのを感じていた。



「君、名前は?」



「へ? ……そんなの、無いよぉ」



 精霊に名前をつける文化など無い、呼ばれる時はいつも、種族名のシルフと呼ばれていた。




「やっぱりか、名前ないと不便だと思うんだけどなぁ」




 精霊ってのはまったく……、と少年は溜息をつく。




「じゃあ今日から、君はエティルね」



「ふえ?」



「少なくとも僕はそう呼ぶから、よろしくね?」



 勝手に名前をつけられ、勝手に宜しくされた。



「ちょ、勝手にっ……」



「エティル、僕の夢に力を貸して欲しいんだ」





 少年は変わらず笑っていたが、その目は真剣だった。





「共存の世界を成す為に、君の力が必要だ」



「だから、一緒に来て欲しい」



 そう言って手を差し出してきた。







 馬鹿げた夢だ、共存の世界なんて出来るわけが無い。


 それなのに、信じてみたくなった。


 この少年の夢の果てを、見てみたくなった。


 そう思い、自然とその手を取っていた。






「鬼ごっこのリベンジは、いつでも受け付けるよ♪」



「…………いつか、絶対に勝つからねっ」


「……宜しく、ルーン」



 そう言って、エティルは笑みを浮かべた。



____________________________________________









 あぁ、そうか。



 思えば自分は勝負の後半、勝ちに行っていた。



 捕まえられるはずが無いと舐めきっていた相手に、いつの間にか真剣になっていた。



 笑みさえも浮かべて。




「そっか、あたしも、楽しかったんだね……」




 自然と、涙が零れてきた。目の前で慌てる少年に、数百年間凍っていた心が、溶かされるような感覚を抱く。



「ど、どうしたエティル!? 泣くほど恥ずかしかったのか!?」



「ねぇ、クロノ君?」



 的外れな事を言っている少年に、エティルは問う。






「君は、自分の夢を成す為に頑張れる?」

「どんな困難を目の当たりにしても、自分を信じられる?」



「あたしを、信じさせてくれる?」





 どこか不安げな表情で、エティルは言った。クロノは少し考えるが、答えは一つだ。




「うん、どこまでも頑張るよ」



「絶対に諦めたりしない、絶対に裏切ったりしない」



「だから、力を貸して欲しい」



 そう言って笑い、手を差し出してきた。


 エティルにはその姿が、ルーンと重なって見えた。






「あはっ……あははははは、はははっ……!!」




「流石、セシルちゃんの見込んだ子、だね…………!」





 涙が面白いほど溢れてくる、止められなかった。






 戸惑うクロノの手を取る、小さな両手で、クロノの人差し指を包み込むように掴んだ。




「君はルーンとは違うって言ったけど、やっぱり似てる」



「ルーンと同じ道を、違ったやり方で進んでいく君を、見たくなっちゃったよぉ」



 涙を流しながら、それでもとびっきりの笑顔でエティルは言う。それと同時、クロノが光に包まれた。




 それは契約の光、エティルはクロノを認め、契約を結んだのだ。




「これから宜しくね、クロノ♪」




「あ、あぁ! 宜しくな!」




 数百年ぶりに、新しい風が吹き始めた。



次回でシルフ編は終わりです!

クロノ君の旅の最初の目標が決まります。

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