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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百七十七話 『粘液大河』

 ロベリアの屋敷を後にしたクロノ達は、森を抜け、草原のような場所で朝食を取っていた。項垂れるセシルの目の前には、トマトが色鮮やかに輝いている。



「何の真似だこれは……」



「トマトへの感謝の気持ちを伝える場です」



「助けてやったのにこの仕打ちか貴様っ!!」



「それはそれでこれはこれだっ! 食材を投げちゃいけませんっ!!」

「ちゃんと食べないと、昼飯はトマトオンリーサンドイッチだ」



「ぐ……もう一生助けてやるものか……!」



 モソモソと食べ始めるセシル、小さな声で「あ、うま……」と呟いたのをクロノは聞き逃さなかった。



「クロノの料理は美味しいねぇ」



「俺がローに唯一勝った分野だしな」

「一時期は拘りまくって凄かったんだぞ」

「ちゃんとした器具さえあれば、もっと凄いんだからな」



「人間何か一つくらい、取り柄ってあるもんだよな」



 クロノの作った料理を、精霊たちも美味しそうに食べてくれている。やはり美味しいと言ってくれると、とても嬉しい気持ちになる。



「……あーん」



「へ?」



 ティアラが、クロノにパンを差し出してきた。いつも食わせろと催促してくる彼女が、口を開けろと無言で語っていた。



「あの、ティアラ?」



「…………」



 何故か思い切り睨まれ、クロノはオズオズと口を開ける。そこにパンが放り込まれた。



「あはは、餌やりみたいだね」



「…………うっさい…………」



「急にどうしたんだ?」



「……うっさい、死ね」



「なんでだよ……」



 最近、ティアラが変に理不尽な気がする。妙な空気になりかけた為、クロノは話題を変える事にした。



「なぁ、ロベリアさんって混血種なんだよな?」

「混血種故に、身体が弱いとかなんとか言ってたけど……そういうものなのか?」




「貴様の知る混血種は、私やあの鬼のような完璧な混血種だけだったな」

「混血は非常に危うい存在、人と魔の混血は、殆どの場合は魔の血が勝つ」

「人と交わった魔の子孫は、99%魔物の血のみを継いで生まれる」

「私のような、両方の血を継ぎ、肉体の影響が無い固体は伝説扱いだ」




「そんでねー? 魔物同士でも混血はとっても珍しくってー」

「魔物の血ってすっごい主張するから、混ざりにくいんだよねぇ」



「どちらかの種の特性が、大きく残るのが殆どだよ」

「両方の血が半々で継がれた場合、多くの場合子供の身体は異常をきたす」



「大抵……子供の内、に…………死ぬ……」

「……拒絶、反応…………起きる……」



「上手い事両者の血が混じり合い、どちらの力も完全に受け継いだ混血種は……文字通り超貴重って訳よ」

「つまりそこのひよっこは、一生かけてもお目にかかれるかどうかのレアキャラだ」

「そのせいで、よくカムイに弄くり回されてたよな」




「あの変態は、吸血鬼の夜型な部分と……淫魔族サキュバスの性欲が混ざっているのだろう」

「夜に覚醒する変態の出来上がりだ、最悪の組み合わせだな」

「混血種故の体の弱さも、その性欲に組み込まれた最低の進化体だ」

「あの変態の両親も、頭を抱えているだろうさ」



 いつも以上に、セシルがボロクソに言ってる気がする。何故か、ウンザリしたような顔だ。



「……セシルって淫魔族サキュバス嫌いなの?」



「貴様は好きなのか? 変体が」



「酷い返しだなぁ……」

「なんか、露骨に嫌ってる雰囲気だったからさ」



「ルーンの仲間にねぇ? テイルちゃんって淫魔族サキュバスの女の子がいたんだよぉ」

「その子が大の女の子好きでね、セシルちゃんは毎日狙われてたわけ」



「実はセシルって、昔幽霊平気だったんだよ」

「駄目になった理由は、テイルが毎晩セシルに怖い話してたから」



「……怖がら、せて…………夜、一緒に……寝ようと……してた……」

「トラウマ……二つも……作った……害悪……」



「セシルが変態嫌いになったのは、100%あいつのせいだな」

「テイルはルーンのパーティーメンバーで唯一、ルーンをどうでもいいと言い放った奴だからな」

「あいつの武器がそれを望まなきゃ、多分仲間にもなってなかったろう」



「? 武器が望む……?」



「あぁ、それは……」



 フェルドの言葉を遮って、セシルの尻尾がクロノの真ん前に叩き込まれた。



「人が黙っていれば、昔話をペラペラペラペラ……」

「テイルの話はやめてもらおうか……?」



「あはは~♪ もしかして耳の後ろ辺りがムズムズしちゃった~?」

「本当にそういう繊細な所変わってな……ひにゃああああああっ」



 エティルが燃やされ始めたので、昔話はこの辺で一旦終わりにしよう。



「やれやれ、エティルの空気を読まない所も変わらないね」



「……ま、我等が契約者にルーン関係の昔話をするのは……まだ早いって事かね」



「エティルと出会ってすぐ、ルーンの事聞いてみたけど殆ど教えてくれなかったんだよな」

「なんか理由でもあるのか?」



「…………秘密…………」



「ルーン関係の話は、まだガッツリ話すわけにはいかねぇ」

「俺達はお前を認め、信じてるが……まだ足りないわけだ」

「もう一段階お前が踏み込んだ時、その時は思う存分聞かせてやるよ」



 その一段階が、一体どれほど遠いかは分からない。だが、まだ先があるんだ。この最高の時間の、先が。一緒に進んでいこう、どれだけ時間がかかっても、自分は楽しんで進んでいけると思う。後片付けを終え、クロノはその先を目指す為、出発する事にした。



「少しは正直で良いと思うよぉっ!? 本当は昔の仲間達の安否が気がかりなんでにゃあああああああっ!?」




「一万歩譲ってそれを認めてもっ! テイルの馬鹿だけはどうでもいいわっ!!」




「…………おーい、行くぞー……」



 本当に、賑やかになったものだ。





















「で? 次はどうする」



「こんがりエティルちゃんー……」



「んーっと……」



 頭に焦げたエティルを乗せながら、クロノは世界地図と睨めっこする。ちなみに、この地図はフローから貰った特別な地図だ。濡らしても破っても自動再生する、原理不明の凄い地図である。



「やっぱ当初の予定通り、粘液大河ネバーリバーで水を貰うのが近いかな」

「土の素材は集まったからいいけどさ、浄化の聖水の材料は難しいよ……」

「煌きの粉の情報が無い以上……先に水を取りに行こう」



 粘液大河ネバーリバーとは、その名の通り粘液が流れている大河である。昔、住処を追われた水体種スライム達が、その肉体を河と一体化させ、水の汚染を防ぐと同時に生まれた大河だ。水体種スライム達に守られた水は、不純物の一切ない綺麗な水と聞く。世界で最も多くの水体種スライムが住む、水体種スライムの楽園だ。



「それと同時、他の種を寄せ付けぬ危険地帯でもあるな」

「水を汚される可能性を、奴等は許さない」

「人間は勿論、魔物ですら近寄らせないからな」




「確か、大昔の戦争の影響で水体種スライムは多くの住処を失ったんだっけ」




水体種スライムだけじゃねぇけどな」

「コリエンテは発展国……兵器も多く造られた」

「人間は昔から……魔物だけじゃなく人間同士でもぶつかってたろ」

「戦火は森を焼き、水を血で染めた…………嘆かわしいこった」




粘液大河ネバーリバーの近くには、盤世界ファンタジア24ヶ国の一つ……ゲルト・ルフがある」

「昔から武力で存在を主張してた、兵器の国だ」

「国単位の戦力で考えても、デフェールの大国ともやり合えるだろうね」

「ゲルト・ルフの兵器は、コリエンテで最も多くの自然を壊したって言われてるよ」




「…………ウンディーネも、迷惑……した」

「酷い……戦争……だった……」




「ゲルト・ルフの名前は、俺もよく聞いたよ」

「大きな国は、腕利きの勇者を専属で雇うらしいけどさ」

「今のゲルト・ルフには、無茶苦茶な強さの女勇者がいるらしいぞ」

「『剣聖』とか呼ばれてて、昔は憧れてたなぁ」




「ねぇねぇ、ゲルト・ルフって魔物必滅派の国でしょ?」

「大会に、何の口出しもしないと思う?」




 頭の上からエティルが聞いてきたが、国同士の話し合いには流石に関与する事は出来ない。情けないが、その辺の問題はフローに丸投げするしかない。



「そっちがフロー頼りなだけに……参加者探しを頑張らなきゃな」

「急いで森を救って、もっと沢山の魔物に話を持ち掛けないと……」



「それはいいが、まずはどうやって水を得るかだ」

「あの河は、本当にやばいぞ」



「……最近、会話が成立してくれないんだよなぁ……」



 多少の不安を抱えながら、クロノ達は粘液大河ネバーリバーを目指して進んでいく。次のステージは、水体種スライム達との戦いだ。






























 一方その頃、アノールド大陸・空蝉の森では、多くのエルフ達が花粉処理に当たっていた。



「あぁもうっ! なんなんですのこれっ!」



「本当……急にどうしたのかしら……」

「蔓が足りないわね……」



「いやっ! 同意求められても困りますわっ!? 私の足は蔓じゃありませんわよ!?」



 ルルーナと共に倒れた者を救出しているのは、ネーレウスだ。一本の触手で口元を押さえながら、魔素にやられた妖精種フェアリーやエルフを運んでいた。



「もうっ! クロノ様の頼みじゃなきゃ、こんなデンジャラスゾーンに来たりしませんのにっ!」

「ちょっとエルフのお爺様っ!! 浄化活動はどうなってますのっ!!?」




「ふぅむ……見ての通り絶望的じゃのぉ」




「髭弄っとる場合かあああああっ!!」



 ワタワタと急がしそうに動くネーレウスとは打って変わり、タンネは髭を弄りながら森の中心部を眺めていた。森の中心部からは、今までより遥かに濃い花粉が噴出していた。




「族長っ! 魔素の処理が追いつきませんっ!」

「同胞達も、高濃度の魔素で酔ってしまう始末……!」




「…………どうやら、何かあったようじゃな」

「ルルーナさんや、ワシ等に出来るのは時間稼ぎが精一杯じゃ」

「この花粉を生み出しとる子を何とかしなければ、この森は持たんぞ」




「……分かっています……」

「けど……それでも……」




「……仲間は、捨て置けんか……」

「全同胞に伝えよ、この森の延命に勤めよ、とな」




「……っ! 承知っ!」




 タンネの言葉を聞き、一人のエルフが早足でその場を後にした。状況は絶望的だが、仲間を救いたい気持ちは、種の長としてよく分かる。



(…………持って、10日ほどじゃな)

(クロノ殿、急いでくだされ……)

(彼女達に、笑顔を取り戻してくだされ……)

(太陽のようだった…………彼のように……!)



 クロノが来るまで、絶対に終わらせない。どんなに絶望的でも、耐え切ってみせる。種の長として、全力で時間を稼いでみせる。必ず間に合うと、信じているから。森の中、花粉の中で……小さな花精種アルラウネは泣いていた。一人が寂しいから、自分の周りが死の世界に変わっていくのが、恐ろしいから。



 恐怖の感情は、彼女の防衛本能を刺激する。花粉はさらに強力になり、森を包み込んでいく。時間は刻一刻と迫り、絶望が広がりつつあった。森が死ぬまで、もうあまり時間が無い。それでも、この場に諦めている者は一人も居なかった。必ず助けると言ってくれた少年を、信じているから。



 その信頼に応える為、少年は前へと進むのだ。



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