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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百七十四話 『オークの誇り』

 目的地はコリエンテ、そう登録した。船を停める場所を正確に入力しなかった場合、どうやらメガストロークは最短距離で最も早く停泊できる場所に向かうらしい。コリエンテの南側に停泊とは名ばかりの突撃をかました船から、クロノがフラフラと顔を出した。



「ふは、ははは……」

「ダメージ…………っ! なしっ!!」



「移動中、必死に堪えてた姿は笑えたぞ」



「正直疲れた……」



 セシルのアドバイスのおかげで、船の中で跳ね回ることはなくなった。肉体的なダメージは0になったが、精神的にはくたくただ。



「うああ……寝たい……」



「ここどの辺かなぁ?」



「南の方だね、丁度オーク達の住んでる場所に近いよ」



「…………もう、日…………暮れる…………」



「野営でもして、明日向かうか?」

「我等が契約者はヘロヘロだ」



 体力的にも、それが良いだろう。クロノは精霊達の意見に賛成しようとしたが、不意に背後から何かが迫ってきた





「どけどけどけどけぇ! そこ退くブーッ!!」




「へ? ってどわあああああああああっ!!」





 豚のような耳と鼻を持つ、人型の魔物の群れが、クロノの身体を空高く吹き飛ばした。咄嗟に疾風を纏い、なんとか着地したクロノだったが、頭の中は混乱中だ。



「何!? 何事!?」




「隊長! 畑は無事ですブ!」


「ぶふぃ~……焦ったブ……畑を荒らされたかと思ったブ」




「あれ、蚊帳の外?」




「な~にが蚊帳の外? だブッ!!」

「オイラ達の畑に土足で近寄るなんて、ふてぇ野郎だブっ!」

「人間! どうやら肥料になりてぇみたいだブゥ……」



 そこまで聞いて、クロノはようやくメガストロークが看板らしきものをへし折っていた事に気がついた。折れた看板には無駄に可愛い字で、『オークの野菜畑』と書いていた。



「あ…………」




「どうやら自分の罪の重さに気がついたみたいブ」

「この辺りはオイラ達の畑ブ、普通空気読んで人間は寄り付かないのがルールだブ」

「種族間の暗黙のルールを破った馬鹿野郎には、きっつい罰を与えるブ……」




「えぇ~! 畑は無傷なんだしいいじゃん! 許してよぉ!」




「どの口が言うブ! ちっこい癖に態度でかすぎブ!」

「オイラ達がどんだけ苦労して、どれだけ時間かけて……この辺を耕したか……!」

「その努力の結晶を! 何が悲しくて一瞬で吹き飛ばされなきゃならんブッ!」

「大体お前等は、この畑から生み出される奇跡の財産の価値を……!」




「スゲェ……この野菜……輝いてる」




「ブ?」




「こんな生き生きとした野菜……見たことない……」

「なんだよこれ……これがオークの農業なのか……!」



 畑の野菜を見て、クロノは目を輝かせていた。それなりに料理をするクロノには分かる、この野菜は、普段自分達が食べている野菜とは比べ物にならない。見ただけで、これを育てるまでの苦労が容易に想像できた。



「お前……分かるのかブ」



「土だけじゃない……相当な手間隙をかけて育ててるんだ」

「これなんて、生でもいけるくらい新鮮じゃないか!」



「クロノ、何か興奮してない?」



「割と料理に拘ってるよね、クロノって」



 料理は、クロノがローより優れている数少ない分野だ。ローより上、その事実が少年をやる気にさせた。今では小さなことにも拘るほど、料理が大好きになっていた。勿論、セシルや精霊達からも好評だ。




「凄い……この野菜は普通に出回ってる野菜とは比べられない……」

「プレミアムだ……ここまで変わるのか……」




「ブフフフ……どうやら中々の目を持っている小僧らしいブ……」

「どいつもこいつも、他の種族は口を揃えて……たかが野菜だのなんだの……」

「拘り、極めれば……ここまでの違いが出るものブ!」

「他の獣人種ビーストと違い、オイラ達は戦闘力に劣るブ」

「だが我等オーク族っ! 農業だけは譲れぬ誇りがあるブ!」




「おぉ……」




「食ってみるかブ」



 そう言って、オークの男はクロノにトマトを差し出した。クロノは無言で、そのトマトに噛り付く。一口食べた瞬間、クロノはオークの男と握手を交わしていた。



「言葉は要らない」



「ふんっ! 中々分かってるブ」



「おいこら、誰か突っ込めよ」



「馬鹿タレが……」



 仲間達が呆れる中、クロノだけは過去最高の笑顔を浮かべていた。もう、美味いってレベルじゃない。




「小僧の目利きに免じて、この船の件は勘弁してやるブ」




「ありがとう、オークさん」




「ブヒブヒ……で、お前は一体何者ブ」

「この辺は他の種族が寄り付かないブ、そんな場所をせっせと耕してたブ」

「何故海からミサイルのように突っ込んできたブ、しかもこんな遅くに」




「えっと、オークさん達にお願いがあってきたんだ」

「俺はクロノ、人と魔物が共存できる世界を目指して旅をしてるんだ」

「今、とある森がピンチで……何とか助けたいって思ってる」

「その為に、この土を『静寂の土』ってアイテムにしないといけないんだ」




「ブ? クンクン…………ほぉ……良い土ブ」




「この土に、強力な魔力を含んだ液体を混ぜなきゃ駄目なんだ」

「オークさんなら、何か分からないかなって……」




「ふむ、そういう事ならオイラ達の得意分野ブ」

「へい野郎共!」



 オークの男が、畑を整備していた仲間達を収集する。オーク達は土の匂いを嗅ぎ、何やら意見を交し合う。



「この土に効率的に混ざり、力を宿す液体を考えればいいブ?」



「俺も詳しくは分からないけど、そう言ってました」



 ミルナイから聞いた話を、クロノはオーク達に伝えていく。



「この柔らかさ……質の高さ…………ブムムム」

「魔力を含んだ……液体…………ブピキーンッ!」




「何かありますか!?」




「吸血鬼……吸血鬼の血だブ!」

「間違いないブ、完璧に馴染むブ!」




「吸血鬼……!?」




「奴等の血は、他の種族すら同族に変えちまうほどの魔素を宿してるブ」

「条件的に、間違いないと思うブ」



 親指を立てて、オークの男は土の入った袋を返してきた。次の目処は立ったが、問題は吸血鬼がどこに居るのかだ。



「うーん……」



「ここから北西に行けば、古い屋敷があるブ」

「確か、そこに吸血鬼の子が住んでたブ」



「! 本当ですか!?」



「まぁ、人間に血をくれるかは微妙だけどブ」



「けど、助かります!」

「えと、何てお礼を……」




「こっちは久々にオイラ達の野菜を褒めてもらえて機嫌が良いブ、気にするなブ」




 ここまで情報を貰えたのに、ありがとうの一言じゃこちらの気が済まない。こっちは畑を荒らしてしまう寸前までいったのだ、何か出来る事はないかと、クロノは荷物を漁りだす。



「あ、……その、これを……」



「だから何もいらな………………ブッヒャーーーッ!?」



 クロノが差し出したのは、土人種ドワーフの酒だ。




「俺、飲めないし……」




「そ、そそそ、それは…………土人種ドワーフの酒っ!?」

「この匂い……間違いないブ……!」

「いやいやいやいや、いきなり現れたおかしな人間が、そんな酒をくれるとか話が上手すぎるブ!」

「何を企んでるブ! 狙いは何だブ!」




「その、親切にしてくれたお礼です」




「!?」




 笑顔で酒を差し出したクロノに、オークの男は雷に打たれた様な衝撃を受けた。



「隊長……」

「ブゥ……」



「長い間……オイラ達は土地を求めて彷徨ったブ」

「他の魔物には、たかが野菜と笑われ……」

「人間にも……受け入れられず……」

「それでも…………農業を極めようと……!」




「何か……始、まった……」




「今! 確信したブ!」

「オイラ達のしてきた事は…………無駄じゃなかったブゥ……!」

「小僧……いや、クロノ!」

「この酒! 友情の証として受け取るブ!!」




「はいっ!」




 オークの男と熱い握手を交わすクロノ、相変わらず精霊達は呆れた様子だ。



「それと、もう一つ頼んでもいいですか?」




「なんだ兄弟! 何でも言えブ!」




「俺は今、『天焔闘技大会』に参加してくれる魔物を探してるんです」

「ラベネ・ラグナの姫様……フローラル・エクショナー様……」

「彼女と共に、『人魔混合』の大会を成功させようと……世界を巡っています」

「俺は、この大会が……共存の一歩になると信じてる」

「オークは戦闘に秀でた種族じゃない、それは分かってます」

「だからこそ、違う形で協力して欲しいんです」




「ブ? 違う形?」




「大会当日、多くの魔物や人間が集まるでしょう」

「互いの壁を越え、多くの理解が広がり、深まると信じてます」

「この機会に、オークの作った野菜を広めるんです!」




(それが目的か…………)




「出店でもなんでもいい、オークの野菜の素晴らしさを他の種族へ広めるんです!」

「俺もフローに頼んでみます! そうすれば! もっと堂々と野菜を作れる!」

「そういった方向からも! 俺は共存の輪を広げたい!」

「この野菜を、俺はもっと堂々と食べたい!」




 クロノの目が、本気だと語っていた。それを見たオーク達は、言葉は不要と察した。




「面白いブ……全種族に宣戦布告するブ」

「オイラ達の野菜で、共存の旗揚げをするブッ!!」




「よっしゃぁっ! フローに連絡を入れます!」




「ブヒャヒャッ! 超絶天才のお姫様の名は! 魔物にも届いてるブ!」

「そんな姫様の旗の下! 大手を振って野菜を売り込めるたぁ嬉しいブ!」




 意気揚々と通信機を使うクロノ。そんな少年を眺め、セシルは静かに笑っていた。どんな種族にも、全力で向き合う馬鹿タレを見て、胸が躍るのを抑えられないのだ。当然のように魔物と仲良くなる姿が、眩しくて堪らない。



 オーク達から情報を貰ったクロノ達は、ここより北西の屋敷を目指す。真夜中に吸血鬼を訪ねるなど、通常考えられない選択だろう。だが、クロノにとっては関係ないのだ。向き合う為なら、相手の領域にだって土足で踏み込もう。第二ステージは、もうすぐそこだ。



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