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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百七十三話 『追い続けて、今……』

「それじゃ、俺は行くよ」



「仲間にも、声、かけてみる」

「また、会おうな……!」



「ひゃっはー! 作るぞー!」

「楽しみー!」

「ひゃっはー!」



 大量のハイテンション土人種ドワーフに張り付かれながら、巨人種ギガンテスが手を振っていた。クロノも笑顔で手を振り返し、彼等の住処を後にする。小さくなる人間の姿を眺め、魔物達は顔を見合わせた。



「変な人間だったな」

「人間って変な奴だな」

「硬かったし」

「みんな、ああなのかな?」

「きっと、あの子だけだよ」

「変な夢、変な奴!」




「オデも、人間と、初めてしゃべった」

「よくわかんねぇけど、あの子は良い子だ」




「聞こえないー!」

「登れば聞こえる!」

「よじ登れ!」

「うひゃぁ、たかーい!」




「人間は、山をだめにする……そう聞いてた」

「土地をめぐって、ご先祖様は戦ってたんだと」

「けどオデ、あの子はすきだ」

「気持ちのいい、笑顔だった」




「分かる!」

「裏表のない感じ!」

「僕等みたいな!」

「単純!」

「馬鹿!」

「誰が馬鹿だっ!!」




 耳元で騒ぎ出す土人種ドワーフに、巨人種ギガンテスは少し困った表情になる。会話すら出来なかった関係を変えてくれたのは、間違いなくあの少年だ。ほんの小さなきっかけだった、些細な助力に違いない。それでも、真面目に、真剣に関わってくれたんだ。



「種族はちがうけど、あの子は真剣だった」

「力に、なりてぇって……そう思うんだ」



「チャンスもくれた!」

「作るぞ!」

「楽しみ!」

「腕がなるぜ……ふはははっ!」




(目付き……変わってるぞ……)




 始まりは些細な事だった、それでも、波紋は次第に大きくなっていく。少年の残した波紋は、静かに、ゆっくりと……。




























 整備された歩道も終わり、クロノ達は再び砂漠地帯を進行中だ。太陽は真上、気温は最大だ。



「砂漠……暑い……」

土人種ドワーフ……怖い……」

「……あと、ついでに……フローも怖い……」



 砂漠の熱気に苦しみながらも、クロノはさっきまでの会話を思い出していた。画面越しに盛り上がっていた生粋の開発馬鹿達に、全くついていけなかったのだ。



「全く、だらしないなぁ……この程度の気温で……」

「ねぇ? ティアラ?」



「……うー……あー……?」



「駄目だこりゃ、陸に上がった魚みてぇだ」



「けどけど! フローちゃんは土人種ドワーフちゃん達と仲良くなってたねぇ!」

「大会の協力者を増やしつつ! 森の為に奮闘!」

「エティルちゃんは契約者の頑張りを評価します!」



「やっぱ……砂漠やべぇわ……」

「母さん……俺も……そっちに……」



「あ、これガチで駄目な感じだぁ!?」



「目が虚ろだぞ、熱さに弱すぎだろ」

「おいおい勘弁してくれよ、気温に弱いのはひよっこだけで十分だぞ!?」




「誰の事だ、ん?」




 セシルの表情が険しくなるが、今のクロノにはそんな事どうでもいい。やはり熱気最大の砂漠はやばい、身体が溶けてきている。



「いや、汗だよ」

「何を馬鹿言ってるんだい? 君はいつからアイスになったんだい」



「むしろ砂になりそうです……」



「…………クロノ、クロノ」



 視界が霞んできたクロノの袖を、ティアラがクイクイ引っ張ってきた。



「……?」



「水、球……作れ」



「水の力最高だぜっ!! その手があったっ!」



「その元気どっから沸いた?」



 フェルドの突っ込みなど、今は耳に入らない。クロノは左手を天に翳し、手の平に水の球体を作り出した。自らの限界を超え、欲望のままに大きさを求めた球体は、当然の如く炸裂してしまう。周囲を水浸しにしたクロノは、満足げな表情で固まっていた。




「今だけは……失敗しても潤うな……!」




「とりあえず殴るわ」

「右に同じかな」

「エティルちゃんスケスケー……」




 馬鹿な契約者に、真っ当な裁きが下った。






















 精霊達との親睦も深まり、クロノは満足げに歩を進めていた。多少ダメージは負ったが、概ね問題はない。



「いやいや、水の精霊法最高だね」

「魔法って素晴らしいわ、オアシス常備って感じだな!」



「水出して飲むとか非効率な事してねぇで、体内の温度調節くらいしてくれよ」

「今のお前は、砂漠の蛇とかサソリ以下だぜ」



「馬鹿タレのお遊びに付き合うのもいいが、これからどうするか決めているのだろうな?」



「そんな人外の業、しがない精霊使いに求められてもなぁ……」

「ほら見ろよ、また球体が崩れたぜ!」



「暑さで頭壊れたか……」

「妙なテンションになってんぞ? マジでどうしたし……」



「おいこら、何無視している」



「はははははっ! 幸先良いよな! 土も手に入ったし!」

「うんうん! 順調順調っ!」



「クロノ? どうしたんだい?」

「エティルより酷い事になってるよ?」



「またナチュラルにアルディ君が毒をっ!」



「おい、馬鹿タレ!」

「次! どこに行くのだ!」



「こんな良い天気は……難しい事忘れて海にでも行きたいな……」



「…………心配、しなくても……海、いける……」

「次…………効率的に、行くなら…………コリエンテ……」

「…………船で、海…………渡る」




「翼が欲しいなー……全人類の夢…………翼が欲しいー……」




 目のハイライトが消え失せ、クロノは全力で目を逸らす。顔をホールドされ、ティアラが強引に正面を向かせてきた。



「………………海、渡る…………」

「………………船…………出して…………」





「分かってるよっ!!! 出すよ! 乗るよ! 乗りますよ! 乗りますとも!!」

「メガストロークの中は冷房利いてるしっ!? 快適だもんなっ! 何も不満とかねぇですよはい!」

「ちょっと三途の川見えるだけだからなっ! 大丈夫安心しろっ! 母さんが呼んでても渡らないからさぁっ!」

 




 ヤケクソで走り出したクロノを見て、精霊達は顔を見合わせた。そして黙って頷くと、ほぼ同時に姿を消した。契約者の心の中へ、緊急避難だ。



(ファイト♪)

(コツは、動かない事だよ)

(…………南無…………)

(クロノ見てると、退屈しねぇなぁ)




「お前等後で覚えてろ…………!」

「セシルッ!! 早く行くぞっ! 目的地はコリエンテだっ!」




「おい、馬鹿タレ」




「なんだよ…………っ!?」



 振り返った瞬間、セシルがヴァンダルギオンを投げてきた。クロノは咄嗟に、その大剣を受け止めてしまう。




「重……………………っ!!」




 やはり、この剣は尋常じゃないほど重い。むしろ、突然投げ渡されて受け止められた事が奇跡だ。クロノは必死に、自分の出来る大地の自然体を駆使し、大剣を支えていた。



「今の貴様のイメージは、まだまだ弱く小さい」

「だが、地に根を貼るイメージは出来ているだろう」




「な、に……言って……」




「貴様、巨山嶽きょざんがくで振動を操ったな?」

「あの力は、空気中に振動を張り巡らせるイメージを持たせたはずだ」

「イメージは個人で変わる、空間にヒビを入れたり、力を巡らせたり、宙を掴む様だったりな」




「……?」




 何を言いたいのかいまいち理解できないクロノ。そんな少年の胸に、セシルは手を添えてきた。その手に軽く押されたが、クロノの体はビクともしない。



「固いな、まだまだぎこちない」

「まぁ、貴様は動きながら大地の力を吸い上げられないから……当然か」




「はぁ……?」




「だがな、基礎は揃っているのだ」

「後はイメージの足し算……それだけだ」

「地に根を貼るイメージ、振動を空間に伝えるイメージ……それらを組み合わせろ」

「空間に振動と言う名の根を張り、それで己の体を支えるんだ」

「慣れれば、船如きに振り回される醜態は晒さんで済むだろう」



 それだけ言うと、セシルはクロノが両手で必死に支えていた大剣を、片手で持ち上げる。そして、素っ気無く先に歩いて行ってしまった。



「…………アドバイス?」




「勘違いするな、毎回毎回受け止めるのが面倒なだけだ」

「それと、あの姫の贈り物だろう?」

「いい加減、ちゃんと乗れるようになれ」

「コリエンテまでの数時間、精々踏ん張れ」



 また修行の種類が増えた、それだけだ。それだけだが、何故だろう。セシルの素っ気無いアドバイスが、とても嬉しかった。



「……ははっ!」

「セシル! 俺頑張る!」




「頑張る? 何を当然の事を今更言ってる?」

「頑張るのは当然、その先を目指すのも当然」

「貴様はもっともっと、先を見据えろ」

「そうでなくては、ルーンの先など到底無理だ」

「少なくても、船如きで死にかけてるようでは……大会成功も成し得ないぞ」




「うぅ……」




「忘れるな、貴様は大会を成功させ……私と戦うんだろう?」

「今のままでは、詰まらんのだ」

「私を沸かせろ、楽しませろ」

「もっと、魅せてくれ」



 そう言って笑ったセシルが、とても綺麗で、目を奪われた。期待されている。そう思う度、心が躍る。進む速度が速まり、足が自然と軽くなるんだ。クロノはセシルを追い越し、メガストロークを停めてある場所に急いだ。



「やってやるさ……! 見てろよ!」




「…………見ているさ、言われなくてもな」




(……やっぱり、セシルちゃんはセシルちゃんだねぇ)


(我等が契約者は、随分と期待されているようだね)


(…………立場、逆転…………不思議な、感じ……)


(……………………なんて目してやがんだ、たくっ……)

(……ほんと、泣けてくるな)



 一連の会話が、どうしても過去を思い出させる。精霊達が嘗て弄り回し、からかい続けていた小さな少女は、今の契約者を確かに導いていた。



『ルーン! 待て! 待てよ! 待って! 待ってよぉ!!』



『セシルは、本当に頑張るね?』



『はぁ……はぁ……クソォ……涼しい顔して……!』



『あはははっ! ルーンとまともに張り合っても勝てないよぉ?』



『我等が契約者は、紛れもなく化け物だからね』



『人を化け物って……酷いなぁ』



『……ッ! 知るかっ! 絶対に追いつく、必ず、絶対!』



『……無謀……多分、一生…………無理』



『追いつくんだっ!』

『連れ出したのは……お前だっ!』

『お前には、私を導く責任があるっ!』

『私が追いつくまでっ! ちゃんと待ってろっ!!』

『絶対に追い越してやる……っ! それまで、ちゃんと前にいろっ!!』



『よく吠えるなぁちびっ子』

『だそうだが、どうなんだルーン?』



『ん? んー……』

『セシルが僕に追いつくのと、僕が夢を叶えるの……どっちが早いか競争かな?』



『……っ!! や、やってやるっ! ちゃんと見てろよ!?』

『私はっ! 逃げも隠れもしなからなっ! 約束だからなっ!』



『うん、約束』

『ちゃんと見てるよ、ずっとね』




『…………っ! うんっ!!』




 ちょこちょこと後ろをついて回っていた、小さな少女。全てに絶望し、暗黒の焔に飲まれそうになっていた、余りにも小さな存在。少女は憧れ、ずっと追い続けていた。その姿を、精霊達はずっと見てきていた。ルーンの仲間の中で最も弱く、最初は剣すらロクに扱えなかった少女は、五百年の時を越え……見違えた。何があったのか、それは分からない。セシルが何を知っているのか、セシルに何があったのか、精霊達は何も分からない。だが、彼女の根っこは変わっていない、それは間違いないのだ。



 五百年前、自分達の契約者を追い続けていた少女は、今の契約者を静かに導いていた。立場の違いが、むず痒い思いを精霊達に与えていた。だが、それと同時に嬉しくも思う。何故だとか、どうしてだとか、そんな細かい事はどうでもいいのだ。今は、少女の成長が……ただ嬉しいのだ。




 単純にそう思わせてくれるほど、時折見せるセシルの笑顔は…………昔のままだったのだ。



(…………ま、いつまでもだんまりってのは…………許せねぇけどな)

(…………さて、どうしたもんかねぇ)

(…………いいタイミングでも、探してみるか)



 フェルドは静かに、そう心に決めた。何があったのかはどうでもいい、何を託されているのか、それが問題だ。そろそろ、腹を割って話す頃合だろう。そうこうしている内に、メガストロークが見えてきた。



「さて! 目指すはコリエンテだ!」

「この土に何を混ぜたらいいのか、コリエンテでオークに聞かなきゃならない」

「それと同時に、コリエンテの粘液大河ネバーリバーを目指す!」

「綺麗な水を、入手するぞっ!」



「おー♪」


「さて、どうなるかな」


「…………ん」


「はっ、まずは船で怪我しねぇとこからだな!」

(……ま、とりあえず保留だな)



 契約者に悟られぬよう、フェルドは思考を胸の奥にしまいこんだ。そんなフェルドに気がつきもせず、クロノはメガストロークに乗り込んでいく。セシルもそれに続き、目的地をコリエンテに指定する。



「出航……と同時に修行開始だっ!」



「忙しい奴だ」



 音を置き去りにして、メガストロークが砂漠を突き抜けた。到着する頃には、日も暮れているだろう。だが、火の付いたやる気は止まらない。クロノは第二ステージを目指し、先へ進むのだった。



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