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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百七十一話 『大中小のすれ違い』

 新たな種族との出会い、緊張しないわけが無い。本では何千回と見たが、実際に会うのは初めてだ。だが、ここまでの旅の経験上、大体の対処法は掴めてきている。



(初手はとりあえず、身を守れっ!)



(格好つけて何言ってんだこの契約者……)



 呆れるフェルドだが、山に開いた穴から影が一つ飛び出した。空高く飛び上がった小さな影は、手にした金槌をクロノ目掛け振り下ろしてきた。



「ほら見ろっ! 大体最初は襲われるんだ!」

「俺は人間! 警戒されるに決まってんだよ!」

「今回の俺は一味違うぜ! これを回避してスムーズな会話に繋げ…………」



 クロノの御託は、いつの間にか足元に忍び寄っていた土人種ドワーフの一撃で途切れてしまう。向こう脛に思い切り金槌が叩き込まれ、クロノは声にならない叫び声をあげた。




「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」




(これは痛い…………)



(……折れ、た?)



(セーフ! アルディ君のファインプレー♪)



(おぉ、金剛張ったか)



 だが、人体が発してはいけない音がなったのは事実だ。クロノはあまりの痛みによろけてしまうが、そんな少年の脳天に容赦なく金槌が叩き落される。ちなみに、セシルはいつの間にか空中に避難していた。



「……ちょっ……ストッ……」



「人!」

「人間!」

「人間だっ!」



「あ、いや……待っ……」



「帰れ!」

「追い払え!」

「殴れ!」

「殴り帰せ!」



「やっべぇ! 超凶暴だこいつらっ!」



 図鑑にはここまでの危険性は書いてなかった、エルフじゃないが、やはり実際に体験してみないと分からないものである。とりあえず、昔愛読していた図鑑の作者には、色々と文句を言いたい。



「殴れ!」

「殴れ!」




「うわぁっ!? いっぱい出てきたっ!」




 山に開いた無数の穴から、多数の土人種ドワーフが溢れ出てきた。各々が小さな金槌やら、熱された鉱石やらを手に、我先にと襲い掛かってくる。見た目ちっこくてファンシーなくせに、割と洒落にならない数の暴力である。堪らず踵を返すクロノだが、少年の顔を、投げつけられた金槌が掠めた。




「あっぶねぇっ!?」




「今だ!」

「かかれっ!」

「飛びつけ!」

「殴れ!」

「殴れ!!」

「殴れっ!!!」




「あだだだだだっ!」



 動きを止めたクロノに、複数の土人種ドワーフが飛びついてくる。ガンガンと金槌が叩きつけられ、このままではさらに馬鹿になってしまう。



「今なんか見知らぬ悪意が横切った気がっ!!」



(割と余裕あるね)




「あるかぁっ!」




「こいつ固い!」

「硬い?」

「かたーい!」

「硬いは石!」

「石は大地の恵み!」

「即ち! 自然の力!」

「加工しろ!」

「殴って砕いて焼いて溶かして!」

「加工しろっ!」




「やばい、この子達頭弱い!」

「つか純粋に怖いわっ!!」




 加工という言葉を口にした瞬間、数体の土人種ドワーフの目つきが変わった。各々の得物を持ち直し、キラキラした視線を向けてくる。



(ちなみに、彼等は加工作業が大好きなんだ)

(三度の飯より発掘&加工……まぁエルフと未知の関係性みたいなものさ)



(なんでそういうこと早く言わないかなぁっ!?)



(実際に体験するのが、大事なんだろう?)



(お気遣いありがとうございますぅ! おかげで一大事になってるよっ!)



(しかしクロノ……共存云々言うのにあまり魔物に詳しくないねぇ)



(どうせ図鑑を読んで得た、狭く浅い知識しかねぇんだろうよ)



(セシル……辺りに……笑われて、そう)



 旅の最初辺りに、思い切り呆れられた記憶がある。



(これからは、最初に勉強会が必要だね)


(長い説明は勘弁して欲しいぜ……たく……)




(呑気に今後の行く末を案じてないで、とりあえず助けてくれよごふぁっ!?)




 クロノの脇腹が、若い土人種ドワーフに蹴り飛ばされた。ぶっ飛んだクロノに、大量の土人種ドワーフの打撃攻撃が降り注ぐ。ガンガンと硬い物がぶつかり合う音が、周囲に何度も響き渡った。



土人種ドワーフは大地の力の扱いが上手いからね、いくら金剛でも、かなり効くよ?)

(彼らは道具にも、大地の力を纏わせたり出来るからね)

(クロノ、君もそういう応用出来る様にだね……)




(今まさに未来の可能性が奪われそうだよっ!!)




 現在進行形で、袋叩き真っ最中である。




「ごふぁっ!? ……たっ!?」

「この……いい加減に……!」




「加工!」

「加工!!」

「何に?」

「………………何に?」

「とりあえず叩け!」

「叩け叩け!」

「とりゃー!」

「たりゃー!」

「うりゃー?」




「…………っ!」




 流石に、切れそうだ。




「おーい、随分無様だな?」




 上空から、セシルの声が聞こえてきた。相変わらず傍観が好きな奴だ。



「……私は、貴様が殴られる絵を見たいんじゃないんだが?」

「あまりがっかりさせるな、クロノ」



 こっちだって、そんな姿見せたくない。色々手段は考えてきたが、これじゃ会話も出来やしない。よし決めた、とりあえずぶっ飛ばそう。



(……ハッ……いいじゃねぇの)

(付き合うぜ、契約者)



 瞳が灼熱の線を描き、クロノは群がる土人種ドワーフを吹き飛ばした。感情がそのまま身体から噴出したように、クロノは熱を纏う。




「テメェら、いい加減にしろぉっ!!!」




 烈火を発動し、クロノは体を高速で回転させる。しがみ付いていた土人種ドワーフを纏めて吹き飛ばし、そのまま後方に飛び退いた。



「熱い!」

「暑い?」

「熱い!」

「勝手に熱された!」

「次は叩け!」

「叩いて加工し……」




「俺は鉱石じゃねぇからっ!」

「アルディ! 烈火に金剛を!」



(んじゃ、行くよフェルド)



(俺ベースな、よし行くぜぇっ!)




 体勢を低くし、クロノは出来る限りの大地の力を左手に集中する。炎の力で全ての能力をブーストさせ、思考より早く反射で答えを導き出す。クロノは左手を地面に突き刺し、渾身の力を噴射する。




活火山かっかざん裂火れっかっ!!」




 拳から発した膨大な力が、クロノを中心に地面に大きなヒビを入れた。土人種ドワーフ達はその衝撃で、空中に跳ね上がってしまう。その隙に、クロノは大地を駆け抜け、土人種ドワーフ達の道具を全て弾き飛ばした。



「はっや!?」

「早い!」

「速い?」

「道具が!」

「素材が逃げた!」

「逃がすな! 叩け!」

「あれ? 殴って帰すんじゃ?」

「いいから叩け!」



 身軽な動きで着地し、何体かの土人種ドワーフが素手で襲い掛かってきた。身長はクロノの腰辺りと、子供のような体型だが、その力は人間の大人を軽く凌駕している。大地の力を抜きにしても、身体能力の高さは相当な物だ。



 だが、こちらも今は人間の身体能力を軽く上回っている。炎の力で強化されたクロノは、土人種ドワーフの攻撃に尋常じゃない速度で反応し、弾き飛ばす。大地の力も纏っているのだ、例え複数相手でも、今のクロノに一撃入れるのは容易い事じゃない。



「この素材、強い!」



「その言葉に疑問感じないか?」



「素材が強いと! 良い物出来る!」



「ほぉ……じゃあ俺で何作る気だ?」



「………………………………」

「あれ?」




「あえて言おう、この馬鹿野郎っ!!」




 凄く手加減しながら、クロノは目の前の土人種ドワーフにアッパーカットを決めた。空を舞う同胞を眺め、他の土人種ドワーフ達も我に返ったようだ。




「そうだ! 殴るんだった!」




「その前に話を聞けよっ!」




「!?」

「!?」

「!?」




「あ、そうだった! みてぇな顔やめろっ!」




 土人種ドワーフに限った話ではないが、魔物とのコンタクトは体力勝負である。



「よし人間! 帰れ!」



「会話の意味分かる?」



「? 会話しに来たのか?」



「あぁ、まぁ急に訪ねてきたら驚くよな……ごめん」

「実は相談があって……」



「断る! 帰れ!」




「ごめん、もう少し歩み寄らせて……」




「帰れ!」

「帰れ!」

「帰れ!」

「かえめ!」

「噛んだ」

「噛んだね」

「帰れ!」

「か」

「え」

「れ!」




「……心が折れそうだ」



(もう少し頑張ってぇ……!)



 言葉は通じてる筈なのに、会話が成立してくれない。金槌でボコボコにされるわ、リレーで帰れコールされるわ、ジリジリと心が負けそうになっていた。



「あの、警戒するのも分かるしさ……」

「いきなりで失礼かもだけど……とりあえず話だけでも聞いて欲しいんだ……」



「そんな暇はない!」

「暇だけどね」

「暇だね」

「けど駄目だよね」

「駄目だね」



「うぐぐ…………」



「何故なら! 戦争が始まるのだ!」

「だ!」

「だー!」



「戦争?」



「そうさ! 山を見ろよ人間!」

「山が来るぞ!」

「ぞー?」

「ぞー!」



 どこか能天気な空気を発しながら、土人種ドワーフが自分達の山を指差した。一体何事かと、クロノが山を見上げると、その山の背後から何本かの指が見えた。



「………………………………指?」



「……ほぉ、巨人種ギガンテスか」



 隣に降りてきたセシルが、珍しそうに口にしていた。そうこうしている内に、山の向こう側から巨人種ギガンテスが現れ、こちらに向かってきている。



「……っ! でけぇっ!」



 20メートル近い巨体が、クロノと土人種ドワーフ達に接近した。見上げてもその表情は確認できない。巨人種ギガンテスの大きさは個体差があるが、目の前の固体はかなりでかい方だと思う。



(そだな、割とでけぇな)



「反応薄くないか!?」



(クロノ……が……大げさ、な……だけ……)



「やいやい! この巨人野郎っ!」

「俺らの山を我が物顔で踏み付けやがってっ!」

「足音うるさいんだよっ! このバーカ!」

「バーカ!」

「坑道崩れるんだよ! 採掘出来ないじゃない!」

「責任取れ!」

「取れ!」




「……………………ぁ……………………!」




「聞こえない!」

「聞こえない!!」

「気にする物か! やっちまえ!」



 何かを喋っているような気がするが、土人種ドワーフ達は知った事ではない様子で巨人種ギガンテスに襲い掛かった。とは言っても、体格差が大きすぎる。巨人種ギガンテスの足の指をポコポコ殴っているが、あれは効果なしだろう。現に巨人種ギガンテス土人種ドワーフ達を完全に無視し、何かを伝えようと必死になっている。




「? 何言ってるんだろう?」




 頭の位置が高すぎて、正直よく聞き取れない。クロノは疾風を纏い、宙を蹴りつけ巨人種ギガンテスに近づいてみた。



「なぁ? 何喋ってるんだ?」


 

「うぁ……にんげん?」



「敵じゃないよ、何もしない」

「なぁ、土人種ドワーフ達に何か言ってたけどさ、聞こえてないぞ?」

「少し頭下げた方がいいんじゃないかな」




「あ……なるほど……」




 割と素直な巨人種ギガンテスは、膝を折り曲げ、土人種ドワーフ達に顔を近づける。その状態で話そうとしたらしいが、言葉の前に口から吐き出した息で土人種ドワーフ達が吹き飛んだ。



「ぐわー!」

「ぐはー!」

「くそぉ! なんて圧倒的な力!」

「力?」

「覚えとけよこんにゃろう! いつか酷いからな!」

「毎日毎日きやがって! 喧嘩なら買うぞ!」

「買って返品するぞ!」

「バーカ!」




「あ……ちがう……まって……オデは……!」




「やばいぞ逃げろー!」

「喰われるぞー!?」

「ひゃー!」



 土人種ドワーフ達は蜘蛛の子を散らしたように、山の中に退避してしまった。なんというか、何らかの速度が圧倒的に噛み合っていない。




「また……にげられた…………」




「……? 一応聞きたいんだけどさ」

「何しに来たんだ? お前は」




「……交渉…………めずらしい石、やるから……酒くれって」

「……けど、会話ができない」

「こまった、もう何日もこんなかんじだ」




「すげぇや、巨人種ギガンテスの方が知的で会話が成立するぞ」

「というか、酒?」




土人種ドワーフの作る酒は美味いんだぜ)

(俺の中じゃ、蛇人種ラミア酒と互角だな!)



 前者はともかく、後者は嫌な予感がした。知らない方が身の為な、魔物界のグルメ事情を垣間見た。



「つまり、すれ違いが起こってると……」



「オデ、別に敵じゃない」

「酒もらったら、帰るつもりだ」



「ふむ……」



 そんな顔をされると、放っておけないのがクロノという少年だ。



「おっし、ついでだしな……」

「巨人さん! 俺に任せろっ!」



「んあ?」



「お前等のわだかまり、なんとかしてやるよ!」



 出会ったばかりの、種族も違う者。そんな存在でも、クロノは放っておけないんだ。



(また簡単に請け負う……)



(考えなしだよぉ)



土人種ドワーフ巨人種ギガンテスを誤解してる……そのせいで話を聞いてもらえない)

(なら、このすれ違いを何とかする事は重要だろう?)



(本心……は……?)



(勿論、何とかしてやりたいからだ)



(よし、それでこそ俺達の大馬鹿契約者だ! はははっ!)



 種族なんか関係ない、理由なんて、助けたいからの一つだけ。そんな大馬鹿な少年は、種族を越えて多くの者を惹き付ける。この旅で、少年は多くの繋がりを持つことになるだろう。それが何を招く事になるのか、まだ誰にも分からない。




 正しい? 間違い? 知ったことか、救ってから考えろ。
























 少年と強く心を繋げ、ピンチを吹き飛ばしたフェルド。そんなフェルドを見て、ティアラは顔を曇らせた。




(……足りない、の、かな……)




 焦ってるわけじゃない。だが、自分の心の音は明確に大きくなっている。過去と今を重ね、クロノを彼と重ね、その気持ちは大きくなってきていた。何度も指摘され、いい加減腹も立っているが、やはりティアラはまだお子様だ。素直になれない。自分の一番の欠点だと、ティアラは溜息をついていた。



 甘える事さえ、上手く出来ない。心の距離を近づけようとしても、緊張してしまう。ティアラは正直、困っていた。尚、フェルドにはバレバレなのを、ティアラはまだ気づいていない。



 クロノはこの旅の途中、多くの繋がりを得る。それと同時、今の繋がりにも変化が起きるだろう。より深く、広く、少年は成長していくのだ。



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