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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第三章 『月の翼・シルフ』
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第十八話 『鬼ごっこ』

 太陽が真上に移動する頃、クロノは草原のど真ん中で大の字に寝転がっていた。そんなクロノに、セシルは近づいていく。



「どうだ、契約はできそうか」



クロノは声に気がつくと起き上がり、ガックリと肩を落とす。



「心が折れそうです……」



 あの後も多くのシルフ達に契約を求めたが、その5割が『人間と契約は勘弁』、と去っていった。中には『顔が趣味じゃない』、だの『銀髪は範囲外』、など訳の分からない理由で断られる始末だ。



 だがクロノが落ち込む一番の理由は……。



「力を求める理由を答えたらさ、笑われて『論外でーす♪』だってさ」



 共存の為に強くなりたいのが『論外』……ストレートすぎて流石に傷つく……。



「まぁそうなるとは思っていたがな」


「うぅ……『ガキに興味は無いの』とかなんなんだよっ!!」



 そんなどうでも良い理由で断られ続け、クロノのメンタルは限界だった。頭を抱えるクロノを見つめ、セシルは少し不安になる。



(こんな調子で、本当に大丈夫なのだろうか……)



 これから会いに行く奴の性格を考えると先が思いやられたが、行動しないと始まらないのも事実だ。



「クロノ、ついてこい」



「え? どこ行くんだ?」



 頭を上げ、立ち上がる。




「知り合いのシルフに会いに行く」




 それだけ言うと背を向け、さっさと歩き始めた。



「お前と契約するようなシルフは、恐らくアイツしかいないだろう」



 しばらく歩き続けていると、セシルが口を開いた。



「あのさ? だったら何で最初にそのシルフに会いに行かなかったんだ?」



「どこにいるのか探していた」



 なるほど、尤もな理由だ。だが一つ納得いかない。



「けど探してる間、俺がシルフに契約頼み込みまくる必要はなかったんじゃないか?」


「断られるって分かってたんだろ?」



「ただの戯れだ」



「…………」


 ただの戯れで自分のメンタルはズタズタにされたのか、クロノは再び肩を落とす。




「はぁ……そのシルフは本当に俺と契約してくれるのかぁ……?」



「貴様次第だが、ある意味アイツと契約できるのは、お前だけかも知れん」



「え、それってどういう……」





 その瞬間、前方から強風が襲い掛かった。危うくクロノは尻餅をつきかける。




「うおっ!?」




 右腕で顔を庇い、前方を確認する。クロノの視界に、一体のシルフが入った。





「ふふっ……」





 不適な笑みを浮かべながら、空中に漂うシルフの少女。

 

 黄緑色の髪からは、ピョコンと一本のアホ毛が飛び出ていた。


 いかにも妖精です、と言ったような服が風でフワフワしている。


 30cmほどの大きさからは考えられないほどの、威圧感を放っていた。




(なんだ、このシルフ……)




 目の前のシルフは今まで出会ったシルフとは違う、そう直感で感じ取る。思わず身構えるクロノには見向きもせず、シルフはセシルを見つめていた。




「やっぱり……」




 そのシルフが口を開く、クロノは警戒度を上げ、






「うわあああああああいっ! やっぱりセシルちゃんだああああっ!!」






 瞬間、疾風の速さでセシルに飛び込む。周囲を覆っていた緊張感が一瞬で吹き飛び、クロノは前のめりに倒れこむ。



「本物だぁ! 本物のセシルちゃんだああぁっ!!」



 涙目になりながらセシルに抱きつくシルフ、そんなシルフの頭をセシルは優しく撫でていた。



「久しいな、変わりないか」



「変わってないよぉ! 前と変わらず風の精霊シルフちゃんだよぉ!」


「うええぇんっ! みんなとはアレから会ってないし、カムイ君は音沙汰不明だしっ!」


「昔の仲間は全然会いに来てくれないまま、何百年経ったと思ってるのさぁ!」


「寂しかったよぉ! 孤独だったよぉ! セシルちゃあああんっ!」


 泣きじゃくるシルフを、セシルはただただ受け止めていた。









「ぐすっ……それで、セシルちゃんは何でここに?」



 まだ涙を浮かべているが、少しは落ち着いたのかシルフは口を開く。



「セシルちゃんが生きてるのは嬉しいけど、やっぱり変だよね?」



「あぁ、彼の仕業だ」



「……そっか」


 一瞬、とても切なそうな顔をしたシルフがこちらを見る。



「人間さんだよね? セシルちゃんの彼氏?」



「焼くぞ」



「ひぃん! 冗談だよぉ!」



 手をバタバタさせながら飛び回るシルフ、その表情はとても楽しそうだ。



「えっと、俺はクロノ、セシルと一緒に旅をしてるんだ」



「セシルちゃんと二人旅? へぇ~勇気あるねぇ」



 それはどういう意味か、少し気になったが置いておく。



「それで、君と契約がしたいんだけど……」



「え、あたしと?」



 そう言って、セシルの方を見る。セシルはただ、頷いた。


 シルフは少し考え、クロノの目の前まで飛んできた。



「クロノ君が力を求めるのは、どうして?」



「夢の為だ」



 当然、即答する。



「人と魔物、種族関係なく手を取り合う共存の世界を成すのが、俺の夢なんだ」


「その為に強くなりたい」



(即答したのはいいけど、また断られたらどうしよう……)



 つい先ほど多くのシルフ達に『論外』と言われたからか、クロノは内心不安でいっぱいだ。




 そんなクロノの考えとは違い、シルフは少し驚いたような顔をしていた。しばらくクロノの目の前で固まっていたが、懐かしそうな笑みを浮かべ、



「そっか、君はルーンと同じなんだね……」



 そう、言った。



(え、ルーンって……)



 予想外の名前に、クロノの頭は一瞬凍りつく。




「クロノ、紹介がまだだったな」




 そんなクロノに、セシルが思い出したかのように口を開いた。



「彼女の名はエティル、嘗てはルーン・リボルトと共に戦ったシルフだ」




「で、伝説の勇者と……!?」



 セシルの話では数百年前、自分と同じように共存を訴え、後一歩のところまで行った男だ。その男と共に戦った精霊、それが目の前にいるのが信じられなかった。



 何よりその精霊とセシルが知り合いなら、セシルの話が信憑性を帯びてくる。




「セシルちゃんは、行動を始めたってこと?」




 クロノがあれこれ思考を巡らせている間に、エティルはセシルに問いかける。



「あぁ、私はその男に賭ける」


「だから、お前等の答えを聞きたい」



 その言葉に嘘は無い、それが伝わったのかエティルはクロノに向き合った。



「クロノ君の話は分かったよぉ、でもそれだけじゃ契約はできないの」



「え?」



「あたし達精霊が契約を結ぶには、契約者を見定めないとダメなんだよぉ」



 だから、と笑い。



「あたしにクロノ君の、力を見せて欲しいな♪」



 クロノは嫌な汗が出るのを感じた、戦闘になれば勝ち目なんて無い。



「えと、どうやって……かな」


「えへへ……それはねぇ……」



 クロノの周りをクルクル飛び回るエティル、そして顔の前で止まると人差し指を突きつけてくる。




「鬼ごっこっ!!」




 ……そう言い放った。




「……はい?」



「だから、鬼ごっこだってば」




 一瞬耳を疑ったが、どうやら間違い無いらしい。



「ルールは簡単、逃げ回るあたしにクロノ君がタッチできればクリアだよ」


「制限時間も無いし、どんな手を使ってもオッケー!」


「諦めない限り何分でも、何時間でも、何日でも付き合うよ!」



 なるほど、戦って勝つとかよりよっぽど現実的だ。



「ただし、チャンスは一度だけ!」



「一度諦めて勝負を投げたら、あたしとの契約は諦めてね?」



「……諦めなきゃ、何日かかってもいいんだな?」



「うん、いいよ?」




 それを聞いてクロノは笑う、そしてエティルに向き直った。




「諦めは悪いほうなんだよね、俺」



「アハッ! それじゃあ始めるよぉ?」




 クルクル飛び回るのを止め、クロノの前に停止する。そしてワクワクしたような表情で……。






「楽しませてね♪  スタート!」






 スタートの合図と同時に、クロノは目の前のエティルに駆け出す。



(先手必勝、速攻で決める!)



 全速力で突っ込みながら、エティルに向かって手を伸ばす。




 少し距離を置き、観戦モードに入ったセシルはそんなクロノを見て呟く。




「単純なゲームだが、相手は風の精霊」


「風を捕まえるなど、容易い事ではないぞ……クロノ」








「ッ!?」




 目の前のエティルが一瞬で消え、クロノは辺りを見渡す。伸ばした手が触れる瞬間、一瞬で見失ったのだ。




(速い……っ!)




 そんなクロノの背後から、エティルは笑い声を上げる。



「アハハハハッ! 遅いよぉ!」



「そんなんじゃあたしは捕まえられないゾ♪」



 片目を瞑り、挑発的な笑みを浮かべるエティルに、クロノはゆっくりと振り返る。




「絶対とっ捕まえてやる……!」




(セシルちゃんが賭けた人間の子……)



(確かめてみないとねっ!  さぁ、君の力を見せてよっ!)




 契約をかけた真剣勝負が、幕を開けた。



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