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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百六十七話 『難航の素材集め』

 メガストロークを停めてある浜辺まで飛んできたクロノは、エンジン音を唸らせる船に魔動キーを差し込んだ。乗り込み口が開き、移動の準備が完了する。



「えーとアゾット、アゾット……」



 登録されている幾つかの項目から、アゾットの名を探し入力するクロノ。これで自動で目的地まで走ってくれるのだ。



「アゾットって、内陸の方なんだよねぇ?」



「少しは砂漠を歩く事になりそうだね」



「一番近い浜辺にでも止まるだろうし、後は根気だな」

「あの頃の俺とは違う、一瞬で突き抜けてやるぜ……!」



「……………………フラグ」



「そりゃあ頼もしいな、高速移動の反動に怯えてガックガクな奴の台詞とは思えねぇ」



「うるさいよ……」



 また船内でスーパーボールのように跳ね回るのは勘弁である、クロノは安全ベルトを念入りに装着する。



「移動時間は、どれくらいだ?」



「えっと、……6時間」



「夕方には到着か、中々快適だな」

「まぁ私は自分で飛んだほうが早いが」



「普通の船だと3日の距離なんですが……」



「クロノだって烈迅風で飛べば、一日くらいで行けると思うよぉ」



「今のクロノなら、途中で力尽きて海へ真っ逆さまだけどね」



「ぐぬぬ……」

「まぁいいさ、俺にはフローがくれたこの船があるんだ」

「何だかんだ言っても、この船には大助かりしてるんだ」

「さぁ! 発進だ!」



「……退避……」



「んじゃ、一旦消えるからな」



「薄情者共があああああっ!」



 一瞬で姿を消した精霊達に、クロノは涙目で訴えかける。そんなクロノと物理法則を無視して、メガストロークは音を置き去りにした。もはやお馴染みの海上ドリフトにより、クロノの体は右へ左へガクンガクンしていた。



「ぐふぁっ! が、ちょ、ま……がっはっ!」



「……新手の拷問か?」



「あ、安全ベルトのせいで、衝撃が散らせな…………ぐはあああっ!?」



 腰を固定されている為、そこを支点にクロノの体は揺さぶられている。メガストロークは高速回転したと思うと、巨大な岩をぶち壊し、丸ノコのように水上を突き進む。



「おぉ、船とは思えぬアクションだな」



「死ぬ死ぬ死ぬっ!」



「ちなみに安全ベルトは、腕や足も固定しないと意味が無いらしいぞ」



 船内に落ちてたマニュアルを読みつつ、セシルはこの拷問空間で平然と立っていた。



「いや、遅すぎる、からっ!」

「ごふぁっ!?」



「お、船が跳ねたようだ」



 岩礁地帯に突入したらしく、時に跳ね、時に回転し、岩を無視して突き進んでいく。どうやらこの船は、中の生物に対する安全性も完全に無視しているようだ。



「ど、どこから突っ込めば…………」

「とりあえず! セシル! 頼むからベルトを外してくれ!」



「世話のやける……」



 セシルが尻尾を操り、クロノの腰を固定しているベルトを外す。ベルトが外れた瞬間、クロノの体が右方向に吹っ飛んだ。隣の椅子の手すりに頭をぶつけ、クロノの意識は闇に飲まれてしまう。意識を失い、人形のように船内を飛び回るクロノを、セシルは溜息混じりで受け止めた。



「船に殺されかけてどうする、馬鹿タレが……」



(へぇ、何だかんだ言いつつも……受け止めるんだね)



「鬱陶しかっただけだ」



(クロノの意識がある内に、受け止めて欲しかったなぁ)

(素直じゃないんだからぁ)



「離していいか?」



(駄目だ、契約者が酷い事になる)



(…………ねぇ、この……画面……)



 ティアラがクロノの中から、ある一点を指差した。メガストロークを操作できる運転席、そこに備え付けられている画面には、世界地図のような物が表示されていた。



「赤い線の様な物が、移動ルートか」

「ふむ、どう見てもウィルダネス大陸の砂漠地帯を突っ切っているな」



(なるほど、この船は陸上も走れるのか)



(クロノの受難は、まだ続きそうだね)



 セシルの尻尾に支えられているクロノ、彼はこの後6時間……ひたすらに揺られ続けるのだった。






















 5時間56分後、当然の様に砂の海を突き進んだメガストロークは、その役目を終え沈黙していた。空はすっかり暗くなっているが、それ以上にクロノの状態が落ち込んでいた。



「俺、あと何回耐えられるのかな……」


「気をしっかり持ってっ!」


「アザ……出来てる……」



 フローには悪いが、この移動はダメージが大きすぎる。何度も使えば、本気で死ねると確信出来た。



「情けないな……貴様は……」



「セシルは何で普通にしてられんだよ……」



「大地の震動で自身の体を縛り付けるのだ、慣れれば貴様にも出来る」

「というか、出来ねば死ぬぞ」



「うへぇ……」



 早急に、その技術を会得する必要があった。クロノはボロボロの身体を奮い立たせ、強く決意するのだった。



「まぁ、それは一先ず置いておこう」

「アゾットには、何とか辿り着けたしな」



 クロノ達は、アゾットのすぐ近くにいた。メガストロークは砂漠のど真ん中で停止してるが、他人には動かせないので放置しても大丈夫だ。



「まだ19時くらいだろうし、急いで情報を集めよう」

「確か、『メディカルクラフト』って店だったよな」



 クロノは急ぎ足でアゾットに突入、目的の店の情報を集め始めた。道行く人に聞いたところ、その場所はすぐに判明した。何人かに話を聞いたが、店の評判はとても良かった。



「良い人が経営してるみたいで、良かったねぇ」



「まぁ、魔物を助けたいって言って……協力してくれるかは微妙だけどな……」



「まぁ、それでも怖そうな人じゃなくて助かったよ」



「錬金……術……格好、いい……」



「どんな奴かねぇ、凄腕の薬剤+錬金術士ってのは」



「あ、あの店だな!」

「どんな人って……そりゃメガネとかかけててさ、凄く頭良さそうな人じゃないかな」

「へへっ、俺も錬金術とか見るの初めてだから、結構楽しみだ!」



 子供のようにはしゃぎながら、クロノは目的の店のドアを叩く。中から声がしたので、クロノはドアを開いて中へと入っていった。



「いらっしゃいませ~、メディカルクラフトへようこそ~」

「こんな夜遅くに~、何用でございます~?」



 何やら眠気を誘う陽気な声で、黒いローブに身を包んだ女性が出迎えてくれた。メガネどころか、顔が全く見えない。第一印象は怪しい女性だ。



(これは…………!)



「何だ貴様、黒魔術士か何かか?」

「その格好で薬屋? 毒薬でも作っているのか?」



「セシルーーーッ!! 口を慎めっ!」



「毒薬をお求めですか~? 取り扱ってますよ~?」



「あるのぉっ!?」



「バレなきゃ問題ないです~、バレたら問題です~?」



 店の選択を誤った気しかしない、クロノは今すぐUターンしたい気持ちで一杯である。



「お客様は~、何をお求めですか~?」



 その格好で首を傾げられても、不気味なだけである。ローブで全身は隠されているし、顔の部分は闇しかない。



「えっと……練成アイテムを……」



「お客様~通ですね~」

「私がただのポーション売りじゃないと、見抜くとは~!」



 その姿で胸を張られても、正直怖い。



「でも残念です~、材料不足で在庫が0です~」

「用途に関わらず~、練成アイテムはありません~……」

「材料を仕入れてくれる人と~、連絡が取れないのです~」



「うぐぐ……そう上手くはいかないか……」



「それ以前に~、お客様はどんなアイテムをお求めです~?」

「用途によっては、そもそも作れないアイテムの可能性もありますよ~」



 その用途を話せば、大抵の人間が白い目で見てくる事を、クロノは知っている。だが、ここを有耶無耶にするわけには行かない。ここを曲げたら、自分は何の為に頑張っているのか、分からなくなってしまう。



「……魔物を、助けたいんです」

「少し長い話に、なるんですけど……」



 クロノの話を、ローブの女性は黙って聞いていた。一通り話し終えた辺りで、ローブの女性はフラフラとクロノの方へ歩いてきた。



「な、なんですか……?」



「…………この匂い…………」

「ふむ……」



 クロノに顔を近づけ、何かを確認した女性は、クロノの横を通り過ぎた。そしてそのまま、店の鍵を閉めてしまう。



「!?」




「ふふふふふふふ~~…………」



 怪しい雰囲気で振り返った女性は、もうどう見ても悪の幹部的な佇まいだ。咄嗟に身構えたクロノだったが、女性はおもむろにローブを脱ぎ捨てた。ローブの中からは、黒いロングヘアを靡かせた綺麗な女性が現れた。その耳は、人の物じゃない。



「……!?」



「ふむ、やはりハーフエルフか」



「ハーフエルフ!?」



「人間の匂いに混じり、魔物の匂いがしていた」

「……随分と薄かったが、どうせ魔法で隠していたのだろう」



「そんなに簡単に見破られると~、個人的には困ります~」



「魔物とバレて困るのなら、何故姿を自ら晒す?」



「そちらの少年から~、魔物の匂いが沢山しました~」

「この前ここを訪ねてきた~、エルフの二人組の匂いもしました~」



「エルフの二人組……レラとピリカ?」



「名乗りはしませんでしたけど~、そう呼び合ってましたね~」

「記憶力には自信があるので~、間違いないです~」

「お知り合いです~?」



「はい、友達です」



 クロノの言葉に、ハーフエルフの女性は嬉しそうに笑った。



「君は~、本当に魔物を敵視しないのですね~」



「人と魔物の共存が、俺の夢ですから」



「なら~、同じ夢を抱く私が~、君を手伝わない訳にはいきませんね~」

「私はミルナイ・アルケミスト……人とエルフの愛の象徴です~」



「俺はクロノ・シェバルツです」

「力を貸して頂けるなら、嬉しいです!」



「私~、人間好きですから~」

「けどけど~、お話を聞いた限り~、その森を救うのは大変です~」



 大変なのは本当なのだろうが、穏やかな口調過ぎて緊張感の欠片もない。



「……ミルナイさんでも駄目なら、本当に打つ手が……」



 俯きかけたクロノの頭を、ミルナイがポンポンと撫でてきた。



「大丈夫です~、私に考えがありますから~」

「ただ、材料がないのはどうしようもありません~」

「君が材料を集めてきてくれれば~、きっと森を救えます~」




「!」

「何でも集めてきますっ! 世界中駆け回っても! 絶対!」




「頼もしいです~」

「ではでは~、必要な素材と~、用途を説明しますね~」

「その花精種アルラウネの為にも~、この方法が一番です~…………多分」



 最後に何か小さく聞こえた気がするが、クロノは気にしないことにした。ミルナイの指が魔力を纏い、空中に図が描かれる。



「話を聞いた限り~、森の汚染はかなり進んでいます~」

「アイテム一つで~、ポンと解決は~、無理です~」

「なので~、3つの練成アイテムが必要です~」




「3つの、練成アイテム……」




「一つ目は~、『静寂の土』ですね~」

花精種アルラウネさんの周りの土に使用し、彼女を特殊結界で包みます~」

「ついでに~、花精種アルラウネさんの成長も促進させます~」



「二つ目は~、『浄化の聖水』です~」

「結界内に振り撒き~、結界内の魔素を浄化します~」

「ついでに~、花精種アルラウネさんの成長も促進させます~」



「最後に三つ目です~、『継続の守り』を使います~」

花精種アルラウネさんに装備して~、『静寂の土』と『浄化の聖水』の効果を永久持続させます~」

「ついでに~、可愛い髪飾りとしてのオプション効果も付けます~」



「後は~、森の魔素をエルフ達で浄化してしまえば~、一先ず安心です~」

「その花精種アルラウネさんが力をコントロール出来るまで~、これで大丈夫のはずです~」

「力をコントロール出来るようになったら~、『継続の守り』を外せばOKです~」

「土と水の練成アイテムなので~、森や植物系の魔物に影響はないです~」

「むしろ成長環境を整えます~、職人技です~」




「ミルナイさん! 凄い!」




「お客様の絶望を~、希望に塗り替えるのが~、私のお仕事ですよ~?」

「ただ材料がないのです~」



 クロノには解読不能な、独特のセンスがある図を空中展開するミルナイ。そんな彼女の笑顔が、少し難しい顔になった。



「材料集め、大変ですよ~?」




「大丈夫です! なんとかします!」

「教えてください、何を集めればいいんですか!?」




「んー、『静寂の土』には、栄養たっぷりの土を媒介に使います~」

「ウィルダネス大陸の土人種ドワーフさんから~、得られると思います~」

「それと~、強力な魔力を含んだ液体が必要です~」

「これの候補は幾つかありますが~、コリエンテのオークさんに話を聞くといいです~」

「彼等は農業に秀でています~、助言を参考になんとかしてください~」



「『浄化の聖水』には~、綺麗な水を使います~」

「コリエンテの粘液大河ネバーリバーで~、なんとか入手してください~」

「多分ベッタベタになると思いますし~、水体種スライムの猛攻にあいますが~、なんとかしてください~」

「それと~、煌きの粉と言う素材を使います~」

「これ、入手場所不明です~」

妖精種フェアリーの羽から取れる粉に似てるのですが~、ちょっと違くて~」

「コリエンテで得られたらしいので~、なんとかしてください~」



「最後に『継続の守り』ですが~、これ私には作れません~」

「パーツは練成出来ますが~、最終的な組み立ては魔道具関係に秀でた人に頼んでください~」

「それと~、材料に神々の涙メタモルマテリアルという最上級レアな素材を使います~」

「正直どこで手に入るか全く分かりません~、なんとかしてください~」




「以上です~」




 ニコニコしているミルナイだが、クロノの顔は真っ青である。




「何とかできるのか? 馬鹿タレ」




「……なんとか、するさ…………」

「とりあえず、メモを取ろう……」




 さぁ、世界中を巡れ、少年よ。



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