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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十三章 『妖精を救え! お使い特急・メガストローク!』
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第百六十四話 『花粉塗れの内情』

 部屋の掃除を終えたメイドに、クロノは精霊共々、謝罪の言葉と共に頭を下げていた。気にしなくて良いと笑われながらも、クロノは部屋の中から荷物を運び出す。荷物を背負い、クロノ達は改めて空蝉の森を目指し出発するのだった。



「割と距離あるんだよなぁ」



「ひっさびさに競争しちゃう? しちゃう!?」



「何が待ってるか分からないし、体力温存が優先な」



「むぅー!」



 頭の上でむくれるエティルだが、ここは我慢して頂きたい。向かう先は、クロノにとってのトラウマ満載な森だ。前の自分とは違うとはいえ、必要以上に身構えてしまう。



「時間は有限……移動時間中も出来る事をしたらどうだ」



「珍しいなセシル? 二兎を追う者~とかなんとか言わないのか」



「言って欲しいのか?」



「いーえ、結構ですー」



 街道を進みながら、クロノはセシルの憎まれ口に溜息を零す。だが、確かに長い移動時間を無駄にするのも勿体無い。丁度良い事に、体力を温存しながらでも出来る修行を、つい最近教わっていた。クロノは自分の掌の上に、風の球体を生み出した。



精霊球エレメントスフィア……精霊法を圧縮した属性の球だな」



精霊技能エレメントフォース無しで作れる大きさじゃ、野球ボールくらいが限界なんだよなぁ」



 風と大地はともかく、水と炎は野球ボールほどの大きさすら危うい。それに4つ同時どころか、2つ同時に作ろうとするだけで球体は崩壊する始末だ。



精霊技能エレメントフォースは、自らの肉体全体にかけるブースト技のようなもの」

「精霊と繋がる事で、基本的に扱える自然体を大幅に強化する」

「その修行は、異なる精霊の力を同時に扱えるようにと、精霊達が考案した修行だな」




「力のコントロールのコツを掴むには、一番簡単だからねぇ」




 そう言いつつ、エティルは指先に風の球体を生み出す。大きさは非常に小さいが、指先から無数に飛び出した風の球体は、エティルの周りをクルクルと踊るように回っていた。



「君の力に合わせて弱化している僕達でも、このくらい息をする程度の難易度だ」

「この程度で苦戦してたら、先は長いよ?」



 アルディは拳ほどの大きさの球体を作り出し、指の先で高速回転させていた。その球体を中心に、幾つかの球体が衛星の様に浮いている。



「……魔法、下手な……クロノには…………難しい、かも」

「けど、慣れれば…………簡単…………」



 自分の顔よりも大きな水の球体を作り出したティアラは、その中に一回り小さな球体を生み出す。何回かそれを繰り返したティアラは、出来上がった水をフェルドに投げつけた。フェルドは投げつけられた球体に腕を突き刺すと、一瞬でそれを蒸発、ティアラが作った球体と同じ数の層を持った炎の球体を作り出した。



精霊技能エレメントフォースなしで、ってのがミソだ」

「俺達とリンクすりゃ、馬鹿でもアホでもそれなりの大きさは作れるからな」

「今は形にする事に集中、次は精霊技能エレメントフォース中に作れる大きさを、普段でも作れるように努力……それが出来れば、リンク中はもっと大きく、安定した球体を生み出せるだろう」

「何度も何度も繰り返せば、勝手に別の属性との併用もできらぁ」

「なぁ、ひよっこセシル?」




「……チィ……やかましいわ」




 フェルドの言葉に反応し、セシルは地水火風の球体を一度に作り出した。それぞれが人の頭ほどの大きさで、高速回転しながらも形は綺麗な丸だ。



「スゲェ……」



「見ろクロノ、あれが昔は球体すら作れなかったチビの姿だ」



「いつまで昔の事をグダグダ引っ張るのだ貴様はっ!」



 その昔の姿を、クロノはほんの少しだけ見てきている。あのセシルを思い出す度、今とのギャップに噴出しそうになってしまう。



「……? クロノ、貴様今笑ったか?」

「笑ったな? 笑っただろう? 良い度胸だな貴様」

「この精霊球エレメントスフィア……直撃させればその辺の魔法程度の威力は出るぞ?」




「笑ってない笑ってないっ!!」




 口元に出てしまっていただろうか、セシルが鬼の形相でこっちを睨んできた。話題を変えなければ、命が危ない。



「あー…………せ、精霊とリンクしなくても、修行さえすれば自然体って使えるんだよなっ!?」

「ならっ!? 精霊と契約するのって、自然体を楽に使う為なのかな!?」



「…………まぁ、大抵の小物はそうなんじゃないか」

「まぁその程度の小物相手に、精霊が契約を結ぶかは疑問だがな」



「そ・れ・にぃ! クロノは勘違いしてるよぉ!」



 頭の上から、エティルが踵を落としてきた。鈍い痛みが、脳天を襲う。



「あだぁっ!?」



「精霊の力は、契約者の心と繋がって強くなる」

「信頼は力に、それこそ強力な力になるんだ」



「それ、に…………それは……精霊、同士も……同じ……」

「力は……繋がって……共鳴して…………もっと……高みへ……」



「何体もの精霊を同時に従えるのも、その力を同時に使うのも……そりゃ難しい」

「正直、自然体を極めるだけなら……精霊はいらねぇよ」

「セシルみてぇに、精霊なしでも自然体を極めてる奴は沢山いる」

「最初は有利だろうが、力が研ぎ澄まされるほど…………精霊は契約者の枷に成りかねない」



「けどね? もし契約者が……あたし達を本当の意味で使ってくれたら」

「極めた力の……さらにその先……もっともっと先にいけるんだよぉ」

「1を10にするだけなら……あたし達は要らないかも知れない」

「けど! 1と1を100にする事は、あたし達が居ないと無理なんだよ!」



「心を一つに、力を一つに」

「そうして生まれた最強の力を、あいつはウルと呼んだ」

「実際に見たから、断言できるぞ」

「精霊の力を、『精霊と共に』使いこなす事…………それが、私の知る限り最強の姿だ」



 そこまで辿り着けるかは、全く分からない。だが、一つ確かな事がある。クロノはビーズのように小さな球体を『四属性分』作り出し、笑顔を浮かべた。



「つまりは、このまま努力しろ」

「って、事だよな?」



「えへへ、宜しいー!」



「急かすつもりはないよ、君のペースで歩んでいこう」



「……ふふっ」



「しっかし、小せぇなぁ……」



「今の俺が4つ作るには、この大きさが限界なのっ!」



「クロノ小さいー!」



 小さい小さい連呼する精霊達に、クロノの何かが切れた。笑いながら散開した精霊達を、クロノは笑顔で追いかけ始めた。そんな大馬鹿な少年を、セシルは心底嬉しそうに眺めていた。
























 しばらく歩き、クロノ達は空蝉の森へと辿り着いた。クロノは心水を発動し、幻属性の魔法に身構える。魔力の乱れがあれば、水の力を宿した目が、それを見逃さないだろう。



「あー! マナブルがあるよぉ」



 無防備に空中を漂うエティルが、木に生っていたマナブルに吸い寄せられた。



「あれってレラが言ってた……青って事はここは魔素が濃いのかな」



「アノールドの森は、魔素の濃い森が多いからな」



「あたしこれ好きなんだよー!」



 エティルは木の実や果物、野菜を好んで食べている。そのせいか、よくセシルに野菜を押し付けられていた。笑顔でマナブルを手にしたエティルだったが、マナブルはグチャッと潰れてしまう。



「ひにゃあああああ腐ってるよぉっ!?」



「腐ってるなら、そんな綺麗な青色じゃねぇよ」

「マナブルの殻は本来硬い、そこまで緩々になってるって事は、熟しすぎだな」

「けど変だな、この辺は確かに魔素が濃いが…………そこまでグチャグチャになるほどじゃねぇぞ」



「ティアラちゃーん! 手洗わせてよぉー!」



「…………被害、担当…………」



 涙目でティアラに助けを求めるエティル、ティアラはやれやれといった様子で、水をエティルに発射した。




「あばばごぼごぼ……!!」




「変だね、妖精種フェアリーは住処を大事にする種族だ」

「彼女達は環境の変化に敏感、それを放置するような子達じゃないのに」




「全身ピカピカになりましたーっ!」




 浴びせられた水と、自身の操る風、その二つで簡易洗濯を行ったエティルが、ピカピカしながら決めポーズを取った。誰も見てないが。



「とりあえず、入り口付近で止まってても仕方ない」

「警戒しながら進んでみよう」

「フェルドの話だと、ここは昔森じゃなかったんだろ?」

「ここが森になったのと、何か関係あるのかも知れないしな」







「残念だけど、それとこれとは別のお話よ……坊や」







「なんだ、別の話なのか」

「……………………誰だ!? 今の誰だっ!?」



 どこからともなく聞こえてきた、綺麗な声。辺りを見渡すと、森の奥のほうで草が動いた。



「人間が来るのは、久しぶりね」



「!? 花精種アルラウネ!」



 草むらから出てきたのは、巨大な根で移動してきた花精種アルラウネの女性だ。人のような姿の上半身が、巨大な花弁の中から生えているような、動物と植物の中間のような生命体だ。詳しくは知らないが、自分で移動できるのは、それなりに成長した個体じゃないと不可能な筈である。



「本来なら、追い払うところだけど……」

「今は追い払うどころか、帰った方が良いと助言したいくらいだわ」




「……? どういうことだよ」




「人間の貴方に言っても、仕方ないでしょう?」

「確か、犠牲になった人間も居るって聞いたわ」

「同じ末路を辿りたくなければ、引き返すことね」



 訳有りの気配がする、それならば……引くわけにはいかないだろう。



「言葉を返す様で悪いし、信用出来ないだろうけどさ」

「君達が困ってるなら、助けになりたい」

「その為に来たようなもんだし、話だけでも聞かせてくれないか?」




「…………? 人間が、魔物の助けに……?」




「俺は人と魔物の共存の為、旅をしてるんだ」

「頼む、困ってるなら力になりたいんだ」



 怪訝な顔をしていた花精種アルラウネだったが、どこか安堵したような顔で息を吐いた。



「元々……私達は争いから身を置きたかったから、ここに住処を変えたの」

「正直ね、今凄く困ってるわ……」

「信用して、いいのかしら……?」



「うん、何に変えても……俺は夢だけは偽らないよ」

「聞かせてくれ、どうしたってんだ?」



「……話は、森の中でしましょう」

「みんな、いいわね?」



 花精種アルラウネの言葉で、周囲の植物がザワザワと蠢きだした。どうやら、周りには多数の木精種ドリアード花精種アルラウネが居るようだ。



「変な行動したら、タダじゃ済まないからね」

「森の中は、私達の体内みたいなもんだから」



「何もしないよ……」



「……私達はね、昔からここに住んでる妖精種フェアリーと友好関係を結んだの」

「泉の周りで暮らしていた妖精達を、貴方達人間は狙っていた」

妖精種フェアリーの羽から零れる光る粉は、貴方達の世界では高く売れるんでしょ?」



「…………否定は出来ない」

妖精種フェアリーは魔法に長けた種だけど、逆に言えばそれにさえ対策を打てれば……無力な魔物だ」




「幻属性の魔法だけじゃ、自分達を守れないと考えた妖精種フェアリーはね?」

「私達みたいな、植物系の魔物に助けを求めたの」

「私達の繁殖を手伝う代わりに、森で泉を覆ってくれって」

「共存を持ち掛けられて、私達は快くそれを受け入れたわ」

「私達だって、無駄な戦いは望まないからね」

「長い時間をかけて、私達はこの辺り一帯を森に変えた」

「私達の花粉は、妖精達の魔法を一層強力な物に変えたわ」

「結果的に、私達は安全な住処を手に入れた」

「人間とも、一定の安定した距離を保てるようになったわ」




「あぁ、魔法学校の試験場になったりしてたな」




「必要以上に踏み込んで来なければ、別に私達は構わなかった」

「妖精達も、悪戯出来て嬉しそうだったしね」

「傷つけるつもりもなかったし、そっちもそれでいいと思ってた」

「…………何もかも、上手くいってたと……思ったのに……」



 花精種アルラウネの表情は、曇っていた。先ほどから、彼女から敵意は一切感じない。話の内容からも、危険な感じは一切しなかった。ならば何故、森に踏み込んだ人が、意識を失うような自体が起こっているのだろうか。




「…………? 何があったんだよ」




「…………それは……」




「ひゃあ! ルルーナさん! 人間連れて来たぁ!」




 目の前から悲鳴のような声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、エティルよりもさらに小さい少女が、ガクガクと震えていた。



「あ、違うの……この人はね……」



「だめだめだめ! やだやだやだぁっ!」

「姿見られたぁっ! もうだめだーっ!」



「あ、いや……別に何もしないよ……?」



 蝶のような綺麗な羽をパタパタしながら、手の平に乗りそうな小さな少女が慌てだす。敵意が無いことをアピールするが、パニックになってるようだ。



「どんぐりあげるから許してよぉっ!」



「いや、だから……」

(いらねぇ……)



「わーい♪ ドングリだぁ♪」



「あぁもうっ! これだから自然が友達の奴はっ!」



 エティルが笑顔で、妖精の少女が抱えていたどんぐりを受け取った。話がややこしくなる為、出来れば自重して欲しい。



「えへへ~、ありがとうね~!」



「引っ掛かったっ! そぉれっ!」



「へ? ひゃあああああああああっ!」



 一瞬で目付きを変えた妖精の少女、彼女が指を鳴らした瞬間、エティルの持っていたどんぐりが炸裂した。森の果実から得たのだろうか? カラフルな液体がエティルの全身を染め上げた。



「あはははははははっ! 引っ掛かった引っ掛かった~!」



「……………………」



 空中で固まっているエティルだったが、その小さな体から聞き覚えのない音が聞こえた気がした。一瞬で笑い転げる妖精種フェアリーと距離を詰めたエティルは、無言でその小さな肩を掴む。



「あははははっ…………ん?」



「えへへ~♪ 上位種とも言えるシルフちゃんを弄ぶなんてー、いけない子だよぉ♪」

「……ちょっと怒ったよぉ?」



「…………あれ? お姉ちゃん、シルフ…………?」

「あー……………………テヘッ!」



 目の前で暴風エティルが吹き荒れる光景を見て、初めてクロノはエティルに恐怖心を抱いた気がした。ルルーナと呼ばれていた花精種アルラウネも、顔を青くしている。そんな惨状を前にして、セシル含む身内組は見慣れてる、とでも言いたげな顔をしていた。



「クロノ、忘れてたかも知れないけど、エティルは僕等の中で一番年上だからね?」



「怒らせると……エティ……怖い、よ……」



「まぁ普段が普段だからなぁ、その分怒れば怖ぇよ」

「割と俺といい勝負するぜ?」



「肝に銘じておきますね……」



 誰にでも、隠された一面はある物である……。お仕置きを終えたエティルがティアラに洗濯されている間に、クロノは会話の軌道修正を試みる。



「話を戻しますけど……この森で何か起こってるんですよね?」



「あ、はい」

「えっと……フェルル! 起きて!」



「…………エティルさん、もう二度としません……下僕になります……なります……」



「正気に戻ってっ!」



「……はっ!?」



 白目を向いていた妖精が、正気を取り戻したようだ。エティルの暴風観覧車の刑は、あの小ささでは凄まじい恐怖だっただろう。



「ひっどい目にあった…………」



「フェルル、真面目な話になるけど……ネーラの様子は?」



「様子を見に行った子は全滅、撃墜されましたー」

「全然だめだめだめ……近づけもしないよぉ」



「ネーラ?」



「…………この森は、さっきも言った通り植物系の魔物と、この子達のような妖精の住処なの」

「何の問題もなく続いていた、この共存関係だったけど……ある問題が生まれてね」



「そそ、文字通り生まれちゃったのさー」



「?」



 首を傾げるクロノだったが、ルルーナが森の奥を指差した。



「この先、この森の中央にはね……嘗て妖精の泉って呼ばれてた泉があるの」

「その泉のすぐ隣に、一体の花精種アルラウネが根を張ったのよ」

「最近花を開かせたばかりの、まだ子供なんだけど……」



 ルルーナの言葉を遮るように、森の奥から色のついた煙のような物が飛んできた。咄嗟に身構えたクロノだったが、エティルが風でその煙のような物を上空へ吹き飛ばす。



「なんだ? 今の……」




「分かんないけど……多分花粉的な何かだよぉ」

「すっごく、嫌な感じの」




「はぁ…………今のはその子……ネーラの放出してる花粉なの……」

「彼女はとんでもなく強力な力を持ってるんだけど……どうにも制御できてなくて……」

「催眠作用のある花粉を、容赦なく周りに撒き散らかしてるのよ」

「まだ子供で、言葉も通じないし……」

「善悪関係なしに、近づいた者は花粉にやられちゃって……」

「同種の私達でさえ、森の外側に避難してる始末よ……」




「花のお姉さん達の花粉はね! フェルル達の魔法をすごくしてくれるんだ!」

「けどあのチビ花はだめだめ! フェルル達まで花粉でおかしくしちゃう!」

「あの花粉吸っちゃったら目の前グルグル、頭ピヨピヨ! だめだめになっちゃう!」

「状態異常の、オンパレードだよ!」




 なるほど、それで森の内部が大変な事になっているわけだ。



「セシル、前例とかあるか?」



「さぁな、力を扱いきれてないのは、本人の問題だ」

「どうにか出来るかも、本人次第じゃないか?」



「…………とにかく、その子に会ってみよう!」

「えっと、ルルーナさん! その子に会わせて下さい!」



「この先に真っ直ぐ行けば、会えますよ」

「進めるかは、別の問題ですけど…………」



 ルルーナの指差す方向は、何やらピンク色の煙が漂っていた。花粉が充満した森を突っ切るのは、不可能に近い。



「お兄さんー! 行くならフェルルのお友達も助けてきてくれない?」

「様子を見に行ったんだけど、みんな花粉にやられちゃった♪」




「……エティルッ! 風で吹き飛ばしながら! 強行突破だっ!」




「わぁ、ごり押しだぁ」



 烈迅風を発動し、クロノは自分の周囲を風で巻き上げながら進み始める。少年はまだ知らない、この森を救う為、自分が恐ろしい困難に晒される事を……。




























 空蝉の森、中心部。嘗て、妖精の泉と呼ばれていた場所のすぐ傍で、彼女は『咲いていた』。彼女はまだ喋れない、言葉も殆ど理解できない。だが、一つだけ理解しかけている事があった。



 風に揺られる度、彼女の腰の辺りに存在する花弁から、花粉が周囲に散布されていた。その花粉は彼女の意思とは別に、森を蝕んでいた。




「ちょ……! いい加減に……!」




 一体の妖精種フェアリーが、息を止めて必死に距離を詰めて来ていた。その姿を見た瞬間、幼い花精種アルラウネは歓喜の表情を浮かべる。両腕をブンブンと振り回す花精種アルラウネだが、その動きで周囲の花粉の濃度が上がった。限界を迎えた妖精種フェアリーが、ついに花粉を吸い込んでしまった。そして、その意識が一瞬で途切れてしまう。墜落した妖精を見て、花精種アルラウネは悲しそうな顔をしていた。



 彼女は理解しようとしていた、自分の存在が、害になりつつある事を。自分は、一人ぼっちなのだと。



 悪者は、この森には存在しない。



 そして、大馬鹿な少年は、このような状況を放っておけないのだ。



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