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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十二章 『海姫様の婿探し』
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第百五十九話 『忌まわしき異形』

 クロノは恋愛に疎い、それもかなりだ。夢一筋に生きてきた為、興味も無ければ耐性も殆ど無い。そんな少年に、婿探しなど勤まる筈もない。だが、断る選択はもう消えている。目の前の魔物から感じられる力は、間違いなく魔核固体の域に達していた。伊達に、海の王の娘を名乗っていない。




「……分かりました……協力します……」




「当然ですわっ!」

「と言う事で、私はここで待っていますから……素敵な人を見つけてきてくださいな」




 無茶振りも大概にして欲しいが、意見を述べる前にクロノは軽々と投げ捨てられてしまう。なんとか上手く着地し、クロノは改めてネーレウスに向き合った。



「あの、いきなり夫とか言われてもピンとこないんですが……」

「どんな人を探してくればいいんですか?」




「強くて、格好良くて、そう……童話の中の王子様のような……姫である私にピッタリの方ですわ」

「あと背が高くて、優しくて、私の下半身を醜いと言わずに受け入れてくれる……海よりも深く広い心を持った殿方ですわっ!」



 砂漠の中で米粒を探し出すような難問に、クロノは目眩すら感じてしまう。だが、ここで神懸り的な閃きがクロノに舞い降りた。




「ならっ! エルフならどうですかっ!?」




 現時点で、エルフとの距離はかなり縮まっている。夫候補を探すのは容易いだろう。未知を求め続ける彼等なら、多脚亜人種スキュラを醜いなどと言わず、むしろ好意的な目で見るはずだ。それに、エルフは亜人系の魔物だ。殆ど人間と見た目は変わらない、ネーレウスも気に入ってくれる筈だ。



 そんな楽観的な発想を持ったクロノを、ネーレウスの触手が弾き飛ばした。鞭のようにしなる一撃は、クロノの頬を赤く染め上げた。




「あ痛っ!?」




「私、魔物嫌いですの」

「エルフとか冗談じゃありませんわ、耳長いとか気持ち悪い」




 魔物を気持ち悪いと抜かす魔物を、クロノは初めて見た。



「うぅ……どう足掻いても人間がいいんですね……」



「当たり前ですわ、私の夫は人間以外有り得ませんの」



「そこまで拘りがあるなら……自分で探せばいいのに……」



「海上に出向く男達は、どうも品が欠けていますの」

「これ以上船を襲えば、私も少し危ない気がしますのよ」

「たいじや? とか言うのに襲われたら堪ったものじゃないですしね」

「まぁ、負ける気はしませんけど」



「で、陸で探す方向に?」



「えぇ、けど一つ問題がありまして」

「私、ちゃんと人間化出来ませんの」

「全てはこの足が……っ! この足……この足が…………っ!」



 また冷たい目をしたまま、自らの足を引き千切り始めるネーレウス。とても怖いので、出来れば目の前でブチブチするのは辞めて頂きたい。



「あ、あははは……本当にその足が嫌いなんですね……」




「当たり前ですわ」

「…………こんな気持ち悪い……醜い下半身……持って生まれなければ分からないでしょうね」

「愛する事も、愛される事も……出来る筈無いんですのよ」



 一瞬、ネーレウスが泣きそうに見えた。そこでクロノはハッとした。自分の夢は共存の世界、助けを求めてるなら、人だろうが魔物だろうが、助けるのが当たり前じゃないか。クロノは力強く立ち上がり、今回の難題に立ち向かう決心をした。



「ネーレウスさん」



「様を付けなさい」



「……ネーレウス様、任せてください」

「俺は、人と魔物の共存する世界が夢なんです」

「ネーレウス様の願い! 俺が叶えてみせますっ!」



 そう宣言し、クロノはカリアに向かって走り出した。そんな少年の背中を、ネーレウスはポカンと眺めていた。




「…………口だけなら、何とでも言えますわ……」




 俯きながら、ネーレウスは海へと戻っていく。下半身を水の中に隠すように、静かに水へ浸かって行った。






























「で? どうすんだよ恋愛初心者君」



「やかましいっ!!」



「あはは♪ 返しがセシルちゃんみたいだねぇ」



 早速精霊達がからかいに出てきた。なんとか切り抜け、婿探しの対策を練らねばならない。



「候補を探すなら、クロノの無駄に上手い口車で何とかなると思うよ」



「褒めてる? それ褒めてるのか?」



「けどなぁ……将来を共にするっつーなら……どうやってもあの女の下半身を晒す必要があるしなぁ」

「あれを受け入れられる一般人って、それもう一般人じゃなくね?」



「魔物の、姿……耐性、あるのは…………勇者か、退治屋……」



「リスク高いねぇ……」



「耐性はあるだろうけど、受け入れるかは別の話だね」

「ネーレウスさんに会わせれば、好意どころか敵意を抱かれかねない」

「戦闘になったりすれば……危ういだろうね」



「強気に振舞ってたが、ありゃ結構心を病んでるぜ?」

「あれほど自分の身体を嫌ってる魔物、割と珍しいけどな」



 少しでも間違えば、ネーレウスの心に深い傷を作りかねない。それだけは避けたい、きっと、後悔する事になる。



「クロノ……気を、つける……」

「クロノ、たまに……デリバリー、ないから……」



「前よりは近づいたな、デリカシーな」



 赤面したティアラが、水の鞭でクロノを殴り飛ばした。クロノの頭の上に陣取っていたエティルは咄嗟に飛び上がり、傍に居たアルディとフェルドはしゃがんでそれを難なく避ける。



「わ、わざと……だし」

「試した、の…………やっぱり……クロノ、馬鹿……!」



(絶対に嘘だねぇ)



「まぁなに配達すんのかは知らねぇけどよ」

「あいつは割と繊細だろうから、色々考えとけよ?」

「軽はずみな行動が、取り返しの付かない事に繋がる事もある」




「いたた……分かってるよ」




 候補者が見つかるかも分からないが、チャンスはあまり無いだろう。ネーレウスの姿を何度も人に晒し、失敗すれば、ネーレウスが傷付くと同時、発見される危険性も上がる。退治屋の耳に入れば、どう考えても面倒になる。



「ネーレウス様は綺麗だし、下半身さえ出さなきゃすぐに候補集まると思うけどさ」



(様付けが刷り込まれてる……)



「それじゃ、駄目なんだろうな」



 上辺だけに寄り付くような男じゃ、ネーレウスは納得しない。魔物の彼女を受け入れるという点が、何より重要なのだ。



「見つかるわけねぇよ」



「? なんでだよ」



「自分で自分を嫌ってんだ、それじゃ誰も寄り付かねぇ」

「あの女が自分を、受け入れてないじゃねぇか」



「そりゃ……」



「一回、思いっきり吐き出させればいいんだ」



「……どうやってさ」



「はぁ……ガキが……」



「数百年生きてるお前等と一緒にすんなよっ!!」



「クロノ、五百年以上生きてても子供は子供だよ?」



「アル、いい、度胸……!」



 いつもの戯れは軽くスルーしつつ、クロノはカリアを目指す。手当たり次第に魔物の夫になってくれる人を探すしかないが、正直見つかる気はしていない。



「そんな変人……居る訳ねぇよなぁ……」



「あたしは一人、心当たりあるけどなぁ」



「!? 誰っ!」



「え~……エティルちゃんの立場からだと言いたくないよぉ」



「おま、そんな事言ってる場合じゃ……!」



「魔物に抵抗が無く、何でもかんでも受け入れるクソ馬鹿なお人よし、あぁ……確かに一人いるよな」



「却下、駄目、絶対……」



「……? そんな奴居るのか? ルーンとか?」



「クロノ、たまに僕は君が心配になるよ」



 何故か哀れみの目で見られた、エティルとティアラは複雑そうな顔だ。そうこうしている内に、カリアが見えてきた。



「勇者や退治屋はリスクがありすぎるし、一般人を当たろう」

「この際仕方ない……魔物ってとこは伏せて……美人のお姫様が夫を探してるんでどうですか? みたいなノリで行こう……」

「一つ問題があるんですけど、そこは会ってから自分の目で確かめて……とかさ」




「それ危ないよぉ……」




「だってそれしか思いつかないんだもの……」

「受け入れられないなら、きっと腰抜かして逃げ帰るだろうけどさ……」

「きっと何回も繰り返せば、いける人が……」




「あの女の心は、ズタズタになるかもな」




「うっ……」




「まぁ、そんくらいしないとあの上っ面は剥がれないか」

「好きにやれよ、後始末は覚悟してな」



 女心が微塵も分からないクロノにとって、今回の難題は過去最大の壁である。溜息交じりで、クロノは一歩目を踏み出した。まずは、酒場辺りを探してみよう。

 

























 海の上を漂うネーレウス、彼女の触手の一本が、魚に突っつかれた。彼女は触手を巧みに操り、魚を追い払うと、触手を一本水上に持ち上げる。この触手は、人間から見るとどう映るのだろうか。便利そうに映るだろうか、きっと、恐怖の対象にしか映らないだろう。この無数の触手は、生物を容易く拘束し、握り潰す事が出来る。人から見れば、ネーレウスは異形の化け物だ。どんなに嫌っても、拒んでも、この足は切り離せない。この触手のせいで、海の者からも距離を置かれた。多脚亜人種スキュラは比較的大型の魔物だ、警戒されるのは仕方ない。だが、自分は一度として、か弱い女の子として扱われた事はない。




 恋愛脳だと笑われても、愛されたい思いはどうしても心の中にある。忌まわしき触手に悩む彼女にとって、人の姿は理想であり、憧れなのだ。様々な物を望んではいるが、究極的に言えば、彼女は普通の扱いをされたいだけだ。彼女は一度も、抱きしめてもらった事も、頭を撫でられた事も無い。頭の中がピンク色だと誤解されがちだが、求める物は至って平凡だ。ただ、普通に接して貰いたいだけだ。簡単な事なのに、自分にとっては酷く遠い。




(好きで……こんな姿に生まれたんじゃ……ありませんもの……)

(世界は……残酷過ぎですわ……)




 花占いで花びらを千切るように、ネーレウスは自分の触手を引き千切っていく。引き千切るより早く、触手は新しく生えてくる。魔核固体という点を除いても、彼女の再生速度は異常だった。



 それでも、心の傷だけは…………いつまで経っても癒えてくれなかった。



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