表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十一章 『幻想揺らめく、魔族の大陸』
179/875

Episode:エルフ ③ 『勇者選別』

 カリア城の客室で、クロノは休息中だ。そう休息中だ、安静にしていろと言われたのだ。それなのに、クロノは室内で精霊達監視の上、修行を行っていた。精霊技能エレメントフォースなしで扱える範囲で、自然の力を掌の上に集中、圧縮して球体を作る修行だ。



 球体の大きさ、出来るまでの速さ、圧縮した力の安定具合、同時に作れる球体の数、色々な点から錬度を計れる、精霊法に重点をおいた修行である。断っておくが、クロノの精霊法はお世辞にも上手くない。



「よぉし! 風いってみよう!」



「ふっ!」



 風が集まりクロノの掌に集まり、握り拳くらいの球体が作られる。



「次、大地の力を」



「ん!」



 風の球体を解除し、大地の力を集中させる。風よりは小柄な球体が作られた。



「……水……」



「……ぐっ!」



 今度は水の球体を作るが、さらに小さく、しかも少しぶれた。



「最後に炎な」



「……っ!」



 そして、最後に炎の球体を作る。ここまでの一連の流れで、すでにクロノ精神は限界ギリギリだ。集中力を乱し、球状だった炎が爆散してしまう。



「うぎゃああああああっ!?」



「あはははははっ! クロノ前髪燃えてるよぉ」



「あじゃじゃじゃじゃっ! ティアラ! 水! 水!」



「……自分で、やれ…………それ、くらい……」



「クロノ、集中すれば水くらい出せるよ」



「この状態で集中出来るかーーーーーっ!!」



(突っ込みする余裕はあるのな……)



 身体を休められているか、かなり疑問が残る休息である。前髪が焦げ付いたクロノは、ベッドに倒れ込んでしまう。




「あーうー…………こんなんで大丈夫なのかな……俺……」




 最近は力不足をかなり感じてしまう、大会まで時間も無い為、立ち止まっている訳には行かない。だが、力不足過ぎるというのも、問題なのだ。頭を抱えるクロノだったが、そんな契約者の内心を知ってか、知らずか、精霊達は室内でのんびりしていた。



「なー……なんかいい修行はないのかー……?」

「移動しながら出来る奴とかさぁ……」



「思いっきり今の精霊球エレメントスフィアがそれだろうが」

「4属性の珠を同時に作れて、初めて一人前だわな」

(ま、4精霊を同時に従えてること自体……珍しいんだが)



「4つ同時どころか、1つすらまともに合格レベルの大きさに出来ないっつの……」



「んじゃ、頑張ろう…………はい、始め」



「…………うぅ……」



「ははは、焦りは禁物だよ?」



「クロノー! なんか街の方騒がしくないー?」



「んー?」



 窓から入り込む風を感じていたのか、エティルが頭のアホ毛をハテナマークにしていた。クロノも風に集中してみると、街から慌しく動く何かを感じた。エルフ達が未知とダンスしているのかと思ったが、一つ思い当たる事があった。



「あぁ、そっか」

「あれから、一年だもんな」

「ははは……村で落ち込んでた時期が長すぎたよなぁ……」



「? 何々?」



「……また今年も、勇者選別が始まるんだ」



 それを目指し、そこで終わった。勝手に落ち込み、また奮い立った。クロノにとって特別なイベントが、今年も始まろうとしているのだ。クロノは窓際に立ち、感慨深そうに街の方を眺めていた。
































 レラは頭を抱えていた。彼は現在、なんとラベネ・ラグナに居る。ウィルダネス大陸、アゾットの国で得た思わぬ収穫、ピリカの両親の仇の情報……。それを知ってからしばらく、ピリカは影を背負っていた。流石に心配していたレラだったが、ピリカは落ち込んだまま、レラの手を引きコリエンテを目指した。



 コリエンテに渡るまで大人しかったピリカに、レラも何か声をかけるべきか考え始めていた。その考えは、コリエンテに着いてすぐに砕かれ、ラベネ・ラグナに着いて爆発四散した。そもそもラベネ・ラグナを目指したのは、ピリカが前々から行きたがっていたからだ。世界一の魔道具を作っている、最大の発展国……ピリカの興味が惹かれないはずがない。



 少しでも、元気を取り戻してくれればと、そう思っていたのだ。本気で、そう思っていた。そして今、本気で後悔している。




「未知キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」




(そうだ、この馬鹿はこういう奴だった…………)




 数日前の大人しく、消え入りそうな可憐な美少女は、どこに行ってしまったのだろうか。目の前にいるのは、未知に飢えた謎の生物だけだ。レラは抵抗を諦め、ピリカに振り回され続けていた。



「こここここの杖は…………一体なんの木から……」

「あぁっ! この鎧! この前本で見た鋼材から……いやでもこの部分……」

「この剣! この軽さ! あああああああなんなんですかこれはあああああっ!」



「お前がなんなの……?」



「レー君っ! どのお店から回ればいいか、分からないっ!!」



「休ませて…………」



 同じ種族だと言うのに、こうも違うのだろうか。正直、レラだって未知に惹かれはする。数々の魔道具に、興味は大いにある。だが、ピリカの勢いには、一生かかってもついていけないと確信できた。



「ピリカ、せめて今日の宿を決めてから…………」



「この形状の魔道具は……一体……」



「あははは、お嬢ちゃん? それは君にはまーだ早いと思うなぁ」



 ピリカが進入しかけているのは、18歳未満立ち入り禁止な、危ないお店である。



「失礼しましたっ!」



「ちょっ!? レー君未知が……」



「未知知る前に常識を知れっ!!」



 なんとかピリカを抱え、街の中心まで逃げ切ったレラ。早くも彼の体力は限界である。



「ピリカ、頼むから危機感を持ってくれ……」

「この国、なんだか勇者や退治屋をよく見かけるし……間違ってもフードを脱ぐなよ?」



 コリエンテの寒さ対策に、レラ達はフード付きの防寒装備を身に纏っていた。当然、耳を隠す意味合いもある。レラの心配を完全にスルーし、早くもピリカは未知に吸い寄せられていた。よりにもよって、人が沢山集まっている場所を目指している。



「だから聞けってっ!!」



「レー君! あれ! あれっ!!」



「うん?」



 ピリカが目をキラキラさせて指差している物、それは大聖堂だ。大聖堂の前には、多くの人間が集まっている。集まっている者の表情は、何やら緊張で固まっているようだ。



(……? 何の集まりだ?)



「すいませーん、なんの集まりなのですかー?」



 恐ろしく素早い動きで、ピリカは目の前の未知に突撃をかましていた。一瞬戸惑った女性だったが、ピリカの問いに笑顔を浮かべた。



「私達は15時から始まる、勇者選別の参加者よ」

「今日は、今までの努力が報われるかどうかの、大切な日なの」



「勇者選別?」

「それって、勇者になる為のあれですか?」



「えぇ、一年に一度のね」

「あ……準備があるから、私はこれで」



 ペコリと頭を下げ、女性は大聖堂の入り口へ走って行った。レラは嫌な予感がした為、フリーズしているピリカの手を取り、大聖堂から一目散に離れようとする。駆け出したレラだったが、ピリカの踏ん張りで動きが止まってしまう。振り向くのも怖いのだが、レラは恐る恐る振り返ってみた。




 目をキラッキラさせて、ピリカが笑っていた。レラは確かに、自分の血の気が引く音を聞いた。




「いや、駄目だ」



「一年に一回……」



「駄目だからなっ!?」



「勇者選別……ふふっ……ふふふふっ…………」



「冗談だろっ!? 俺達はエルフなんだぞっ!?」

「バレたら洒落にもならんっ! ここは世界一の発展国っ! 周りは最悪の敵だらけだっ!」

「しかも勇者志望者の中に突っ込むとかっ! 地雷原でダンスするようなもの……っ!?」



 講義するレラの両肩を、ピリカが痛いほどの勢いで掴んできた。その目は、光源と見間違うほどの光を放っている。



「出ようっ!!!」



「絶対に駄目っ!!」



「レー君だって興味あるくせにっ! 欲望に忠実になりなよ! この真面目ぶりっ!」



「頭に未知詰め込みすぎて脳みそ溶けたんじゃねぇのかっ!? この未知マニアッ!!」

「大体っ! 魔物の俺達が合格するはずねぇだろっ!?」

「速攻バレて、袋叩きがオチだっ!」



「ふふふっ! わたしは知ったのよ……レー君」

「未知は、知るだけじゃ意味が無い…………体験して、初めて価値があるっ!」

「決め付ける事、それが最も! 未知を見失う愚かな行為っ!」

「わたしはこの欲求に抗えない! 知りたい、見たい、やってみたいっ!」

「出よう! レー君っ!!」

「魔物が勇者選別に出た結果、どうなるか……知りたい知りたい知りたい知りたい…………」



 こうなったピリカは、もはや新種の魔物と化す。レラはどうにか押さえ込める策を思考するが、そうこうしてる内に、ズルズルと大聖堂へ引きずられて行っている。



「やめろおおおおおおおっ! 自殺志願者も真っ青な自殺はやめてくれえええっ!」



「もー、じゃあ今日お風呂で身体洗ってあげるからさー」

「ね? それで手を打ってよ」



「それ罰ゲームだろうがっ!」



 ちなみに、これは照れ隠しでは無い。幼少期、レラはピリカと一緒に風呂に入った時、全身を隅々まで弄られた経験がある。ピリカ曰く「未知への欲求に勝てなかった」、らしいが、レラにとっては立派なトラウマと化していた。



「むぅ……じゃあお姉ちゃん一人で行っちゃうけどー?」

「……どんな時でも、傍に居てくれるんじゃないの?」



「……うっ」



 それを言われると、弱いのである。



「…………どうなっても、知らないぞ」



「その時はレー君が、護ってくれるでしょ♪」



「…………この馬鹿」



 結局、レラとピリカは種族を偽り…………勇者選別へと望む事になった。キラキラとしているピリカとは対照的に、レラは周囲警戒で手一杯である。



(……くっそ、いつバレてもおかしくない……)

(周りは勇者志願者、基本的に敵だらけ……っ!)

(ピリカ、気をつけて……)



「あっはーっ! 燃えてきましたよぉっ!」



(…………駄目だこりゃ……)



 既に声は、届いていない。レラは倒れそうになるのを、必死に堪えていた。ちなみに参加者からは怪訝な目を終始向けられている。




 しばらくして大聖堂の奥から、神官が出てきた。勇者選別が、始まってしまうのだ。



「さてさてっ! 何をするのですかっ!?」



「あなた、それすら知らないのっ!?」



「未知の香りっ!」

「よければ、教えてくれませんか!?」



「あ、え……いや良いけど…………」



 大聖堂の中に入りながら、ピリカは隣の女性にキラキラな視線を向ける。戸惑いながらも、女性は親切にしてくれた。



「勇者選別は4段階の試験があるのよ」

「最初は筆記、魔法や魔物、歴史についての基本知識ね」

「次は魔力検定……魔術学校とかでよくやる奴よ」

「その次が実技、力試しね」

「んで、最後に神様からの加護って奴」

「問題なく点稼いで、加護が下りてきたら……晴れて勇者ってわけよ」




「筆記……知り得た未知を発揮する機会……これはご褒美ですねっ!?」




「あなた……変な人ね、間違いないわ」




 隣で聞いていたが、レラにはフォロー出来そうも無い。呆れていると、前から紙が配られてきた。次々と紙が回ってきて、結局数十枚ほどの紙が手元に溜まってしまう。その量にウンザリしそうになるが、周りを見ると多くの者が「マジ? こんなにあんの!?」と言いたげな顔をしている。一人だけキラキラしている見知った顔は、この際無視する事にしよう。



(さて……筆記試験ね……)

(どんなものかは知ってるが、実際にやるのは初めてだな……)



「初体験なのですよーーーーーっ!」



「そこっ! 私語は慎みなさいっ!」



「この知識は既にわたしの頭の図書館に……っ!」



「私語は慎んでっ!!」



「あ、すいません……」



(……馬鹿だな……)



 周りの迷惑そうな顔を見ると、申し訳なさすら感じてしまう。レラは呆れつつも、用紙に目を通し始める。カリアの図書館で多くの本を読み漁ったレラにとって、欠伸をしながら答えられるレベルの問題だった。ピリカなら、もっと余裕でクリアするだろう。



(……歴史上、唯一魔王を討ち取った勇者の名前は…………か)

(……なんだかなぁ……)



 レラは複雑な気持ちで、問題用紙を埋めていった。全て埋め終わる頃には、ピリカの寝息が聞こえていた。



「そこっ! 寝ないでくださいっ!」



「なら、追加の問題を要求するのですよ……」



「あなた何しに来たんですかっ!?」



 あの図太さには、尊敬の念すら抱いてしまう。鉛筆を指で回しながら、レラは苦笑いを浮かべていた。用紙が回収され、今度は水晶の様な物が運ばれてきた。



「これはなんですかーっ!?」



「知らないのっ!?」



「説明希望っ!」



「えぇ……これ魔力測定の魔水晶よ?」

「魔術学校行ってないの?」



「行ってませんっ!」



「それでよく選別受けに来たわね……」

「この水晶は特殊加工されてて、魔力を数値化できるの」

「魔力を込めるだけでいいのよ、こんなの作っちゃうなんて、フローラル姫って天才よねぇ」



「? 魔力込めるだけでいいんですか?」



「えぇ、大体3桁出れば上々だとおも……」



(嫌な予感が……)

「おいピリカ、加減し……」



「ほっ」



 レラの静止を無視し、ピリカは水晶に魔力を込める。水晶は7000の数値を叩き出し、その表面にヒビを入れた。森の外だろうが、しっかり魔素を蓄えておけば、ピリカの魔力は上級魔族すら凌駕しかねない。



「………………4桁?」

「え、なに……故障?」



「次はどうするんですかっ!」



(うっわぁ…………周り真っ白…………)



 ちなみにレラの数値は816、セーブしたのだが、それでも驚かれた。他の者が数値を測っている間、ピリカは3回測り直しをしていたが、記録更新で7019という化け物じみた結果となった。



「次は実技なのですよー!」

「流石にこれは何するか分かるのですよっ!」



「おいピリカ……目立ってる……」

「少しは加減しろ……!」



「え、試験は全力全開って本に……」



(せめて魔物と怪しまれない範囲で全力出せっ!!)



(レー君は心配性だなぁ……)



 小声で話している内に、武装した兵士が何人か入ってきた。場所を移し、彼らを相手に力を示す事になるらしい。



「じゃあ次の人、入って」



「はいはいはーいっ! 入りますよー!」



「元気がいいね、けど緊張感が足りないぞ?」



 ピリカの番だが、レラは相手の無事を祈るので精一杯である。この選別の為に大聖堂の一角に設けられた、修練場のような広間。そこでピリカは、鎧で武装した兵と向き合った。



「遠慮は要らない、全力で来なさい」

「さ、どうぞ」



「? これがレディーファーストって奴ですか?」

「……うーん」



 ピリカはレラの方をチラッと見て、少し考える。これでも頭の中では結構考えている方だ、本気で魔法を使うのが不味い事くらい、ピリカでも分かってる。



「あの子って魔法タイプだよね」


「じゃなきゃ、あの魔力はおかしいって」


「実技は近接戦主体だしなぁ……魔法使い系はきっついよなぁ」




(そうだといいな……)




 ワイワイと観戦モードな勇者志望者達だが、ピリカの強さをよく知っているレラは、ボロが出ないよう祈るので大忙しだ。



(……レー君ったら、心配そうな顔しちゃって……)

(そんなに信用ないかなぁ……もぉ……)

「……よっと」



 緑色の長髪を靡かせ、ピリカは虚空に手を伸ばす。風が集まり、周囲に擬態させていた木製の弓がピリカの手に納まった。



「ほぉ、風魔法の応用で武器を隠し持っていたのか」

「だが、弓を使うには、間合いが厳しいんじゃないか、なっ!」



 模造刀を手に、兵士が距離を詰めてくる。ピリカは後ろに下がるのではなく、自らも前に出た。




突風の矢筒アヨプゲイル




 ピリカの弓に、矢は無い。実体の矢の代わりに、風の矢が番われる。弓の弦を引くのも、ピリカじゃなく風だ。つまり、片手で構えるだけで、その弓は機能する。兵が剣を構える前に、ピリカは風の矢で相手の剣を弾き飛ばす。動きを止めた兵の隙を付き、相手の頭上を飛び越えながら、風の矢で鎧の結合部分を破壊した。



 鎧が音を立てて地面に落下し、兵は動揺から体勢を崩した。そんな兵の顎の下に、ピリカは素早く手を差し込む。一瞬強い風が巻き上がり、兵士のつけていた兜が宙に舞った。その兜を頭でキャッチし、ピリカはレラにウィンクを飛ばす。




「えっへへ♪」




「…………目立つなって言ったろうに……」




 呆れつつ、レラは苦笑してしまう。ちなみにレラの結果だが、相手が動く前に峰打ちで終了。時間にして3秒だ。



「結局注目集めちゃったねー」



「何でわざわざ弓を出したんだ、瞬殺すればそんなに目立たなかったろ」



「レー君に格好いいとこ見せたいなぁってお姉ちゃん心だよ」



 何故それを今ここで出すのか、レラは脱力してしまう。結局怪しまれるどころか、「何か凄い奴等」として、良い感じの距離を保つ事が出来ているわけだが……。




(問題は、ここだな)




 神の加護……申し訳ないが、下りてくる気がしなかった。自分達は魔物、神が魔物に加護を与えるとは到底思えない。何より、この加護はクロノに下りてこなかった物だ。自分達に資格があって、クロノにない。そんな風には、どうして思えないのだ。



「レー君、眩し……」



「ん? なっ!?」



 大聖堂が光に包まれ、視界が0になった。光の海の中、レラは確かに何者かの声を聞いた。



「……誰だ……?」



『魔物の子よ』

『汝が力を求める理由を申せ』



「…………!? なっ……」

「力? そんなの……」

「ピリカの、大事な奴の……為だ」

「それと、友達の、為……」



『…………汝の目指す先に、微力ながら加護を』

『願わくば、正しき力に目覚めてくれ』



 正しき力、それがなんなのか……問う時間も無かった。光の海から開放されたレラは、気がつくと大聖堂の中で呆然としていた。



「加護を与えられし、新たなる勇者よ!」

「自らの輝きし右手で、神の加護を装備品へと注ぎたまえっ!」

「勇者としての証を、刻みたまえっ!」



 神官が何やら叫んでいるが、その言葉でハッとした。自分の右手を見ると、神官の言うとおり、金色に輝く右手がそこにあった。




「…………嘘だろ、おい……」




 加護は、確かに下りてきたのだ。
























 大聖堂をそそくさと後にしたレラとピリカ、二人は街の裏通りで顔を見合わせていた。



「…………どう思う?」



「どうもこうも……勇者になっちゃったんでしょ?」



 ピリカも、あの声を聞いたらしい。ピリカ曰く「エルフの子」とハッキリ言われたそうだ。あの声の正体が神だとすれば、自分達が魔物だというのはバレバレだったようだ。それなのに、神の加護を与えた事になる。



「……刻んだのか?」



「そりゃ……ね……」

「レー君は?」



「そりゃ……なぁ?」



 勇者の証を刻まれた物は、壊れる事が無くなると言う。それだけではなく、持ち主以外が本来の用途で使えなくなる効果もある。勇者の証が刻まれた剣は折れることがなくなり、持ち主以外が使っても何も斬れはしない。鎧も、持ち主以外が着る事が出来なくなるのだ。



「加護って言うか……呪いみてぇだよな」

「ピリカは何に刻んだんだ?」



「レー君から貰ったお守り」

「どうせレー君も、わたしのあげたお守りに刻んだんでしょ?」

「これ、他人ならどうなんのかな? 本来の用途で使えないって……?」



「持てなくなんじゃねぇの」

「まぁ……知らんが……」



 証が刻まれたお守りを握り締め、レラは複雑な顔をしていた。何故、自分達に加護が下りたのか……不可解な点が多すぎるのだ。



「……勇者の証を使えば、色んな特典を利用出来るね」

「情報も、集めやすくなるね」



「…………薄々気がついてたが、やっぱそれ狙いだったのか」



「えへへ、レー君にはバレるよね……そりゃ」



 いつものふざけた様子じゃない、ピリカがいってる情報は……恐らく両親の仇の情報だろう。



「今はさ、考えても答えの出ない事が多すぎるから」

「未知を知るために、手の届く範囲で調べていこうよ」




「……魔物が勇者とか、笑えないっつの」




「んー……今言える事は全部推測になっちゃうけどさ」

「神様って、天界・アナスタシアで天使達と一緒にいるんだよね?」

「天使達は、通称・光の精霊でしょ?」

「で、魔族は闇属性を宿す、と」

「属性論で行くなら、表裏一体……根っこの部分が一緒なんじゃないかなーって」




「だから、魔物だって関係なく加護を宿すってか?」

「……正直、さっきの選別……落ちた奴殆ど居なかったろ」

「言っちゃ悪いが、柄の悪い奴等も受かってた」

「…………ならなんで、クロノが落ちる?」




「……未知、だね」

「まぁ、今は答えが出せないし!」

「いつか、答えを出せるように……わたしは進むよ!」




「……元気は、出たのか?」




「ずっと考えてたんだよ」

「で、やっぱり決めたの」

「パパとママが何で死ななきゃならなかったのか、それを知ってから答えを出すって」

「それとね、今決めた」

「クロノ様が勇者として動けないなら、わたし達が勇者として手伝おうって」

「未知を求めるだけじゃなくて、得た知識で大事な人を助ける」

「それが、私の目指す先」




「……クロノの夢は、俺達の夢でもある……ってか」

「いいんじゃないか? 成り行きで手に入れた証だが……」

「あいつの役に立つなら、持ってて損はなさそうだ」



 何より、ピリカがそれを目指すなら……自分はそれに従うだけだ。



「それじゃまずはこの証を使って、堂々と図書館へ入るのですよ…………っ!」

「勇者権限を使えば……門限なんてあってないようなもの……うへへへへ……っ!」




「台無しだよ……」




 早速悪用スレスレの運用法だが、これでいいのだろうか。



 勇者ナンバー『1273-31』・レラ=エムシ。


 勇者ナンバー『1273-32』・ピリカ=ケトゥシ。



 彼等がラベネ・ラグナの図書館に入り浸り、超絶天才の姫と遭遇。姫の目に留まり、大会に参加することになるのは、これから四日後の事だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ