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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十一章 『幻想揺らめく、魔族の大陸』
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第百五十六話 『世界の鍵』

 最後の最後に貫かれた右肩。貫かれた理由は油断と、巨山嶽きょざんがくが切れていたせいだ。紅蓮・活火山を撃った瞬間、精霊技能エレメントフォースが撃った箇所から抜け出てしまったのだ。大きすぎる威力に引っ張られ、自分の身体に纏わせていた力全てが剥ぎ取られてしまった。




(…………今の俺じゃ、リスクが大きすぎるってわけだ……)




 扱いきれない力は、簡単に自らの身を滅ぼす。クロノは貫かれた右肩を押さえながら、ゆっくりと息を吐いた。何度も死に掛けたが、ギリギリで命拾いをしたのだ。



「ディムラ、ありがとう」

「お前が助けてくれなかったら、死んでたよ」




「たはは、気にしなくてええよ」

「君を生かしておいた方が、面白そうやからね」

「君から、エフィクト君と同じ面白さを感じるわ」



 お気楽な笑みを浮かべながら、ディムラは首を鳴らしていた。掴み所のない四天王だが、悪い奴じゃない事は確かだ。何とか立ち上がったクロノは、無言で立ち尽くすセシルに気がついた。セシルはノクスに切断された建物を見て、少し悲しそうな顔をしている。



「……あの酒場って……やっぱり……」



「……ルーンの好きなお酒、あってね……?」

「よく、みんなで集まったお店なんだよぉ……」



「色んな魔物と飲んでたのを、覚えてる」

「変わり果てたのを見ると、時間の経過を実感するね」



「……ごめん、俺のせいで……」



「クロノ、悪く、ない…………」

「誰も、悪く、ない……」



「振り返ってる暇は、ねぇからな」

「ここに残る記憶は、優しすぎる」



 この街で何があったのか、どうして滅んだのか。それを聞くには、まだ早すぎるのだろう。この街の魔力が見せた光景を決して忘れないと、クロノは胸に誓うのだった。



「なんかシリアスなとこ悪いけどー」

「ヘルバウンドの群れが近づいとるから、そろそろ逃げたほうええで~」



 いつの間にか背の高い建物の上に登っていたディムラが、危機感を感じさせない声でそんな事を叫ぶ。



「ヘルバウンド?」



「魔獣の一種だね、超凶暴な犬と思えばいいよ」

「とりあえず、襲われれば骨も残らないだろうね」



「懐かしいねぇ、ルーン以外に懐かなかったっけ」



「ベルの手が食い千切られたのは覚えてるな」



「そもそも、あれ、懐かせるのが……異常……」



 昔話もいいが、現状クロノの身体はボロボロだ。そんなデンジャラスなわんこと戯れる余裕は無い。



「ちょ、早く逃げ……」



「逃げるんやったら、こっちや」

「ついといでっと……」



 ディムラが建物の屋根から飛び降り、手招きしてくる。クロノはそれに従い、ディムラの後を追いかける。



「セシル! 行こう!」



「…………」



 立ち尽くすセシルの表情は、泣くのを我慢している少女のようだった。何故か分からないが、そんな顔は見たくなかった。



「セシ…………」

「…………っ!」



 呼んでも無駄と悟ったクロノは、セシルの耳の後ろを撫で上げた。



「キャアアアアアアアアアアアアッ!?」



「おぉ、本当に弱い」



「きさ、きき……貴様っ!? なになな何を……!!」



 電気を流したように震え、顔を真っ赤にしたセシルがこちらを睨んでくる。尻尾で殴られるかと思ったが、肝心の尻尾は力無く垂れ下がっていた。どうやら、力が入ってないらしい。これ以上ないほど顔を真っ赤にしているセシルの手を取り、無理やり引っ張った。



「……行こう」

「まだ、ここは俺には早い」



「…………」

「そう、だな」



「また来るから」

「必ず、来るから」



 そう言って、クロノは前を見た。逃げ帰るわけじゃない、ここはまだずっと先のステージだ。進み続ければ、またここを訪れる事になるだろう。その時は、また違った物を見れると確信していた。その時まで、少しだけお別れだ。



「クロノ君、また来るってそれほんと?」




「そりゃ……勿論」




「ふぅん……ならあっちの山みてみ」

「山の間に、尖がったなんか見えるやろ」

「あれが魔王城、我等が魔王様の引きこもっとる場所や」



 ディムラが指差す先に、確かに何かがチラッと見えた。まだシルエットしか見えなかったが、自分の目指すべき物が、ほんの少しだけ顔を出した。



「遠いで?」

「距離とかの話やない、エフィクト君は壁の中に引きこもっとる」

「それでも、目指すんか?」




「言ったろ、俺の夢は人と魔物の共存だ」

「魔物の王様と話も付けずに、何が共存だっての」




「ふぅん……?」

「ええなぁ、ワイ……クロノ君の事気に入ったで」



 心底楽しそうに、ディムラは笑っていた。

























 ディムラの案内のおかげで、クロノ達は無事に橋の元へ戻ってこれた。随分ボロボロになったが、これでもう帰るだけだ。



「あのクソ雑魚勇者達は、もう橋の向こう側や」

「勿論一人も死んでないで? 出来ればもう来させんといてや、詰まらんし」



「あ、あぁ」

「本当にありがとうな、凄い感謝してる」



「いやいや、ええよそんな」

「ワイの方こそありがとな、この先しばらく退屈しなくて済みそうや」



 その言葉の意味が分からず、クロノは首を傾げた。そんなクロノに対し、ディムラは楽しそうに笑顔を浮かべる。



「四天王として、夢見る少年に助言や」

「クロノ君、魔核集めるだけじゃ……エフィクト君には届かんよ」




「え?」




「鍵や、鍵を集めるとええ」



 そう言いつつ、ディムラは右手の甲から一本の鍵を抜き取った。鍵には『魔』の文字が刻まれている。



「これは四天王の鍵、刻まれた文字は今の四天王の種を表しとる」

「今の四天王の種は鳥人種ハーピーのシアちゃん、獣人種ビーストの茜ちゃん、幻龍種ドラゴニュートのセシルちゃん、それと種族不明のワイ……」

「つまり鍵の文字は、『鳥』、『獣』、『龍』、『魔』の4つや」

「あ、ちなみにワイの『魔』は暫定やから♪ 種族分からんから、魔物の魔や」




「適当だなぁ……」




「こーゆうのは勢いが大事なんや」

「この鍵、ワイら四天王も何に使うか余裕で分からん」

「せやけど、今のエフィクト君が唯一……重要そうにワイらに託した鍵や」

「きっと秘密がある、エフィクト君に迫る為の……なんかがきっとある」



 鍵をクルクルと回しながら、ディムラはニヤニヤと笑っていた。その何かに、期待するように。



「鍵の在り処やけど、ワイの知る限り結構難儀やで」

「まず『獣』の鍵やけど、今の茜ちゃんは鍵守るどころの騒ぎやない子狐や」

「側近の八尾が、信用に足る獣人種ビーストに預けたって話やけど……」




「あぁ、獣の鍵ならもう持ってるよ」




「持っとるんかいっ!?」

「なんやねんっ! クロノ君有能で困るわぁ!」



 ロニアから託された鍵が、まさか茜と繋がっているとは思わなかった。今度ロニアに会った時、その辺の繋がりを聞いてみたい。



「まぁええわ……次は『鳥』の鍵……シアちゃんの鍵や」

「この前聞いてみたんやけど……ものごっつ怖い顔されたわ……」

「何でも、『この世で一番大切な存在』に預けたって話やで」

「それが誰なのか聞いてみたら、上半身蹴りで消し飛ばされたわ」

「今時の四天王は凶暴であかんね……」




(…………この世で一番、大切な…………?)




「んでセシルちゃんの『龍』の鍵やけど」

「セシルちゃんってば前の四天王、『氷装』の霧雨君を叩きのめして、『氷』の鍵を奪い取ったんや」

「その時点で『氷』の鍵が『龍』に上書きされたんやけど~」

「セシルちゃんってば、『こんなもん知るかぁっ!』って鍵を魔王城の部屋ん中にぶん投げちゃったやん?」

「その鍵、エフィクト君が信頼出来る龍族に勝手に預けてたから、行方知れずや♪」




「セシルーーーーーーーーーーーッ!!」



「なんだっ! 仕方ないだろうっ! あの時は色々あったのだっ!」



「セシルちゃんってば何で物に対して適当なのさぁっ!」



「攻略アイテムを捨てるとか何考えてるんだっ!」



「頭、痛い……」



「つか魔王から授かった重要物捨てんなよ……」



 セシルのおかげで、鍵探しの難航が確定した。



「んで、ワイの鍵はこれや」

「誰にも預けとらんし、これの入手は簡単やで?」

「ワイは魔王城で、ず~っと待っとる」

「倒して奪ってみ? 君が来るのを楽しみにしとるで」




「…………!」



 

 鍵を右手で弄ぶディムラが、楽しそうに笑っていた。まだまだ手は届きそうにないが、その時は必ずやってくる。クロノはディムラを真っ直ぐ見据え、静かに頷いた。




「たはは♪ 楽しみやねぇ」




「不気味な奴だ」




「うへぇ、セシルちゃんは手厳しいわぁ」

「そんな邪険にせんといてやぁ、正体不明ってだけやん~」




「自らの正体を不明と語る奴を、どう信用しろと言うのだ」




「…………確かにワイは、自分の種族も名前も、生まれも、な~んも知らん」

「けどな、割といるで? そーゆうの」

「例えばクロノ君、君どこで生まれたか覚えとる?」




「? いや、知らない」

「母さんと世界中旅してたし、どっかで生まれたんだろ」




「ほらな?」




「これは、ただの馬鹿タレだろう」




 呆れた様子で、セシルは橋に向かって歩き出す。そんなセシルを、ディムラは楽しそうに眺めていた。



「セシルちゃ~ん? 最後に一個聞いてええかな~?」



「…………何だ」



「エフィクト君の本名、知っとる?」



「…………? 奴に本名はない」

「エフィクト、と言う名前自体……ルーンが名付けた物だ」



「たはは、正解や」

「つまり、知らずに一緒にいるんやな」



「……? 何が言いたい?」



「いいや、セシルちゃんも…………ほんまおもろいなぁって思ってね」

「また会える日を楽しみにしとるで、お二人さん」



 無邪気に手を振るディムラに手を振り返し、クロノは橋を渡り始める。四天王に見送られ、クロノ達は魔族の大陸を後にするのだった。



「今回は、色々あったなぁ……」



「大会の出場者を探す旅の筈なのだが……また随分寄り道をしたな」



「それを言うなって……俺的には大きな経験だったんだからさ」

「……気になることも、沢山出来たし」



「……ふん」

「何を見たのか知らんが、精々身の丈にあった道を選べ」

「今回の件で、それも出来なくなったかも知れんがな」



 討魔紅蓮に堂々と喧嘩を売ってしまった為、今後どうなるかは正直分からない。肩に穴は開き、左腕は焦げて酷い有様だ。だが、後悔はしていない。放っておく事は出来なかったし、誰一人犠牲は出さなかった。




「それだけで、十分だよ」




「やはり、貴様は馬鹿タレだ」




 セシルが呆れたように笑った瞬間、朝日が背後からクロノ達を照らした。朝日の輝きと共に、橋を渡りきったクロノ達、彼等を勇者達が出迎えるのは、このすぐ後の話だ。



















































「あ~楽しかったで~」

「……なんや、やっぱだんまりかい」



 何故か窓を蹴り破り、そこから魔王城の中に戻るディムラ。飛び降りた先は、魔王の間だ。



「いやぁおもろい子に会ったんや! あの子がここまで来る日が楽しみやねぇ」

「って……魔王城に攻め込まれるの楽しみにするって……四天王としてどうなん……?」



 窓から差し込む光以外、一切光源のない室内。朝だというのに、非情に暗かった。そんな室内を、ディムラは我が物顔で歩いている。



「……少しくらい反応してやぁ……独り言みたいで寂しいやん」

「あ、そうそう……セシルちゃんも元気そうやったで?」

「セシルちゃんの鍵、誰に渡したん~?」



 玉座に向かって、ディムラは笑顔で話しかけ続ける。そこに座る存在は、一切反応を示さなかった。



「……今日会った子な? クロノ君って言うんやけど」

「いつか、ここに来るって言ってたで?」

「君と話付けに来るって、言い切ってたで~♪」



 ニコニコと笑うディムラの右半身が、黒い乱気流に消し飛ばされた。血飛沫すら吹き飛ばし、衝撃波がディムラの背後の壁を抉る。何事も無かったかのように、ディムラは吹き飛んだ右半身を作り直す。依然、笑顔のままで。



「……君が反応を示す瞬間、凄い好きやで」

「何を待ってるのか、興味が尽きないなぁ」

「あぁ! それと……セシルちゃんも知らないんやね? 君の本名」

「やっぱ、ルーン君と、奥さんくらいなん? それやったら知らんのも無理ないわな」



 笑顔のまま語るディムラだったが、暗闇から強烈な殺気が発せられた。その殺気が、ディムラの動きを縛り上げる。笑顔は崩さなかったが、ディムラは冷や汗を流していた。



「おぉう……怖……」

「そんな怖い顔せんといてや……ワイは邪魔したいわけじゃないんや」

「ただ……君の待ってる物に興味があるだけやで?」

「なぁ? エフィクト・シェバルツ君?」




「……ディムラ、口が過ぎるぞ」




「久々やね、口開くの」




「二度は言わん、立場を弁えろ」




「たはは……♪ 魔王様の仰せのままに~」



 この世界には、秘密がある。


 答え合わせは、まだずっと先だ。



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