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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
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第十六話 『人とエルフの第一歩』

「ふぃ~……何とか終わったのですーっ!」



 全てのエルフの解毒が終わったのか、ピリカがこちらに駆け寄ってくる。



「えと、クロノ様、色々お世話になりましたっ!」



「それと、セシル様も……」



 深々と頭を下げるピリカに、クロノは戸惑う。



「私は何もしておらんぞ」



「お、俺だってその、結局何もできなくて……」



「いえ、お二人の言葉があったから、わたしはわかったんです」



 笑顔でそう言うピリカの表情に、もう迷いはないようだった。




「ピリカ=ケトゥシよ、話がある」




 その背後から、エルフの族長が声をかけてきた。




「族長……!」




 振り返りながら呟くピリカの声には不安が感じられた。一連の騒ぎはピリカが外に出たいと願い、リーガルに騙された事が原因だ。族長として、見逃すわけにはいかないのだろう。




「大体の事情は分かっとるつもりじゃ」


「お主が引き起こした事でもあるが、お主が毒を払ったのも事実じゃからのう……」



 そう言いながら、顎鬚を弄りながら考える。



「今後一切、森の外へ出ることを禁ずる」



「お主の罪はそれで不問としようぞ」



 それはピリカに取って、一番重い処罰と言えた。




「……ッ! 族長っ!!」




 ピリカは待ってくださいと訴えるが、族長が耳を貸す様子は無い。




「外に憧れ、他族と関わった故に起こった事じゃ」



「もう、変な考えは起こさぬようにな」



 そう言い、背を向ける族長にセシルが口を開こうとする。






「ちょっと待てよ、じじい」






 それより早く、クロノが口を開いていた、その場にいる全員の視線がクロノに集まる。



「人の子よ、お主も騙され、利用されたらしいのぅ」



「それにお主はエルフの為、奴らと戦ってもくれた」



「その点を考慮し、お主らへの罰はなかったこととしよう」



「だから、もう我らに関わらないでくれぬか……」



 そう言ってクロノの方を向く、その言葉は交流への拒絶とも取れた。






「絶対に嫌だ、断固断る」






 即答する、当然だ。





「こっちの話もロクに聞かないで、理解もしようとしないで突っぱねられて、納得なんてできないです」



 交流以前に会話も出来やしない、いい加減限界だった、少しやばいかなとも思うが、この際言ってやる。



「セシルから聞きました、五百年前のエルフがどんな種族だったか」


「それなのに、どうして今のエルフはそんなに知ることを怖がるのですか」


「どうして頑なに、理解する事を恐れるのですか」



 必死に言葉を繋ぐ、ここで切られれば後はない。




「知れば後悔し、理解すれば裏切られる」



「五百年前から我らはそう学習した、交流など不要と判断した」



「それだけじゃ」




クロノを見据え、族長は言い放つ。



「他族との交流は、我らにリスクにしかならん」



「我らは種として、最も利口な有り方を選んだに過ぎんよ」



「それを臆病と捉えられても、構わぬ」






「貴様らは信じて裏切られた、だから諦めたと言うのか」




 セシルが口を開いた。




「五百年前、お前らは『彼』の言葉を信じて賭けた」



「それが失敗し、絶望し、諦めたのか」



 セシルの言葉に、族長は反応した。





「竜の子よ、お主が何故、その話を知っておるかはわからぬが……」



「事実、あの者は失敗した」



 空を見上げ、過去を思い出すかのように目を閉じる。





「あの者ですら失敗した夢じゃ……、残された我らに何が出来るというのじゃ」




「何が出来るか、と言うのなら」



「本当にアイツを信じていたと言うのならば、もう一度賭けてみる気はないか?」




 そう言ってクロノを見る。



「クロノよ、貴様の夢は何だ」



 セシルの意図は、やはり分からない、だが、言うべき答えは分かった。



「俺の夢は、多種族共存だ」



「人も魔物も関係ない、手を取り合って共存する世界を成す事」



 真っ直ぐと、偽らずに答える。





「それが、俺の夢だ」





 族長の目を見て、自身の夢を語る、その言葉に族長は目を見開いた。





「まさか…………、その言葉は……」





信じられぬ、と族長はクロノの顔を見る、そして、顔を伏せた。




「意思は、残っておると言うのか……あの男の意思は……今も……」




 そう言って、その場に崩れ落ちる。




 途中から話を聞いていた周囲のエルフ達の中にも、クロノの言葉に驚きを隠せない者達がいた。



「『彼』と違い、コイツは弱い」



「あまりにも弱く、頼りない」




 『彼』が誰かは知らないが、酷い言われ様である。




「だが、コイツは『彼』と同じくらいの大馬鹿だ」



「どうだエルフの族長よ、もう一度賭けてみる気はないだろうか」



 周りのエルフ達が、ザワザワと騒ぎ出す。





 その言葉に族長は、俯きながら答える。



「遅すぎたやも、知れん……」



「……今のエルフに、こやつを信じられる者がおるだろうか……」



「我らエルフはすでに諦め、あの者を裏切った……」



「今更、それが許されるとは思えぬ……」



 消え入りそうな声、その言葉を遮ったのはレラだった。



「族長、恐れながら申しますが……俺はこの男の言葉を信じたいと思います」



「この男の言葉を信じたいと、不思議とそう思えたのです」



 クロノの肩に手を置き、僅かに笑みを浮かべて言った。



「わたしも信じます! 信じていますっ!!」



「クロノ様の言う共存の世界、そのお手伝いをしたいとも思います!」



 ピリカも必死に自分の意志を伝える。




「エルフの族長よ、確かに貴様らは諦めたのかもしれないな」




 だが、と一旦黙り、




「まだエルフの誇りは、残っているようだぞ?」




 そう言って、セシルはピリカを見る、ピリカはその視線に気がつき、セシルの言葉を思い出していた。




クロノが戦闘中だったあの時、セシルはピリカのたった一つの過ちを伝えていた。それは森を出るのに、誰かに手を借りようとしたこと、自分で檻を破ろうとしなかった事。




(自由は自分で掴み取れ、臆病者……耳が痛い限りです……)



(けど、その通りなのですよ……!)




 決意を固め、ピリカは族長に向き合う。




「族長、わたしはやっぱり外に出たいです」



「知らないことを知りたいから、どうしても気になるから」



「だから、何と言われても外に出ます」



「一人でも、絶対出ますっ!」



「傷付いても、理解されなくても、それでもわたしは外へ出ますっ!!」



 それだけは譲れないと、そんなピリカの言葉にレラが続いた。



「その時は俺も一緒に行く、俺も外を知りたい」



「族長、俺も森の外を見てみたいです」



 本心からの言葉を、族長に告げた。



「レー君……」




「約束したしな、一人じゃ行かせないって」



 その言葉を聞き、族長は未だ俯いたまま答える。



「人の子よ……お主の夢……信じても良いのか……」



「もう一度、我らは信じても良いのか……」



 若い者の中に確かに残る先祖の有り方、それを見て族長は昔を思い出していた。昔、同じように共存を訴えたあの『大馬鹿な勇者』を思い出していた。




 その言葉にクロノは一瞬考え、族長に歩み寄る。




 難しい話は分からないし、偉そうな事を言える立場でもない、だから深く考えるのはやめて、クロノは正直に言った。




「俺は凄い奴じゃないですけど、自分の夢を途中で諦めるつもりはないです」



「だから信じてほしいし、手を貸して欲しいとも思います」




 そう言って手を差し出す、それはクロノの中では特別な動作だった。



 子供の頃、泣きじゃくっていた自分を救ってくれた男が、自分にしてくれたように、信じることを恐れ、進むことをやめた種族に、手を差し出した。





「だから、これをエルフと人の交流の第一歩にして欲しいと、思います」





 族長は顔を上げ、クロノを見る、その姿は自分がまだ若い頃、一度だけ見たあの男の姿に重なって見えた。




「……もう一度、踏み出してみるかのぉ…………」




 そう言って族長はクロノの手を取った、そのまま立ち上がり、クロノの目を見て言う。




「ワシらは一度諦めた、だがお主や若いエルフには、あの頃の意志がまだ残っておるようじゃ」



「もう一度、それに賭けてみたくなったよ……」




 そう言って、周囲のエルフに視線を移す。




「ワシはそう思うのじゃが、異論のある者はおるかの?」




 周囲のエルフは少し考えたが、結局異議の有る者は出なかった。









 族長や歳を取ったエルフ達は隠していた先祖の有り方を、若いエルフに伝える事にしたようだ。それで外に興味を持った若いエルフを止めることも、もうしないと言っていた。




「それが元々の我ら、エルフ族じゃからのう……」




 族長はそう言って、年配のエルフが子供や若いエルフに昔話を語る様子を眺めていた。




「あぁ、そうだな




 その隣で、セシルが頷く。




 族長はそんなセシルを横目に、一つの疑問を投げかける。




「竜の子よ、お主は何者じゃ?」




 その言葉にセシルは少し悩んだが、何かを思いついたように空を見上げる。




「私の名はセシル・レディッシュ 今はこれ以上は答えられない」




 その名に、族長は耳を疑う。



「なっ……!? そんな、まさか……っ!」



 有り得ない、とでも言いたそうな目にセシルは少し笑い、




「紛れも無く本人だ、貴様が今思ったセシル・レディッシュ本人だ」





「……貴方様は、何故……?」





「さぁな、その答えを探している」




 空を見上げたまま、セシルは答える。



「私がここにいるのは、『彼』のせいだ」



「何故そんなことをしたのか、私にはまだ分からん」



 セシルはクロノの方に目を移す。

 



「クロノは『彼』と似ていると、思わないか?」




 族長は遠くでエルフ達と話している、クロノに視線をやる。




「似ていますな……、不思議と信じてみたくなるところなどが、特に」






「私がここにいる意味も、『彼』の意図も分からないが……」



「私はクロノに賭けてみたくなった……『彼』の夢を、私は確かに覚えている」



「だから、信じたいんだ……彼の夢は、まだ続いていると



「覚えている私達が未来へ繋げば、彼の夢はきっと消えることはないと、そう思うのだ」




 その言葉を聞きながら、族長はクロノを見ていた、あの男に比べるとあまりに弱く、頼りない。だが、あの男にどこか似ている少年を見て、族長は笑う。




「ワシは一度諦めた……、だがもう一度信じてみるとしよう……」



「弱者だからこそ、見えることもあるじゃろうて……」




 勇者ですらない『ただの大馬鹿』に賭けてみるなど、自分も大概馬鹿かも知れんと族長は笑った。














「クロノ様ーーーーーーっ!!! ありがとうございます!! 本っ当に感謝感激飴霰! 棚から感謝の土石流です!!」



 ピリカは大はしゃぎで飛び回っていた、族長から森の外へ出る正式な許しを貰ったのだ。よく分からない言葉を乱用しながら、とにかく嬉しいのだろう……凄まじいテンションだ。




「あ、あはは……よかったな……」




 そんなピリカに現在進行形で若干引き気味のクロノに、レラは飲み物を渡す。



「ほら、ああなると止めても無駄だしな……ほっとくのが一番だ」



「あぁ、ありがとう」



 飲み物を手渡し、そのままクロノの横に腰を下ろすレラ。






「まぁ、俺からも礼を言うよ クロノの言葉が無ければ、俺達は森から出れなかっただろう」



「最初は森に火を放ったお前等を、どうやって殺してやろうかと考えてたんだけどな」



「そんなお前に、まさか感謝することになるとは、世の中分からない物だな」



 そう言って笑うレラだが、クロノにとっては笑い話になってない。





「俺達は近い内に、森の外へ旅に出るだろう」


「思うままに、知りたいことを知りに行くよ」




「そっか、旅の無事を祈るよ」



 そう言ってクロノは握手を求め、レラはそれに応じる。




「クロノ様は次はどこを目指すのですーーっ!?」




 ピリカがハイテンションのままレラに飛び掛りつつ、クロノに聞いてくる。



「ガファッ!?」



 まともに体当たりを喰らい、レラはピリカの下敷きになった。




「えーっと……、実はまだ決まってないって感じかなぁ……」




 エルフ達が泊まっていけと言ってくれたので、今夜はその好意に甘え泊めて貰う事にしていた。しかし、旅の行く先の予定はまだ決めてはいなかった。




「そーなのですかーっ? クロノ様は他族との交流を深める旅を続けるのですよねー?」



「それならば……」



「えぇい! どけええええっ!!」




 何か言いかけるが、下敷きになっていたレラがピリカをぶん投げる。『ひゃわああああっ』と声を上げながらピリカが飛んでいった。



「だったらシルフの住処を目指してはいかがでしょおおおおっ!!」



 吹っ飛びながらもピリカが叫ぶ、シルフ……?




 その言葉にレラも反応する。




「ふむ、クロノは魔法の扱いは?」



「残念ながら、才能無いってさ……」



 クロノの魔法適正は最低ランク、身に有する魔力が低かったのが原因だ。元々人間で高い魔力を持つのが稀なのだが、クロノの魔力は人並み以下だった。




「なるほどな、ならシルフと契約するのは有りだと思うぞ」




「シルフって、風の精霊だよな?」




 世界には4属性を司る精霊が存在する。



風の精霊・シルフ


大地の精霊・ノーム


水の精霊・ウンディーネ


炎の精霊・サラマンダー



 彼らと契約し精霊の力を行使する者のことを精霊使いと呼び、勇者にも多く見られた。



 精霊は自身が力を貸すに足る誓いを示す者と契約し、その力を貸すとされている。種族関係なく契約は出来るが、他族と比べ力の弱い人間がその力を求める例が最も多い。



 それは魔力を持つ者の行き着く固有技能スキルメントと対を成すと呼べる戦術、精霊技能エレメントフォースと呼ばれるモノだ。



「旅を続ける途中、他族と戦闘になる事も考えられる」



「対抗する力を持っておいたほうが、いいと思うぞ?」



 確かに、今のクロノが他族と戦闘になって勝てる見込みは0に近いだろう。出来れば戦闘そのものをしたくないのだが、一切の争い事を起こさずというのは無理がある。




「精霊との契約か、何か、何かさ……」



「スゲェ勇者っぽくないか……!?」



何やら、とてもそそる物がある響きだった。目がキラキラとしてしまう、



「勇者っぽいかどうかは知らんが、契約はしといたほうがいいと思うな……」



「この森から東に行けば、丁度シルフ達が住む高原があるしな」



 地図を開いて詳しい場所を訪ねると、ここから東、カリア街の北東辺りにその高原は広がってるらしい。



「その辺りには小さな森もあってですねーっ!?」



 復帰したピリカが再びレラに飛び掛るが、今回は回避される頭から地面にダイブしたが、すぐに飛び起きる。



「その小さな森に生える木に、すっごく丈夫で柔軟な蔓が絡まってるんですよーっ!」



「わたし達の弓にも、その蔓を使ってるのですっ!!」



「子供の頃、レー君その蔓に絡まって大変な事になったりも……」



「わあああああああああああっ!?」



 レラが顔を真っ赤にして飛び掛るが、ヒラリと避けられた。



「その話は今関係ねぇだろっ!? 大体ガキの頃の話をいつまでもっ!!」



「だってレー君、さっきから構ってくれないんだもんー」



「小さい頃は、夜眠れないよぅピリカお姉ちゃんって可愛かったのになぁ~……」



「うわああああああああああああああああっ!!!!?」





 目の前で二人のエルフが飛び回っている中、クロノの頭は精霊の事でいっぱいだった。確かに夢を語るには、それ相応の力が伴っていなければいけないだろう。





(次の目標は、シルフと契約する事だ……やってやるっ!)





クロノは強く心に決める。

冒険らしくなってきた事に、胸が高鳴るのを押さえられなかった。



エルフ編はこれでラストとなります。

次回からはシルフ編! お楽しみに~!

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