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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十一章 『幻想揺らめく、魔族の大陸』
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第百五十話 『運命の地』

 地面に投げ飛ばされた衝撃で、ゴルトは意識を取り戻した。顔を上げると、魔核によって架けられた橋の輝きが視界を奪う。化け物に叩きのめされ、絶体絶命の危機だった筈なのだが、いつの間にかウェルミス大陸の入り口に戻されていた。



(なんで……なにがどうなって……)



「いたた……」



「うぅ……?」



 周りを見渡すと、自分と同じ様に気絶していた勇者達が、次々と目を覚ましていた。



「何故私まで手を貸さねばならん」



「まぁまぁ、固い事言うなって」

「お、目を覚ましたな」



 気絶している勇者達を背負いながら、エルフの森で戦った少年が歩いてきた。




「お前が、助けてくれたのか」




「ん? ん~?」

「あぁ、そうだ」

「早く逃げないと、あの四天王が追いかけてくるかもしれない」

「早く橋を渡って、アノールドに戻るんだ」




 何故か所々棒読みだったが、少年は笑顔でそう言った。



「俺はまだやることがある」

「まだ気を失ってる人達は、任せるからな」



 そう言って、少年は駆け出して行ってしまった。




「…………証も持たない小僧に、助けられたってか……」




「何やってんだろうな、俺は……」




 ゴルトは空を見上げ、小さく呟く。ムキになってリーガルの言葉を振り切り、この作戦に参加したが、結局何も変えられなかった。勇者の名に縛られ、暴走していただけだった。結果、自分の情けなさを思い知った。証を持たない子供の方が、勇者らしいとは……笑い話にもならない。





「何が、違ったんだろうな……」





 痛めた右腕を押さえながら、ゴルトは立ち上がる。せめて倒れている勇者を、全員アノールドへ避難させようと、ゴルトは行動を開始した。





















「で? そこまでする必要はあったのか」



「たはは、きっとクロノ君はこっち優先したほうが喜ぶと思ってなぁ」



 軽快な動きでウェルミス大陸を駆け抜けるセシルとクロノ。クロノが右手で顔を覆うと、その身体が一気に変化した。着ている服まで変化し、ディムラの変身が解除された。



「似てた似てた~? 完璧クロノ君やったろ?」



「変化する必要はあったのか……?」



「あのヘタレ勇者共、ワイの顔見ただけでまた気絶しそうやん」



 確かにそうだが、当然のように他の生き物に移り変わるディムラに、セシルは恐怖すら感じた。顔は勿論声、仕草、全てが完璧に変化する。ディムラの能力は、最早変身の一言では済ませられないレベルだった。



(こいつ……厄介だな)



「クロノ君生きとるかなぁ~」



「勇者共を優先して、あの馬鹿タレが死んでいたら……元も子もないぞ」



「たはは、これで死んでたら、その程度だったって事や」

「大丈夫やて、クロノ君はおもろい子や」

「セシルちゃんやて、大丈夫って思ってるから……こっちについてきたんやろ?」

「あ、それとも見てるのが不安だったとか?」




「もう一度焼いてやろうか?」




「おぉ~怖……」

「まぁ、そう心配しなくても大丈夫やで?」

「ほんまクロノ君、おもろい子やわ」

「…………魔力が渦巻いとるわ…………たはは」



 ディムラが遠くの空を見て、心底嬉しそうに笑った。セシルがその方向を見ると、遠くの空に魔力が集中していた。



(…………? あの魔力はなんだ?)

(複数の力が、ごちゃ混ぜになっている様な…………)

(……………………っ!? あの場所は……!)



 魔力が集まっている場所に、セシルは心当たりがあった。動揺がセシルを支配し、セシルは速度を上げてその場所へ急いだ。



「…………分かりやすいなぁ……」

「さて、あの魔力は何を見せるのか……」



「いやぁ……ほんま退屈せんわぁ」



 変わらぬ様子で、ディムラはただただ、笑っていた……。





















 岩を砕き、クロノに襲い掛かる何か。その何かをギリギリで回避しながら、クロノは息を切らせていた。ノクスの体内から飛び出す高速の何かに、クロノは完全に押されていた。



「逃げ回るだけか、ゴキブリでも反撃くらいすんぞ」



「うるさい!」



 挑発に反応しつつも、クロノは空中を逃げ回るだけだ。疾風と心水に集中して、何とか避けられるレベルだ。正直、反撃すらままならない。



(つっても、逃げてるだけじゃいつか喰らうぞ)



(分かってるよ!)

(けどあの攻撃、こっちを追尾してくる!)



 一直線に伸びてくるだけじゃない、一度避けても、こちらを追尾して曲がってくるのだ。何度掠ったか分からない、直撃を食らえば、タダでは済まない。毒の存在もある、このままではジリ貧だ。



(クロノ! ここは賭けだよぉ!)

(一気に烈迅風で、距離を詰めよう!)



(私の……力で……見切って……エティの、力、使って……)

(…………チャンス、作る……から)



 第二段階の精霊技能エレメントフォースじゃなければ、対抗すら出来ないのは明らかだった。消耗が気になるが、もはやそんな事を言っていられる余裕も無い。



(一気に突っ込んで、今の俺の最大火力を叩き込む……)

活火山かっかざんで、吹き飛ばすっ!)




(今のクロノじゃ、腕を壊す危険もあるけど……)




(一撃必殺を狙えるのは、今の所それしかねぇな)

咆哮ロアを撃てれば楽なんだが……嘆いても仕方ねぇ)

(今出来る事で、なんとかすんぞ)



 覚悟は決まった、ノクスの攻撃を察知し、疾風と心水の力で何とか避けた。避けた瞬間に烈迅風を発動し、超スピードでノクス目掛け突っ込む。




「……!」




(烈迅風解除! 金剛&烈火!!)




 ノクスが僅かに表情を変えたが、今更どうすることも出来ないだろう。一気に距離を詰め、クロノは左拳を構えた。炎と大地の力を圧縮した一撃を、ノクス目掛け叩き込む。




活火山かっかざんっ!!」




 爆発音が響き渡り、衝撃が辺りに広がる。確実に当たった筈だが、クロノの拳には妙な手応えが残っていた。




(硬…………?)




「…………立てる牙も……その程度か」

「キィの甲殻は、それじゃ抜けねぇよ」




 クロノの拳を受け止めていたのは、黒い甲殻だ。ノクスの身体から飛び出した百足のような化け物が、ノクスに巻き付くように、鎧の役目を果たしていた。




「…………蟲……!?」




「キィに拳を叩き込むとはな」

「ふざけてんじゃねぇぞ、身の程知らずがっ!!」




 激昂したノクスが、止まっていたクロノを殴り飛ばした。金剛の上からでも、その異常に硬い拳はかなり効いた。




「がっ!?」



「…………なんだ、あれ……!」




 ギチギチと足を動かす百足は、そのままノクスの体内に戻っていく。何事も無かったように近づいてくるノクスだったが、明らかに人外の技だ。



「魔物殺しのトップ、討魔紅蓮のお偉いさんが……化け物とはな……」

虫人種インセクターか……? それとも……」




「僕はれっきとした人間だ、クソゴミ野郎が」




「じゃあなんだよ、今の蟲は」

「体内に化け物飼ってるってのか……!?」



 言い終わる前に、ノクスが飛び掛ってきた。何とか拳を回避したが、凄まじい速度で蹴りが飛んでくる。




「うわっ!」




 何とか受け止めたが、金剛と烈火を組み合わせた力でも、受け止めるのがやっとだった。異常に硬く、そして重い。




「キィは化け物じゃない」

「僕の、家族だ」





「……っ!?」





 そう言うノクスの背中から、さっきの百足がゆっくりと這い出てきた。鉄でも両断しそうな巨大な牙を開きながら、クロノに狙いを定める。クロノの首を食い千切ろうと突っ込んでくる百足を、なんとか顔を逸らして回避した。



 そのままの勢いで、百足は地面に顔を突っ込む。自分の身体でノクスの身体を引っ張り、振り子のようにノクスの身体を操った。その移動方でノクスは円を描き、クロノの背後から蹴りを放つ。




「無茶苦茶しやがる!」

「く、そっ!?」




 両手を顔の前で交差させ、蹴りを受け止める体勢を取るクロノ。ノクスの蹴りが叩き込まれる瞬間、ノクスの足から百足の足が8本ほど飛び出してきた。その辺の鎌より切れ味の良さそうな足が、クロノを防御ごと切り裂いた。とんでもない力で蹴り飛ばされ、クロノは後方に吹っ飛んでしまう。




「ご、は……」




「罪を吐き出すしか能が無い、生ゴミ野郎が……キィを化け物扱いだ?」

「テメェの存在価値を考えてから、物を言えよ……」

「細切れにしてキィの餌にしてやる……喰いやすいよう……細切れだっ!!」




 叫ぶノクスに応えるように、ノクスの腹部から百足が飛び出してきた。クロノは疾風と心水を纏い、再び回避モードに入る。



(クソ、もう頭の中混乱して訳が分からない……)



(あいつが何者だとか、どんな仕組みだとか……一旦置いておくんだ!)

(このままじゃ押し切られる!)



(しかしクロノの未熟な一撃とはいえ、活火山かっかざんでビクともしねぇとはな)

(あの蟲、相当硬いぞ)



(多分、あいつの、硬さ……あの、蟲の、せい)

(皮膚の、下から……サポート、してる)



(うぅ~ん……速い、強い、硬い……ハイスペックだねぇ……)



 強いだけじゃない、あの蟲のせいで、ノクスの動きが予測できない物になっているのだ。あの蟲を軸にした移動方は、人間のそれを凌駕している。どの距離にいても隙が無い、クロノは攻めの手段を失っていた。




(くそ……どうしたら……)




(……単純に逃げても、こいつは追ってくるだろうな)

(ウェルミスから出ても、こいつは構わず追ってくる)

(最悪、他の奴まで巻き込むだろう)



 そんな事は百も承知だ、だからこそ、クロノは交戦を続けているのだから。



(だからってこのまま戦い続けても、いずれ押し切られるよ)



(……一旦落ち着く必要はあるか)

(……気は乗らねぇが……一度身を隠すぞ)



(それが出来れば、苦労はしねぇよ!)



 ここは障害物の殆ど無い、草原のような場所だ。身を隠す場所など、存在しない。



(クロノ、このまま西へ走れ)

(身を隠すには、丁度いい場所がある)



(森かなんかか!?)



(いや、街だ)

(……滅んでるけどな)



 フェルドの言葉に、精霊達が一気に反応した。



(フェルド……)



(仕方ないだろうが、俺だって気は進まねぇよ)



(…………あたし、もうあそこ見たくないよぉ)



(…………ん)



 ここまで乗り気じゃない精霊達は、かなり珍しい。只事じゃなさそうで、クロノは少し躊躇した。




(ウェルミス大陸に、街なんてあったのか……?)




(五百年前に、滅んだけどな)

(俺達とルーンが別れた街……ルーンが創った……共存の一歩目の街だ)




(…………え?)




(俺達にとって、始まりと終わりの街………………リスクセント)

(世界で一番、人と魔の距離が近かった街だ)




 魔力渦巻く、滅んだ街。



 少年は導かれるように、その地へ向かう。



 運命の出会いが、少年を誘おうとしていた。



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