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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
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第十五話 『勇者らしい偽勇者』

 ゴルトと呼ばれた男は、剣を拾うとクロノの方へ歩み寄ってきた。背後から聞こえる足音が近づいてくる。



「ぐっ……」



 リーガルの方を見る、リーガルは足元のエルフの首下に剣を押し付け、こっちを見ながら笑っている。




 『動けばどうなるか、分かるよな?』とでも言いたげに……。




「汚ぇぞ……っ!!」




 クロノは歯噛みする、動くわけにはいかない……、だが動かなくては、殺される。



「うるさいなぁ、死にたくないなら動いていいんだよ?」


「このエルフが代わりに死ぬだけなんだしさ」


「大体さ、何が楽しくてエルフなんて庇うんだかねぇ…・」



 余裕を取り戻したのか、勝ちを確信したか、リーガルは足元のエルフを見て言った。



「他族と共存? 手を取り合う世界? 出来る訳ないでしょう……」


「あっちはこっちに関心なんてないんだよ? どうせ弱っちい劣悪種としか思ってない」


「世の中に魔王が存在し、魔物がいる」


「人々はそれと対立し、勇者は魔物を滅ぼす存在」


「僕達勇者の真の目的は、魔王討伐だ」



 一旦区切り、クロノを見据えて言う。




「人も魔物も区別無く共存する世界……、君は魔王とお友達にでもなるつもりかい?」



 普通の人間なら、そんな考えはイカレてると取られるだろう。クロノはずっと、そんな白い目で見られてきた。



 クロノはその言葉に、昔から同じ答えを返してきた。




「……分かんねぇよ」




 そう、分からなかった、自分の夢がどれだけ果てしない道のりかは想像がつかない。クロノは具体的にどうすればいいか、その結果どうなるかなんて分からなかった。




「だけど、やっぱ俺は変だと思う」



「理解し合える種族もいるかも知れないのに、話し合いもしないで一方的に悪って決め付ける」



「共存の可能性があるんじゃないかって、疑わない奴が全然いないのは、変だと思う……!」




 クロノは最初に共存の夢を語った時、誰もがその言葉を疑った。当時は子供の戯言で済まされた、だが何年経っても、誰に話しても結果は変わらなかった。



 ローに話した時、ある事に気が付いた。



 みんな、共存の可能性を全く考えていない、前提の条件から外れているようでもあったのだ。事実、ローは話を聞いて始めてその可能性に気が付いたようでもあった。



 クロノは歴史の書物を読み漁ったが、魔物が決定的な悪だと言う記述は一切無かった。魔物は人類の敵、その詳しい理由が無く、お互いは相対し合っていた。



 まるでそれが、世界のルールと決められているように……。誰もそれを疑わないのが、クロノにはやはりおかしいと思えた。




「理解し合えない奴らも、いるだろうけどさ」



「絶対、理解し合える奴らもいると思う」




 クロノは、先ほどのレラやピリカとの会話を思い出す。少なくても、あの二人とは理解し合えると、友達になれると……そう思っていた。




 黙ってクロノの話を聞いていたリーガルだったが、ここで口を挟む。




「少なくても、僕には理解できないね」




 それに、と続ける。



「君の戯言ゆめは、どっちにしろここで終わる」



「ゴルト、もう飽きたし、殺していいよ」



 とっくにクロノの背後に立っていたゴルトは、剣を振り上げる。



 


(クソォ……! マジでここで終わりかよ……!)





 死の恐怖と悔しさで、クロノは拳を握り締めるが、恐れていた衝撃はいつもでも襲ってこない。








「分かり合えるかどうかは知らんが、興味はあるな……」




「わたしは分かり合える自信、あるのですーっ!」

 







 聞き覚えのある声が響く、クロノが振り返ると。




 小屋から出てきたピリカと、荒い息のレラがゴルトを気絶させていた。




「なっ…………!?」




 リーガルが驚愕の表情を浮かべる。



「安心しろ、峰打ちだ……」



 ゼェゼェと、レラは息が荒い、恐らく何らかの手段で解毒したのだろうが万全ではなさそうだ。



「ちなみにわたしは、あまり手加減せずに殴りましたよーっ?」



 凄く良い笑顔でピリカがそう言う。そんな二人のエルフを見て、リーガルは叫ぶ。



「な、なんで……お前ら! 何で動ける! 間違いなく毒になった魔素は体内に入ったはずだ!」



「そ、それに……今だってまだ毒は残って……」




「確かに俺は取り込んじまったけどよ……」



今も息が乱れている、結構レラは余裕が無さそうだ。



「わたしは取り込まなかったですよー? リーガル様?」



 天使のような笑顔で、リーガルに取ってあまりにも予想外な事態を告げる。




「毒は取り込まなかったのでー……体内の正常な魔素でレー君を解毒してー」



「後は魔素を取り込まなければいいだけの話ですね! イージーな事ですっ!」




「……ッ! お前ら! 動くなっ!!!」



 身の危険を感じたのか、リーガルは足元のエルフに剣を向ける。



「動けば、このエルフの首を掻っ切るぞっ! 絶対に動くんじゃ……」



 言い終わる前に、リーガルの剣がその手から吹き飛ばされる。




 クロノは何が起きたのか分からなかったが、ピリカが何かをしたのは分かった。ピリカが笑顔で、リーガルに向かって手をかざしていた。




鋭い突風エエンゲイル




「…………は?」



 リーガルも何が起きたのか、脳の理解が追いついていない。



「この事態を引き起こしたのは、わたしですからー……」


「やはり償いの為にも、この毒はわたしがなんとかするのですよーっ!」



 そう言って両手を空にかざし、息を吸い込む。





「すぅ~…………救いを求める風!リミムセ・アンゲスト





 瞬間、ピリカを中心に突風が吹き荒れる。



「うわっ!?」



 突風は森の外へ向かって全方位に放たれた、周囲の空気ごと。




「これで毒素は全部吹っ飛んだのですよぉ♪」




 少し息が乱れているが、変わらず笑顔で言うピリカ。




「自身の体に残る魔素全てを使ったのか、無茶するぜ」




「毒素が吹っ飛んだのなら、森が新たに魔素をくれるのですよー♪」



 どうやらピリカは自分に残された魔素全てを使い果たし、森を覆う毒と粉を全て吹き飛ばしたらしい。魔素を毒に変える粉を吹っ飛ばしたらしいので、これで魔素の補充もできるのだろう。




「そして間髪いれず魔素補給ですーっ!!」




「オールオッケー! 続けて唱えるはー……浄化のそよ風!パージアロエー




 今度は周囲が穏やかな風に包み込まれた、倒れているエルフ達の表情が安らいでいく。




「今度は、何を……?」



 急展開にクロノの理解が追いつかない、その隣にレラが近づいて説明してくれる。




「簡単に言えば、ピリカが浄化の魔法を風の魔法に乗せているんだ」



「広範囲を一度に解毒してる」




 つまり、毒で倒れたこの森のエルフ全員を、一度に治療しているということか。レラの息も整ってきている。


 ピリカの魔法はこの森のエルフで1番らしいが、それにしても凄まじいの一言である……。






「おいおいおいおいおいおいっ……ちょっと待てよこの野郎……」

 




 呆然としていたリーガルがゆっくりと立ち上がる、顔は真っ青だ。





「アホなエルフを利用して、エルフ族乱獲計画を考えて、アホな小僧利用して、エルフ共はみんな毒で倒れ、計画は大成功、エルフ共を売り払いウッハウハと思ったのによ…………」



 顔は依然、真っ青である。丁寧な言葉遣いも崩れ、先ほどまでの余裕の顔はどこにもない。




「そのアホな小僧に邪魔されて、そのアホなエルフに計画の核だった毒を吹き飛ばされて、現在倒れたエルフを治療中だぁ……?」



「ピリカちゃ~ん? 僕は君の為に交流の方法をだな~?」



 目の焦点が有っていない、恐らく心が折れかけているのだろう。





「そのお話なら、もうどうでもいいのですー」



 治療を続けながら、ピリカは答える。



「奴隷として売られるなんて、論外ですしー……」



「もう答えは出ましたのでー♪」



 鮮やかな緑色の髪をなびかせ、ピリカはそう言いきる。





 その言葉で、リーガルの精神が限界を迎えた。






「生意気言ってんじゃねぇぞ……森の亜人共が…………!」





 フラフラと、ピリカに歩み寄っていく。




「魔素がなけりゃあ人間以下の劣種が……、いい気になってんじゃねぇぞ……!」



「頭の足りねぇテメェらが……生意気言ってんじゃねぇえええええええええっ!!」




 叫び、ピリカに向かって飛び掛った。

 


 そして、ピリカに手が届く瞬間。



 レラがピリカとリーガルの間に割り込み、首に剣を突き立てていた。



「我が名が意味するは風の刀、人間よ、今の言葉は我々への侮辱と取ってよいのだな?」


「これは警告だ、貴様がこれ以上の敵意を示すのならば、我も容赦はしない」



 凄まじい速度で間合いに入り込まれたリーガルは、身動きできずに固まっていた。そんなリーガルに追い討ちをかけるように、ピリカが背をレラに預けたまま言う。





「今回の事は、良い教訓になったのですよー……」


「色々勉強になりましたー……」


「わたしの安直な行動で、みんなに迷惑をかけてしまいましたしー……」


「その点を踏まえてー、みんなが起きる前の今ならー、見逃してあげるのですー」


「だからお仲間連れて、とっとと出てってくださいー♪」



 さもないと、と……ピリカは一旦区切り、











『――殺しますよ、本当に』










 離れて見ていたクロノでさえ、背筋が凍りつく声、ピリカが始めて表に、明確な怒りをちらつかせた。





「これはわたしからの警告ですー」



「あとぉ、一つだけ言わせてくださいー」





 依然背を向けながら、ピリカは声を整え、






「二度と顔も見たくありません、クソ勇者様♪」






 心臓を握り潰すような冷たい声、口調は軽いが、殺意が込められていた。リーガルの最大の誤算、それはこのエルフを過小評価していた事だろう。



 ピリカの周囲の魔素がはっきりと目に見える、彼女の怒りを具現したかのようだ。ピリカの底知れぬ力は、リーガルの精神を粉々にするのには十分だった。






 結局、リーガル一行は逃げるように森を去っていった、何とかエルフ達を守れたのだ。




 まぁ最終的に、俺は何もしてなかった気もするが……。




 夜空を見上げ、背伸びをする、ようやく緊張が解けてきた。何だかんだ言っても旅に出て初の戦闘だったのだ(しかも相手は勇者)、結構疲れた。




「お疲れか? 軟弱な奴だ」




 背後からセシルに声をかけられる。




「厳しいっすね……」




 苦笑いが自然に出てくる。



「どうだった」



 それがどういう意味かは分からないが、クロノは周囲を見渡す。ピリカの解毒で倒れていたエルフ達も順調に回復しているようだ。




「とりあえず、良かったかな」




 みんな無事だった、それが心から嬉しかった。



「まぁ、最後は俺、何も出来なかったけどな……」



 結局、最後は見てただけだった、あの二人が助けてくれなかったら死んでたかも知れない。




「……あの二人を動かしたのは、貴様だ」




「え……?」

 


 セシルは夜空を見上げながら、言った。



「貴様の共存理論に心動かされたか、奴らは自分の意思でお前を助けに出て行った」



「罪悪感で潰されかけていた心で、毒に犯された体で、だ」



「貴様は他族の心を動かした、あのゲス勇者よりよほど勇者らしいぞ」



 そう言って、セシルは笑う。




「私は見事だったと思うぞ、クロノ」




 とても素直な賞賛の言葉、そっか……勇者らしかった……のかな。

 




「はは……はははっ……!!」





 素直に嬉しい、心には達成感が溜まっていた。






「まぁ、実際は勇者じゃないからな」





「証無き勇者、偽者だな、紛い物」






 しかし、上げてすぐに落とすのがセシルクオリティだった。




「ガッツポーズまで取ってた俺の感動を返せ! 返せえええええええええええっ!!!」



「やかましいぞ、偽勇者」



「その呼び名を定着させるなあああああああああああああっ!!」






夜の森に、偽勇者クロノの叫び声が響いていた……。



次の話数でエルフ編は終了の予定です。

次章が何編になるのかも次で大体分かると思います。

お楽しみに♪

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