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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二十章 『人か、魔物か』
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第百四十一話 『託された二つ目』

「…………ん?」



「タロス! 目が覚めたか!!」



 タロスが目を覚ました途端、ラックが覗き込んできた。胸を押さえながら起き上がると、自分を倒した人間が崩れ落ちていた。



「…………俺は、負けたのか」

「…………なんだ人間、締まらんじゃないか」




「…………もう、一杯一杯です……」



 何事も無かったように起き上がったタロスだったが、クロノはもう立つ事も出来ない状態だった。精霊技能エレメントフォースを解いた途端、これである。



「まだまだコントロールがなってねぇな、炎の力を使う度これじゃ話にならねぇぞ」



「やはり、火は……害悪……」



「クロノ燃え尽きてるねぇ」



「エティル、棒で突っつくの止めてあげなよ」



 エティルが木の枝で頭をツンツンしてくるが、顔を上げる事すら億劫だ。それでも、クロノはタロスに言わなければならないことがある。どうにか顔を上げ、息を整える。



「……あの、タロスさん」



「ん?」



「…………ごめんなさい」



「? 何故謝る」



「……変に煽ったり、暴言吐いた事もだけど……」

「……俺が前に進む為の……障害物みたいに扱っちゃったから……」

「勝って、自信を付けたかった気持ちとか……確かにあって……」

「それに……利用した……」



 自分勝手な理由で喧嘩を売り、叩きのめした。結果だけみれば、自分のした事は共存とは真逆の事だ。ここで謝れば何もかも中途半端になるが、それでも有耶無耶にはしたくなかった。



「……………………ふっ」

「ふはははははははははっ!!!」



「タロス?」



「あれだけ目を光らせながら戦っておきながら、事が済んだらそれか!」

「しかも魔物相手に、謝るとはなぁっ!」

「こんなおかしな奴に負けるとは…………俺も焼きが回ったか?」




「……ごめんなさい……」




「人間……いや、クロノ・シェバルツよ」

「俺とお前は……対等の立場で戦った」

「そして、お前が勝った」

「それだけだ、お前は俺に勝った……それに胸を張れば良い」




「けど、俺は……どんな理由があったとしても……自分の都合で……」




「共存の世を成すのに、必要な事だと……お前が思ったのだろう」

「ならお前が胸を張らねば、それこそ俺に失礼だろう」




「うっ…………」




 もっともである、完全に言い負かされてしまった。タロスは満足げに笑い、隣に立つラックの頭を撫でた。



「? どした?」



「ラック、クロノを見てどう思った」



「…………凄いって、思った」



「散々俺が言って聞かせた、真の強さ……お前にも見えたか?」



「良く分からない、俺……頭悪いから」

「けど、けどな?」



 ラックはクロノに目を移す。自分の力で立つ事すら出来ないほど、ボロボロに疲弊した一人の人間。その人間が、ラックに一つの理想を抱かせた。



「俺も、あんな風に強くなりたい」

「胸張って、タロス達と生きていける世界…………俺も見たい」




「…………そうか」




 ラックががむしゃらに強さを追い求めていたのを、タロスは良く知っている。その理由も、タロスは分かっていた。口にこそ出さなかったが、ラックは人と魔物の間で揺れていた。ミノタウロス達を家族のように思っているのは事実だが、人の世界にも惹かれていたのだろう。



 そして、その二つは同時に成り立たない事も、察していたのだ。ラックは頭が良くないが、非常に勘が鋭い。察しても、どうすればいいのか分からなかったのだ。だから、強さを求めた。どうすれば良いのか分からず、迷った挙句……強くなることを選んだ。



 何かを待っていた、どうすればいいのか、その答えを待っていた。その時の為に、何かを叶える為に……本能で力を求めたのだ。





 その答えは、とても簡単で…………すぐ傍にあったのだが。





「ラック君、タロスさん…………恥を忍んで……もう一度頼む」



「共存の世界を成す為に……力を貸してほしい」




 クロノが精霊に肩を借り、何とか立ち上がってきた。ボロボロの身体で、それでもこちらに手を伸ばしてきた。



「……あっ……」



「……俺は、敗れた身だ」

「ラック、お前の好きにしろ」



「…………!」

「…………うん! うんっ!!」



 ラックは笑顔で、クロノの手を取った。ずっと胸の奥にあった想いの為に、自身も夢見る、共存の世界の為に。



「…………策士だな」



「……これはこれは…………随分と大物が出向いた物だ……」



 笑い合うクロノ達を尻目に、セシルがタロスに近づいていく。



「四天王の一人が、人と行動を共にしているとは驚いた」



「チィ……あの馬もそうだが……やはり種の長には情報が回るのが早いな」

「あまり広めてくれるな、面倒が増えかねん」



「承知した」

獣人種ビーストを束ねし者が音信不通でな、こちらも面倒はごめんだ」



 その束ねし者なら、現在修行中である。



「貴様、手を抜いたな」

「真剣勝負が聞いて呆れる」




「何の話か、分からないな」




「血の力……使えばあの馬鹿タレを瞬殺出来ただろう」

「手の込んだ芝居だったな」



 魔物の血と言うのは、種族によって多様な力を宿している物だ。特有のその力は非常に強力であり、魔核固体が使えばどうなるかは容易く想像がつく。ウェアウルフの『月狂』や、龍族の『沸血』……多脚亜人種スキュラの『超再生』など、その種類は非常に多い。



 ミノタウロスの能力は、『暴走バーサーク』と呼ばれている。思考能力を捨て、目の前の全てを滅ぼすまで止まらない、暴走状態に入る能力だ。



「言っただろう、対等の武人として相手をすると」

「獣と化し、滅ぼす事と……認め合っての試合は違う」

「俺は、俺を保ったままの本気で相手をした…………それは紛れもない事実だ」




「……ま、種の長がそう簡単に暴走しては……示しもないか」

「あのガキに、先を見据えさせる思惑もあったのだろう」





「……さぁな」




 ラックのこれからは、ラック次第だ。願わくば、胸の中に芽生えた想いを大事にして貰いたい。



「タロスの許可も出たし! 俺も大会成功に協力するぞ!」

「クロノ! 俺じゃまだ勝てないけど……大会までに俺も強くなる!」

「大会で、絶対! 絶対絶対! 戦おうな!」




「あ、あぁ……」




 手を取ってくれたのは嬉しいが、あまりブンブン振りまくらないでほしい、折れる。



「大会とやらには、血の気の多い連中とラックを出させよう」

「大会までに俺が鍛える、半端者は出さんと誓う」




「タロスさんは出てくれないのか?」




「残念だが、俺は種の長……そう簡単にここを離れるわけにはいかん」

「それに、俺は暫く戦えん」



 そこまで身体を痛めてしまったのかと、クロノは罪悪感を抱いてしまう。そんなクロノの考えを裏切るように、目の前に手を差し出された。大きな掌の上に、力が収縮し……紫色の球が現れた。



「ラックに先を示してくれた礼と……俺個人の投資だな」

「クロノ、お前の夢…………期待しているぞ」




「…………あっ…………」




 それは、魔物の力の結晶。魔王城までの橋を架けるのに必要な、魔核だ。これを託す意味を、クロノは精霊達から聞いている。これを生み出せば、暫くの間、力の大半を失うリスクを負うのだ。そうまでして、自分に魔核を託してくれた。信じてくれた。





「…………ありがとう、ございます…………」





 自然と涙が零れた、心の底から、嬉しかった。




「変な奴だ……泣いている暇などないだろう?」

「つまらない大会にしたら、許さんからな」




「…………っ! はいっ!!」




 成功させたい気持ちが、さらに強くなった。クロノは涙を拭い、気持ちを引き締めるのだった。



「ところで、大会ってどう出場すりゃいいんだ?」

「俺、人の国なんて行ったことないよ?」




「! それなら大丈夫! 主催者がエスコートしてくれるから!」




 ラックの言葉で、フローに連絡を入れなければならない事を思い出した。大会に参加してくれる他族を見つけたら、その種族と住処を伝えるよう頼まれていたのだ。



 大会が近づいたら、フローがその種族の元へ使いの兵を回してくれるらしい。詳しいことは分からないが『妾に任せろっ!』……との事だ。




「ちょっと待ってくれ、今主催者に連絡をするからさ」




 通信機を取り出し、フローへ連絡を入れるクロノ。すぐに通信は繋がった。



「フローラル姫! 此方クロノです」



『ガンガンガンガンッ!!!』



 映像画面に銃弾がぶち込まれた、隣で覗き込んでいたラックはドン引きだ。



「…………フロー、此方クロノです」



『うむ、どうした?』



 平然としているフローだが、こちらとしては心臓に悪い。その内、映像を突き抜ける弾丸とか開発されそうで怖い。



「参加者見つけましたよ」



『おぉう! 流石じゃな! 情報をよこせ! はよはよ!』



「……参加してくれるのは、ミノタウロスと彼等に育てられた人間です」



『また面白い面子を集めたのぉ……そいつ等と変われるか?』

『出来れば、偉い奴にな』



「タロスさん、いいかな」



「あぁ」



 タロスに通信機を渡し、クロノは一息ついた。人の国の姫と、魔物の長が話している光景が、少し嬉しく映る。



「こっちも大会に備え、鍛錬を積ませたい」



『なら大会ギリギリに迎えの者を送ろう』

『エントリーだけでも、早期に済ませて貰いたいのじゃが』



「分かった、その件は其方に任せよう」



『ついでにお主達の住処に、機械を設置してもよいかの』

『大会の映像をリアルタイムで見れる、優れ物じゃぞ』



「…………実物を見てから考えていいか」



『構わんよ、すぐに信用しろと言うのも無理な話じゃ』

『とにかく迎えの者を近い内に送ろう、詳しい話はその時じゃな』

『あー……それとクロノに変わってくれぬか、一つ伝えたい事があるのじゃ』



 タロスが通信機を手渡してくる、伝えたい事とは何だろうか。



「なんですか?」



『お主、まだデフェールを回るのか?』



「んー……とりあえず今は予定無しです」



『なら、ビーズ港からアノールドへ迎え』

『ビーズ港に妾の兵が居る、そいつから伝言と、妾の発明品を受け取れ』




「発明品……?」




 何故か、クロノの本能が危険信号を発した。



『それとな……お主はアノールド出身じゃろ?』



「正確には、違うと思いますけど……育ちはアノールドですよ」



 クロノ自身、自分が生まれた場所を知らないのだ。



『伝えておくべきだと思うから、一応言っておくがな』

『アノールドに、勇者達が集まっておる』

『妾の調べによると、魔王の大陸へ乗り込むだかなんじゃか……らしいぞ』





「……………………え?」





『魔核? とか言うのを裏ルートの市場で仕入れたらしい』

『戦力を集め、魔王討伐へ乗り出すようじゃ』

『あえて最弱の大陸から乗り込むとは、何か考えでもあるんじゃろう』

『だからどうと言うわけじゃないが……確かに伝えたぞ』




 それだけ言って、通信は切れてしまった。このタイミングで勇者と魔王が戦ったりすれば、最悪……大会にも影響が出てしまう。




「…………タロスさん、ラック君…………俺、行かなきゃ」




「行くって……どこに?」




「…………アノールドに…………勇者達を……止めにっ!!」




 身体はボロボロだが、止まっているわけには行かなくなった。アノールドで勇者達が行動を起す、『あの青年』の言っていた通りだ。



(あの人の言ってた事も気になるし…………放っておく事なんて出来るわけない……っ!!)

「タロスさん! ラック君! 大会の日にまた会おうっ!!」




「え、あ、う、うんっ!」




「気をつけて行け! アノールド周辺の海が、最近荒れていると聞いた!」




「ありがとう! セシル、急ぐぞ!」



 片足を引きずりながら、クロノはビーズ港を目指して進み始める。その後を、不機嫌そうにセシルが追いかけ始めた。




(…………嫌な予感がするな)



(前途多難すぎるだろう……全く……)




 行く先に待つのは、果たして何なのか……。


 過程を吹き飛ばした出会いが、少年を待つ。



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