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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
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第十四話 『アンタを勇者と認めない』

 自分の名を叫ぶクロノに、リーガルは笑みを浮かべて向き直る。



「やぁクロノ君、何をそんなに怒っているんだい?」



 その表情は変わらず笑顔、この状況が当然の出来事とでも言うように。



「これは、どういうことですかっ!」



 そう言ってリーガルを睨みつける、エルフ族が倒れているのが見える、どうやら苦しんでいるのはレラだけではないらしい。



「どうもこうも、予定通り作戦を実行しただけだよ」



「エルフ族との交流の為の、作戦をね」



 依然、表情を崩さずに言い切った、これが交流だと?




「エルフ達に何をしたんですか」




「嫌だなぁ、怖い目をしないでくれよ……」


「彼らが苦しんでるのは、彼ら自身のせいなんだよ?」



 そう言って、近くで倒れているエルフの女性に近づいていく。




「僕はただ、ピリカちゃんの運んでいった袋の仕掛けを発動させただけさ」


「あの中には『魔法の粉』と、一枚の紙が入っていたんだ」


「風の魔法を込めた紙をね」


「その魔法を発動させただけ、それだけさ」



 足元で苦しむ女性を見つつ、リーガルは続ける。



「風の魔法は袋の中の粉を周囲に拡散させる、今この森には魔法の粉が充満してる状態ってわけさ」



「その『魔法の粉』ってなんなんですかっ!!」



 クロノが声を荒立てる、その粉が原因なのは間違いないだろう。



リーガルはクロノの方に顔を向け、ニヤッと笑う。



「空気中の魔素を、毒にする粉だ」


「空気中の魔素と結合し、毒性を持たせる粉なのさ」



クロノは凍りついた。この森は魔素が濃いと、セシルは言っていた、ならばこの場所では、その粉は魔素を濃度の高い毒と変えるだろう。



「エルフ族は魔素を取り込み、力とする種族」



「普段から何気なく体に取り込んでいたモノが、急に毒に変わったんだ」



 『当然、こうなるよね?』と両手を広げる、それは、エルフ族をピンポイントで狙い打つ悪魔の所業だ。




「何で、そんなことをするんですか」


「これが、交流の為だって言うんですか」




「勿論さ」



リーガルはすぐに答えた。


「人と関わりたい、外の世界と関わりたいって言ったのはピリカちゃんだ」


「今日だって目を盗んで森から抜け出したんだと、森に縛られたままじゃ自由は手に入らないと、必死に訴えてきたよ……」


「だから、僕は助けてあげようと決めたのさ」


 ニコニコと語るリーガル、だが理解できない。それが何故、エルフ達にこんな事をするのに繋がるのか。




「こうすれば、エルフを簡単に捕まえれるだろ?」


「奴隷として売り払おうと思ってね、この作戦を思いついたんだ」


「魔素を取り込めなくすれば、途端に弱化するからねぇエルフは」


「彼らは人と『交流』できて、僕らは儲かる」


「ギブ・アンド・テイク、完璧だろう?」



 リーガルは笑っていた、何もおかしいことは無いとでも言いたげに。




「しかし、予想以上に上手くいったよ」


「それもこれも、クロノ君の大活躍のおかげだねぇ」


「本当は松明に火をつけたら、魔法で火が森に撃ち出されるように細工してたんだけど」


『まさか予想外の大火災を起こしてくれるとはねぇ」



ハッハッハと大笑いするリーガル、それはつまり……。



「俺達を、最初から囮にするつもりだったんですか」



 ピリカが森に袋を配置するまでの時間稼ぎ、その為の囮に利用した、森に火を放たせ、森中のエルフを誘き寄せる囮に。



「そうだよ、良いタイミングで君が現れたからね」



 その顔に浮かぶ笑みは、勇者の物とは思えぬほど冷たいものだった。













「なるほどな、清清しいまでのクズだ」



 小屋の中で様子を伺っていたセシルは、苛立ちを抑えていた。クロノの話から怪しんではいた、松明に込められた魔法にもセシルは気が付いていたのだ。

 


「わたしの、せいです」



 セシルの横で、レラを抱きかかえながらピリカは呟く。



「わたしが、外に出たいなんて思わなければ……」


「わたしが、わたしのせいでみんなが…………っ!」



 後悔からか、罪悪感からか、ピリカは泣きながらそう言っていた。



 そんな様子のピリカを見つめ、セシルは考える。なぜ、この状況でピリカは無事なのか。



(周囲の魔素が毒と化しているこの状況で……考えられるのは……)



 それは、魔素の吸収を絶ったからとしか考えられない。探知魔法を無自覚に無効化するほどの察知能力ならば、周囲の魔素の異常を感知し、無自覚で対策を取っていても不思議は無い。



 そして、ピリカは自身の体に残されている『正常な魔素』でレラの体を解毒していた。レラは顔色は悪いが、苦しみは和らいできているようだ。




(このエルフ……)




 泣きながらも冷静な行動を取り、異常事態に迅速な自己防衛、自身が今出来る事を最大限活用し、臨機応変に行動する姿は、セシルには五百年前のエルフの姿に重なって見えていた。



 自分の持ち得る知識と『たった今得た情報』すら活用し、絶対に諦めない強き種族。セシルの知る、真のエルフの姿だ。




「うっ……うぅ……」




「いつまで泣いている」



 泣き続けるピリカに、セシルは外の様子を伺いながら言う。



「だって……わたしが外に出たいって……思ったから……」



「確かに貴様は一つ間違ったが、外に出たいことは間違いではない」



「え……?」



 はっきりと言うセシルに、ピリカは目を丸くする。



「あの大馬鹿も言っただろう、知りたいと思う事は、悪い事ではないとな」



 外で勇者と向き合っている、その大馬鹿を見つめながらセシルはそう言った。













「本当はさ、放って置こうとも思ったんだけど……」



 リーガルはヘラヘラ笑いながら、クロノの方を見て言う。



「大活躍してくれたし、分け前あげようか?」



 礼のつもりか、善意のつもりなのか、リーガルはクロノに笑いかける。その言葉に、クロノは目を閉じ、息を整えて答える。

 



「うん、よく分かった」




 リーガルの話を聞いて、自分の決意も固まった。セシルは自分を信じろと言った、あぁ分かった、自分を信じて言ってやる。





「お前らが最悪のクソ野郎共ってのは、よく分かった」





 拳を握り締め、目の前の『クソ野郎共』を睨みつける。その言葉にリーガルは眉をひそめる。



「何怒ってるのさ、もしかして邪魔する気?」



 僅かに顔に苛立ちを浮かべ、クロノを見る。



「そういえば君、他種族との共存とか何とか言ってたっけ……」


「絶体絶命の他族を庇って、勇者気取りかい?」



 リーガルの後ろにいた男達が剣を抜き、前に出てきた。



「勇者を気取るつもりはないけどさ」



「お前みたいな奴に、勇者を名乗って欲しくないね」



そう言って、クロノは構えを取る。腰を下ろし、左足を前に出し体重を乗せる。

顎の高さ辺りに左拳を上げ、腰の辺りに右腕を構える。7年間勇者を目指し、我流で格闘術を磨いたクロノが落ち着いた構えだ。




「ははっ……お前ら、現実ってのを見せてやれ」




 クロノの構えを明確な敵対と見なし、リーガルは男達に指示を出す。男達3人は剣を構え、クロノに向かって走り出した。





 三体一、こちらが不利なのは明らかだ。だがクロノは、左手の指輪に視線をやり、思う。



(ロー、10年間鍛えたのは無駄じゃなかったみたいだぜ)


(まぁ、まさか勇者と戦うことになるとは思わなかったけどな……)



 薄く苦笑いを浮かべ、意識を目の前の男に戻す。



「死ねオラァ!!」



 男は真正面から、クロノに向かって右手で剣を振り上げる。その剣が振り下ろされる前に、懐に一気に踏み込んだ。



 そのまま左腕で相手の右腕を上に押し上げる。



「おっ?」



 そして右拳をみぞおちに叩き込む。



 左右から男が回り込んできたので、悶絶した男の胸倉を掴む。そして右から回り込んできていた体格のいい男に向かって蹴りつけた。



「げはっ!」



「ぬおっ!?」



 蹴り飛ばされた男を受け止め、一瞬動きを止める。その一瞬の間に、クロノは男の眼前に飛び上がっていた。



「なっ!?」



 勢いをつけ側頭部に右足で蹴りを叩き込む。



「なっ……テメェ!」



 左側から回り込もうとしていた男が、空中のクロノ目掛けて背後から襲い掛かる。クロノは左足で目の前の男の顔面を蹴りつけ、その反動で後方に飛ぶ。空中で後方に宙返りし、背後の男の突きを避けた。



「はぁ!?」



 男は逆に背後を取られ、慌てて振り返るが、振り向き様にその顔面に拳を叩き込まれ、殴り飛ばされる。




 結果、男三人はクロノに叩きのめされた、たった数十秒の間にだ。




「ふぅ、やっぱ雑魚だったな」



「ローとの特訓のが、100倍死に掛けたぞ」



 気絶している男達を見下ろし、やっぱりね、と吐き捨てるように言う。




「アンタみたいなクズに、出来た部下がいる訳ねぇ」



 リーガルを睨み、再び構えを取る、後はコイツだけだ。



 その光景を見てリーガルは顔を歪めていた。



「小僧、貴様何者だ……?」



「まさか、貴様も勇者なのか」



 リーガルの問いに、クロノは内心どう答えるべきか悩むが。



「勇者志望だったけどさ、加護が降りてこなかった」


「だから俺は、ただの旅人だ」



 だが、勇者じゃなくたって構いはしない。自分が勇者だろうが、なかろうが、目の前の行いを許せないのは、同じだからだ。




 クロノの言葉に、リーガルは薄く笑う。




「ははっ、加護の降りてこなかった出来損ないか……」



「それも当然かもね、他族と共存とか言ってる時点で『イカレてる』もんね」



 そう言いながら、剣を抜き、クロノの方へ歩み寄る。



「真の勇者に相対し、他族を庇う奴が!」



「勇者志望の末路とは、笑わせるっ!」




言い放ち、クロノに向かって地面を蹴る。



「シッ!」



 鋭い突き、クロノは身を低くして避ける。その体勢から、喉に手刀で反撃しようとするが……。



「甘い!」



 右方向に体を回転しつつ、クロノの右側に体を流す、回転の勢いを乗せた斬撃が、クロノの足元に放たれる。



「とっ!!」



 後方に飛び退き、それを避けるが、少し掠った。




 やはり勇者の証を持つだけはある、この男は他の奴とは実力が違う。



(クッソ、結構早いな……)



 クロノは息を整え、隙を探す。



「勇者に挑むとは、愚かな奴だよねぇ……』


「しかも理由が他族の為とは……」



 剣を構えながら皮肉のように言う、しかしクロノにとってそれは大事な事なのだ。




「……幾つか間違ってんぞ、リーガルさんよ」




 拳に込める力を一層強め、クロノは言う。




「まず、他族の為ってのを軽く見てるようだが、俺にとっては大事な事だ」



「つか人として、あんた等のやったことは許せない」



「次に、俺はアンタを勇者と認めない」



「俺の憧れた勇者は、アンタみたいなクズじゃない」



「それと、俺は勇者志望の『末路』を選んだ覚えは無い」



 そうだ、自分で考え、選んだ道だ。



「俺は自分の夢の為、先を目指して歩いてる」



「それだけは、譲れない」



 強く、そう言い切った。




「生意気言ってるけど、少しは現実を見たほうがいい」



「現に君は、神の加護が降りてこなかったのだろう?」



 腰を下げた、来る。




「君は勇者になれず、僕は勇者だ」



「少なくても、神は君の考えを否定したってことじゃ、……」



 強く踏み込み、クロノに向かい突っ込んできた。




「ないのかなああああっ!!?」




 クロノ目掛け突っ込むリーガルは、そう叫びながら再び突きの姿勢だ。それを真正面から迎え撃とうと、クロノも身構える。




(さっきとは違う、最速の突きで仕留める!)



(死ねっ!!)




 先ほどの突きより数段早い、剣はクロノの眼前まで迫り……。



 そのまま虚空を突いた。



(なっ、消えた……っ!?)



 クロノは剣が当たる寸前、後ろに体を投げ出した。後ろに倒れこむように、剣をいなしたのだ。




(ザマァ……喰らえ、クソ勇者っ!!)




 そのままの体勢で、リーガルの顎を蹴り上げた。



「がっ!?」



 一瞬思考が凍った隙に、顎を蹴り上げられたリーガルは視界が大きく揺れる。クロノは即座に体勢を立て直し、渾身の力でリーガルの顔面を殴り飛ばした。




「ゴファッ!!?」




 間抜けな声を上げながら、リーガルは勢いよく後方に吹っ飛ぶ。




「確かに、俺には神の加護は降りなかったけどさ」




 吹っ飛ばされ、尻餅をつきながら睨みつけてくるリーガルに、クロノは言う。




「アンタみたいのと一緒にされるなら、そんなもんいらねぇわ」




 心の底から、そう思っていた。





 そもそも勇者の証ってなんだ、ただ神に加護を貰ったら勇者か? 少なくても、クロノはそんな奴らを『真の勇者』などと思いたくはなかった




「俺はお前を、勇者とは認めない」




強く、リーガルに言い放つ。




「この……、勇者気取りのイカレ野郎が……っ!」




そう言い、立ち上がる、しかしその足取りはふらついていた。



(クソッタレ、このままじゃ、こんな奴に俺の作戦が邪魔されちまう……!)



(どうする、どうするどうするどうするどうするどうする!!!)



 思考を張り巡らせる、目の前の小僧を叩き潰す手がないか、リーガルは周囲に目を配る。









 そして、すぐ後ろにエルフの女が倒れているのに気がつく。








…………なんだ、あるじゃないか……目の前の小僧を殺す手が……。










 リーガルは表情をグニャッと歪める、そして笑顔で剣を持ち直し、エルフの女性の首下に、剣を突きつけた。



「なっ!?」



 クロノの表情が驚きに染まる、咄嗟に駆け出そうとしたが。




「動くとコイツ、死ぬよ」




 リーガルが狂ったような笑顔でそう言った、クロノは動きを止めた。




「大事な大事な他族がピンチだよー? クロノくーん?」



「変な動きすれば、分かるよね……?」




 この男は、本当に……本当の意味で……。




「腐ってやがる、クソッ……!」




 クロノは吐き捨て、リーガルを睨む。



 そして、その背後でリーガルの部下の一人が起き上がった。




「やって、くれたな小僧……!」




 一番体格のよかった男だ、側頭部を思いっきり蹴り飛ばしたのに立ち上がってきた。



「ふははははっ!! いいぞ!最高のタイミングじゃないかっ!!」



 リーガルは笑い、起き上がった男に命じる。



「ゴルト、その小僧を殺せ」




「言われるまでもねぇ……」




 剣を拾い、その男はクロノに歩み寄ってくる。




「……クソッ!」

 



 一転し、大ピンチだ。






 そんな一部始終を見て、行動を起こそうとするエルフが二人。

 

 セシルはそれを笑ってみていた。



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