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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十九章 『幼き四天王、運命の呪縛』
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第百二十八話 『葛藤の大地』

 クロノが眠りについて、数時間が経過していた。辺りは闇に包まれ、月の光だけが頼りとなっていた。息を潜め、それでもアルディは警戒を緩めていなかった。



 何があってもいいように、契約者を護る為に。アルディは周囲の気配に集中していた。





「…………アルディ、ずっとそうしてたのか……?」





 目を覚ましたクロノが最初に見たのは、息も詰まるほど集中していたアルディの姿だ。



「当然だよ、君に何かあったら……僕はみんなになんて言えばいいんだい?」



「……ごめん、頼りにならなくて……」

「完全に足手まといだよな……」



「……本当なら、動けるはずないんだよ」

「……力を持つってのは、危険と隣り合わせだ」



 そう言って、アルディはクロノの右肩を撫でた。その瞬間、鈍い痛みが走る。華響の技で特に大きく切り裂かれた箇所だ。




「…………つぅ……!」




「……君は僕達とリンクしなくても、多少の自然体を使えるようになった」

「その力は、自己回復力にも影響を与えてる」



「炎や大地の力は、傷の回復を早めたり……痛みを抑えたりもするんだ」

「……それ故に……ダメージに気がつくのが遅れたりする」



「……君の体に溜まったダメージは……もう限界を越えてるんだ」

「これ以上無理をして、精神力まですり減らせば……本当に倒れちゃうぞ……」



 まるで自分の事のように、アルディは辛そうな顔をしていた。心配性なのは今に始まった事では無いが、少し様子がおかしい。



「……何か、あったか?」



「……契約者が死にそうだね」



「うぅ……面目ない…………って! 誤魔化すなよ!」



「君に悟られるとか、僕もまだまだだなぁ……」



 そう言いながら笑うアルディだったが、その笑顔はどこか悲しげだ。



「あまり話したくないけど、僕は狐と少し因縁があるんだよ」

「自分で言うのもなんだけど、僕はエティルとは違うベクトルで面倒くさい性格でね」

「何て言うか……失敗から立ち直れないんだ」




「失敗……?」

「そういえば……五百年前もこんな事があって、その時はルーンが四天王の狐とやり合ったとか言ってたっけ」




「あぁ、忘れもしない……僕の失敗だ」




「ルーンの水の力の上を行って、右腕を吹っ飛ばしたとか……」

「そもそも右腕吹っ飛んだってどういうことだよ!?」




「言葉の通りさ」

「あの時、僕はルーンの信頼に応えられなかった」

「止められた筈だった……なんて事ない一撃だったはずだったのに……」




 こんなアルディを見るのは、初めてかもしれない。本当に悲しそうで、悔しそうな顔をしていた。



「ルーンは僕を信じてた、背中を預けてくれていた」

「水の力が抜かれても、ルーンは諦めていなかった」

「………………なのに、僕は寸前のところでリンクを緩めた」



「結果、大地の力は万全で発動しなかった」

「僕の迷いが生んだのは、契約者の右腕損失という大惨事だ」

「我ながら馬鹿げてると思うよ、また失うのが怖い……そんな言い訳で……契約者を傷つけた」




「……また、って?」




「僕は、ルーンと出会う前にも契約者を失ってる」

「今はもう無い、滅んだ国でね」



 セシルが言っていた国だろう、ノーム信仰が盛んだったという国だ。



「小さな女の子だった……結局、リンクは一度もしなかったよ」

「契約者ってより、友達だったんだ」



「……国を襲った巨大な砂嵐……あの災害で彼女は死んだ」

「…………護れなかったんだ…………」



 声が震えていた、泣きそうになっているアルディなんて、始めて見る。



「ルーンと初めてあった時も、君と契約した時も……決めたはずだった」

「今回こそは、もう迷わない、絶対に護ってみせる……ってね」



「ウジウジ情けないなぁ……偉そうに言っても……結局忘れられてないんだ」

「今回こそは……って心で思う度、護れなかった記憶が蘇る」



「失いたくないと願う度、大切な物を傷つける」

「迷いを振り切ろうとすればするほど、僕の心は迷いだす」




「…………なんだろうね、僕って……かなりダメな精霊かもしれない」




 そう言って顔を上げたアルディの表情が、クロノには人間に見えた。なにがどう、というわけじゃない、上手く説明できないのだが……クロノにはそう見えたのだ。



「……僕には、君やルーンが眩しいよ」

「僕は、君に偉そうに何かを言う資格なんて……ないかもしれない」



「こうまで心をブレさせる精霊なんて……正直どうかと思う」

「なんだかなぁ……ここまで話すつもりなかったんだけどなぁ……恥ずかしい……」




「けどここまで言っちゃったし……最後までぶっちゃけちゃおうかなぁ」




 儚げに笑うアルディが、隣に腰を降ろしてきた。



「クロノ、僕は怖いんだ」

「どうしても、あの時の記憶が僕の脳裏から離れない」



「このまま君が四天王の元へ辿り着いて、もしもの事があったら……」

「そう思うと、震えが止まらない」



「情けないけど、今の僕が君と上手くリンク出来るとは思えないんだ」

「精霊失格だけど……いや、ノーム失格だけどさ…………自信を持って『護る』って……言えない」




「だから……どうってことじゃないけど…………その……」




 いつもの頼りになるアルディは、どこにもいなかった。目の前にいるのは、消え入りそうなほど自信をなくした精霊だ。




(……違う、そうじゃない)




 アルディだって、完璧じゃない。前にも言われたはずだ、精霊達にだって苦手な物くらいある。弱い所だって、あるんだ。エティルの時に気づいた筈だ、頼りきりじゃダメだと。助けられてばかりで良い訳が無い、仲間は、友達と言うのは……そんなんじゃない。




「俺はさ、アルディに何度も助けられた」

「正直アルディ居なかったら、余裕で死んでた場面何度もあったな」




「……?」




「信じてる、なんて言わない…………つか信じてるから何だって話だ」

「つかさ、勘違いすんなっての、別にお前に護って貰えなくてもなんとかするし」




 そう言って、まだ震える足で何とか立ち上がった。




「見くびるなよ馬鹿野郎、俺はいつかルーンを越える男だぞ」

「お前の力が無くても、夢は絶対に叶える」




「……ははっ、言うなぁ……」




「けどな、俺はお前等と夢を叶えたいんだ」




 上げるのも辛い腕を動かし、アルディに手を差し出した。



「大体護るとか、護って見せるとか……うるさいんだよ」

「そんな義務的に言われても全然嬉しくない、いい迷惑だ」



「そんなんだったら、言わなくて良い、護ってくれなくてもいい」

「エティルもそうだけどさ、心で伝わってる筈なのに何回言わせるんだ馬鹿!」



「傍に居てくれるだけで、十分嬉しいんだ」

「そんな思い詰めるほど護る云々で悩むなら、護ってくれなくていい」



「分かれよ、一人で抱え込んでんじゃねぇよ」

「俺が悩んだり、迷ったりした時……お前等は支えてくれた」



「言葉は無くても、心が寄り添ってくれた」

「俺は、それが『護る』って事だと思った」



「口にすればするほど安っぽくなるんだよ、こういうのはさ」

「気負うな、傍に居てくれるだけでいい……お前がやりたいようにやってくれればいい」



「それがきっと、正しいんだ」

「護る為に、契約者と精霊ってカテゴリに収めんなよ」




「俺は護って欲しくてお前と居るんじゃない、友達だから一緒に居たいんだ」




 無理やり手を掴んで、立ち上がらせた。



「……君の気持ちは分かったけど、その理屈なら僕の気持ちはどうなるんだい?」

「僕は……正直不安が取れないんだけど」



「なら俺が晴らす」



「…………めちゃくちゃだね」



「人間舐めんなよ、これが友達なんだ」

「友達が落ち込んだり、悩んでるなら……助けるんだ」

「それが、友達なんだ」



 ローがそう言っていた、正直クロノもめちゃくちゃな理論だと思う。それでも、今はこの理屈を押し通そう。



「じゃあなんだい? 君は僕の不安を晴らすため、また無茶をすると?」



「そうなるな」



「…………はぁ……それじゃ不安要素が増えるだけじゃないか……」



「そうだな、考える暇も無いほど、無茶を続けてやる」

「ウジウジする暇も与えないぞ」



「何でそんなに自信ありげに言うのさ……」

「胃に穴が開きそうだよ……」




「持ちつ持たれつ、それが友達だ」




 そう笑い、クロノはアルディに左拳を突き出した。



「お前言ったよな、君の背中は僕が護るって」



「…………うん、言った」



「なら、お前の背中は俺に預けられてるわけだ」

「安心して預けろ、お前の背中は俺が護ってやる」





「………………」





 驚いたように、アルディは目を見開いていた。そして、ゆっくりと肩の力を抜いていく。



「呆れた……安心するどころか不安で胸が一杯だよ……」



「……テメェ……契約者が精一杯向き合ってるってのに……その態度かよ……!」



「君に背中を預けたら、命が幾つあっても足りないねぇ」



「うわぁー! こいつマジ有り得ねぇっ!」



「つまり、君は友達として支え合いたい、と」

「よく言うよ、比重が僕に傾き過ぎてるじゃないか」



「こいつ性格悪すぎるだろっ! 人が折角励まそうと……っ!」




 ギャアギャア騒ぐクロノだったが、アルディが右の拳を合わせてきた。




「これ、君流の約束だっけ」




「……あぁ」




「……意外だけど、ちょっとだけ胸が軽くなったよ」

「悩む暇も無くなる……か……悪くないかもね」

「……こんな頼りにならない僕でも、君は連れて行ってくれるかい?」




「存分にウジウジしろ、俺だって旅立つ前はウジウジしてた」

「お前がどんな状態でも、引きずって行くさ」




「…………僕が足を引っ張るかもしれないよ?」




「その時は俺が助ける、支え合うってのはそういうことだ」




「なんとも大変だね、君の友達理論は」

「…………いいよ、預けるよ僕の背中」

「少し待ってね、必ず、応えてみせる」



「君の精霊として、預かった背中を、護れるように」

「友達として、ね」





「ん、約束だ」





 繋いだ絆は、何よりも強く、何よりも大切な物。想いの力は、不安を晴らし、確かな物を培った。迷える精霊よ、迷いながらでもいい、前へ進め。契約者と共に、その先へ。




 その先に、答えは待っている。




 まだまだ遠い、その道を…………今は歩み続けてくれ。



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