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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十九章 『幼き四天王、運命の呪縛』
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第百二十七話 『歪んだ隠れ道』

「うむ、迷った」



「うむ、じゃないよ全く…………」


「方向音痴のひよっこセシルがっ! 変わってねぇじゃねぇかっ!!」



 気絶したクロノを背負ったまま、セシルは真顔でそう言いきっていた。現在、彼女達は竹薮の中を突き進んでいる最中だ。



「大体……どんな自信があって進んでたのさ……」

「セシルが先導するとロクな目に遭わないよね……今も昔も……」



「昔と一緒にするなっ! 今は力を感知出来るっ! 迷ったりするか!」



「じゃあなんで今は迷ってるのさぁ~…………」



「この辺は魔力が乱れている……力の元を感知できん」



「つまり迷ってんじゃねぇか、爪が甘いなおい」



「…………ぐぅ……っ!」



 クロノが起きていたら驚いていただろう、あのセシルが弄られっぱなしだ。



「今日、も……野宿…………はぁ…………」



「そう言ってやるな、ひよっこセシルを信じた俺達の落ち度だ」



「ここぞとばかりに…………貴様等…………!」



「まぁ冗談は置いといて、四天王のセシルが力を感じられないのはやっぱり異常だね」

「この辺りから、その異常さはかなり高くなってるみたいだ」



「あたし達でも分かるくらい、この辺めちゃくちゃだもんねぇ」

「…………朧ちゃんがおかしくなってた時と、凄い似てる……」



 この辺りの雰囲気は、分かる者ならば肌で感じ取れるほど不可解だった。何かが捻じ曲がっているかのように、法則という物が狂っているように……周囲を包み込んでいた。



「とんでもなく濃い力が、暴走してるみてぇだな」

「制御出来てない……どうなってんだかなぁ」



「ティアラ、何か分かるかい?」



「無理……めちゃくちゃ、すぎる」

「クロノ、基準の……力しか、使えない…………今じゃ、無理」



「無理もないよぉ、もうこれ異世界のレベルだよぉ……」

「ちょっと……気分悪くなってきた……」



 あまりにも不可思議な空気に、精霊達も酔ってきているようだ。この場に長く留まるのは、出来れば避けたほうがいい。



「…………戻った方がいいと思うけど……」



「無理だろうなぁ、最早振り返っても来た道がねぇぞ」



 完全に時空が歪んでいた、これでは抜け出すのも至難の業だ。



「仕方ない、切り払うか」



「それは最終手段にしよう、この空間で大きな力を使うのは避けたいよ」

「この空間を作ってる存在に、感付かれる可能性もある」



「そもそも……これ作ってんのは朧の血縁なんだろ?」

「ひよっこセシル、どんな奴か教えろよ」



「今すぐその呼び方を止めろ、ぶち殺すぞ」



「ひよっこ、ほれほれ、早く言えって」



 言葉の代わりに、セシルの尻尾がフェルドに向かって襲い掛かる。その一撃を、フェルドは容易く回避した。



「心がぶれたな、まだまだ甘いねぇ」



「貴様、私をからかって楽しいか?」



「昔を思い出して、スゲェ楽しいな」

「昔はあんなだったセシルが……今や成長して四天王……感動で涙が出てくるぜ……」



「あ~! それちょっと分かるかも~!」

「あたし達以上に、ルーンに突っかかってたしねぇ~♪」



「こら二人とも、からかっちゃ可哀想だろ?」

「セシルだって根っこの部分は変わってないんだ、察してあげなよ」



「セシ、ル……素直じゃ、ない……」

「子供、だし……クスクス……」




「…………いい加減にしろ、怒るぞ」




 昔話に花を咲かせ始めた精霊達、セシルはバツが悪そうに視線を逸らした。



「随分強くなっちまって……昔みたいに教えを乞われる事が無くなったのは寂しいぜ」



「止めろ」



「けどけどっ! 恥ずかしいとすぐに顔を背けるとことか変わってないんだよぉっ!」



「……っ! 止めろっ!」



「なんだかんだ言って、クロノに甘いしね……多分僕以上に」



「結構……すぐに、心……揺れてる…………可愛い……クスクス……」






「~~~~~~~~~~~~~~~っ!! 止めてって言ってるでしょっ!!」






「!? 痛ぇっ!!?」





 顔を真っ赤にしたセシルが叫ぶと同時、その背中からクロノが転げ落ちた。衝撃で目覚めたクロノだったが、その体が霧に包まれていく。



「……っ!? クロノ!」



「え、何!? どういう状況だこれっ!」



 セシルがすぐに手を伸ばしてきたが、その手がどんどん遠ざかる。霧が一気に濃くなったと同時、クロノの身体が別の次元に飛ばされようとしていた。



(……不味いっ!)

「クロノッ! 僕とリンクしろっ!!」



「へっ!?」



「早くっ!」



 霧に包まれながらも、クロノは混乱する頭のままアルディの言葉に従った。金剛を発動した瞬間、みんなの声が一気に遠くなった。




「うわああああああああああああああっ!?」




 視界がグルグルと回転し、クロノはそのまま落ちていくように飛ばされてしまった。



「あーあ……どうすんだこれ……」


「あぅあぅ……クロノとアルディ君……消えちゃったよぉ……」


「山隠し……まさに、ミステリー……」



「………………あっ……ぐぅ……」

「貴様等精霊だろう……さっさと後を追え!」



「無茶言うな、こんな狂った空間で、契約者の傍には飛べねぇよ」


「あたし達の繋がりも、グチャグチャに歪んでるよぉっ!!」


「咄嗟の、判断……アル、流石……」



 咄嗟にリンクしたアルディだけが、クロノと共に空間を飛ばされたらしい。後を追おうにも、強大な力が全てを歪めており、契約者の位置が全く掴めなかった。



「頼むぜセシル……どう合流すんだよこれ……」



「つかマジで、どうやって脱出すんだ……」



 最早竹の迷宮だ、油断するとセシル達もバラバラにされかねない。右も左も、前も後ろも、どっちから来たのかさえ、分からなくなっていた。



「……ッ! もういい! 全て切り払うっ!」



「わーっ! 待ってセシルちゃんっ! クロノの場所分からない状況でそれは危険だよぉ!」

「竹薮のどこかにクロノが飛ばされたなら、セシルちゃんが叩き斬る可能性だってあるじゃんっ!」



「闇雲に動けば、俺達もバラバラになっちまうかもな」

「まずはここから出る事を考えよう、クロノ達もいつかは脱出するだろ」



「お互い、出られたら……私達……感知出来る……」

「セシルも、合流……できる……」



 ここはお互いを信じるしかない、自棄になれば、状況は悪化する。



「アルがついてるしな、あっちもなんとかなんだろ」

「だから拗ねるなよ? ………………セシル?」




「…………下がってろ」



 

 そして、自棄にならなくても……状況は悪化したようだ。竹の間から、何かが近づいてくる。この狂った空間の中でも、その存在の力は強く感じ取れた。その力はかなり、強い。



「契約者の居ない貴様等は、今は足手まといだ」



「……下がれ」



 今の精霊達は、ラベネ・ラグナの時とは状況が異なっている。クロノの傍に行けないのは一緒だが、契約を引き千切られているわけじゃない。今の精霊達の力は、クロノ基準の力に変わりはないのだ。



「チィ……セシルの後ろに下がることになるとはな……」



「うぅ……無力感が凄いよぉ……」



「一番の、役立たず……私達の、契約者……」



 近づいてくる存在の力には、今の精霊達では太刀打ちできない。昔の仲間を、傷付けられる訳にはいかない。セシルは真剣な表情で、ヴァンダルギオンを構えた。



「この空間を生み出している奴じゃないな」

「だが、関係無い……という訳じゃないだろう」




「……そうですね、関係なら大有りです」

「しかし、多くを語る必要があるかと言えば……疑問が残るところです」



 竹の間から姿を現したのは、大人びた雰囲気の青年だ。狐の耳に、八本の尾が目を引く、狐族の魔物だった。




「……まぁ丁度いい、こっちも迷い込んでしまってな」

「道案内を頼もうか、狐族!」




「…………おやおや、勝手な子だ」

「こちらも問題が山済みでね……相手をしている暇はないんですがね」




 膨大な魔力を纏い、狐族の青年が目を赤く染める。狐族は獣人種ビーストの中でも魔力が桁外れに高い種だ。その力は、大体だが尾の数で測ることが出来る。最低は一本、最高は九本……この青年の尾の数は八、通称『八尾』と纏められる存在だ。その魔力は、常識を遥かに越える力を生み出す。最強レベルと言って、何ら差し支えない力だ。




 数十本の竹が吹き飛び、二体の魔物が衝突した。


























「……で、何がどうなったんだ……?」



「さぁ、ね」

「分かるのは、セシル達と逸れた事だけだ」



 後頭部に痛みを感じたと思ったら、何がなんだか分からない内に見知らぬ場所へ飛ばされた。正直アルディが居なかったら泣いていたかもしれない。



「みんなの声、聞こえるかい?」



「全然、ノイズみたいのしか聞こえない……」



「やっぱりか……みんなはまだあの中みたいだ」

「僕達は…………どうやらあの狂った空間からは出れたみたいだね」



 先ほどいた竹薮とは違い、クロノ達は森の中で途方に暮れていた。空は夕焼けに染まり、このままでは夜になってしまう。



「よく分からないけど、さっきのが山隠しなのか?」



「多分ね」



 実際に体験してみると、本当に理不尽なものだ。あれはなんとかしないと、被害者がどんどん増えてしまうだろう。



「……ここで止まってても仕方ない、とにかく進んでみよう」



「まぁあの空間内じゃないみたいだし……そうしようか」



 立ち上がろうとしたクロノだったが、足が震え、そのまま倒れこんでしまった。アルディが心配そうに駆け寄ってくる。



「大丈夫かい?」



「…………当然、だろ」



 そうは言うが、クロノの息は荒い。随分と無茶をしてきた、体力の回復が追いつかなくても無理は無い。クロノは、人間なのだ。



「……休もう、君の体は限界だ」



「まだいけるよっ! それに大会まで時間も限られてるんだ、休んでる暇なんて……」



「無茶して身体を壊したらっ! 元も子もないだろうっ!」



 珍しく声を荒げたアルディに、クロノは面食らってしまう。それに気がついたアルディは、申し訳無さそうに顔を伏せた。



「ごめん……」



「いや……俺のほうこそごめん……」



 マークセージで言われた筈なのに、また同じ失敗をしてしまった。また、心配をかけてしまった。



「やっぱり、ちょっとキツイみたいだ」

「少し……休むよ……」



「……うん、それがいい」

「セシル達なら大丈夫だよ、心配いらないさ」



 心配じゃないと言えば嘘になるが、確かにセシル達なら大丈夫だろう。寧ろこっちの心配をしている姿が、容易に浮かぶ。クロノは木に背中を預け、そのまますぐに眠ってしまった。



 寝息を立て始めたクロノの頭を、アルディはおもむろに撫で始める。無茶を繰り返す姿は、出会った当初のルーンにそっくりだった。そして、呆れるくらいの純粋さは、ルーンにも、アルディの最初の契約者にも、とてもよく似ていた。



「嫌だよ、また……失うなんて……」



「もう……失敗する訳には……いかないんだ……」



 自分のせいじゃない、分かってる。誰にも責められてない、分かっている。それでも、割り切れない、どうしても考えてしまう。自分の力が足りなかったから、自分が失敗したから、契約者を失ったんじゃないか、と。



 アルディは、繋がりを失う事を恐れていた。自分のせいで、何かが傷付くのを……恐れていた。



「……クロノ、君はどんどん先に行っちゃうね」

「それが嬉しいと同時に、怖いよ」



「無茶して……取り返しの付かない事になったら……嫌だよ」

「守ってみせる、そうは言ったけど…………」



 脳裏に蘇るのは、過去の記憶。四天王の九尾と聞いて、嫌でも思い出してしまった、悪夢の記憶。



『ルーンッ! 今回は相手が悪いっ! 考え直すんだっ!』


『苦しんでるのはあっちだっ! 放っておけるかっ!』


『君の水の力じゃ、朧には勝てないっ!』


『その時はアルディがいるさっ! 背中は預けるからね!』




 違うんだ……僕はそんな……大層な力なんて…………。




『はぁ…………はぁ……』


『やべぇなこりゃ……やっぱ化け物だ……』


『ルーンッ! 来たよぉっ!』


『……ッ! ティアラ! 凝浸水ぎょうしんすいっ!』


『ダメ……ッ! 避けられ、ない……!』




 ダメだ……止めろ……止めてくれ……っ!



 

『……くっ! アルディ! 頼…………っ!?』




『クソ……クソオオオオオオオオオオオオッ!!』




 手を伸ばすように、必死に、全力で、力を振り絞った。決死の力も虚しく、自分の力は簡単に貫かれた。代償は、契約者の右腕だ。鮮明に覚えている、自分の目の前に転がった、ルーンの右腕を。



 護れなかった、届かなかった。護ってみせると豪語したくせに、あの様だ。結局自分は変わっていない、最初の契約者を失った時と、変わっていないのだ。




「クロノ、信頼してくれるのは嬉しいけど……僕は怖いんだ……」




「護れなかった時の事を思い出す度に…………体が震えるんだよ……」




 脳裏に刻まれたトラウマ、それは、アルディの力に蓋をしていた。そのトラウマが蘇るのは、もうすぐの事だ。契約者として、向き合わなくてはいけない。



 アルディの力を引き出す為に、次のステージに進む為に。



 支えられているだけじゃダメなんだ、仲間なら、支え合え。



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