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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十八章 『月夜を駆ける、紅き瞳』
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Episode:カルディナ ⑤ 『形成す、心』

「わぁー! 綺麗な桜! ほらほらリウナ! 桜だよ!」



「うざい! 引っ張るな!」



「疲れたでしょ! 今日はあの村で休もう!」



 クロノの後を追うカルディナ一行は、道中に得た情報を頼りにウンディーネの泉を目指していた。その途中で目に入った村で、今日は休息する事にしたようだ。




「よぉしリウナ! 村まで競争ねっ!」




 そう言って駆け出すカルディナを見て、リウナは舌打ちをした。



「んだよあれ……ウザレベルが上がってやがる……」



 それもこれも、あの不気味な屋敷で変な幽霊から話を聞いてからだ。自分は途中まで気を失っていた為、会話の内容を全て聞いたわけじゃない。だがあの時からカルディナの様子が変わったのは、間違いないのだ。



(スゲェ凹んで……随分落ち込んでたと思ったら……急に明るく振舞いやがって……)

(調子狂うんだよ……気持ち悪い……)



「ポワー」



「……んだよ、足元で跳ねてんじゃねぇ、蹴り飛ばすぞ」



 シズクが無表情のまま足元でぴょんぴょんしていた。心なしか、いつもより元気がない。



「ポワ、ポワワ」



「なんだってんだよ! いつもみてぇにあの人間の頭にでも乗ってろ!」



「ポワ!」



「……ッ! うっせぇっ!! クソ人間が落ち込もうが、オレに関係ねぇんだよ!」

「……気になってなんかいねぇっ! うざってぇだけだっ!」



「……ポワ……」



 足元に纏わりつくシズクを無視し、リウナは歩き出す。自分でも何故か分からないが、どうも胸がモヤモヤしていた。




(……なんだよ、クッソッ! イラつくなぁ……!)




 頭をガシガシしながら、リウナは村へと入っていった。





















「おぉう! 桜綺麗だね!」



「くせぇ」



「なんでそういうこと言うかなぁ!」

「……あれ、シズク……?」



 カルディナは自分にシズクが引っ付いていない事に、今更気がついたらしい。



「足元見ろ、ばーか」



「ポワ」



「なぁ~んだ、心配させないでよぉ」

「って…………いやあああああああああ! はや、早く隠れ……!」



 ここは人の村のど真ん中である、堂々と魔物であるシズクを離して置いて良い訳がない。見つかればパニックになるのは容易に想像出来る、カルディナはシズクに手を伸ばすが、シズクはそれを回避した。



「ちょっ! 遊んでる暇無いってば! シズクッ!」



「……ポワ」



「……!? シズク!?」



 いつもは何故こんなに懐いてくれるのか不思議に思うほど擦り寄ってくるシズクが、今日はカルディナを避けていた。何気なく触れていた筈なのに、妙に距離感を感じる。



「…………なんで? シズク……」



「旅の方ですかー?」



(まず……っ!)



 背後からの声に、カルディナは背筋が凍ってしまう。もうシズクを隠す暇がない。



「あれ、水体種スライムですっ!?」



(終わった……! 逃げ……)



「ゲート! イエローカードですよー!」

「はっ!? 私もじゃないんですかっ!?」



「何一人漫才してるんだ?」



 何やらショックを受けている少女、桃色の髪が綺麗な可愛い子だ。そんな少女の背後から、大きな槍と盾を背負った男が現れた。



「いやあのこれはその違くてこの子は悪い水体種スライムじゃなくてその……!」



「落ち着け馬鹿」

「つか……何で人の村に堂々と魔物がいんだよ」

「そこのピンク、テメェ魔物だろ」



 リウナが少女を睨みつける、自分も魔物であるリウナは、匂いで分かるのだ



「ありゃりゃ……バレました……」

「……ゲートォ……」



「あー……どうしよう……?」

「えっと……貴方達は……?」



「んっと……旅の者です……」

「その、クロノって子を追いかけて旅をしてて……」



 その言葉に、男と少女は顔を明るくした。



「クロノの知り合いか! そうかそうか!」

「じゃあ魔物に対しては……!」



「普通の人よりは……抵抗はない、です」



「良かったですー! 焦りましたー……!」



「退治屋だったらと思うと、背筋が凍るよ……」

「もし良かったら、話を聞かせてくれないか?」



「えっと……そちらの話も聞かせてもらえるなら……」



「あぁ、勿論だ」

「あと、この辺はウンディーネの泉が近いせいか、無害な水体種スライムが多くてね」

「その水体種スライムくらいなら、村の人は騒がないと思うよ」



 その一言に、ようやくカルディナは落ち着きを取り戻す。



(あ、焦った……!)



「立ち話もなんだ、着いて来てくれ、お茶でも振舞おう」

「最近ブームの桜湯が中々でね」



 そう言って、男が歩き出す。その後に続こうと、カルディナはシズクに手を伸ばすが、やはり避けられてしまった。シズクはぴょんぴょんと、リウナの足元まで跳ねていく。



「……シズク……?」



「ポワー!」



 その声に振り向いたシズクは、ポワポワしながら跳ねていた。何かを訴えようとしているのは伝わるが、やはり何を言っているのかは分からない。避けられた事実と、胸の奥の悩みによって、カルディナの表情は曇ってしまう。



 そして、それを見たリウナの内心も、モヤモヤと嫌な物が湧き出ていた。






















 ゲートの家でもてなされたカルディナ達は、この村の為にクロノが奮闘した話を聞かされた。クロノの言葉で目が覚めたゲートが、目の前の木精種ドリアード・セラスを救うため、退治屋と一戦交えた事、5年越しの約束を果たし、村の人にも受け入れられた事、その一つ一つの話に、カルディナは釘付けになった。




「そっか……ここでもクロノ君は……」




「あぁ、偉そうに勇者だなんだと言われているが……俺はあいつが居なかったらゴミ以下だっただろう」

「俺達にとって、あの男は恩人だ」



「感謝してもし足りないのです、クロノさんのお陰で、ゲートの傍に居られるです」

「ずっと夢だった、村の人達とのお喋りも出来るです、凄く……幸せです」



 そう言って笑う二人が、本当に幸せそうで……こちらも心から良かったと思うことが出来た。そして、自分の胸の奥に押し込んだ想いが、再び暴れだした。



「…………」



「クロノは、この村からウンディーネの泉を目指した」

「ゆっくり休んで出発するといい、宿屋はあっちの方角だ」



「あっ……ご、ご親切にどうも……ありがとうございます……」



「魔物を連れて旅をしているって事は、君もクロノに思うものがあるんだろ?」

「応援したくなるよな、分かるよ」



 そうだ、応援したくなる、本当に凄いと思う。だが、自分はどうしても、あの少年のように純粋に前を見る事が、出来ないようだ。




 ゲートの家を後にし、宿屋を目指すカルディナだったが、その足取りは重かった。その様子に苛立ちを抑えられなくなったリウナが、カルディナの肩を掴んだ。




「……リウナ?」




「お前さ、いい加減うぜぇ」

「らしくねぇだろ、いつまで落ち込んでんだよ」




 リウナなりに心配してくれているのだろう、絶対に認めないだろうが。それは嬉しいのだが、自分が情けなく思えて仕方がなくなった。



「ゲートさんとセラスさん……幸せそうだったよね……」



「あ?」



「セラスさん……魔物なのにさ……人と仲良くしたいって、思ってたんだ」

「そう思う魔物も居るって……はっきりした……」

「仲良くだって出来るって……認めてもらえるんだって……受け入れられるんだって……分かった」



「悪い魔物も居るのは知ってる、相容れない魔物も居る……」

「けどさ……共存できる魔物も居るんだ……クロノ君は……正しかった……」




「んだよ、何が言いてぇんだ?」




「クリプスさんの話聞いてから……思ったんだ……」

「クリプスさんは……悪い魔物じゃなかった……幽霊になる前だって……悪い事してなかったって……」

「じゃあさ……何であんな目にあったの?」



「なんで、死ななきゃダメだったの……?」

「なんで……助けようとしたお母さんやお父さんが……殺されなきゃいけないのっ!?」

「分かんないよ! 絶対、間違った事してないのにっ!」



「間違ってるのはっ! 絶対! 退治屋の方なのに……っ!」

「おかしいよっ! 酷いよっ! 何で……なんで……っ!」






「お前、母様を退治屋に殺されたオレに……それ聞くのか?」






 冷たい声だった。顔を上げると、リウナの目が今まで見たことのない目になっていた。そこに宿っているのは、今まで押さえ込んでいた怒りや殺意だ。



「簡単じゃねぇか、人間……いや、この場合退治屋に限定するか」

「退治屋ってのは、どうしようもないクズってだけの話だろ」



「笑えるな、何の因果だろうなぁ」

「オレは母様を……お前は両親を退治屋に殺されたって訳だ」



「少しは分かったか、オレがどんだけ人間が嫌いか」

「憎いだろ? オレは憎いよ、退治屋名乗ってる奴等、全員バラバラにしてやりてぇ」




「……ッ! リウナ……!」





「それ以上に……オレはテメェを殺してやりたいねっ!」





 肩を突き飛ばされ、カルディナは尻餅を付いてしまった。




「痛っ!?」




「どこまで綺麗事並べりゃ気が済むんだよ、虫唾が走るっ!」

「テメェさっきから、迷ってんだろ!?」



「退治屋は憎いけど、人間同士で争うなんて……復讐なんて……そう考えてただろっ!」

「気持ち悪いんだよっ! そういう半端なのが一番ムカつくっ!」



「退治屋とも和解して、オレ達魔物とも仲良くする……そんなクソ甘い答えを探してるっ!」

「いや違う……テメェは考えてるだけだ……探してなんかいねぇな」



「戦う覚悟もない、答えを見つけることも出来ない…………ウダウダ立ち止まってるだけだ」

「何が勇者だ、やっぱ人間はどいつもこいつもクソばっかだ」




「クソみたいな夢だが、迷わず進んでるクロノって奴の方が、まだスゲェって思う」

「テメェにはそいつに憧れる資格もねぇよ、口だけ女」




 そう言って、リウナは背を向けた。




「……なんで、だと? ……そんなの、オレが聞きてぇよ……」




 最後の声だけ、泣きそうな声だった。カルディナは何も答えてやれなかった。



 突き飛ばされた肩が、妙に痛んだ。



 それ以上に、心が軋んだ。























 宿屋に泊まったカルディナだったが、リウナとは口を利かなかった。部屋も二部屋取り、別室で寝ることになった。夜まで会話もなく、カルディナはベッドの上で落ち込んでいた。



 夜の9時を回った頃だろうか、突然部屋の扉が蹴りで吹き飛ばされた。



「ひゃあっ!?」



「おい人間、わざわざ忠告に来てやったぞ感謝しろ」



 部屋に入ってきたのは、リウナだ。




「な、何事!?」




「退治屋だ、この前の4人組」

「この辺は海から離れてっから、鼻がよく利く」

「この村の近くまで、追ってきたみたいだな?」



 その言葉にカルディナは飛び起きる。だがリウナに突き飛ばされ、再びベッドに倒れ込んでしまう。




「った!? リウナッ! 何すん……」




「オレは今から、その退治屋共をぶっ殺しに行く」




 カルディナの動きが、凍った。



「な……に……言って……」




「止めたきゃ止めろよ、使い魔契約で命じれば一発だろ?」




「……ッ! 当然止めるわよっ! そんなのダメっ! 絶対!!」



 だが、リウナは背を向け、部屋から出て行った。縛られている様子は、全くない。



「……ッ!? 何で……!」




「……お前さ、心のどっかで、殺しちゃえって思ってんだよ」




「……! そんな訳っ!」




「認めろよ、お前は心の奥底で、退治屋を憎んでる」

「お前が素直にそれを認めてたら、少しは仲良く出来てたかもな」



 言いながらスタスタと歩いていくリウナ、カルディナはその後を追い、リウナの腕を掴んだ。




「行かせないっ! リウナッ! 止まって……っ!?」




 その手を、凄まじい力で振り払われた。睨みつけてくるリウナの目は、完全に獣の目だ。





「ふらふらゆらゆらしてるてめぇが、オレを遮ってんじゃねぇ」




「覚悟もねぇ、貫けるもんもねぇ、そんなゴミが……オレの邪魔をするな」





 言い返す言葉も出ず、カルディナはリウナの背中を見ていることしか出来なかった。リウナの姿が見えなくなった瞬間、崩れ落ち、泣いた。




 直感だが分かる、このままではリウナは、戻れない場所に行ってしまう。


 敗北すれば、間違いなく死ぬ。


 勝ったとしても、もう元には戻れない。




 復讐に身を染め、人に仇名す魔物になってしまう。そうなれば、いつか必ず、殺される。



(やだ……やだよ……)



 また退治屋に……殺される。



(止めなきゃ……今なら間に合……)



 だが、自分にはどうすることも出来ない。そう悟り、カルディナは俯いてしまった。今から追いかけ、再びリウナを止めようとしても、今の自分の言葉では……リウナは止まらない、止められない。



 リウナの言うとおりだ、こんな自分がクロノに憧れを抱くこと自体、分不相応だ。もう頭の中はグチャグチャになっていた。退治屋が憎いのか、自分も復讐したいのか、どうしたいのか、何が正しいのか……。








 もう、考えられなかった。








 考える事を止め、泣く事すら止め……カルディナは呆然と廊下で崩れ落ちていた。闇の中に落ちていく思考に、何かが触れた気がした。




 顔を上げると、自分のすぐ近くにシズクが居た。



「シズク……リウナと一緒だったんじゃ……」



「そっか……あの子置いていったんだ……当然か……」



 何故かシズクに避けられ続け、宿に泊まる前にリウナに預けたのを思い出した。



「ポワー」



「シズク……」



 すがるようにシズクに手を伸ばしたが、やはり避けられてしまう。



「……だよね……そうだよね……」



「こんな……ウジウジしてるあたし……嫌いだよね……」



「けど……もうあたし分かんないよ……」



「こんな時……クロノ君ならどうするのかなぁ……」



 脳裏に浮かぶのは、困難に立ち向かい続けた、あの少年の姿だ。




「……ふぇ……うえええん……」




 真似できない、到底、届かない。


 あの少年のように、自分は戦えない、立ち上がれない。


 どうすることも出来ないのだ、失いたくないと願っても、それを守る事さえ出来ない。


 何が勇者だ、神の加護を受けた者だ。


 迷いに飲み込まれ、何も出来ないじゃないか。




 情けなさでおかしくなりそうだったカルディナ、泣き崩れる彼女の頬に、鈍い痛みが走った。シズクが身体の一部を変形させ、カルディナを引っ叩いたのだ。




「………………シズ、ク……?」




「ポワー! ポワー!」




 怒っている、無表情で、何を考えているのか分からないシズクだが……ハッキリと分かった。叩かれた部分が熱を帯び、不思議な感覚が広がっていく。何故だか、グチャグチャだった頭の中が、落ち着いてきていた。



「ポワ! ポワ! ポワ!」



「……何言ってるか……分かんないよ……」



「ポワーッ!!」



「……分かんない……分かんないよ……」



 必死に目の前で跳ね回るシズク、その姿を見ていると、何故だか思考が単純な物に変わっていった。



「ポワポワ!」



「分かんない……あたし……どうすればいいのか……分かんないよっ!」



「~~~~~っ! ポワーーーッ!」



「……えぅっ!?」



 胸の中に突っ込んでくるシズク、それを受け止めた時、頭じゃなく心で理解した。


 迷っていい、悩んでいい、苦しんでいてもいい。


 今の自分に必要なのは、その答えじゃない。


 そんな物、後回しだ。




「……ッ! あたし……リウナに死んで欲しく……ないよぉ……!」



「助けたい……止めたいんだ……あの子に人殺しなんて……して、欲しくないよぉ……」




 それだけだ、リウナを救いたい、その想いさえあれば……立ち上がれる。



 純粋な心が、ハッキリと形になった。



 その心を糧とし、幻が真なる姿を具現した。




「!? へっ!?」




 シズクの小さな体が光り輝き、一気に膨れ上がる。弾ける様に形を成したシズクは、少女のような姿になってしまった。あまりの衝撃でカルディナは固まってしまう。



「……!!? え……な……はぃ……!?」



「やったあああああああっ! おっきくなれたああっ♪」



 少女の姿を成したシズクは、笑顔で抱きついてきた。ひんやりとしたゼリーのような体で抱きしめられ、カルディナの混乱がさらに加速する。




「なになになになにっ!? どちら様ですかっ!?」




「シズクだよぉマスターッ! マスターが名前くれたじゃないデスかっ!」

「それだけじゃないよぉ、マスターが心をくれたんだよぉ!」


「だからシズク、成長できたんだよぉ!」




「心!? くれた!? 何の話!?」




「シズク、天水体種ディムスライムだからね! 他の生き物の心がごはん!」

「死にかけて消えそうだったところ、マスターが助けてくれたノ!」

「マスターの優しい心、いっぱいいっぱい……貰ったヨ!」




「だからマスターは、シズクのママだヨ♪」




 今のカルディナには、理解するのは不可能だろう。脳の容量を完全にオーバーしてしまった。




「あぅ……!??」




「マスターの純粋で真っ直ぐな心、沢山届いたヨ」

「落ち込んでるマスターの心、美味しくなかったけど……」

「今のマスターは、大好きだヨ!」



 無垢な笑顔で抱きついてくるシズク、その言葉が、今のカルディナには大きな力になった。


 そうだ、悩んだし、落ち込んだ。正直今も迷いはある。


 だが、今の自分の気持ちは、絶対に嘘じゃない。




「…………っ! シズクッ! あたし……リウナを助けたい!」

「止めたいの……分かるっ!?」




「分かるっ! シズクも手伝うヨ!」

「リウナちゃんの場所、シズク分かるヨ!」

「心で感じる! リウナちゃんも、来て欲しがってるヨ!」



 全てを整理してる余裕も、暇も、必要もない。助けたいから、助けに行くのだ。それだけ理解できていれば、問題なんてあるわけない。




 多分、あの少年も、こんな気持ちで走っていた気がする。




「行くよシズクッ! もうあたし、走るからっ!!」




「ポワポワ♪ マスター元気になった!」




 真の姿を成したシズクを背負い、カルディナは宿屋を飛び出した。もう一人の友を、止めるために。




























 アルルカの村から少し離れた草原で、リウナは身に纏っていたマントを脱ぎ捨てた。カルディナに絶対に脱ぐなと言われてから、決して脱ぐことのなかったマントだ。



 冷たい風がリウナの犬耳を撫でる、目を細めたリウナの前には、この前襲ってきた4人組の退治屋が並んでいた。




「潔いじゃないか、わざわざ死にに来るとはね」




「寝言は寝て言え、雑魚が」

「前と同じと思うなよ、八つ裂きにしてやるからさ」




 リウナの言葉を聞き、4人は僅かに笑みを浮かべた。前回追い詰めた魔物が、戯言を言っている程度にしか思ってないのだろう。




「今日はいい月だなぁ」



「血が、疼く……」




 今宵の月は、満月だ。


 リウナはウェアウルフ、当然だが……『あの』力も身に宿している。


 リウナの目が獣の目に変わり、獲物を睨みつけた。




「黒い毛はさ……血が目立たなくていいんだ」

「だから、遠慮なく撒き散らせよ……」




「……血飛沫散らせっ! 人間共がぁっ!!」


 


 吠えた漆黒の獣が、退治屋達に飛び掛る。


 火蓋は、切られた。



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