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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十八章 『月夜を駆ける、紅き瞳』
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第百二十六話 『紡がれる希望』

「天焔闘技大会だ?」



 ユリウスに呼ばれ、城へと赴いたガルアは怪訝な顔で聞き返す。何故魔物の自分達に、人間の催し物の説明をするのだ、と。



「あぁ、元々我が国も、それなりに手を貸す事になっててな」

「今日は今回の大会の為、色々貢献してるラベネ・ラグナからお客さんが来る日だったんだよ」



「本来なら、設置する機械云々のデモンストレーションがどうたら~って用事だったんだがな」

「途中であちらさんに連絡入ってさ、方向性が変わったんだ」




「んなことはどうでもいいんだよ、要件はなんだ」

「俺等を呼んだんだ、俺等に関係あることだろう」



 この場合の『俺等』とは、当然だが魔物という意味だろう。同盟を結んだとはいえ、本来魔物である自分達に、人の大会など関係ある訳がないのだ。



「ユリウス様、わたくし達は本来、人の傍にいることがまずおかしい存在」

「この場へ踏み込む事に、それなりの緊張を持つ者がまだ居るのも事実です」




「まだ不安定なわたくし達に、どのような協力を……?」




 人の国へ赴く獣人種ビースト達にも、それを受け入れる人間達にも、未だに固い物が残っていた。空気が悪い訳ではないのだが、どうにもギクシャクとしてしまうのだ。正直、ロニアやガルアは口にこそ出さないが、多少の不安を抱いていた。



 この先、この同盟を上手く保っていけるのか……結ぶ前から分かっていた困難が、確かに目の前に現れてきていた。



「協力を求めたいって言うか……また助けられるって言うか……」

「…………ははっ……あはははははははっ!! あー駄目だ駄目だっ! 嬉しくて堪えられねぇっ!」



「ロニア、この馬鹿壊れたぞ」



「?? ユリウス、様?」



 突然笑い出す人の王に、獣人種ビーストの代表二人は困惑してしまう。涙を拭いながら、とても嬉しそうな顔でユリウスは二人に近づいてくる。



「まぁちょっと長くなるんで、過程は少し省くけどな」

「単刀直入に言えば、今回の天焔闘技大会は『人魔混合』で行われるそうだ」




「「……は?」」




 予想外の言葉に、ほぼ同時に変な声を上げる二人。待機していたセントールとハーミットも、その言葉に顔を上げた。



「突拍子もない話だが、ラベネ・ラグナの天才お姫様が本格的に動いてるって聞いた」

「成功するか失敗するかも不明、雲を掴むような計画だが……あちらさんはマジらしい」

「んで、魔物と同盟を結んだ我が国・『マークセージ』に、さらに踏み込んだ協力を頼みたいんだとさ」




「随分頭のネジがぶっ飛んだ話だな、その大会、めちゃくちゃになんぞ」

「魔物を舐めすぎだ、血を見るだけじゃ済まなくなるぞ」




わたくしもガルア様と同意見です」

「正直、反対ですわ……勿論、上手く行けば人と魔物の距離は縮むでしょうが……」




 リスクが大きすぎる、場合によっては、逆効果にもなりかねない。自分達がその大変さを現在進行形で味わっているから言える、成功の可能性は、無いに等しい。



「俺もそう思った、断ろうとも思った」

「けどな、協力することにした」




「考えもなしにか?」




「いや? 力になれる事があったら、言ってくれって言っちまったしな」

「この話がこの国に流れてきたのは、ある男の紹介らしい」




「……まさか、その方って……」




「あぁ……、クロノの奴だ」

「本当に凄いよなぁ、ラベネの姫様と手を組んだらしいぞ」



「今あいつは、大会成功の為に世界中を駆け回ってる」

「大会に出てくれる魔物を、必死に探し回ってんだ」



 夢の為とはいえ、本当に頭が下がる。どこまでも真っ直ぐに、あの少年は自分の夢の為、頑張っているらしい。



「クロノが居なかったら、今のマークセージは無い」

「あいつが助けを求めてる、大会を成功させる為、俺達に協力を求めてんだ」



「勿論私情を抜きにしてもだ、あいつが絡んでる以上、信憑性は上がって見える」

「この国に残る固い雰囲気、このイベントに乗っかって消し飛ばそうって魂胆だ」

「まぁ当然、個人的に助けてやりたい気持ちもあるがな」






「それに、ラベネの姫様は万全を期すらしいぞ」







 ガルア達の背後から、魁人と紫苑が姿を現した。




「信頼に足る退治屋や勇者による、徹底した安全配備を行うそうだ」




「退治屋モドキか、お前等今日出発じゃなかったか?」




「出発しようとしたら、丁度ラベネからの使いとすれ違ったんだ」

「そのまま王との話を聞いてしまってな、どうやらクロノは俺の事まであっちに紹介したらしい」



「信頼に足る退治屋が居るから、是非ってさ」

「……また借りが増えちまったよ」




「主君と私は、この計画に協力することにしました」

「主君が居るんです、参加する魔物が暴れても、絶対に大丈夫ですよ」



 魁人達にとっても、これはチャンスだ。ここで実力を示せば、『俗世の真理ボイドトゥルース』の知名度も上がるだろう。



「リスクは当然、でかい」

「けど、成功すりゃ……世界は確実に揺れ動く」

「成功させて、やりたいじゃねぇか?」




 そう笑うユリウスに対し、ガルアは背を向けて歩き出した。




「くだらねぇな、情で博打を打てってか?」




「……まぁ、そうだな」




「テメェら人間はそんなんばっかか、甘すぎて反吐が出る」




 魁人の脇を通り過ぎ、ガルアはそのまま帰ろうとする。ハーミットが不安そうな顔をする中、ガルアは唐突にその足を止めた。



「その情が、俺を変えたのかもな」

「丁度ウルフ族には、暴れたい奴等が大勢余ってる」



「いい機会だ、御国の為って大義名分背負って、暴れてもらおうじゃねぇか」

「俺は既に、あのガキに魔核を託すっつー博打をしてんだしな」



 チラッとこちらを見たガルアの表情は、確かに笑っていた。そんなガルアに、ハーミットは笑顔で駆け寄っていく。



「……魔核とは、わたくし達魔物の力の結晶」

「それを生み出してしまうと、力の大半を長い時間失う事になりますわ」



「自らが培った力の大半を、結晶とし、他者に託す……」

「長い時間自分が大きく弱化するリスクを考えれば、気軽に出来る事じゃありません」




「じゃあ、今のガルアは……」




「えぇ……力は今のわたくしの半分ほどに落ちています」

「その状態で、彼はユリウス様やわたくしに背中を預けてくださっています」

「彼をあそこまで変え、信用されている……クロノ様はやはり素晴らしい方ですわ」




(ちょっとだけ、妬けちゃいますね……ふふっ)




 見惚れてしまいそうな笑顔を浮かべ、ロニアもガルアの後に続いた。



「ユリウス様、我等ケンタウロス族、クロノ様には多大な恩がある身」

「彼の頼みとあれば、協力を惜しむ者は居ないでしょう」




「……忙しくなりますわね、これから」




 そう言い残し、何やら興奮でおかしくなっているセントールを引きずっていくロニア。遠く離れていても、クロノの声に2種の獣人種ビーストは応えてくれた。



 その事実が、ユリウス王の胸を熱くさせる。あの少年が成そうとしている事に、期待しないで居られないのだ。



「最高だね、本当に……楽しくなってきた!」



「クロノッ! マークセージは全面的にお前に協力するっ!」



「お前はお前で……頑張るんだぞっ!」



 大声で宣言し、ユリウス王は駆け出した。こうなればやる事は山積みだ、休んでいる暇など無い。




「魁人っ! お前も頑張れよっ!」




「ははっ……この国の王は元気だな……」



「主君、私達も……負けてられないです」



「……ん、そうだな」



 クロノがくれたチャンスだ、無駄には出来ない。それに、チャンス云々は抜きにしても、助けになりたい気持ちがあるのだ。



「行くぞ、紫苑」

「まずは……ラベネ・ラグナを目指す」



「……はいっ!」



 こちらも一歩目を踏み出した。少しづつだが、確かな物が動き出していた。



























「なるほど、天焔闘技大会か」

「それも、人魔混合……ね」




「……………………」




 無理を言っているのは分かっているのだが、今の所クロノには頼める相手が目の前の二人しか居ないのだ。



「僕は本来、戦いは好きじゃない」

「しかも人間だけじゃなく、魔物と戦う羽目にもなりそうだしね」



 やはり、あまり乗り気では無い。まぁ当然ではある。



「……けど、クロノ君には恩がある」

「なにより、その大会が成功すれば……人と魔物の距離は大きく縮まりそうだ」



「お爺ちゃんが夢見た、共存の世界……その一歩になり得る……」

「……うん、分かった! 協力するよ!」



 ツムギは顔を上げ、笑顔で応じてくれた。



「本当ですか!」



「うん、君の希望を紡ごうじゃないか」

「里のみんなにも掛け合ってみよう、参加してくれる子が居るかもしれない」



 クロノにとっては大助かりだ、一気に大会成功が現実味を帯びてきた。思わず飛び上がりそうになったが、すぐ横の華響が難しい顔をしているのに気がついた。




「……やっぱり、無理ですか」




 華響は人間が嫌いだ、人前で戦うような真似は、嫌なのだろう。そう思ったクロノだが、華響は首を横に振った。



「いや、そうじゃないんです……」

「クロノさんには恩がある、協力するのはやぶさかでないです」



「けど……その……うぅ……」



 なにやらモジモジとしているのは、気のせいじゃないだろう。



「その……魔核を……クロノさんに託そうと思ったのですが……」

「闘技大会を盛り上げるには……全力での戦闘が必要でしょうし……」



「魔核を託したら私の力は大幅に落ちてしまう、期待に沿えなくなってしまいます……」



 予想外の言葉に、クロノは涙が出そうになった。まさか期待に応えたい気持ちで迷っていたとは、正直夢にも思ってなかった。




(こんな時はなんて言うのが正解なんだろう……)




 嬉しさのあまり、上手く頭が回らない。自分でも単純だが、あれだけ敵意を向けられていたのだ、この反応の変化は喜んでも仕方ないだろう。なんとか頭を回転させたクロノは、一つの答えに行き着いた。



「えっと、じゃあ大会で大暴れしてくれると……俺は嬉しいです」



「しかし……」



「大会には、紫苑も来ますから」

「格好良いところ、見せてやってください」



 その言葉に、華響は固まってしまった。数秒ほど固まっていた華響だったが、唐突にクロノの手を握ってきた。




「……ありがとう……」




「……いえ、その方がいいなって、思っただけです」




 きっと、その方が再会する時、上手くいく気がするのだ。無事に協力を得られ、クロノは満足げに笑うが、その足がふらついた。




(…………ッ)




 無理が続いている、体力的には限界だ。だが、悟られる訳にはいかない。



(せっかく……上手く纏まってるんだ)



(心配かける訳にはいかないし、華響さんが負い目を感じちゃう……)



 馬鹿げた意地だが、クロノは無理やり体勢を戻した。長くは持たない、今の自分に出来る、正しい事は……。



「それじゃ……俺はそろそろ行きますね!」



「え? もうかい?」



「大会まで時間も無いですし、あの子達をこんな状況に追い込んだ、山隠しについても調べたいですからね」



 足が悲鳴を上げる、あと少しでいいから、持ってくれ。 



「ツムギさん、モミジに宜しく言っておいて下さい」



「華響さん、もし良かったら、クウ達と一緒に大会に来てください」

「大会に出なくても、色々と楽しめる筈ですから」



「うん、分かったよ」



「はい、その時は改めてお礼を……」



「あはは、いいですよそんなの!」

「じゃあ、また会いましょうっ!!」



 大きく手を振りながら、クロノは里の出入り口を目指して走り出す。チラッと視界の隅に、里の子供達と遊ぶクウ達が映った。




(……もう大丈夫だ、きっと……)




 心の底から安堵したクロノ、その身体から力が抜けた。里から出たクロノは、そのまま崩れ落ちてしまう。そんなクロノを、いつの間にか追いついたセシルが支えた。



「その無駄な強がりはなんなのだ、馬鹿タレ」



「うるさいよ……男の子には意地があんだよ……」



「馬鹿だな」



 暴言を吐きながら、セシルは背負っていたヴァンダルギオンを尻尾で持ち直した。そして、クロノを背中に背負い上げる。



「なに、すんのさ……」



「黙っていろ」



「手、貸さないって……いつも言ってんじゃん……?」

「はは……俺……格好悪い……なぁ……」



 そのまま、クロノは意識を手放した。



「もう、クロノってば強がりなんだからぁ……」



「正直、無茶しすぎは僕達にとってもハラハラなんだけどね」



「絶対、早死にする、タイプ……」



「あーあー満足げに寝やがって……間違いなく馬鹿だ馬鹿、ふはははっ!」



 精霊達がセシルに背負われているクロノを突っつきだす、随分と仲良くなったと、セシルは笑みを浮かべた。



『また傷だらけだな、普通なら死んでいたぞ』



『あはははっ! だよねぇ』



『…………何故笑える……理解できん……』

『何故そこまでするんだ、貴様が傷付く必要は、無かっただろう』



『あったさ』

『僕が傷付かなくても、結果的に何とかなったかも知れない』

『けどさ、多分それじゃ僕、笑えなかったし後悔してた』



『誰かの為に自分を犠牲にする、馬鹿だと思うし、そんなつもりはないんだ』

『……僕自身、満足して笑いたい』

『その結果の為に、僕は戦うんだよ』




(…………馬鹿だな、本当に)


(……何を満足げに眠っているんだ……そんな笑顔を浮かべて……まったく……)


(……きっと……貴様も同じなのだな……)



 ボロボロになった契約者を心配する精霊達、その表情は、どこか嬉しそうだった。何故そんな表情になるのか、セシルは知っている。分かってしまうのが嬉しく、少し寂しい。



 今はまだちっぽけな少年が、彼に追いつく日は来るのだろうか。そんな事を思いながら、セシルはクロノを背負い直す。



 まだ、始まったばかりなのだ。



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