表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
14/875

第十三話 『知識を求めた種族』

「ピリカ、何をしているのか聞いている」



「レー君真面目モードだー、そのレー君は嫌いだなぁー」



 二人のエルフは一瞬睨み合い、すぐにレラのほうが視線を外す。



「まぁいい、今はお前に構ってる暇は無い」



「うわぁー堅苦しい喋り方ー……やっぱ全然似合ってないよ、それ」



 レラは扉を閉め、ピリカを無視して進むと、セシルの前に止まった。



「先ほどの続きを聞かせろ」



 セシルの前に腰を下ろし、そう言った。先ほどの話、五百年前のエルフの話だ。




 セシルは少し考え、レラの瞳を真っ直ぐ見て言う。



「聞いてどうする」



「聞いてから決める」



 即答。



「私が嘘を言うかも知れんぞ?」



「構わん、嘘か真か判断するのも俺だ」



 これも即答だ。



 クロノは横から『うっわぁ格好つけてる、だっさ』と言う声が聞こえた気がするがあえてスルーする。



 五百年前、エルフがどういった種族だったのか……クロノも知りたかったからだ。





「なんてことはない、今と違って引きこもってなかっただけだ」




「何……?」




 セシルは簡単に言った、今と違ったのはそれだけだと。



「話にならん、エルフ族が森を捨てるなど有り得ん」



 そう言い捨て、立ち上がろうとするが、セシルの目は真剣そのものだ。



「森を捨てていたなどと、誰も言っていないぞ」



「今と違い、森に縛られていなかっただけだ」



 その言葉にレラではなく、ピリカが反応する。



「何ですか!? エルフの話なんですかそれ!?」



キラキラと顔を輝かせ、子供のように問う。本当に自分の知らない事に貪欲な子だ。



「今から五百年以上前の、エルフ族の話だ」




「やややややややだなー……森ニート族のエルフがそんなアグレッシブだったわけ……」




「信じる信じないは勝手だが」



「むしろ五百年前のエルフは皆、お前のようだったぞ」



「へ?」




 セシルは目を閉じる、何かを思い出すように、そしてそのまま、語り始めた。



「そうだ、エルフ族はとても好奇心や向上心、探究心が高い種族だった」



「ありとあらゆる知識を求め、『知りたい』と言う感情に正直だった」



「世界を巡り、時に命をかけ知識の収集を続けていたな」



「その知識は己の為、そしてエルフという種族の発展の為に使われたというぞ」



「個人としても、種としても、本当に高い向上心を持っていた」



 セシルは目を閉じたままだったが、その表情は笑っていた。本当に懐かしそうに、当時の光景が浮かんでいるかのように語っていた。



「まったく、戦うのが嫌になる種族でもあったがな」



「ただでさえ魔法の扱いがうまいのに、他族の知識を大量に取り込んでいるからな」



「戦術を見透かされているような感覚に、何度もあったものだ」



そう言って、セシルは片目を開き、目の前のレラを見つめる。



「貴様らは空気中の魔素をその身に取り込み、自身の魔法の力にする」



「本来魔法を扱うものは、自らの体に宿る魔力で魔法を使うが、個人の魔力は大抵一種類の属性に変化させるのがやっとだ」 



「そして大抵の魔法を扱う奴らの行き着く先は、魔力自身に意味を与え、一つの独立した能力にする事」



「それが世の中で最も多く使われる戦術、固有技能スキルメントだ」




 固有技能スキルメント、種族を問わず、魔法使いの最終的に行き着く戦術と言われている。


 その身に宿る魔力から発する魔法は、個人の才によるが大抵は1~2種類の得意な属性に偏る。


 自身の魔力を炎に変えるのが得意な魔法使いは、魔力を水や風には変えるのが下手、といったようにだ。


 固有技能スキルメントはその変化の幅を広げ、使い手の可能性を無限にするものだ。


 魔力自体に意味を与え、自分の魔力その物を一つの能力へ昇華させる、それが固有技能スキルメント、略称・スキルだ。


 自分の魔力を炎にしか変えられなかった魔法使いが、ある日、自分の魔力を『熱を操る』スキルに昇華させたり、属性の枠組みを外れた凄まじいスキルを身につけた者もいる。


 魔法を一種類の、世界で一つだけの自分の力にシフトさせる術、それが固有技能スキルメントだ。





「だが、貴様らは魔力ではない、空気中の魔素を使う」



「何が言いたい?」



「魔素の薄いところでは極端に弱化する、難儀な種族だ」



「だから、何が言いたいのだ」



 またエルフを侮辱する気かと、レラは身構えるが。





「何故、そんな種族に私が戦うのが嫌になる種族と言ったか、分かるか?」





 確かにさっき、セシルはそう言っていた。セシルは両目を開き、続ける。



「五百年前のエルフ達は、知っていたからだ」



「他族の事も、自分たちの事(・・・・・・)も」



「私は固有技能スキルメントを開花させた魔法使いと何度も戦ったがな」



「一番戦うのが嫌だったのは、やはりエルフだったな」



「周囲の魔素を操り、他族の思考を読み、こちらが一番嫌な戦術を取ってくる」



「正直言って、次に何をするかが読めん、しかも魔力の性質に縛られないから使ってくる魔法も数多い、正直面倒くさい」



「魔素を扱うのはエルフだけではないが、一番扱いに優れているのはやはりエルフだ」



「相手と周囲の状況、自身の知識を組み合わせ、真の無限と呼べる戦術」



「五百年前はそれをエルフだけの能力、『英知技能(マルチメント)』と呼んだのだ」



「膨大な知識で培った、向上心が生み出した力だ」







 …………言葉が出なかった……。


 つまり五百年前のエルフは、言ってみれば『知りたい』と言う探究心だけで自身を、そして種を繁栄させたのだ。


 『知りたい』と思うがままに知識を貪欲に貪り、その知識量は戦闘において相手を必ず追い詰める、エルフだけの能力と他族に言わせるほどの物になっていたのだ。





「だが、今のエルフにはその力は無いな」



セシルは俯いて話を聞いているレラに、そう告げた。



「知識を求めるどころか、外との繋がりを断ち、森に引きこもっている」



「しかも次の世代に、先代がどうやって種を栄えさせたか伝えてないとはな」



 ピリカも始めて聞いたらしく、あまりに素晴らしすぎる話だったのか涙を流していた。




「あぁ……あぁ……!! 五百年前の才あるエルフ達よ…………!!」


「その血は、誇り高きその血は!! 間違いなく現代に生きておりまする…………!!」


「素晴らしきかな、エルフの歴史・・・・わたしは、エルフ族を誇りに思います……っ!!」




 何やら恍惚の表情で別次元にトリップしているようだ。ついさっき自分の種族を『森ニート族』とか言っていた少女とは思えない。


 五百年前のエルフがこんなのばっかだと思うと、失礼だとは思うが、クロノは少し複雑だった。




 一方、レラは何かを考えているようだ、「信じられない」、と言いたそうな顔をしている。




「信じられないのか」




 セシルはレラにそう声をかける、セシルの話に証拠はない。だが、クロノは本当だと思っていた。



 昔を懐かしむように語ったセシルの表情が、嘘とは思えなかったのだ。




「……族長は800歳だ、貴様の話が本当ならば、なぜ族長は嘘をつく」

 

「なぜ、五百年以上生きている同胞は、嘘をつく!?」





「さぁ、な」


「私はエルフじゃないからな、真意は分かりかねる」




「……ッ!」




 レラは歯噛みして地面を殴りつける、苛立ちを押さえ込むように唇を噛んでいた。




「なぁ、セシルの話は、きっと嘘じゃないと思うぞ?」




 クロノはそんなレラに自分の考えを伝えてみる事にした。レラがここに来た時から、気になっていた事を。



「人間、何故そう思う」



 スゲェ睨み付けられてるが、クロノはあまり気にしないように続ける。



「いやぁ、ピリカさん見てるとあながち嘘に思えないし……」



「それに、レラさんもそうだろ?」



 そうだ、レラだってそうだったのだ。



「『知りたいから』、ここにきたんだろ?」



 その言葉に、レラは目を見開いて固まった。



「お、れは……」



「そうじゃなきゃ、森に火を放った奴らに話なんて、普通は聞きにこないぞ」



 あれほどこちらに敵意を向けてきたレラが、話を聞きにきた。それも自分らの森に火を放った相手に対してだ。信用できる根拠などない話、普通ならば聞く価値などないと判断するだろう。



「だけど気になった、知りたくなったんだ」



 クロノはそれがきっと、エルフの本質だと悟った。






「……」






 レラはしばらく考え込んだ後、ピリカの方を向いた。





「ピリカ、お前まだ外に行きたいのか?」




 今までの硬い喋り方ではない、落ち着いた声でそう言った。トリップ状態のピリカはその言葉に反応し、レラに向き直る



「行きたいよ、今も昔も変わらずに」



「……そっか」



 レラは俯く、そんなレラにピリカが笑いかける。



「レー君も一緒に行こうよ、約束したじゃん♪」



「ん、考えとく……約束、だったしな」



 俯きながら、レラもそれに応じた。





 どうやら、知りたいことはわかったみたいだなと、クロノは胸を撫で下ろす。



 さて、残る問題は脱出方法だけだ。

扉はピリカかレラが開けられる、だがレラは止めておけと言った。




「なぁ、レラさん さっき何で止めておけって言ったんだ?」




「ん?」



 あぁ……、とレラは思い出した様に答える。



「魔法は扉だけじゃない、この小屋自体にもかかってるからだ」


「扉には単純に貼り付けの魔法で開かないように」


「小屋自体には探知系の魔法だ、範囲内の生命反応を魔素で察知する」



 レラは当初の敵意を向けていた感じは薄れ、意外と丁寧に教えてくれた。



「えーっと、つまり?」



「小屋から出るとその時点でアウトだ、間違いなく見つかるぞ」



「……なぁ、それってお前らがここにいるのもやばくないか?」



 探知系の魔法なら、ここにレラやピリカがいるのもばれているのでは……。



「俺は魔素で体を覆っている、見つかるヘマなんてしないさ」



「ピリカもそれを無意識でやってる、無意識だからピリカは探知魔法に気が付かなかったんだ」



 なるほど、なら安心だ、だが。



「無意識って、どういうことだ?」




「正確に言えば、無自覚だな」


「コイツはこの森に住むエルフの中で、一番魔法が上手いんだ」


「周囲の魔素を肌で感じ取り、無自覚で勝手に防御の魔法を組んでるのさ」




「わたしの魔法は天下一なのですーっ!!」



 両手を広げてアピールするピリカ、実は凄い奴なのかも知れない……。魔法の才能が皆無なクロノには素直に凄いと思えた。





「レー君は一度もわたしに魔法で勝った事、ないのですよー♪」



 腰を下ろしているレラの背後に回り、肩に手を置きながら誇らしげに言う。



「ちっちゃい時はわたしに負けて、よく泣いてたのですー♪」


「ちょ……いつの話だよ!」


「結局魔法で勝つの諦めて、剣術方面に行っちゃったのですよー」


「お、俺は武術向きだったんだよ……」


「まぁ武術でもレー君、わたしに勝ったことないですけどねー」


「……っ!!」




「なんだ、貴様魔法もダメなのか?」


 今まで喋り疲れていたのか、黙っていたセシルがレラを見て言う。



「魔法もって何だ! 魔法もって!!」



「いやぁ、あの剣捌きではなぁ……」



 そういえばレラはセシルに斬りかかった事があったな。




「正直、止まって見えたぞ? 無駄が多すぎる。




 ちなみに、クロノには刀身が見えませんでした、速すぎて。




「………………」




 レラは俯いて黙ってしまう、そんなレラの背後からピリカが頭を撫でてやる。、



「レー君すぐ泣く癖、いい加減に直そうよぉ……」



「泣いてない! 泣いてないだろ!? いい加減にガキ扱い止めろよ!」



「あーはいはい、その顔じゃ説得力無いから」



 この二人を見てると退屈はしなさそうだなぁ……。




「そんなことより、一ついいか」




 鼻を鳴らしながらだが、レラが切り出した、何か気になることでもあっただろうか。





「……何で火を放った?」




 自分達は放火の罪でここにいることを忘れていた、思い出したかのように汗が吹き出てくる。





「あのな、それなんだが事故なんだよ……」





 さて、どうやって説明しようか。ピリカに目をやると、顔が真っ白になっていた。ピリカが森の外に出る為の作戦の事は、言う訳にはいかない。





「えっとな、あれは……」





 クロノが言い終わる前に、レラが倒れた、あまりに唐突に、腰を下ろしていたレラが横に崩れ落ちる。




「え?」



 クロノが声を出した瞬間、キィン!と甲高い音が響いた。



「魔法が、解けたようだな」



 セシルが天井を見上げて言う、それが本当なら魔法の術者に何かあったことになる。



「なんだ、どうなってる?」



 何かが起きている、直感だがそう感じた。



「レー君! レー君っ!!」



 ピリカがレラを抱き起こす、レラは苦しそうな表情でもがいていた。苦悶の表情を浮かべるレラの状態は明らかに普通ではない。



「……っ! 誰か呼ばないとっ!」



 小屋から飛び出そうとするクロノを、セシルが静止する。



「セシルっ! 今は誰か呼んで来ないと……!」



「始まったのかも、しれんな」



 セシルはそう言った。







 始まった…………?

 何がだ……?








【後は時間が着たら、君は交流できるよーって】



あっ…………。





「交、流……?」





リーガルの作戦、まさか……まさか……っ!!






「おーおー……上手くいってんじゃねぇか



「ひゃひゃひゃ! これで大儲けっすねー!」





 外から声が聞こえる、男達の声だ。その声を聞いたと同時、セシルは自分の両手と尻尾を縛っていた拘束魔法を力技で粉砕する。


 バキィンと音を立てて、セシルを縛っていた魔法の鎖は虚空に消えた。




「お、お前……」




 最初から自力で外せたのだ、だから大人しく捕まっていたのか……。






「クロノ、ここからはお前の仕事だ」



 そう言いながらセシルは近づいてくる。



「俺の、仕事?」



 目の前まで近づいてきたセシルは、クロノの両手を縛る鎖を掴み、握り潰した。



「貴様の夢、共存の世界を成すには、避けては通れぬ道だ」



 セシルは真面目な顔で、クロノを見つめる。



 真剣な話をする時、セシルは必ず相手から目を逸らさない、今もそうだった。



「クロノ、壁は他の種族だけではない」



「今回のお前の壁は、同じ人だ」



 しかも、勇者だ。


 共存を訴え、様々な種族との橋渡し役になるには、必ず乗り越えないといけない事。それは、同じ人間との問題だ。




 だが心構えも何も出来ていない、頭の中は真っ白だ。何をどうすればいいのだ、そう思ったクロノの視界には二人のエルフが映った。



「ガッ…………ウガ……ツ……ゥ…………!!?」



 苦悶の表情で苦痛に耐えるレラが。



「レー君!? レー君! 何、何なのよ……!」



 レラの手を握り締め、泣きじゃくるピリカが。










 迷ってる暇は、無かった。










「セシル、ピリカさんはこっちに出さないでくれ」



 扉の前に立ち、セシルに一つ頼みをする。ピリカには、あまりにも酷過ぎるだろう。



「わかった、任せろ」




「クロノ」



 扉を開け放とうとした瞬間、セシルが声をかけてくる。




「自分を信じろ、いいな」



「見せてもらうぞ、色々とな」



 微かに、笑みを浮かべて言った。



「……あぁ!!」



 そう言って扉を、開け放った。

 





 まったく、冗談キツイ。旅に同行するが、協力はしないと言った割には、随分協力してくれる。今回、殆どのキッカケをくれたのはセシルだ。


 彼女がほぼ一人で突っ走り、引き返せなくなった辺りで投げ出された気分だ。舞台は完全に用意されている、ここで引くわけにはいかない。






 なにより、許せない気持ちが大きいのだ、勇者の称号を持つ者が、人を騙した。


 自分だけならまだ許せたかも知れない。だが、奴は魔物だからといって純粋な願いまで利用し、踏み躙った。


ただ、それが許せない、絶対に許せない。






「リィイイイイイガアアアアアアアアアアアァァルッ!!!」






 少年は今、勇者と相対する



次回、ようやく主人公の、見せ場ですヨ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ