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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十八章 『月夜を駆ける、紅き瞳』
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第百二十話 『思うままに』

 兎族の少女・クウを捕らえたクロノは、一度猫の里へ戻っていた。本当ならアジト的な物の場所を聞き出したいところだったが、肝心のクウはスンスン泣いており、会話どころでは無いのだ。



「だからってなんであたしのところに連れてくるにゃ!?」



「いやぁもう今日は夜遅いし……泣いてる子から聞き出すのもあんまりだし……」

「正直女の子の涙ってハードル高いし……」



「答えになってにゃいっ!」



「ぎゃああああああああああっ!!」



 再び顔を引っ掻かれた、激痛のあまり床を転げまわっていると、鈴の音が聞こえてきた。顔を上げると、窓からツムギが覗き込んでくる。



「や♪」



「こんばんわ……」



「荷物盗られちゃったみたいだね?」

「代わりに捕まえたのが、その子?」



 ツムギはクウに目を向けるが、肝心のクウはその視線に怯えてしまった。部屋の隅でカタカタと震えている。



「……訳有り?」



「えっと……あっちにも事情があって……」



 クロノはクウから話してもらった事を、ツムギとモミジに説明した。それと同時、この子達も助けたいという自分の意思も伝える。



「結局猫族もあっち側に一匹いるのにゃっ!?」

「どこの猫にゃっ! とんだとばっちりにゃっ! 毛皮剥いでやるにゃっ!!」



「モミジ、黙ってて」



「はい……にゃ……」



「この子達も被害者ってのは分かったけど……」

「この子達を助けた『ママ』ってのが気になるね」



「なんでわざわざ盗みを……方法なんて他にもありそうなのに……」




「マ、ママは悪くないっぴょんっ! あたし達の為色々してくれた……優しい人っぴょん!」




 部屋の隅で怯えていたクウだったが、ママの話題にだけは割り込んできた。本当に、信頼しているのだろう。



「そのママって何者にゃー?」



「……言わないぴょん」



「このウサギクッソ生意気にゃああっ!!」



 プイッと顔を背けるクウ、爪を光らせながら怒るモミジだったが、クウの肩は微妙に震えている。



「ぴょんぴょんしてられるのも今の内にゃ……泣き止んだ貴様に優しくする義理はないにゃ……」

「さっさと情報を吐き出すにゃ……さもにゃいとその可愛い顔が台無しに……にゃんっ!?」



「子供を虐めるんじゃない、怯えちゃってるじゃんか」



「お前どっちの味方にゃっ!!」



 ジリジリとクウを追い詰めるモミジ、その頭に軽く手刀を落とした。



「どっちの味方って……両方に決まってるじゃんか」

「俺はどっちも助けたいんだ」



「……変な奴にゃあ……」



「どっちも助けるって……クロノ君はこれからどうするつもりなんだい?」



「クウちゃんから話を聞いて、『ママ』って奴と会ってきます」

「この子の他に2人居たし、もしかしたらまだ同じ様な子が居るかも知れないし……」



「その後、人里に行って謝罪……それと誤解を解いてきます」

「ちゃんと事情を話して、謝れば……分かってくれるって信じてます」



「そこまで終わったら、山に行ってみようかなって」



「なんで山に?」



「『山隠し』……それをなんとかしないと、同じ様な子がまた出ちゃうかもしれない」

「だから、調べてみたいんです」



「……何とかできる当てでもあるのかい?」




「少しだけ、ですけどね……」




 クロノは精霊達から、少し気になる話を聞いていたのだ。



「……困ってる魔物、全てを助ける、か……」

「無茶苦茶だね、甘すぎる」



「けど、見ていて気分は良いかな♪」

「期待しているよ、クロノ君」



 そう言い残すと、鈴の音と共にツムギは姿を消した。



「……頑張ります」



「おいこら一人で何格好つけてるにゃっ!」

「このウサギどうするにゃっ! 情報搾り出すにゃっ!」



「……うぅ……」



 モミジはクウを指差し、爪を光らせる。表には出さないよう頑張っているが、クウはビクビクと怯えていた。



「怖がらせちゃダメだよ、話してくれるまで待とう」



「脳みそん中マタタビでも詰まってるのかにゃあああっ!?」

「何を悠長な事ほざいてるにゃっ! 男ならビシッと決めるところ決めるにゃっ!」



「まぁまぁ……今夜はもう遅いしさ、明日の朝にでも……」



「夜遅くに叩き起こして、窃盗集団の一員を押し付けた奴の台詞じゃないにゃっ!」

「大体、なんで当然のようにお前までここで寝ようとしてるにゃっ!」



「荷物盗られちゃったし……野宿装備も盗られた……」



「千歩譲ってこのガキウサギは良いとして、乙女と夜を跨ごうなんてアホかにゃっ!」

「慈悲で毛布は貸してやるから、出ていくにゃあああっ!」



 黄色い毛布を投げつけられ、視界を奪われる。そのまま外まで蹴り飛ばされてしまった。





「いたたた……何だかんだ言って、クウは面倒見てくれるのな……」





 素直では無いが、モミジはやはり優しい子だ。二人きりにしても、乱暴な事はしないだろう。



「……いい加減怯えるの止めるにゃ、こっち来るにゃ」



「暖かいお茶があるにゃ、金は良いからヌクヌクするにゃ」



 ………………間違っても乱暴な事は、しないだろう。絶対に。




「あははっ……心配はしなくて良さそうだ」




「追い出されても笑ってられる、お前の頭のほうが俺は心配だわ」


「寒空の下、毛布に包まって朝を待つ…………ちょっと切ないね……」


「クロノはぶれないねぇ……」


「むにゃ……むにゃ……眠、い……」



 精霊達はブツクサ言っているが、野宿は慣れている。それに……。





「お前ら居るから寂しくないし、寒くもないよ」





 本心から、そう思っていた。



「バーカ」


「馬鹿だなぁ……」


「バーカバーカ♪」


「死ね、馬鹿」



「ティアラ、眠気を無視してまで……」



 モミジの家から少し離れ、手頃な木に寄りかかるクロノ。毛布に包まりながら。精霊達と笑い合う。この時間は、何よりも大切にしたい。



「あれ……そういえばセシルは……?」



 珍しい事に、戦闘が終わっても戻ってきていない。



「……多分、探りに行ったんだろ」



「え、何を?」



「クロノが崖から落ちる瞬間、セシルは誰よりも早く異常に気が付いていたんだ」

「さっき話した、『山隠し』の話……覚えてるよね?」




「……うん」




 戦闘後、猫の里へ戻る途中の事だ。アルディから興味深い話を聞かされていた。



 『山隠し』……その正体は、強大な力で時空を歪め、ジパングの山々を繋いでいる、魔物が用意した隠し通路の事だ。アルディが言うには、500年前も同じ様な現象が起こっていたらしい。



 当時は、隠し通路を設置した魔物が『ある理由』から暴走。魔力が乱れ、通路同士の繋がりがめちゃくちゃになったらしい。その為、近くを通った関係の無い者まで吸い込んでしまい、遠く離れた地へ飛ばされてしまう事件が頻発したのだ。



 500年前はルーンが色々頑張ったらしく、暴走していた魔物も落ち着きを取り戻したらしい。『山隠し』はそれと同時、殆ど起こらなくなった筈なのだ。



「設置されてる通路は、本来力の強い魔物以外は感じる事は出来ないんだ」

「その存在を認識できない者には、通ることも出来ないんだよ」



「暴走中は制御が狂っててねぇ? 近くを通った子を無差別に吸い込んでたんだよぉ」



「今現在の状況は、500年前のあの時と重なってるっつーわけだ」



 つまり、通路を設置している魔物に……何かがあったということだ。



「放っては置けない、よな」

「ここでやることを終えたら、その魔物に会いに行こう」




「止めといた方がいいと思うけどな」




 珍しい事に、フェルドが乗り気じゃない。



「なんでだよ、放っておけば山隠しは止まらないだろう?」



「昔……通路、作ってた……魔物……」

「どんな、子、だったと……思う?」



 クロノの膝の上で寝息を立てていたティアラが、不意にこちらを見上げてきた。



「えっと……そりゃあ強い奴だったんだろ? 通路自体、力が無いと認識できないって言ってたし」



「うん、強かった……ルーンの腕、吹っ飛ばした、し……」



「……………………え?」



「通路を生み出していたのは、当時の四天王だ」

「あの通路は『霧の隠れ道』っつってな? 超強力なワープホールだ」


「そんなもんを合計で数百個以上、ジパングの山々に設置しまくってんだ」

「並の力な訳ねぇだろう」



「『神獣』の朧……当時の四天王で、獣の血を引く魔物達の頂点……」

「九尾の妖狐と呼ばれていた、間違いなく最強に分類される魔物だよ」



「当時はまだ慣れてなかったから、仕方ないと言えば仕方ないんだけどねぇ?」

「ルーンの水の力の上をいって、右腕を吹き飛ばした子だよ」



「あの、通路……狐族の、管轄かんかつ……」

「朧……今は、居ないから…………きっと、子孫が、役目……継いでる」



 当時の四天王、九尾の妖狐の子孫……その話は前にセシルがしてくれていた。



「確か……その狐の子孫って……」



「セシルが言うには、今の四天王……」

「『神憑かみつき』の茜……そう言っていたね」



 冗談じゃない、いくらなんでも、どうにかできるレベルを越えすぎている。



「…………っ」



「止めとけ、まだ早すぎる」



 確かに、自分が動いてもどうにも出来ないだろう。本当に四天王が絡んでいるのなら、役不足もいいところだ。



 思考が凍り付いてしまったクロノだったが、そんなクロノの元へ足音が近づいてきた。



「ん?」



「……ぴょん」



 ビクビクとしながら、クウが近寄ってきていた。



「どした? モミジに虐められたか?」



「……優しくしてもらってるぴょん」



 大体そんな気はしていた。



「じゃあどうしたんだ?」



「……あぅ……」



 クウは俯いて黙り込んでしまう。クロノは首を傾げながら、クウの目の前に歩いていく。



「なんかあったのか?」



「…………本当に……」



「ん?」



「助けて、くれる?」

「カイ君も、リクちゃんも……助けてくれる?」




「…………」




 その目には、不安と恐怖……そして、ほんの僅かの期待が込められていた。恐怖の対象だった人間に、助けるなんて言われ、半信半疑になっているのだろう。無理も無い、見た目はまだ幼い子供だ。



 そんな目で見られたら、悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなる。自信を持って、宣言してやらなければいけない。この子をこれ以上、泣かせる訳にはいかない。




 これ以上、悲しむ子を出してはならない。



「……任せろ、絶対に助けてやるっ!」



「俺には魔物とか人間なんて関係ない、助けるって言ったら……絶対に助けるっ!」



 そう宣言し、クウの頭を思いっきり撫でてやった。初めて、クウが笑ってくれた。



「ぴょん♪」



「友達も絶対に助けてやる、俺に任せろ!」



「……ん♪」



「だああああああっ! マジで外で寝ようとしてるにゃあああああっ!」

「冗談に決まってるにゃっ! 早くこっち来るにゃっ! 風邪ひくにゃっ!」



 クウを撫でていると、遠くからモミジの声が聞こえてきた。本当、優しい奴である。



「はははっ……じゃあ戻ろうか?」



「ぴょん♪」



 クウの手を引き、モミジの家へ歩き出すクロノ。その心に、もう迷いはなかった。



(な、みんな?)

(無謀かもしれないけどさ、やっぱ無理だわ)



(やること終わったら、山隠しをなんとかしにいこう)

(止めても、無駄だからな)




(知ってるっつの馬鹿、それでこそ俺の契約者だ!)


(けど、今は目の前の事に集中してね?)


(フローちゃんとの約束も、忘れちゃダメだからねぇ?)


(スヤスヤ……)



 やることは増えていく、出来るかどうかは分からない。けど、何もしないなんて嫌だ。



「きっと……ルーンもそうだったんだろうな」



「どうなるかなんて分からない、元々当たって砕けろ精神で旅に出たんだ」



「……やって、やるさっ!」



 手を差し伸べたいなら、迷う必要なんて無い。またセシルに馬鹿タレとかなんとか、言われるんだろう。それでいい、それでこそ、自分らしい。



 思うままに、突き進もう。



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