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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十八章 『月夜を駆ける、紅き瞳』
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第百十九話 『強さのリスク』

「おうリク! こっちにゃ!」



「収穫有り~?」



 前もって決めておいた合流地点で、リクとカイは落ち合っていた。クロノから奪い取った荷物をガサゴソと漁り始める。



「にゃにゃん♪ 割と金入ってるにゃ!」

「このブレスレットとかも高く売れそうにゃ……にゃ? にゃんだこの鍵と球は?」



「…………その球、ママと同じくらい凄い力感じるよ?」

「…………もしかして……怖い人襲っちゃった?」



「ば、馬鹿言うにゃ……俺たちに翻弄されてたような奴だぞ……」

「そんなヤバイ奴な訳…………」







『ぴょおおおおおおおおおおおおんっ!?』







 獣の聴覚が、遠く離れた仲間の叫び声を、確かに捉えた。



「クウちゃん……やばい?」



「……不味いにゃ……リク! 引き返すにゃっ!!」



 荷物を背負い直し、二匹の獣人種ビーストは来た道を引き返すのだった。
























 一方その頃、残されたウサギの少女は、涙目になりながら必死に逃亡を繰り返していた。




(急になんだっぴょんっ! 何がどうなってああなるっぴょん!?)




 混乱する頭でどうにかワープを繰り返し、距離を空ける。クロノは一瞬でその動きを追尾、何度も何度も追いついて来ていた。



「返せっ!!」



「ひゃあああんっ!」



 振り切られる手をどうにかしゃがんで避ける、ウサギの耳に掠り、先っぽが少し焦げてしまう。もはやからかう余裕など有りはしない、ウサギは全力で跳躍し、ワープの能力で逃げようとする。



 しかし、ワープ後のウサギをクロノは常軌を逸した速度で捉える。そして一瞬で追尾してくるのだ。




(なんでっ!? なんで追いついてくるっぴょんっ!!)




 完全にパニックになるウサギの少女、クロノは確実に少女を追い込んでいた。



(クロノッ! もう少しで捕まえられる! 頑張っ……)



(ワープ先はこのウサギの視界内……一度もこのウサギは視界外には飛んでない……って事は移動先の候補は随分絞られる……)

(最大の移動距離は精々20メートルくらいだ……それ以下の移動は何度か見たけど、それ以上の距離は一度も飛べてない)



(……あのぉ……クロノ?)



(連続的なワープも不可能、確実にインターバルがある……)

(見たところ、一度飛んだ後は3秒から4秒の間が存在してる)



(ダメ、聞こえて、ない……)



(そして、発動の条件も多分ある)

(ワープする前、このウサギは必ず軽くジャンプする)


(ここまで分かれば……!)



(……やれやれ……面白いくらい向いてる奴だな)



 ワープの予備動作に合わせ、心水を発動。移動後に反応を察知した瞬間、疾風と烈火に切り替え、一気に追尾。炎の力で加速された動きは、疾風の段階ですら、獣人種ビーストに追いつくことを可能にしていた。



 余計な考えを切り離し、水の力とは違う方向性で集中するクロノ。水のように深く、静かに集中するのでは無い。激しく、荒く、目的遂行のみを考え、対象を叩き潰すことだけを考えていた。



 その集中力は、特に怒りの感情と結びつきやすい。ブレーキを踏み砕くように、クロノは一種の暴走状態に入っていた




「があああああああああっ!!」




「ひゃあああああああっ!?」




 炎を纏った一撃が、ウサギの頭上を掠める。恐怖から逃げたい一心で、ウサギは地面を踏み締めた。彼女は自分の固有技能スキルメントを、『瞬間跳躍テレピョン♪』と呼んでいた。



 ある日突然目覚めた力、魔力に乏しかった自分が得た、生き抜く術。自分が空中に居る時のみ発動可能で、自分の視界内20メートル以内に瞬時に移動できる能力だ。彼女の身体に触れていれば、彼女以外も移動できるのだが、空中に居なければ移動できない点は同じである。



 その力を発動させようと、少女はジャンプしようとする。踏み込んだ足が、何かに引っ掛かった。




(ひぅ……っ!?)




 疾風を金剛に切り替えたクロノが大地を踏みつけ、亀裂を発したのだ。少女の小さな足が、地割れに引っ掛かり転倒する。起き上がろうとした少女に、クロノは拳を振り下ろそうとした。



 間一髪でそれを避けた少女だったが、振り下ろされた拳が地面に叩き込まれる。炎と大地の力が篭ったその一撃は、地面に大きな亀裂を入れた。




「ひっ…………あぅ……」




「はぁ……はぁ……がああああああああっ!!」




「馬鹿、もういいだろうが」




 再び拳を振るおうとしたクロノだったが、フェルドに左腕を掴まれた。そして軽く殴られた。




「……!? 何をっ!!」




「お前こそ何する気だ? ちとやりすぎだアホ」

「俺としては炎の力と相性良さそうで嬉しいが、だからこそ気をつけろ」


「言ったろ? 炎の力は自分を制御するのが重要って」

「それが出来ないなら、使わないほうがいい」




「今のお前じゃ、自分も、大事なもんも、全部焼き尽くすぞ?」




 その言葉でハッとなり、クロノは周囲を見渡した。辺りは焼け焦げ、力任せに振るった左拳からは血が流れていた。何より、自分の足元で泣いている少女は、あまりの恐怖からか怯えていた。




「………………っ! ……あっ……俺…………」




「自分で自分の夢を壊す気か? よく考えろ」

「強さの意味、しっかり理解するんだな」




 フェルドが止めなかったら、自分はこの少女に拳を振り下ろしていたかもしれない。取り返しの付かない事を、するところだった。



「あ、あの……」



「ひぅっ! ごめ、ごめんなさ……」

「うぇ……うぇえん……」



 完全に怯えられている、自分のせいだ。何が共存だ、力で捻じ伏せただけだ。




(最低だ……俺……)




 こんな事の為に、力を求めたわけじゃない。自分に対する嫌悪感で、涙が溢れそうになる。落ち込みかけたクロノを、フェルドが軽く殴ってきた。



「痛っ?」



「そこで止まってんじゃねぇ、馬鹿」

「リカバリーしろよ」



「けど……」



「一度や二度の失敗で落ち込んでんじゃねぇ、最初から上手く出来る奴の方がキモイわ」

「お前の失敗は、お前にしか挽回できねぇだろうが」



「お前は一度も失敗しないで、共存の世界を成せると思ってたのか? 舐めてんじゃねぇよ」

「自分のケツは、自分で拭け」




 フェルドはクロノの肩を叩き、姿を消した。その場に残されたのはクロノと、泣き続ける少女だけだ。




(俺の、せいで……この子は怯えてんだよな……)




 昔、ローと一緒に勇者を目指していた時の事を思い出す。会話を操る巧みな話術とか、謝り方だとか、そんなことまで勉強していた。



(……俺が悪いんだ……ちゃんと、謝るべきだ)



(向き合う事の大切さは、もう知ってるはずだろ……!)



 クロノは息を吸い込み、少女の前にしゃがみ込んだ。泣き続けていた少女はビクッと身体を震わせ、ガタガタと震えだす。




「……その、指輪な?」




 出来るだけ優しく、クロノは切り出す。少女が握り締めている指輪を指差し、笑顔を浮かべた。



「俺の、凄く大事な物なんだ」

「だから……ちょっと冷静じゃいられなくて……」



「いや、だから、その…………ごめん、やりすぎた」



 頭を下げるクロノ、自分にはこれ以上の言葉が出てこなかった。震えているウサギの少女は、そんなクロノに指輪を差し出した。



「……返してくれるのか?」



「返す、返すっぴょん……だから殺さないで……」



「……殺したり、しないよ」



「嘘だ……嘘だよぉ……」

「人間はあたし達を虐める……結局力技じゃんか……」



 少女の言葉には、クロノへの恐怖以外に、何かが含まれていた。



「どういう意味だ? そもそも……なんで君達は窃盗なんて……」



「……あたし達は、山隠しで親から引き離されたっぴょん……」




「……山隠し?」




(聞いたことがあるよ、ジパングで語られる謎の現象だ)

(ジパングに多数存在する山は、見えない入り口で繋がっているって話)



(迷い込んだが最後、遠く離れた地へ移動してしまうって……)



 それが本当なら、この子は幼くして一人になってしまったことになる。魔物の子供が一人というのは、退治屋の格好の標的だ。



「何回殺されかけたと思ってるっぴょん……何回狩られそうになったか……」

「信じれるのは、同じ様に山隠しで飛ばされたリクとカイ……」



「それと、拾ってくれたママだけっぴょん……」

「生きる為の知識とか、色々教えてくれた……ママがいなかったらとっくに死んでたっぴょん……」




「……じゃあ窃盗集団として周りを襲ったのも、そのママの指示か?」




「訳の分からない理不尽で、孤独になったあたし達を助けてくれたっぴょんっ!」

「人間には何度も襲われた……その人間から生きる為、盗みを行った……」



「攻められる覚えは無いっぴょんっ! そうでもしなきゃ生きられなかった……!」

「真っ当な理屈とか、正論なんか聞きたくない……聞きたくないっぴょん!」



「人間のお前には……魔物のあたし達なんか、どうなろうと知ったことじゃないだろうけど……」

「あたし達だって生きてるぴょんっ! 死にたくないっぴょんっ!」




 いきなり親から引き離され、何度も何度も人に襲われた。理不尽という言葉以外では、それは表現出来ないだろう。その壁を越えなければ、決して襲われる事の無かっただろう運命は、呆気なく狂ってしまった。



 運命を、人を恨まなければ、おかしくなっていたのだろう。何かにぶつけなければ、やりきれなかったのだろう。だが、だとしても……。




 ……彼女達が進めた道は、何も一つしかなかった訳じゃない。




「……だからって、関係ない人から物を盗むのは、いけないよ」




「ぴょんっ!?」




 涙を流す少女の額を、指で弾いた。少女は一瞬ポカンとした後、クロノを睨みつけた。



「綺麗事なんか、聞きたくないって言ってるっぴょんっ!!」

「だったら、どうすれば良かったぴょん! 魔物は黙って死んでろとでも言うつもりかっ!」



「違う、そうじゃないよ」

「君達には、別の道だってあった筈なんだ」



「別の……? そんなの、あるわけな……」

「……まさか、人に助けを求めれば良かったとか、馬鹿な事言うつもり……?」



「うん、そのつもり」



「馬鹿っ!! 馬鹿馬鹿馬鹿っ!! 頭おかしいっぴょんっ!」

「人間に何度殺されかけたと思ってるっぴょんっ! その人間に近寄る選択なんて……大馬鹿も良いところっぴょんっ!!」




「退治屋の馬鹿には、本当に頭にくるよ」




「馬鹿はお前っぴょんっ!」

「大体……魔物を助けようとする人間なんて……いるわけない……っ!?」




 言い切られる前に、クロノは少女の頭に手を伸ばす。怖がらせないように、ゆっくりと撫でてやった。



「いるよ、ここにいる」

「それに俺は知ってる、魔物を助ける為、体を張る人間達を」



「一国の王様だって、勇者だって、魔物を救ってくれた」

「だから俺は胸を張って言える、そんな人間が、いるって事を」



 ここまでの経験が、自信を持ってその言葉を支えてくれた。



「俺の夢は、人と魔物が共存できる世界なんだ」

「さっきは失敗した、我を忘れて……君を怖がらせた」



「だから、挽回させて欲しい」

「君を、君達を……助けさせてくれ」



 真っ直ぐと少女を見て、クロノは言った。生まれて初めて、人の優しさに触れた少女は……静かに涙を零した。




「ふぇ……うわあああああん……っ!」




「必ず助けてみせるから、信じてくれ」




 助けるべき子ばかり増えていくが、これ以上無駄な涙を増やすわけにもいかない。そして、もう失敗するわけにもいかないのだ。



(……なっ? 任せて問題なかったろ?)



(別に……信用してなかったわけじゃないさ……)



 心の中でニヤニヤするフェルドと、顔を背けるアルディ。クロノが落ち込んだ際、助けに出ようとしたアルディを、フェルドが制したのだ。



(過保護も程々にしろよ? 我等が契約者は、思ったほどヤワじゃねぇっぽいしよ)

(ま、まだまだガキだからな……見守る必要はあるがな)



(そうだね、けど……心配はしてないさ)



(支え、る……のが……私達の、役目……)



(今回もそれは、変わらないよぉ♪)



 精霊達も心を決める。もう、失敗なんてさせないと。






























 遠くから一部始終を観察していたリクとカイ、会話の内容は途切れ途切れにしか聞こえなかったが、あの人間にクウが泣かされているのは確かだった。




「どうするの……? クウちゃん負けちゃったよぅ……」




「俺たちの中で、唯一の固有技能スキルメント持ちのクウが負けた……」

「これは不味いにゃ……ママに報告にゃっ!」




「少しだけ待ってるにゃ、クウ……すぐに助けるにゃっ!!」




 こちらも間違った方向に動き出す、事態の解決には、まだ時間がかかりそうである。 



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