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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十八章 『月夜を駆ける、紅き瞳』
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第百十七話 『幻龍への挑戦』

「見えたっ! アクトミル!」


「馬っ鹿! 暴れんじゃねぇよっ!」



 高台から見えるのは、フローと再会を約束した国、アクトミル。約束の日程ギリギリだが、なんとかクロノ達は無事に辿り着こうとしていた。



「無事、なのかなぁ……」


「結局クロノは何度も倒れかけてたしね」


「フェルド、荷物、持ち……」


「正直かなーり不安要素あるんだが?」



「ごめん……」



 道中、契約時の激戦のダメージか、クロノは何度も膝を付いていた。フェルドとアルディが交代で肩を貸してくれて、なんとか滑り込みセーフを決めたのだ。



「ここまで情けなく、頼りにならない契約者は貴様くらいだ」



「精霊達が頼りになりすぎるんだよ……」



「エティルちゃんはちゃーんと、クロノの事頼りにしてるよぉ?」



 その言葉はとても嬉しい、だが息を切らしているクロノの頭の上に陣取るのはどうかと思う。



「俺たちを引っ張って行ってくれるくらいになって貰わないと、話になんねぇぞクロノ?」

「まぁ俺に肩借りてる現状じゃ、やれやれってこった」



「そう、もっと、頑張って……肩を、貸すくらい、の……勢い、で……」



「ティアラはいつも肩借りてるじゃないか……」



 何かあれば首に腕を回し、無理やりおぶさってくるのだ。肩どころか背中を占領されている気がする。



「なんなら俺がおぶってやってもいいんだぜ?」


「暑苦、しい……寄るな……しっ……しっ……」


「素直じゃねぇなぁ、可愛くねぇったらねぇわ」


「君達本当に仲いいよね、変わってなくて微笑ましいよ」


「まぁ付き合い長ぇしな」


「目、腐って、る? アル?」


「いやぁ、賑やかだねぇ! ティアラちゃんも機嫌いいし!」

「ここは一つエティルちゃんが歌でもごぼぼぼーっ!?」



「馬鹿、増えた、だけ……」



 放っておくとこの調子である。正直賑やかになりすぎた気もする。



「はは…………静けさとは縁遠いなぁ……」



「うるさいくらいだな、まったく」



 そうは言うが、セシルの表情は柔らかい。



「……貴様は、嫌か?」



「へ? 俺?」

「うーん……」



 騒ぎから一歩引いた場所で、クロノは少し考える。脳裏に浮かんだのは、母親が死んで間もない頃の記憶だ。家が随分広く感じ、沈黙が自分を支配していた。



 そんな時間は、ローが壊してくれた。最初はやかましいと、鬱陶しく思ったものだ。だが、クロノは顔を上げ、ワイワイ騒ぐ精霊達を眺める。




「…………結構、悪くないんだよな」

「俺は、割と気に入ってるよ」




「そうだな、悪い物ではないな」




 珍しく、セシルが同意してきた。




「精霊がくれるのって、力だけじゃないんだよなぁ……」




 ふと零した一言に、セシルが目を丸くした。




「……どした?」




「…………いや、………………そうだな」

「そろそろ行くぞ、止まっていても仕方ないだろう」




「……? ま、そうだな」

「おーい! そろそろ進もうっ!」



 ワイワイ騒いでいる精霊達に、クロノが駆け寄っていく。すぐに足がもつれ、転びそうになったが、フェルドがクロノの首根っこを掴み上げた。



「っぶねぇなっ! まだ走んじゃねぇよ!」


「フェルド君優しいねぇ♪」


「伊達に僕等の兄貴分じゃないよね、頼りになるよ」

「正直僕一人じゃクロノの身が持たないところだったし……」


「それ、より……この、役立たず……なんとか、しないと……」



「だぁーっ! 悪かったな! モヤシでさぁっ!」



「クロノ拗ねちゃったよぉ!?」



 騒ぎに加わったクロノを見つめ、セシルは表情を曇らせた。




『精霊がくれるのは、何も力だけじゃないよ』

『この時間とか気持ちって……かけがえの無い物じゃないか』



『僕の宝物……大事な物って、眼に見えないんだよねぇ』

『無くさないように……しっかり守らないと、ね?』






(……………………馬鹿タレ…………)






 どうしても、重なってしまう。本当に、嫌になるくらい似ていた。




「…………貴様は、無くすなよ」




 誰にも聞こえないほど小さな声で、セシルは呟いていた。

























 アクトミル……デフェール大陸に存在する、三つの代表国の内の一つだ。大きさそのものは他の二つの国と大差は無いが、コロシアムの存在が大きいのか、最も人口が多く、賑やかな国だった。



「はぁ~……ラベネ・ラグナも大きな国だと思ってたけど……デフェールの国はやっぱ規模が違うなぁ」

「……カリアが豆みたいに思えるぜ……」



(人が、ゴミの……ようだ……)


(ティアラちゃんが引き篭もっちゃったよぉ!?)


(クロノ、僕達無しでちゃんと歩けるかい?)


(くぅ~っ! 外出るのも街の中進むのもクッソ久々だなぁっ!!)



「お前ら纏まりあるのかないのか分かんないよな……」



「姿を隠した精霊とは心で話せ、独り言に見えるぞ」

「ただでさえ馬鹿タレな貴様だ、頭もおかしいと思われると面倒だ」




「頭『も』ってなんだよ、悪かったなおかしな夢で」




「分かってるじゃないか、精々見返してみろ」




「上等だ、見てろよな」

「絶対、大会は成功させてやる」


「むしろワクワクするね、挑戦するこの感じは大好きだ」




「中々言うな? 前言撤回しなければいいが」




 セシルの挑戦的な笑みも、今は笑って流す事ができた。自信とは少し違うが、やってみせるという決心が益々強くなる。





「まずはフローと合流しないとな……この広い国で探すのは骨が折れ……」











『止まれっ!!!!!!!!!!!!』





「ぎゃああっ!?」





 クロノがアクトミルへ一歩踏み出した瞬間、機械的な音声が響いた。通行人たちが驚いた様子で足を止め、クロノは至近距離で鳴り響いた爆音で耳をやられてしまった。




「……なんなのだ一体」




「しらな……つぅ……」



(耳キーンだよぉ……?)

(うっ……ガンガンきた……)

(……………………)

(おいおい、ティアラ気絶しちまったぞ)




 セシルは耳を塞いで難を逃れたようだが、精霊達への被害は甚大である。事態を飲み込めず、困惑するクロノの頭上から、何かが飛来した。




「クロノォッ!! 遅いわボケがぁっ!!」



「フローラル姫っ!?」



「フローと呼ばんか凡才がぁっ!!」



「ぎゃあああああああああっ!?」




 二足歩行の巨大な機械に乗ったフローが、クロノの真横に着地した。挨拶代わりに弾丸がクロノの頬を掠める。



「もうこちらのメンテは済んでしまったぞ、女を待たせる男はクズじゃ」



「そんな無茶苦茶な……」



「おぉセシルではないかっ! 相変わらず美人じゃなぁ」



「貴様も相変わらずクレイジーだな」



「褒め言葉として受け取ろうかの」



 何故この二人はこんなに和気藹々としているのだろうか、クロノの知らないところで何かが動いている気がしてならない。



(何故か嫌な予感がする……)



「あーあー! 脱線しとる時間は無いのじゃっ!」

「凡才にも分かりやすく説明する、さっさと着いてくるのじゃ」



 そう言うと、フローの乗った二足歩行の機械が歩き出した。



「フロー? この見るからに戦闘用の機械はなんですかね」



「大会の警備用プロトタイプじゃ、『警備員君+』と呼ぶがいいぞ」



 ガシャンガシャンと歩を進める鉄の塊、それは明らかに一日や二日で作れる物ではなかった。




「……通信用の機械ってのは……どうしたんです?」




「ついさっきテストを終えた、問題なく運用可能じゃ」

「後はラベネに戻り、量産して世界中へ設置するだけじゃな」



「思いの他上手くいった、だから暇な時間でこれ作ったんじゃ」

「まぁ開発で手間取るとは思っておらん、ここまでは予定通りじゃ」



「問題は他国への設置許可や、魔物を呼び込む許可を取ることじゃろうなぁ」

「頭の固い連中をどう納得させるか……2000通りほどパターンは……」




 自分の目の前に居る少女は、間違いなく天才だと、深く実感してしまう。正直、レベルが違いすぎる。




「…………凄いな、本当……」




 自分よりも年下だが、遥か先に居る存在だ。彼女の策には、自分の全てを賭ける価値が十分にある。



「契約、無事成功したようじゃの」



「へ!?」



 唐突に話を振られ、クロノは変な声を出してしまう。




「分かるんですか、そんなこと……」




「前から精霊の反応が一つ増えておる」

「それに、精霊を4体連れた者が国に踏み込んだ時、合図を鳴らすよう機械を設置しておいたのじゃ」




「妾は前に精霊の探知機を作った、一度作った物の応用作など息をするより簡単じゃ」




 振り返ったフローが、誇らしげな顔をしていた。



「はは……敵わないっすね……」



「でもでもぉっ! あの音はやりすぎだよぉ!」


「耳が壊れるかと思ったよ……僕達はともかくクロノの鼓膜が破れたらどうするつもりですか?」


「訴え、る……静か、一番……」


「いやぁいい目をする嬢ちゃんだなぁ? 面白ぇ♪」



 乾いた笑みを浮かべるクロノの周りに、次々と精霊が姿を現した。フローはその様子を見て、笑顔を浮かべる。



「なんじゃ? ゾロゾロと引き連れよって……」

「やはり、中々様になるのぉ」



「へ?」



「魔物集めに適任、そう思ったまでじゃ」

「人成らざる者と、そうも楽しげにいるお主なら……とな」



 その言葉に、セシルは誰にも悟られないよう、笑みを浮かべていた。




「クロノ、大会までは六ヶ月を切っておる」

「大会のエントリー期間終了までに、お主は四大陸を巡り……参加してくれる魔物を探す」



「ここまではよいな?」



「はい、死力を尽くして……頑張ります」



「うむ、死ぬ一歩手前まで振り絞れ」

「それとな、お主にはもう一つ役目を任せたいのじゃ」



 そう言ってフローは、一枚の紙をクロノに手渡した。




「これ……?」




「人魔混合の大会を、上手い事開催まで持っていけたとして、じゃ」

「観戦者達の心には、魔物への圧倒的恐怖が付き纏うじゃろう」



「各国から集った実力者達が、魔物の力に簡単に捻じ伏せられた場合……大会を楽しむどころではないじゃろう?」

「妾も人の身、人の力をそう疑いたくはないが……万が一もある」



「杞憂で済めばいいが……一方的な試合になれば……大会は暗雲で包まれる」

「だからこそ、大会で健闘する人間の存在は必須なのじゃ」



「そういった存在が、現れない可能性もある」

「だからこそ、保険として……お主にも大会に出てもらいたいのじゃ」



 願ったり叶ったりである、元からそのつもりだったのだ。セシルに言われ、少しムキになった気持ちも確かにある。だが、クロノだって年頃の男の子だ。20年に一度の大会で、一番を目指す……。




 燃えないはずが、ない。




「勿論出ますよ、優勝だって狙っちゃいますよ」




 そう言い放ち、クロノは大会への出場用紙にサインをした。



「即答か、やはりお主を選んで正解じゃった」



「魔物集めのほう、宜しく頼むぞ」

「そして、クロノ、セシル、大会当日も頼んだぞ!」





「はいっ! …………………………ん?」





「任せておけ」





 ちょっと待て、何かがおかしい。




「いやいやいや、何でセシルも返事してんだ?」




「…………同じ理由でな、もし人間が圧倒的に戦果を上げた場合」

「魔物側も、見ていて面白くないだろう?」



「それでは意味がない、人も魔物も……両者が楽しめる大会にしなければな?」




「いや、そりゃあ……まぁ……」




「盛り上げる為には、拮抗し、火花を散らす激戦が必須……」

「血を滾らせ、見るものすら熱くなるような…………そんな戦いが必要なのだ」




 どうしよう、こんな楽しそうなセシルは、今まで見たことがない。




「いや……けど……まさか……」




「私も、大会に出場させてもらう」

「クロノ、そこから上がってこい」






「もし登りきれたら………………相手をしてやる」






 そう笑い、セシルがクロノの横を通り過ぎていく。すれ違う瞬間、クロノの耳元で微かに声が聞こえた。












「……全部、掴み取るのだろう?」




「もう、前言撤回は認めんぞ?」












 冷や汗が頬を伝い、背筋がビリッとした。恐怖は勿論あるが、それ以上に……。



(セシルと……戦える……?)



(四天王の、セシルと……? 勝てる訳ない……けど……)



 四天王の一人であり、伝説の勇者の嘗ての仲間、ここまで一緒に旅をしてきたのだ、セシルの強さは思い知っている。憧れていた、追いつきたいと、切に願っていた。



 いつか、その背中に追いつきたいと……心から思っていた。勝ち目はない、今の自分じゃどう足掻いても勝負にならない。だが、時間がある。



 数多の魔物との出会いを経て、六ヵ月後の自分がどうなっているのか、今はまだ分からない。




(…………試したい)




(挑戦してみたい……! 俺は……俺は……!)




 無謀だろうが何だろうが、憧れていたセシルが、戦ってやると言ってくれたのだ。こんなチャンスはもう来ないかもしれない、だったら……。



(うん、クロノならそう言うよねぇ♪)



(仕方ない……気合入れようか!)



(はぁ……やっぱり……馬鹿ばっか……)



(ふはははははっ! いいね! やっぱクロノ好きだわっ! ふははっ!)



 クロノは振り返り、セシルの背に向かって声を張り上げた。




「セシルッ!!」




 背中を向けたまま、セシルは立ち止まる。




「……っ! 絶対、辿り着くからっ!」



「その時は……っ! 戦おうっ!」






「……面白い、それでこそ馬鹿タレだ」




 


 逃げるわけには、いかない。セシルと戦いたい、これは紛れもない本心だ。



「話は纏まったようじゃな」

「クロノ、ジパング地方を目指せ」




「ジパング地方を?」




「小耳に挟んだのじゃ、ジパングでは幾つか魔物絡みの問題が起こっておる」

「解決と勧誘、お主にとっては一石二鳥じゃろ?」



「デフェール大陸を十分回ったら、ビーズ港からアノールドへ渡るがいい」

「休む暇は殆どないぞ? セシルに追いつきたいのなら……気を引き締めろっ!」



 そう言って、フローが小型の機械を投げつけてきた。それを左手でキャッチする。




「これは?」




「この国に持ち込んだ通信機の小型バージョンじゃ」

「前のような玩具ではない、ちゃんとした通信機じゃ」



「連絡はそれで取り合う、さぁ行けクロノ!」

「互いのステージでベストを尽くす、大会を盛り上げるのじゃっ!」





「……っ! はいっ!」





 走り出した思いは、もう止められない。頂の見えない巨大な壁の、小さな出っ張りに、少年は手をかけた。




 乗り越えろ、これは挑戦だ。



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