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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
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第十二話 『わたしは、知りたい』

 クロノとセシルは空き小屋というか、物置小屋のような場所に入れられた。


 物も何も無く、小さな窓が入り口から見て左右に二つあるだけの石造りの小屋は、牢屋と言っても差し支えないような場所だった。




 小さな窓から差し込む光は月明かりか、それとも湖上の光の玉が発する光か……そんな事を考えながらクロノは壁にもたれかかっていた。



 セシルはクロノとは逆の壁に背を預け、足を伸ばして天井を見上げていた。



 当然拘束魔法は継続中、尻尾を自由に動かせないので退屈そうだ。先っぽだけをピコピコとさせながら、セシルは黙っていた。




 二人がここに入れられて20分は立つだろうか、どちらも一言も話そうとしなかった。沈黙の重圧に限界が来たので、意を決してクロノは口を開く。



「あのさ……」



「断る」



 言い出す前に断られた。


「まだ何も言ってねぇよ……」




「さっきの話はどういうことだ、だろう?」



 セシルは天井を見上げたまま、クロノが言おうとした事を言い当てた。



「悪いが、まだ話すつもりはない」




「ぐっ……」



 五百年前のエルフの誇り、エルフの有り方……。先ほどの会話を聞く限り、セシルはそれを知っていることになる。周りのエルフや族長の反応を見るに、適当を言った訳でもなさそうだった。




「セシル、お前マジで何者なんだよ」




 空から降ってきただけでも不可解な存在だったが、五百年前の他族の情報を何故、セシルは知っている?



 エルフが残した歴史書でも読んだか……? いや、違う。



 先ほどの会話から察するに、セシルの言うエルフの記録は先代達が揉み消し、抹消しようとした歴史だ。



 あれだけ自分達の有り方だ、誇りだと言っていた種族が……先祖の行いを次の世代に語らないわけがない。その行いを、未来に残さないはずがないのだ。



 だが、実際今のエルフ達が先代達の行いを隠蔽いんぺいしているとすれば……。先ほどのセシルの話が本当であれば、そんな歴史書を残しているはずが無い。



「セシル、お前歳幾つ?」




「20だ、後、女性に軽々しく年齢を聞くな、馬鹿タレ」



 そして今、実はセシルが500年生きてます☆という線も消えた。嘘をついてる可能性もあるだろうが、竜人種リザードマンはそもそもそこまで長寿ではない。



「セシルさ、何か怒ってない?」



 思えば、松明に火炎放射をぶちかました時から様子が変だ。



「怒っては、いない」



 その割に、さっきから顔も合わせてくれなかった。



 俺が何かしたのだろうか、夕飯がまずかったのか……? もしそれが理由ならあんまりすぎる。



 そんな事に頭を悩ませていると、入り口から物音が聞こえた。





(俺達の処刑方法でも決まったか……?)





 最近、考え方が妙にマイナス方向へ傾くようになったなぁ、とクロノは内心涙目になる。扉が開くと、見知った顔の少女が入ってきた。



「シー! シー! ですよー! 見つかったら大変ですー!」



「いや、貴様声がでかいぞ」



 セシルが速攻で突っ込んだ。



「あれ、君…」



 少女はリーガルさんに助けを求めたという、あのエルフだった。



「はい♪ 先ほどはちゃんとご挨拶できず、すいませんでした」



 エルフの少女は、笑顔でぺこりと頭を下げた。



「えーわたし、ピリカ=ケトゥシと申します!」



「出来れば、ピリカと呼んで頂ければと!」




「いや、だから声がでかいぞ貴様」



 静かにしろと自分で言っていた割に、自分は普通に喋っていた。



「はぅあ!? そうでした、見つかったら大変な事に……」



 そう言って扉を閉める、『ふぅー……第一関門突破ぁ……』とピリカは一息ついていた。



「貴様、何しにきたのだ……」



 セシルは早々に呆れていた、良く自分が向けられる目なので、クロノにはすぐ分かる。……こんな短期間にそんな事が分かるようになっている、自分が悲しい。



「はえ? えーっと……」



 扉に背中を預けつつ、少女は考え込む。



「ピリカさんって、リーガルさんの作戦実行中じゃなかったっけ?」



 ピリカが答える前に、クロノは自分の疑問を問う。



 自分があの時に送った合図は(予想だにしない大火災になったが)袋を運んで行ったエルフへの合図と、リーガルから聞いていたのだ。



「あ、はいー! 合図はちゃあんと届きましたよー♪」



 そりゃあんだけ派手に燃やせば届くだろうなと、クロノは苦笑いを浮かべる。



「合図を確認後、リーガル様の指示通り袋を森の各地に設置してー……」


「なんだか森が騒がしいなと、様子を見に行ったら森が燃えちゃっててー……」


「よく見たらさっき見たお兄さんが捕まってたからー……」


「遠くから見てたら、ここに入れられてるの見えたからー……」


 自分の頭を人差し指でコンコンと突っつきながら、ピリカはここに至るまでの過程を説明する。




「だから来ました! 未知の匂いを追って!」




 良い笑顔なのだが、もしかしてアホの子なのだろうか。



「そしてお兄さん! 合図の事知ってるってことは、やっぱり協力者さんですね!?」




「え、あぁ……リーガルさんに手伝ってくれって頼まれて……」



 言い終わる前に、一気に距離を詰められ、両手を握られる。



「感謝感激! わたしの夢の為のご協力感謝感激です!」



「うわぁ!?」



「同じこと二回言ってるぞ、貴様」



「だから静かにしてくださいってば! 見つかっちゃいます!!」



「貴様が一番やかましいわ!!」



 何やら、カオスな空間になってきた気がする……。



「話を戻しますが……」



 ゴホン、と喉を鳴らすピリカ。



「ご無事で何よりです、合図を送ってくれたのは、お兄さん達なのですよね?」



「あぁ……そうだけど」



 その合図のせいでここにいるのだが、あえて言わないでおく。






「森が燃えていた場所は、合図が送られる場所のすぐ近くだったのですよぉ……」





「放火魔に襲われずに、本当によかったですー……」






 やはりこの子は気が付いていない、クロノは頭痛がしてくるのを感じた。



「その放火魔が私たちだ」



 そして、やはりこのトカゲはその事をノータイムで告げる。



「…………ほえ?」



 妙な声を出しながら、首を傾げるエルフの少女。



「貴様の見た合図の煙は、森に放った炎のモノだ」



 そんな彼女に、もう一度セシルは告げる。クロノは次に起こるであろうアクションを阻止する為、体を起こす。




「ふええむぐぅぅ……………っ!?」





 叫びかける少女の口を塞ぐ、流石に叫ばれたら、ここに彼女がいるのがばれてしまう。



「違うんだ! 確かに火を点けちゃったのは俺達だけど、事故なんだよ!!」



 実際は事故でも無ければ、自分はある意味で被害者なのだが……。



「むぐぅ……う?」



 口を押さえられながら、ピリカはセシルの方に視線を向ける。そして何かに気が付いたように顔を輝かせ、



「わああああああっ! 竜人種リザードマンの方ですよね!? 始めて見ましたー!!」



 クロノを弾き飛ばし、セシルのすぐ前に飛び込む。



「遅い!そして近い! 何なのだ貴様さっきから!!」


「うわぁ、本当に足とか鱗で覆われてるんですねぇ……」


「ちょっ……何触って……えぇい!離れろっ!」


「尻尾! 尻尾です! わぁーわぁー!」


「いや、だから……ひゃっ!?」


「凄いですー! 他族の方ですー!! かるちゃーしょっく? ですー!」



ブチンッ……と聞き慣れない音が響くと同時、ピリカの体は天井近くまで浮いていた。




 ……セシルが蹴り上げたのだ、衝撃波だけで岩が砕けるのでは無いかと疑うほどの蹴りだった。 




 ピリカに弾き飛ばされたクロノは、目の前の空間がピンク色に染まる事に若干期待し、眺めていたのだが……。



「現実は血の色ですか、そうですか……」



 血の気が色んな意味で、引いていた。と言うか色々とやばいのでは、そう思い上を見上げる。


天井近くまで蹴り飛ばされたピリカは、そのまま空中で反転し、天井を蹴って着地した。



「いったぁ~!! 何するんですかーっ!」



 蹴り上げられた顎を擦りつつ、涙目で訴える。



「次やったら、顔の形が変わると思え」



 セシルは荒い息で威嚇する、あの目はマジだ。



「あのさ、色々突っ込みたいのは山々なんだけどさ……」



 あの蹴り喰らってその程度なのかーとか、静かにするのはどこ行ったーとか言いたい事はあるのだが。



「……怒らないのか?」



「ふえ?」



 森を燃やした張本人達が目の前にいるというのに、ピリカに怒っている様子はない。他のエルフとは、そこが異なっていた。




「怒りませんよ、たかが森じゃないですか」




 その言葉を聞いたら、それだけで他のエルフが切れそうな一言にクロノは驚く。



「森は恵みを与えてくれます、わたし達エルフの守るべき場所で……」



 少し、俯き。



「わたし達の、世界です……」



 何故か、悲しそうに言うピリカにセシルが言葉を繋ぐ。



「貴様、外に出たいのか」



「出たいです」



 即答する、顔は真剣そのものだった。



「森は好きです、わたしの生まれた場所だから」


「この世界もりに居れば、きっと生きていくのに不便はないでしょう」


「大人達が言うように、外に出る必要なんて、無いのかも知れません」



 セシルも、クロノも、黙って聞いていた。



「みんなそれに疑問も持たないんです、ここが全てだって、そう言うんです」



「でも、わたしはそれでも……外に出たいです」



「この森にずっといても、見られないものが、出会えないものが、外にはあるんです!」



「わたしはそれを見たい、知りたい、この森の中で手に入らないものが、必ず外にある」



だから、と。



「わたしは、外を知りたいです」



「自分を偽るなら、生きてる意味ないじゃないですか」



「それを思うと、ここはまるで牢獄ですよ」



「みんな、おかしいって言うんですけどね……」



えへへ……っとピリカは笑う。





「おかしくないよ」






 その言葉に、ピリカは顔を上げる。何か言おうか迷っていたセシルも、驚いたように声の方向を見た。



「絶対におかしくない、言い切れる」



「知りたいって思うことが、変なことなわけないじゃんか」



「自分を偽らない事が、悪いことなわけない」



 クロノは当然のことのように、即答していた。




「だって、俺も知りたいから旅に出たんだしな」




「な、何をですか!?」



 何かを期待するような目で、ピリカはクロノを見る。




「他の種族の事、魔物の事、全部だ」




 その言葉に、ピリカは口が閉まらなくなる。



「俺さ、人も魔物も関係なく手を取り合って、共存する世界を作るのが夢なんだ」


「その夢だけは、曲げられない」


「だから、その為に知りたい」



 その言葉に、セシルは笑みを浮かべる。決してクロノに悟られないように、こっそりと。






 ピリカは信じられないモノを見るような目で、固まっていた。


 そして、弾けるように。



「ふえ…………」




「笛?」





「ふえぇえええええええええええええええんっ!!!!!」




 泣き出していた。



「!?」



「今度はなんだというのだ……」



 心の中で『決まったぁ……』とか思ってたクロノは予想外の反応にフリーズし、セシルは再び呆れモードに入る。



「変、じゃな……いって! 言って、もらえ、たの……始めて、で!」


「うええええええええええんっ! 嬉しいですーっ!!」




「分かったからっ! 分かったから静かにしてーっ!」



 違う意味で、クロノも泣きそうだった。




 数分後、ようやく落ち着きを取り戻したピリカが嬉しそうに語る。



「えへへ、共存の世界ですかぁ……素敵ですねぇ……♪」


「初めてだよ、ストレートに良いなって言ってくれた子……」


「きっと色んな種族が……あぁ、見てみたいですー!」



 自分の思い描く理想の世界が、目の前の少女の脳内でもみくちゃにされている錯覚を覚えた。




 『この作戦が成功すれば、私も外に出られます!』とピリカが笑顔で言う。その言葉で思い出したかのように、セシルが口を開いた。




「その作戦とやらは、どういったものなのだ」




 クロノも作戦の内容は聞いていなかったのを思い出す。



「俺も聞いてないんだ、教えてくれるか?」



 単純な好奇心でもあるが、セシルに言われて不信感を抱かなかったと言えば嘘になる。



「えっとー合図を確認したら、わたしが事前に運んでおいた袋を指定されたポイントに置いてくるーって言うのがわたしのお仕事です」




「ふんふん、それで?」




「後は時間がきたら、君は交流できるよーって」





「えっ…………終わり?」





 まさか、それで終わりなのか。

 



「まさか、貴様が聞いたのはそれだけか」



「イエス! です!!」



 自信満々に言い放つ、もしかして俺もこのLVの話を信じたのか……!?



「貴様、騙されてないか?」



「わたし、騙されてるんですかーっ!?」



「何か俺も一気に自信、無くなってきた気がする……」



 だが、勇者様の言葉だ……嘘なはずはない、そう信じたい。



とりあえず、ここから脱出することにしよう。この調子では、ピリカは袋の中を確認していないだろう。疑うわけではないが、その袋の中を確認しておいた方がいい。



「ピリカさん、俺達はここを出ることにするよ」




「ふあ? でも扉には魔法がかけられてますよー?」



 ピリカが立ち上がり、扉を指差して言う。



「どんなに頑張っても開かないと思いますー……」



「え、だったらピリカさんはどうやって入ってきたんだ?」



「そりゃあ魔法を解析してすり抜けたんですよ、自慢じゃないけどわたし、魔法得意ですー!」



 得意げに胸を張る、しかし言っちゃなんだが立派なモノではなかった。



「では、貴様が開けろ」



「ふえぁ!? その手が有りましたー!?」



 もういい加減慣れてきたので、突っ込みもスルーする。




「よぉし! それじゃあ解析して……」




「やめておけ」




 ピリカの声を何者かが遮ると同時に、扉が勢いよく開く。扉を開けようとしていたピリカはその扉に吹っ飛ばされた。




「あいたーーっ!? 何事ですかっ!」




 尻餅をつきながら、ピリカは扉を開けた奴が誰か確認する。



「うげっ……」



「む?」



 クロノとセシルも見知った顔、両者に剣を向けた青年だった。



「ピリカ、ここで何をしている」



「あ、レー君」



知り合いらしい2人のエルフが、顔を見合わせた。




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