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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十六章 『クロノとセシルの三日間』
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第百十一話 『金色の力』

 意気揚々と地面に突き立てられた剣を引き抜きにかかったクロノ、彼は現在、息を切らして地面に大の字になっていた。



「なんか……俺がやる気出して取り組んだことって……大体こうなるよなぁ……」




「もう昼だぞ、期待を裏切らない男だな」

「その剣を抜き、天高く掲げて初めて合格と見なすから、その辺頼むぞ」




「うっ……」



 セシルの言うとおり、既に太陽は真上だ。クロノは何とか体を起こし、フラフラと剣の柄を握り締める。




「……………………ッ!! ふっ! ヌググ……ッ!?」



「ヌギギ……フヌガァァァ…………ッ!!」




 顔を真っ赤にして踏ん張るクロノだったが、剣はビクともしない。この剣、ただ地面に刺さっているだけでは無さそうだ。



「大地の力で突き刺した、人間の力では抜けんよ」

「地に根を張るが如く、固定されているからな」



「仮にミノタウロスが数体集まろうが、抜く事は叶わん」




「ゼッハァ……ハァ……じゃあ……どうしろってんだよ……」




「貴様、今までアルディと何回リンクした?」

「今まで何回、大地の精霊技能エレメントフォースを使ってきた?」



「何も考えずに、アルディに頼りっぱなしか?」

「少しは頭を働かせろ、もう何度も聞いてきている筈だ」




「アルディ……なんかヒントは……」




「良いかいクロノ、大地の力っていうのはね……」




 ニコニコと近寄ってくるアルディだったが、セシルが地面を思いっきり踏みつけた。その衝撃で地面にヒビが入り、クロノは硬直してしまう。




「自分で考えろ、精霊使いなら、自分の使役する精霊達が誇れる男になれ」



「それとアルディ、貴様は保護者か馬鹿タレ」

「クロノ自身で越えさせろ、いいな」




「うっ……けど急にヴァンダルギオンを抜かせるなんて……少しハードすぎるよ……」

「クロノはまだ溜めるのが苦手で……」




「甘やかしたツケが回ってきただけだ、お前ならもっと前から気づいていただろう」

「今のクロノの能力では、第一段階の精霊技能エレメントフォースですら、50%も使いこなせていない」



「今まで、何回死にかけた? 運が良かっただけだぞ」

「フェルドとの契約もそうだが、その後を考えれば……ここでの修練は妥当だ」




「甘さと優しさを履き違えるな…………これはお前の言葉だった筈だ」




「…………そうだね」

「何だかなぁ、セシルも随分言うようになったね」



「……ん? ……72時間……あぁ……そう言う事か……」




「それ以上口にすれば、怒るぞ」




「分かったよ、この間は、君に任せる」

「これでも僕はクロノを結構信頼してるんだ、口だけじゃない所も見せないとね」



「信じて、見守る事にするよ」







「ウオオオオオオオオオォォォォォ…………ビクともしねぇ……!!」







「………………ねぇセシル、やっぱり一つくらいヒント上げたいんだけど……」



「過保護か、馬鹿タレが」



「アルディ君は変わらないねぇ」



「基本、胃、痛めるの、アルの、役目……」



 精霊達がワイワイ話している背後、クロノは必死に剣を抜こうと汗を流す。しかし、抜けるどころか一ミリも動かない。



(……アルディに……すぐ頼った……駄目なんだよこれじゃ……)



(頼りになるからって……助けて貰ってばかり……あぁ、格好悪いな俺は……!)

(セシルの言う通りだ……こんなんじゃ、あいつらを助けられるくらい強くなるとか、言えるわけねぇよ……)



(考えろ……セシルは言った、何度も聞いてきている筈だって……)

(大地の力の修行……アルルカの村で石を砕こうとした時、何て言われた……?)



 大地の力は、地に根を張るイメージと何度も言われていた。難しい使い方じゃない、力を込めるのと何ら変わりはしないと、言っていた。




(力を……フッ! …………グゥッ!!)




 全力で剣を抜こうとするが、ビクともしない。



(駄目だ……これじゃ……全然足りない……)



(もっと…………もっと……力を込めろ……もっと……)



 指先に、掌に、ただひたすらに集中する。力を込め、意識を剣を抜く事だけに向ける。ギャアギャアと雑談している精霊達の声すら、聞こえなくなってきていた。



 その集中力が、クロノを再び水の中に沈めていく。感覚が研ぎ澄まされ、水の自然体を取るクロノだったが、自分の握っている大剣から、何かを感じ取った。





(なん、だ……これ……)





 それに気がつき、それに意識を向けた瞬間、自分が立っている大地が透けた気がした。自分のすぐ下にある、膨大な力の塊、金色に光り輝く、圧倒的な力の流れ。その流れが無数に枝分かれして、地面の下を巡っている。




(…………大地の偉大な力……これが……そうなのか……?)




 その光の流れは、クロノの握っている大剣にも何本か繋がっていた。大樹の根のように、それは無数に広がっていた。一目で分かる、この黄金の力は、個の力とは桁が違う。




(…………根を、張るイメージ……)




(この力を……大地の力を…………借りるイメージ……)

 



 目を閉じ、集中力を最大まで高めるクロノ。自分のちっぽけな力では、この大剣は絶対に抜けない。足りない力は補えばいい、大地の力は、それを可能にする力だ。



(イメージしろ……繋げ、焦らなくていい)



(意識を……張り巡らせろ……ゆっくり、ゆっくり……)



(クリプスさんの時、アルディは言っていた……)



(大地の流れは、大地の呼吸……呼吸を合わせろ……)



 水の力によって、精神と言う名の根を、大地に張り巡らせる。流れに合わせ、クロノは息を吸い込む。両足からゆっくりと、金色の力が登ってくるのを感じた。






(………………呼吸を合わせて、一気に……ッ!!)






 目を開き、渾身の力を両手に込める。次の瞬間、自分でも驚くほど簡単に、ヴァンダルギオンは地面から抜き放たれた。その音に驚き、精霊達は飛び上がるようにクロノに視線を移す。



「ふぇあっ!? 抜いたっ!?」



「え、早……」



「……っ!? あ! クロノッ! 駄目だっ!!」




「へ? って……うわああああああああああっ!?」




 アルディが声を荒立てたが、少し遅い。一気に力が抜け、クロノはヴァンダルギオンの重さで後ろに倒れてしまった。




「……その剣を天高く掲げるまで、合格では無いからな」




「重っ!? 重たいぞこの剣っ!!」




 以前、城一つ分だとか言っていたが、あながち嘘では無いのかもしれない。下敷きにされれば、無事では済まないだろう。事実、剣は地面にめり込んでいた。




(……抜いた勢いで、一瞬は掲げていられたけど…………)



(あれを維持するのか……!? 腕が折れるって……)




「早すぎるな」




 セシルがクロノの腕を見て、そんな事を零した。



「大地の力を感じたか?」

「貴様自身の力で感じるのは初めてだろう、だが、貴様はあの力をいつも借りていたのだ」



「アルディとのリンクで、大地の自然体を取り、知らず知らずあの力を身に取り込んでいたのだ」

「アルディ無しでは、貴様の一度に取り込める力はごく僅か」



「時間をかけろ、今の貴様の限界まで、ゆっくりと力を溜めろ」

「出来る筈だ、今の貴様等ならな」



 セシルの言葉を聞き、クロノは自然とアルディに顔を向けていた。アルディは無言で、深く頷いた。それを見たクロノは笑みを浮かべ、勢いよく立ち上がる。地面にめり込んだヴァンダルギオンの柄を握り、目を閉じた。



(もう、イメージは掴めた)

(後は……この力を、身体に溜める……)


 

(…………うわぁ……自分で感じれて初めて分かる、自分の未熟さ……)

(金剛を使ってる時と比べると、スローモーションだなこれ……)



 大地の力が上がってきているのが分かるが、物凄く遅い。体に取り込める量も、速度も、自分はまだまだ未熟なのが分かった。



(……けど、これを金剛無しで上手く出来るようになれば……!)

(アルディの力を借りた時、今よりずっと……ずっと強く、上手く、出来るようになる筈……!)



(大地の力は、守りの力……)

(今の俺じゃ、手に余るくらいの困難も……)




(支えられる……可能に出来る……そんな、暖かい力……)

(みんなの為に……もっと……練習しねぇとな……!)




 身体に宿る、大きな力、それは……自分や、自分の守りたい物を、包み込める力だ。クロノは自分を包む大きな力を腕に集中させ、ヴァンダルギオンを持ち上げた。その大剣を夜空に掲げ、笑顔を浮かべる。





「……どうだっ!!」





「……ふっ……合格だ」

「丁度日も落ちたな、一日一属性……悪くないペースだ」




 セシルが珍しく褒めてくれた。その笑みに油断してしまい、クロノは大地の型を解いてしまう。当然、ヴァンダルギオンの重さで体勢を崩してしまった。




「わ、わ……うわっ……!?」




 そんなクロノを、アルディが支えた。落としかけたヴァンダルギオンも、アルディが片手でキャッチしてくれた。




「あ、さんきゅ…………凄いな、片手か……」




「あはは、僕等の凄さ、分かるくらいにはなったかい?」

「けど、今の僕に出来る事は、クロノにだって出来るんだよ?」




 契約により、今のアルディ達はクロノの最大値まで能力が落ちている。全力のアルディ達は、まだまだ果てしないほど遠くにいるのだ。




「……まだまだだなぁ……」




「けど、良く頑張ったよ」

「君の頑張りは、確実に君の強さに繋がる」




「僕達も、それに応えよう」

「まぁなんだ……お疲れ様」




 何だか嬉しそうに、アルディは笑顔を浮かべていた。ティアラもそうだったが、やはり自分達の使う力の成長は嬉しいのだろうか。




「まだまだ休ませないがな」

「次は風の修行だ」




「エティルちゃんの出番だねぇっ!」




「貴様自身の出番はないがな」




「ショボーン……」




 何にせよ、次でセシルの修行も最後だ。クロノは少しふらつきながらも、セシルに向き合った。




「ほう? いい顔で見てくるな」




「ここまで来たら……やりきってやるよ……!」

「それに、風の力は俺が一番使えてるって思ってる力だ……」



「この際だし、ズバッと決めてやらぁっ!」




「……クロノ、やっぱ……馬鹿、だ……」




 背後のティアラが、ボソッと零した。何のことだかクロノには分からなかったが、目の前のセシルが凶暴性を含んだ笑みを浮かべた瞬間、失敗したと悟ってしまう。




「烈迅風で己の身すらズタズタにする小僧が……言うじゃないか……!」

「だがそのやる気は認めてやろう、喜べ、3日目の朝日と共にゴミクズを卒業させてやろう!」




「あ、いや、正直もう倒れそうなんでお手柔らかに……」




「エティル! この修行の後は契約者と舞い踊れるぞ! 良かったな!」




「わーいっ! それは朗報だよぉ!」

「え、でも今のクロノからそこまでって……」




「はぁ……やれやれ……」




 何だかアルディやエティルが青い顔をしている気がする。




「さてクロノ、一番使いこなせてる力だどうだと吠えてくれたな?」




「セシル、顔怖い! 怖い!」




「確かに、唯一第二段階の精霊技能エレメントフォースに至っている力だ」

「その自信も頷けるな」



「だが、その力は貴様の身体も傷つけてしまう……真に使いこなしているとは言えないな」

「力を持つ者なら……相応の器を持たねば……な?」




「あ……う……」




 セシルが赤いオーラを纏っている気がする。錯覚ではない、妙な威圧感を纏っていた。




「最後の修行を始めよう、風の基礎とその応用だ」

「烈迅風で傷付かないよう、風との舞い方を教えてやる」



「ルールは私にタッチする事、エティルお得意の鬼ごっこだ」




「エティルちゃんのお株を奪う暴挙だよぉっ!?」




「ただし、追加ルールだ」

「3秒以上立ち止まる事は許さん」



「止まった場合、引っ叩くからな」

「さて、存分に舞い踊れ……無論、死に物狂いでな!」




 セシルのやる気に火が付いた、待っているのは、最後の地獄だ。クロノは燃え尽きそうになる精神を何とか支え、涙目でセシルに突っ込んで行った。




「やってやるよ…………こうなりゃ勢いで勝負だっ!!!」




「ふははっ…………くだらんな?」

「……だが、そういうのは嫌いじゃないぞ」




 視界内から一瞬で姿を消しながら、セシルはそう呟いた。



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