Episode:カルディナ ④ 『繋がっていく、過去と今』
「リウナ? そんなに怯えなくていいってばー」
「だだだだ誰が怯えてるってんだっ!? 舐めてんじゃねぇぞ!」
現在カルディナ達は、酒場で仕入れた情報を頼りに森を目指していた。何でもクロノが立ち寄り、幽霊騒動を解決した森だとか。
「依頼達成後、どこに向かったかは分からないって言ってたしなぁ……」
「今の所クロノ君の情報はこれしかないし、行ってみるだけ行ってみよう」
「どうせ何の手がかりもねぇって……」
「リウナがお化け嫌いだとはねぇ」
「船も駄目、お化けも駄目、寒いのも駄目……割とポンコツだよね」
「ぶっ殺すっ!!」
「ポーワー!」
「邪魔すんじゃねぇっ! 水玉野郎がぁっ!」
口は達者だが、リウナはシズクとの距離を縮めようとはしない。やはりマークセージでぶっ飛ばされたのが効いているらしい。
「リウナ? シズクは怖い子じゃないよ?」
「ほらほら~! 可愛いぞぉ?」
シズクを両手で抱え、リウナに近づけるカルディナ。シズクはプルプルと揺れながらも、リウナに襲い掛かる様子は無い。
「ガアアアァッ! そりゃテメェにゃ大人しいだろうよ! その水玉がオレになにしたか分かってんのか!?」
「そりゃマークセージじゃぶっ飛ばされてたけど……そもそもあれはリウナが悪いでしょう……」
「違う! そいつが船でオレに何をしたか……っ!」
「仲良さそうだったじゃん?」
リウナがシャワーを浴びている最中、中にシズクを放り込んだのはカルディナである。中から悲鳴が聞こえてきたのは、言うまでもない。
「二人の距離が縮まって、あたし嬉しいなーっと♪」
「殺してやる……いつか絶対に殺してやる……っ!」
「もしかしなくても、長い旅になりそうだしねー」
「旅の仲間が仲良くしてくれないと、あたしも辛いのよ」
「だからさ、ほれ! 仲良くプルプルしてなさい!」
ガックリとしているリウナの頭の上に、シズクをポンッと乗せてやる。
「畜生……使い魔契約で縛られてなかったら……テメェなんて歯型だらけにしてやるってのに……」
「うへへ~……リウナにペロペロされるのも悪くないかなぁ~……」
「………………はぁ……」
「ポワ?」
最早何かを諦めたように、シズクを頭に乗せたままリウナは歩き出す。頭の上のプルプルな感触も、あまり認めたくないのだが、ちょっとだけ心地よかった。
「大体……なんでそのクロノとかいう奴追っかけんだ?」
「テメェの両親の件、調べんじゃねぇの?」
「そっちは当てが無いからねぇ……とりあえずクロノ君追いかけながらって感じ」
「クロノ君とは、もう一度話がしたいの」
「男を追っかける旅なぁ……惚れてんの?」
「んー? 惚れてるってか……憧れかな?」
「恥ずかしい話だけどさぁ……素直に凄いって思ったんだよ」
「真っ直ぐで……自分を貫いててさ」
「怖がって、止まってたあたしには……眩しく映ったよ」
「そんな子に、勇者は憧れ、何て言われたんだよ?」
「……勇者のあたしが止まってたらさ……何か情けないじゃん」
「……良く分かんねぇ」
「お前は、お前じゃねぇの?」
「……そうかもね」
「どれだけ背伸びしても、追いつけないのかも知れない」
「けど、勇者として……いや……関係ないかな……?」
「とにかく……力になりたいなって、思ったんだよ」
「リウナもクロノ君に会えば分かるかも、不思議な子なんだよ」
「何か、信じたくなるんだ」
「……あっそ」
何故か分からないが、微妙に不機嫌そうになってしまった。
「どったの?」
「別に」
頭の上のシズクをポンポンとヘディングしながら、リウナは先に進んでいく。
「何々? ヤキモチ? 構って貰えなくて拗ねちゃった?」
「どんだけイカれた思考回路してやがる」
「……なんつーか、嫌な匂いがすんだよ」
「……潮の匂いではっきりしねぇが、さっきの退治屋じゃねぇかな、これ」
サラッと言うリウナだが、それが本当なら厄介だ。
「ちょっとっ! 何でそう言うこと早く言わないの!?」
「さっきとは違う、オレの腹は満たされてる」
「さっきの借りを思いっきり返してやるよ、四肢をへし折って……」
「馬鹿言わないのっ! どっちから!?」
「あ!? 誰が馬鹿だと!?」
「いいから答えてっ!」
「うっ…………後ろから、進行方向とは逆からだよ……」
「何だってオレが……ブツブツ……」
何やら俯いてブツブツ言い出すリウナだが、今は構ってる暇が無い。
「ダッシュで森に飛び込んじゃおうっ! 行くよリウナッ!」
「あぁっ!? オレは退治屋共をぶっ殺すんだよっ!」
「大体誰がお化けの出る森なんかに……」
「もうっ! 仕方ないなぁっ!」
リウナの小さな体を、少しばかり強引に抱え上げた。それと同時、シズクはカルディナの頭の上へ器用に飛び乗ってくる。
「ポワ」
「シズクは聞き分けいいね! 飛ばすよ!」
「降ろせ馬鹿っ! オレは行くとは言ってねぇぞ!」
暴れるリウナを抱えつつ、カルディナは森を目指して疾走する。ギャアギャア騒いでいたリウナだったが、途中で舌を噛んだらしく、結局為すが侭になっていた。
数分ほど全力で走り、カルディナ達は目的地である森の前までやって来ていた。
「ここ、だよね」
「流石に不気味……ちょっと怖いかも……」
「ポワ」
「お? 何々? 頼りにしていいの?」
「ポワ?」
「うん、何言ってるか分かんないや……」
「ポワ……」
シズクは表情が皆無の為、意思の疎通が困難だ。それでも、少し落ち込んだのは伝わった。
「……シズクとも、お喋りできたらいいのにねー……」
「ポワ? ポワーポワー」
何かを訴えているようなのだが、サッパリである。
「うーん? ごめんね、やっぱり分からないよ」
「ここで止まってると、退治屋に追いつかれちゃうかもしれないし……そろそろ行こうか」
まだポワポワしているシズクを抱え上げ、カルディナは森へ入ろうとする。
「ほらリウナ! 行くよ!」
「……嫌だ」
「オレは退治屋共をぶっ殺す」
「ここで一人残っていいの?」
「幽霊出ちゃうかもしれないよ?」
「…………っ!」
その言葉で、リウナは呆気なく折れてしまった。
「昼間だってのに、暗いねぇ」
「ヘ、ヘンッ! 暗いのが何だってんだ!?」
「……何だろうね、この場所だけ焼き払われてるけど……」
「きゅ、急に止まるんじゃねぇよっ!」
「リウナッ! うし、後ろっ!!」
「キャアアアアアアアアアアンッ!?」
「後ろにシズクがー、テヘッ」
「殺す殺す殺す………………っ!!」
「ポワ?」
森に入ってからリウナが腰の辺りから離れてくれず、カルディナは終始笑顔で進んでいた。本人も正直少し怖いのだが、リウナが可愛いのでそれどころではないのだ。
(癒されるなぁ~……)
「はや、は、早い……もう少し……ゆっくり……」
(いつもこれくらい懐いてくれると嬉しいんだけどなぁ~……)
「キューン…………」
「ポワ……」
少しだが、シズクが呆れている気がする。こんな調子で進んでいると、何やら周囲が焼け野原となっている場所に出た。
「……何これ、あたり一面吹っ飛んでる……」
「お? あれってお屋敷……かな」
「まさかあそこに入るとか言わないよなぁっ!?」
「一応調べては見るけど……うわぁ……酷い有様だねぇ」
屋敷と思われる建物は、ほぼ半壊状態だった。屋根や壁がボロボロに吹き飛んでいる。
「お邪魔しまーす……一応言っておくあたしって律儀……」
「はーい、礼儀正しい人間さんですね」
「しかしボロボロだなぁ………………って…………へ?」
屋敷に入ってすぐ、隣から声がした。振り向くと、半透明の何かが、そこにいた。
「……嘘……きゃああっ!?」
「あ、あ! 大丈夫です! 私悪い幽霊じゃないですからっ!」
「えぇっ!?」
ちなみにリウナは気を失っていた。その隣でシズクがピョンピョンと跳ねている。ゆっくりと近づいてくる半透明状の何かは、徐々に人の形を成していった。
「私はクリプス、この廃墟でヒッソリ暮らしている幽霊です」
「こんな場所まで、人間さんが何のようですか?」
片目が黒く染まっているのが気になるが、確かに危険な感じはしなかった。
「え……っと……あたし……クロノ君の……」
「クロノさん? クロノさんのお知り合いですか?」
パァっと顔を明るくした幽霊、危険な感じどころか、一切の悪意を感じさせなかった。
「知り合いって言えば、知り合いです、けど……」
「その、クロノ君の後を追っていて……どこに行ったか知らないかなって……」
「なるほど……それで私を訪ねて……」
「流石クロノさんのお知り合いです、魔物を恐れず訪ねてくるとは……」
「ふふっ……お役に立てるかは分かりませんが……クロノさんはウンディーネの泉を目指してましたよ」
「私が知っているのは、それくらいです」
かなり普通に接してくるクリプスに、カルディナも警戒するのが馬鹿らしくなってしまった。
「あ、ご親切に……どうも……」
「いえ、クロノさんのお知り合いですもの……当然です♪」
「……えっと、クリプスさんは……クロノ君とどういった……?」
「クロノさんは、恩人です」
「彼が居なければ、私は悪霊に堕ちていたでしょう」
「彼が伝えてくれた……思い出させてくれた……」
「だから……私は人を信じる気持ちを……無くさずにいられました……」
「自分の身も省みず、私を救ってくれました」
「優しい、人間さんでした」
少し儚げなのだが、見惚れてしまうほどの笑顔を浮かべ、クリプスはそう言った。その笑顔を見て、カルディナはやはり凄いと、思ってしまった。
(クロノ君は、本当に……真っ直ぐだなぁ……敵わないや)
「良ければ、お話を聞かせてくれませんか?」
「私は時間を持て余していますから、是非……♪」
「どこから、お話しましょうかね……」
クリプスの話は、カルディナが思っていた以上に重い話だった。彼女の過去の話は、辛く、人間として複雑な思いを抱いてしまう。
そして、それ以上に…………。
彼女にとって、カルディナにとって………………。
聞き逃す事の出来なかった、その名前…………。
「そして……そんな私を鎖から解き放ってくれた人達がいまして……」
「……ミーシャ、女の人はそう呼ばれていました」
「………………え?」
「身を挺して、私を逃がしてくれて……」
「今、何て?」
「はい?」
「その、女の人の……名前って……」
「……男性の方は、ミーシャと、呼んでいました」
カルディナの胸が、ズキンッと……痛んだ。クリプスの話を聞きながら、カルディナは頭の中がめちゃくちゃになっていた。
「……という訳で、クロノさんに私は救って貰ったのです」
「……クリプス、さん」
「はい?」
「その……クリプスさんを助けてくれた男の人と、女の人は……」
「クリプスさんを捕まえてた……退治屋に、殺されたんです、よね?」
「……はい、私を打ち倒し、捕らえた男です」
「その男の名はレター・スイッチ……『討魔紅蓮』の四の柱と名乗っていました」
「私が死んで霊体になるまで、何年かの時が過ぎてしまっているようで……」
「私が実際に死んだのは、今から10年ほど前の話みたいです」
「けど、あの日の事は忘れられません」
「あの男の事は……忘れられない……」
「あの、出来るだけ……詳しく……その男の特徴を教えてくれませんか」
「え?」
そう言うカルディナの目は、今まで見せたことが無いほどに、真剣な物だった。クリプスは何かを察し、自分の知る限りの情報を、カルディナに伝えた。
「……クリプスさん、ありがとうございます」
「また、会いに来てもいいですか?」
「えぇ、私はいつまでも、ここに居ますので」
「またお会いできる日を、待っています」
一礼し、カルディナは屋敷を後にした。その背後から、リウナが駆け寄ってくる。
「……おい、どうしたんだ?」
「テメェ途中から、人が変わったみてぇだったぞ?」
「ポワー?」
少し心配そうに見てくるリウナとシズク、心配をかけないよう、笑顔を浮かべようとしたのだが、今のカルディナにはそれも出来なかった。
「……ミーシャ……ってさ」
「んあ?」
「……あたしのお母さんも……ミーシャっていうんだ……」
「偶然かなぁ…………って……そんな上手い話、ある訳無いよね……」
「思わぬ、真実っていうか…………全然想定してなかったなー……」
「……凄い偶然…………ここで、お父さんとお母さんの情報……手に入るとか……」
「やばいなぁー…………頭の中、グチャグチャだ……」
空を見上げ、立ち尽くすカルディナ。不意にその体が、リウナの方へ倒れてきた。
「ちょ、おいっ!」
咄嗟に支えるリウナ、カルディナはそのままリウナを抱きしめた。
「ひゃっ!? 何すんだこらっ!」
「ごめん……ちょっとだけ……」
「ちょっとだけ……弱いとこ……見させて……」
「あはは……受け止めきれないって…………突然すぎるしさ……」
「リウナ、シズク……ごめん……お姉ちゃん、ちょっと限界です……」
振り払おうとしたリウナだったが、カルディナの手が震えている事に気がつき、黙ってしまう。シズクはカルディナの頭に飛び乗り、心配そうにプルプルしていた。
「な……なんだよ…………調子狂うな……」
「ポワー」
「…………重いなぁ……ちくしょー……」
しばらくの間、カルディナはその場から動けなかった。零した言葉は、頭の上のシズクに対してでは無いのだろう。
真実を知った今、何に対し、何をすべきか……。
欠片の一つが、選択を強いられていた。




