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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十五章 『発展国に、潜む闇』
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Episode:カルディナ ④ 『繋がっていく、過去と今』

「リウナ? そんなに怯えなくていいってばー」



「だだだだ誰が怯えてるってんだっ!? 舐めてんじゃねぇぞ!」



 現在カルディナ達は、酒場で仕入れた情報を頼りに森を目指していた。何でもクロノが立ち寄り、幽霊騒動を解決した森だとか。



「依頼達成後、どこに向かったかは分からないって言ってたしなぁ……」

「今の所クロノ君の情報はこれしかないし、行ってみるだけ行ってみよう」




「どうせ何の手がかりもねぇって……」




「リウナがお化け嫌いだとはねぇ」

「船も駄目、お化けも駄目、寒いのも駄目……割とポンコツだよね」




「ぶっ殺すっ!!」




「ポーワー!」




「邪魔すんじゃねぇっ! 水玉野郎がぁっ!」



 口は達者だが、リウナはシズクとの距離を縮めようとはしない。やはりマークセージでぶっ飛ばされたのが効いているらしい。



「リウナ? シズクは怖い子じゃないよ?」

「ほらほら~! 可愛いぞぉ?」



 シズクを両手で抱え、リウナに近づけるカルディナ。シズクはプルプルと揺れながらも、リウナに襲い掛かる様子は無い。



「ガアアアァッ! そりゃテメェにゃ大人しいだろうよ! その水玉がオレになにしたか分かってんのか!?」



「そりゃマークセージじゃぶっ飛ばされてたけど……そもそもあれはリウナが悪いでしょう……」



「違う! そいつが船でオレに何をしたか……っ!」



「仲良さそうだったじゃん?」



 リウナがシャワーを浴びている最中、中にシズクを放り込んだのはカルディナである。中から悲鳴が聞こえてきたのは、言うまでもない。



「二人の距離が縮まって、あたし嬉しいなーっと♪」




「殺してやる……いつか絶対に殺してやる……っ!」




「もしかしなくても、長い旅になりそうだしねー」

「旅の仲間が仲良くしてくれないと、あたしも辛いのよ」



「だからさ、ほれ! 仲良くプルプルしてなさい!」



 ガックリとしているリウナの頭の上に、シズクをポンッと乗せてやる。



「畜生……使い魔契約で縛られてなかったら……テメェなんて歯型だらけにしてやるってのに……」



「うへへ~……リウナにペロペロされるのも悪くないかなぁ~……」



「………………はぁ……」



「ポワ?」



 最早何かを諦めたように、シズクを頭に乗せたままリウナは歩き出す。頭の上のプルプルな感触も、あまり認めたくないのだが、ちょっとだけ心地よかった。



「大体……なんでそのクロノとかいう奴追っかけんだ?」

「テメェの両親の件、調べんじゃねぇの?」




「そっちは当てが無いからねぇ……とりあえずクロノ君追いかけながらって感じ」

「クロノ君とは、もう一度話がしたいの」




「男を追っかける旅なぁ……惚れてんの?」




「んー? 惚れてるってか……憧れかな?」

「恥ずかしい話だけどさぁ……素直に凄いって思ったんだよ」



「真っ直ぐで……自分を貫いててさ」

「怖がって、止まってたあたしには……眩しく映ったよ」



「そんな子に、勇者は憧れ、何て言われたんだよ?」

「……勇者のあたしが止まってたらさ……何か情けないじゃん」




「……良く分かんねぇ」

「お前は、お前じゃねぇの?」




「……そうかもね」

「どれだけ背伸びしても、追いつけないのかも知れない」



「けど、勇者として……いや……関係ないかな……?」

「とにかく……力になりたいなって、思ったんだよ」



「リウナもクロノ君に会えば分かるかも、不思議な子なんだよ」

「何か、信じたくなるんだ」




「……あっそ」




 何故か分からないが、微妙に不機嫌そうになってしまった。



「どったの?」



「別に」



 頭の上のシズクをポンポンとヘディングしながら、リウナは先に進んでいく。




「何々? ヤキモチ? 構って貰えなくて拗ねちゃった?」




「どんだけイカれた思考回路してやがる」

「……なんつーか、嫌な匂いがすんだよ」



「……潮の匂いではっきりしねぇが、さっきの退治屋じゃねぇかな、これ」



 サラッと言うリウナだが、それが本当なら厄介だ。



「ちょっとっ! 何でそう言うこと早く言わないの!?」



「さっきとは違う、オレの腹は満たされてる」

「さっきの借りを思いっきり返してやるよ、四肢をへし折って……」



「馬鹿言わないのっ! どっちから!?」



「あ!? 誰が馬鹿だと!?」



「いいから答えてっ!」



「うっ…………後ろから、進行方向とは逆からだよ……」

「何だってオレが……ブツブツ……」



 何やら俯いてブツブツ言い出すリウナだが、今は構ってる暇が無い。



「ダッシュで森に飛び込んじゃおうっ! 行くよリウナッ!」



「あぁっ!? オレは退治屋共をぶっ殺すんだよっ!」

「大体誰がお化けの出る森なんかに……」



「もうっ! 仕方ないなぁっ!」



 リウナの小さな体を、少しばかり強引に抱え上げた。それと同時、シズクはカルディナの頭の上へ器用に飛び乗ってくる。



「ポワ」



「シズクは聞き分けいいね! 飛ばすよ!」



「降ろせ馬鹿っ! オレは行くとは言ってねぇぞ!」



 暴れるリウナを抱えつつ、カルディナは森を目指して疾走する。ギャアギャア騒いでいたリウナだったが、途中で舌を噛んだらしく、結局為すが侭になっていた。



























 数分ほど全力で走り、カルディナ達は目的地である森の前までやって来ていた。



「ここ、だよね」

「流石に不気味……ちょっと怖いかも……」



「ポワ」



「お? 何々? 頼りにしていいの?」



「ポワ?」



「うん、何言ってるか分かんないや……」



「ポワ……」



 シズクは表情が皆無の為、意思の疎通が困難だ。それでも、少し落ち込んだのは伝わった。



「……シズクとも、お喋りできたらいいのにねー……」



「ポワ? ポワーポワー」



 何かを訴えているようなのだが、サッパリである。



「うーん? ごめんね、やっぱり分からないよ」


「ここで止まってると、退治屋に追いつかれちゃうかもしれないし……そろそろ行こうか」



 まだポワポワしているシズクを抱え上げ、カルディナは森へ入ろうとする。



「ほらリウナ! 行くよ!」



「……嫌だ」

「オレは退治屋共をぶっ殺す」



「ここで一人残っていいの?」

「幽霊出ちゃうかもしれないよ?」




「…………っ!」




 その言葉で、リウナは呆気なく折れてしまった。















「昼間だってのに、暗いねぇ」



「ヘ、ヘンッ! 暗いのが何だってんだ!?」



「……何だろうね、この場所だけ焼き払われてるけど……」



「きゅ、急に止まるんじゃねぇよっ!」



「リウナッ! うし、後ろっ!!」



「キャアアアアアアアアアアンッ!?」



「後ろにシズクがー、テヘッ」



「殺す殺す殺す………………っ!!」



「ポワ?」



 森に入ってからリウナが腰の辺りから離れてくれず、カルディナは終始笑顔で進んでいた。本人も正直少し怖いのだが、リウナが可愛いのでそれどころではないのだ。



(癒されるなぁ~……)



「はや、は、早い……もう少し……ゆっくり……」



(いつもこれくらい懐いてくれると嬉しいんだけどなぁ~……)



「キューン…………」



「ポワ……」



 少しだが、シズクが呆れている気がする。こんな調子で進んでいると、何やら周囲が焼け野原となっている場所に出た。




「……何これ、あたり一面吹っ飛んでる……」

「お? あれってお屋敷……かな」




「まさかあそこに入るとか言わないよなぁっ!?」




「一応調べては見るけど……うわぁ……酷い有様だねぇ」




 屋敷と思われる建物は、ほぼ半壊状態だった。屋根や壁がボロボロに吹き飛んでいる。



「お邪魔しまーす……一応言っておくあたしって律儀……」



「はーい、礼儀正しい人間さんですね」



「しかしボロボロだなぁ………………って…………へ?」



 屋敷に入ってすぐ、隣から声がした。振り向くと、半透明の何かが、そこにいた。



「……嘘……きゃああっ!?」




「あ、あ! 大丈夫です! 私悪い幽霊じゃないですからっ!」




「えぇっ!?」



 ちなみにリウナは気を失っていた。その隣でシズクがピョンピョンと跳ねている。ゆっくりと近づいてくる半透明状の何かは、徐々に人の形を成していった。



「私はクリプス、この廃墟でヒッソリ暮らしている幽霊です」

「こんな場所まで、人間さんが何のようですか?」



 片目が黒く染まっているのが気になるが、確かに危険な感じはしなかった。



「え……っと……あたし……クロノ君の……」



「クロノさん? クロノさんのお知り合いですか?」



 パァっと顔を明るくした幽霊、危険な感じどころか、一切の悪意を感じさせなかった。



「知り合いって言えば、知り合いです、けど……」

「その、クロノ君の後を追っていて……どこに行ったか知らないかなって……」




「なるほど……それで私を訪ねて……」

「流石クロノさんのお知り合いです、魔物を恐れず訪ねてくるとは……」



「ふふっ……お役に立てるかは分かりませんが……クロノさんはウンディーネの泉を目指してましたよ」

「私が知っているのは、それくらいです」




 かなり普通に接してくるクリプスに、カルディナも警戒するのが馬鹿らしくなってしまった。



「あ、ご親切に……どうも……」




「いえ、クロノさんのお知り合いですもの……当然です♪」




「……えっと、クリプスさんは……クロノ君とどういった……?」




「クロノさんは、恩人です」

「彼が居なければ、私は悪霊に堕ちていたでしょう」



「彼が伝えてくれた……思い出させてくれた……」

「だから……私は人を信じる気持ちを……無くさずにいられました……」



「自分の身も省みず、私を救ってくれました」

「優しい、人間さんでした」



 少し儚げなのだが、見惚れてしまうほどの笑顔を浮かべ、クリプスはそう言った。その笑顔を見て、カルディナはやはり凄いと、思ってしまった。



(クロノ君は、本当に……真っ直ぐだなぁ……敵わないや)

「良ければ、お話を聞かせてくれませんか?」




「私は時間を持て余していますから、是非……♪」

「どこから、お話しましょうかね……」



 クリプスの話は、カルディナが思っていた以上に重い話だった。彼女の過去の話は、辛く、人間として複雑な思いを抱いてしまう。





 そして、それ以上に…………。





 彼女にとって、カルディナにとって………………。





 聞き逃す事の出来なかった、その名前…………。





「そして……そんな私を鎖から解き放ってくれた人達がいまして……」

「……ミーシャ、女の人はそう呼ばれていました」




「………………え?」




「身を挺して、私を逃がしてくれて……」




「今、何て?」




「はい?」




「その、女の人の……名前って……」




「……男性の方は、ミーシャと、呼んでいました」




 カルディナの胸が、ズキンッと……痛んだ。クリプスの話を聞きながら、カルディナは頭の中がめちゃくちゃになっていた。



「……という訳で、クロノさんに私は救って貰ったのです」



「……クリプス、さん」



「はい?」



「その……クリプスさんを助けてくれた男の人と、女の人は……」

「クリプスさんを捕まえてた……退治屋に、殺されたんです、よね?」




「……はい、私を打ち倒し、捕らえた男です」

「その男の名はレター・スイッチ……『討魔紅蓮』の四の柱と名乗っていました」



「私が死んで霊体になるまで、何年かの時が過ぎてしまっているようで……」

「私が実際に死んだのは、今から10年ほど前の話みたいです」



「けど、あの日の事は忘れられません」

「あの男の事は……忘れられない……」




「あの、出来るだけ……詳しく……その男の特徴を教えてくれませんか」





「え?」





 そう言うカルディナの目は、今まで見せたことが無いほどに、真剣な物だった。クリプスは何かを察し、自分の知る限りの情報を、カルディナに伝えた。




「……クリプスさん、ありがとうございます」

「また、会いに来てもいいですか?」




「えぇ、私はいつまでも、ここに居ますので」

「またお会いできる日を、待っています」




 一礼し、カルディナは屋敷を後にした。その背後から、リウナが駆け寄ってくる。




「……おい、どうしたんだ?」

「テメェ途中から、人が変わったみてぇだったぞ?」




「ポワー?」




 少し心配そうに見てくるリウナとシズク、心配をかけないよう、笑顔を浮かべようとしたのだが、今のカルディナにはそれも出来なかった。




「……ミーシャ……ってさ」




「んあ?」




「……あたしのお母さんも……ミーシャっていうんだ……」

「偶然かなぁ…………って……そんな上手い話、ある訳無いよね……」



「思わぬ、真実っていうか…………全然想定してなかったなー……」

「……凄い偶然…………ここで、お父さんとお母さんの情報……手に入るとか……」




「やばいなぁー…………頭の中、グチャグチャだ……」




 空を見上げ、立ち尽くすカルディナ。不意にその体が、リウナの方へ倒れてきた。




「ちょ、おいっ!」




 咄嗟に支えるリウナ、カルディナはそのままリウナを抱きしめた。




「ひゃっ!? 何すんだこらっ!」




「ごめん……ちょっとだけ……」

「ちょっとだけ……弱いとこ……見させて……」



「あはは……受け止めきれないって…………突然すぎるしさ……」

「リウナ、シズク……ごめん……お姉ちゃん、ちょっと限界です……」



 振り払おうとしたリウナだったが、カルディナの手が震えている事に気がつき、黙ってしまう。シズクはカルディナの頭に飛び乗り、心配そうにプルプルしていた。 




「な……なんだよ…………調子狂うな……」




「ポワー」




「…………重いなぁ……ちくしょー……」




 しばらくの間、カルディナはその場から動けなかった。零した言葉は、頭の上のシズクに対してでは無いのだろう。




 真実を知った今、何に対し、何をすべきか……。



 欠片の一つが、選択を強いられていた。



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