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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十五章 『発展国に、潜む闇』
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第百七話 『人として、精霊として』

「ふーむ…………」



 フローは考える、超絶天才が3分以上悩む事は非常に稀なのだが、もう10分以上この調子だ。その理由は、目の前のベッドの上で白目を向いているクロノだ。




「……なんともまぁ、不可思議な奴じゃ……」




 たった一人で『黒曜霊派アビス・マーケット』の主戦力を押し切り、ボロボロになりながらも勝利を収めた……大した物である。だが、フローを悩ませている理由は、つい先ほどのクロノの行動にある。




















 フロー達が駆けつけた頃には、クロノはもう限界寸前であった。敵戦力の大半は壊滅状態で、鎮圧は驚くほど簡単に終了した。それもこれもクロノの精霊が大暴れしたのが大きい。




固有技能スキルメント持ちは数名確認できましたが、その全てが戦闘不能です」

「先ほど姫が吹き飛ばした男で、恐らく最後かと」




「ふむ、ご苦労じゃったな」




 調べを進めていた騎士団長に礼を言うフロー、余談だが城の者には素で接していた。




「それと……水浸しの部屋からは、精神に多大なダメージを負った者が数名確認されています」

「会話は難しいかと……」




「あー……何があったかはあやつらに聞くしか無さそうじゃな……」




 チラッとフローは視線を移す、その先には暴れるクロノの姿があった。



「あだだだだだっ! 痛い痛い痛いっ!!」



「折れてないけど、右肩が脱臼してるね」

「それに右腕の骨がやばい事になってるよ、後ちょっと酷使してたらヒビ入ってただろうね」



「そう思うならもう少し優しく……あぎゃああああ!?」



「脱臼は癖になるよ? 今のクロノじゃ烈迅風はリスクも大きい、使用は注意を……」



「痛い痛いっ!? 人体から出ちゃいけない音がしてるっ! 死ぬ死ぬ死ぬっ!?」



 ガ、ゴギンッ! と怪音が響き、クロノの身体が崩れ落ちた。



「ふぅ……骨ははめといたから、後は安静にね」



「……………………」



「ティアラちゃん、水浸しって何してたのぉ?」



「ちょっと、ストレス、解消……」

「……手加減、した……偉い?」



「うん! 偉い偉い!」



(……さっき被害者達を見たけど、あれは数週間くらいじゃ元に戻らないだろうな……)

(分断されるのは想定外だったけど、僕達からすれば幸運だったかな)




(……敵には、特にティアラを怒らせた子達には、少し同情すら覚えるけどね)




 自分の精霊に止めを刺されたクロノを不憫に思いながらも、フローは頭を抱える。最後の大仕事が残っている為、クロノが気絶するのはそこまで待って貰いたかったのだ。



(まぁ、それは酷と言う物かのぉ……)

(さて、どう転ぶか……)




「姫! フローラル姫っ!」




 思考を常人の数倍で働かせていたフローだったが、兵の一人が駆け込んで来た。




「牢から解放した精霊、及び調教部屋と書かれた空間に囚われていた精霊が……うわっ!!?」




 駆け込んで来た兵を吹き飛ばし、数体の精霊が飛び込んできた。その目に宿っているのは、怒りだ。




(当然じゃろうな、さてどうするか)




「いた! ジュディアだっ!!」



「くそっ……よくも……!」



 意識を失っているジュディアは、既に城の兵が拘束していた。そんなジュディアに向かって、精霊達は飛び掛っていく。




(……止めるのは容易い……しかし、この場合はどうするべきかのぉ)




 希望も何もかも失っていた精霊達、それを解放したのは人間だ。だが、彼らを苦しめたのも、同じ人間。彼らは今まさに、積もった恨みを晴らすチャンスを得たと言えるだろう。



(んー……止めておくか……)



(いやしかし……止め方を誤れば敵意を抱かれるやもしれぬしなぁ……)



 久方ぶりに悩むフロー、その隙に一体のノームがジュディアに殴りかかった。




「あ……しまったのじゃ……」




「同胞の恨み……受けてみろっ!!」




 そんなノームの拳を止めたのは、クロノだった。一瞬で間合いを詰め、その拳を受け止めた。



「……なっ……」



「~~~~~~~~~~っ!!?」



(馬鹿っ! 何で両手で受けたっ! 右手は使うなって言っただろっ!)



(クロノ……足も限界超えてるんだよぉ? 無茶しすぎだよぉ……)



(キリッと、止めて、れば……格好良かった、のに…………締まらない、ね……)



 微妙に涙ぐみながらも、クロノはあろう事かジュディアを庇っていた。



「……ッ! 人間……邪魔をするなっ!」

「そいつは……そいつは正真正銘のクズだっ! 死んで当然の男だぞっ!」




「まぁクズなのは同感だな……けど駄目だ、退けない」




「ふざけるなっ! そいつは一体どれほどの精霊を傷つけてきたか、分かってるのかっ!」

「我等にもやり返す権利がある! 命を持って償わせるっ!」




「…………駄目、やらせない」




「ふざけ……っ!?」



 一瞬ふらつきながら、クロノは目の前のノームの身体を抱き締めた。




「何を……」




「綺麗事だよなぁ…………分かってる、分かってるよ」

「そりゃ怒るよなぁ……殺してやりたいって思うよなぁ……」



「どんだけ辛かったか……どんだけ憎んでるのか……俺なんかじゃ想像出来ないよ……」

「けどさ…………俺はお前らに殺しなんてして欲しくねぇんだよ……」



「こんなクソ野郎なんかで、手を汚して欲しくねぇんだよ……」

「難しいなぁ……どう言えば正しいかなんて、全然分からない……」



「……何で…………仲良くしたいだけなのに…………こんな難しいんだろうなぁ……」

「人間を許してくれなんて、言えないけど…………」




「……けど…………ごめんな……」



 その言葉と共に、クロノは崩れ落ちた。残っていた最後の力で、ノームを止めたのだ。




「…………な、なんだ……こいつは……?」




「人と魔物、相反する存在の共存を夢見る、大馬鹿な人間だよ」



「そして、あたし達の契約者」



「今回、頑張って、君達、解放したの……この子……」



 クロノの精霊達が、姿を現した。



「君達の怒りはもっともだ、今の時点で答えなんかないだろう」

「人と違い、精霊を、魔物を保護する法なんか存在しない」



「君達を縛った、傷つけた奴を、裁く法なんて……存在しない」





「あぁそうだ、だから今ここで恨みを晴らす」

「それ以外で、我等の怒りは収まらないっ!」




「待ってっ! お願い、もう少し待ってよぉ!」

「勝手だって分かってる、けど……お願いだからここは堪えてよぉ!」




「同じ、精霊……許せない気持ちとか……分かる、けど」

「それじゃ……きっと、また……繰り返す」




「……ッ! 理屈じゃない、ここで我等が止まって何になるっ!」

「何か変わるのかっ!? 変えてくれるのかっ!?」



「この理不尽を! 扱いの違いを……このやり切れない気持ちを……」

「もう頭の中なんてめちゃくちゃなんだっ! 何が正しいか!? そんなのもう分からないっ!」



「殺された奴だっていた、もう言葉も話せない奴だっている……」

「人への憎しみが消えない奴だって…………それなのに止まれと言うのかっ!?」





「僕達の契約者が、きっと世界を変えてくれる」

「人と魔の共存する世界、その世界で、互いが平等と言える法をきっと成してくれる」




「見ず知らずの精霊の為に、命をかけたあたし達の契約者」

「お願い、精霊として……まだほんの少しでも心が残ってるなら……」




「人間、信じて……許して、とは……言わない」

「私達も、約束……する……きっと、繰り返したり、しない」




 怒りを宿す精霊達に、少しばかりの戸惑いが生まれた。一体のサラマンダーが、クロノの近くでしゃがみ込む。



「初めてみたな……精霊に謝った奴なんて」




「へ?」




「生まれてから、すぐに捕まったからなぁ」

「こんな人間いるなんて、思いもしなかった」



「こいつ、何で泣いてるんだ?」

「……何で、謝った?」




「…………さぁね」

「そんな大馬鹿だからこそ、僕達は従っているんだけどね」




「ふーん……」

「俺は人間が嫌いだ、殺してやりたいくらいだ」



「……けど、こいつ個人なら、信じてやってもいいぞ」

「助けて貰った恩もあるしな、あくまでこいつだけだけど」




 その言葉で、精霊達は力を抜いた。全てが正しく、綺麗に収まった訳ではないだろう。それでも、クロノの想いはきっと、届いてくれたのだ。





 その後、倒れたクロノを宿に運んで現在に至る訳だが…………。





「…………気に入らん…………なーんか気に入らん…………」




 フローは気絶しているクロノを見て、そんなことを口走っていた。



(この超絶天才がすぐに出せなかった答えを……こいつはすぐに出した)

(いや、答えと言えぬだろうが……少なくても、あの場を治めたのは事実じゃ……)



(この超絶天才の上を行ったとでもいうのか? 何故こいつは迷わず動けた?)

(その答えすら出ない……なんじゃこの敗北感…………)




「ぬあー! ムシャクシャするのぉ!」




「ふむ、とても民の前に出せぬ顔だな、お主」




「きゃんっ!?」




 背後から急に声をかけられ、フローは変な声を上げてしまう。咄嗟に銃を背後に構えたが、セシルは既に背後にはいなかった。



「ぬ……速いの……」




「今回もボロボロか、一回くらいスマートに勝てんのかこの馬鹿タレは」




「……セシル、だったかの」

「……クロノは、このままで良いのか?」




 その言葉の意味を、セシルは嫌というほど理解していた。




「……超絶天才か、流石に頭の回転が早いな」

「……確かに、この馬鹿タレは気づいておらん」




「そして、いつか必ず……その矛盾にぶつかるだろう」




 今回、クロノは迷わず動いた。何が悪で、何が間違っているのか……それがはっきりしていたのもあるだろう。答えが見えない場面でも、自分を押し通して見せた。




 だが……もし、どちらも正しかったら……。




 人も、魔物も……どちらも正しく、どちらも譲れない状況なら……。



「……クロノは、どちら側に付くのじゃ?」

「いや……選べるのか?」



「超絶天才の妾ですら、…………答えが見えぬ」

「共存の道、……容易い物ではないぞ」





「それでも、進まねばならん」

「容易い道の先に、改革は存在しない」



「……この『道』は、正直考えるだけでは進めないだろう」

「…………だからこそ、少しくらい馬鹿な方がいいのだ」



 気絶しているクロノの頭を撫でつつ、セシルはそう言っていた。その横顔は、何かを思い出しているようにも見える。




「ふむ……」




「アビなんちゃらに囚われていた精霊達のその後は、任せていいのか?」




「む? それなら任せておけ、妾が責任を持って各大陸に送り届けるからの」

「兵達には既に動いてもらっておる、船の出港予定にもよるが精霊達は故郷に戻れるじゃろう」



「まぁ数が数でのぉ……少しばかり時間がかかりそうじゃ」

「『黒曜霊派アビス・マーケット』の件は父上に投げつけてきた」



「明るみに出た時点で、奴等は終わりじゃ」

「特にジュディアは、十中八九固有技能スキルメントも封印されるじゃろうな」



「まだ全てが済んでおらんが、この件は解決と言って良いじゃろう」

「という訳で……クロノには妾の計画に協力してもらうからの」




 ニヤリと笑うフロー、クロノの心に平穏が訪れるのは当分先になりそうだ。




「元々そういう話だったんだろう、クロノが目覚めてから詳しい話をしてやれ」




「いやそうなんじゃがな? ちょーっとセシルにも話があるんじゃ」




「……?」




「お主の力量を見込んで、少し……な?」




 この二人の会話の内容は、クロノが知る由もない。だが、クロノの精霊達には筒抜けである。会話の内容を聞いた精霊達は、血の気が引くのを感じていた。



(……………………不味いな、クロノは死ぬかもしれない)



(ふぇぇ……もしかしなくても大変な事に…………)



(…………死相が、浮かんだ…………気が、する……)



 聞かなかった事にした精霊達を尻目に、セシルとフローは握手を交わす。




「面白いな、貴様の計画……成功を祈らせてもらうぞ」




「任せておくのじゃ、妾は超絶天才じゃぞ?」

「その時が来たら……任せるからの♪」




「私の考えと利害も一致する、その考えに乗らせて貰おう」

「ふふっ……楽しみだ」



 悪魔が二人、手を組んだ事を……クロノはまだ知らない。



次からのお話はサブエピソードが続きますー!

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