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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十五章 『発展国に、潜む闇』
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第百一話 『涙色の本音』

「あ、クロノ~! こっちだよぉ」



 クロノ達が泊まっている宿の屋上に、エティルはいた。月明かりに照らされたエティルは、少しだけ幻想の世界の住人に見えてしまう。




「流石、妖精種フェアリーに分類される種族なだけあるな」




「ん~? 何々? 何かあったの?」

「なんか、大人びた顔してるよぉ?」




 エティルがこちらの顔を覗き込んでくる。



「別に、何もないよ」



「ならいいけど……それで、話ってなぁに?」



 そう言って、エティルはクロノの目の前に座る。



「頭の上にはこないのか?」



「それじゃクロノの顔見えないじゃん」

「お話する時くらい、ちゃんとするよぉ」



 こういう些細な事を気にする所が、エティルの可愛いところだとクロノは思う。



「んー……改めるとどう言っていいのか……」



 どう切り出せばいいのか少し迷ったが、こういうのは簡単に言うのが一番だろう。



「……エティルの話を、聞かせて欲しいんだ」



「あたしの?」

「……あ……もしかして……心配、かけちゃった?」



 何かを察したのか、エティルが申し訳無さそうな顔になってしまう。




「いや、そうじゃなくて……」




「…………いいの、分かってるんだよぉ」

「あーぁ……精霊失格だよねぇほんと……」




「契約者に心配かけちゃって……ほんと馬鹿だなぁ……あたし」




 また落ち込ませてしまった、どうしてこうなってしまうのだろうか。俯いてしまうエティルを見ると、不甲斐無い気持ちで一杯になる。



「……っ! 俺はっ! エティルの……お前等の契約者なんだっ!」

「助けられてばかりで……俺もお前達に何か、してやりたいんだよっ!」




「落ち込んでるお前は見たくない、だから……あの……えと……」




 自分でも何を言いたいのか良く分からない、勢いで口走っているのがバレバレだ。空回りするクロノをエティルはポカーンと見つめていた。



「…………えへへっ……何頑張ってるのさぁ」

「何か、クロノの癖に生意気だよぉ?」




「なっ……お、俺は真面目にっ!」




「……ん……ありがとね」

「……あたしね、置いてかれるの、怖いんだよぉ」



 そう語るエティルの顔は、今まで見たことがないほど真剣な物だった。



「ルーンと契約してからかなぁ、それに気がついたのって」

「みんなと違ってね、あたしってルーンが初めての契約者だったんだ」



「みんなと違って、上手くリンク出来なくて、あの頃は焦ってたよぉ」

「そんなあたしを、ルーンは引っ張って行ってくれてね?」



「普通のシルフだったあたしも、こんな凄い力を持てる位、強くなれたんだ」

「けど、気づいちゃったんだなぁ……あたし……」



「引っ張ってもらわないと、あたしって……みんなに追いつけないんだなぁって」

「……あたしさぁ……ルーンに鬼ごっこ、結局一度も勝てなかったの」



「あたし、みんなの事大好きなんだよ……けど、遠くてさ」

「あたし一人じゃ、全然手が届かなくて……」




「いつも、いつも、置いてかれないように、焦ってばかりだったんだ」




 エティルの小さな体が、さらに小さく見える気がする。いつも元気だった彼女の姿は、どこにも無かった。



「……こんな事言うと、嫌われるかも知れないんだけどね?」

「あたし、クロノとの鬼ごっこが好きなんだよぉ」



「クロノは弱くて、遅くて、あたしを追いかけてきてくれる」

「前にいるって、安心できたんだ」



 えへへっと笑うエティルが、どこか切なそうに見えてしまった。



「…………もし、クロノが強くなったら……」

「………………『また』……置いていかれるかもって……思っちゃってね……」



「追いつけなくなるの……怖くて……」

「あたしの、我侭で…………あたしが、臆病なせいで…………」



「クロノとのリンク……弱くなってるの……」

「あたしのせいで……あたしが……クロノの足引っ張ってるの……」




「そんなこと……」




「……あるんだよっ!!」




 顔を上げたエティルは、涙を両目に溜めていた。



「クロノは……あたし達とリンクする時……あたし達の事信じてくれてる……」

「リンクする度、伝わってくるんだよ? 真っ直ぐな信頼、すっごく暖かい心……」



「凄く嬉しい、応えてあげたいの……本当だよ?」

「けど……あたしが怖がってるから……本当はもっと強くリンク出来る筈なのに……」



「第二リンクだって……出来るかもしれないのに……それなのにっ!」

「本当は誰より早く、クロノと第二リンクしたいよ! 一緒に強くなりたいよぉ!」



「けど……だけど……やっぱり……怖いんだよぉ……」

「もう……置いてかれるの……やなんだよぉ……」



 エティルの悲痛な叫びが、言葉だけじゃなく心でも伝わってくる。涙を流すエティルに、自分は何て言ってやるのが正しいんだろう。



(分からない……どうすれば泣き止んでくれる……?)

(安心させて……やれるんだ……?)



「俺は、置いていったりしない、よ」




「ルーンもそう言ってたよ、そう言って笑ってくれてた」

「けど、ルーンは居なくなった……あたし達の前から消えちゃったんだよっ!」



「クロノの事信じてるけど……怖いんだよぉ……」

「面倒くさい精霊だよねぇ……あたし……自分でも精霊失格だと思うよぉ……」



「自分の都合で、契約者とのリンクをボロボロにして……」

「あの四天王の子の時だって、それでクロノを傷つけた……」




「あの時は、単純に俺が弱すぎて……」




「それ以前にっ! あたしが心を乱したから、クロノとのリンクがかき消されちゃったんだよぉ!」

「あたしのせいで……クロノが死に掛けたんだよっ!?」



「……最低、だよ……」

「ごめん……ごめんね……」



 これじゃダメだ、エティルは傷付き、どうすることも出来ない。



(嫌だ、どうにかしてやりたいんだ)

(何か言え、何か……)



(黙ってんじゃねぇよ……何か言ってやれよっ!)

(何か……元気付けてやれる何か……)



 言葉を整理する、気の利いた言葉を頭の中から探し出す。頭の中に浮かんできた言葉は、在り来たりな物ばかりだった。






(……………………………………ふざけんな、クソ野郎)






 何故自分は、こんな事をしているのだろう。


 上辺だけの言葉で、何をしたいのだろう。


 本気でぶつかれ、本当にエティルの為を思うなら。


 言いたい事なんて、考えるまでも無く用意できているだろう。








「……俺、友達ってあまりいなくてさ」

「前にエティルやアルディが、俺の事友達だって言ってくれて、嬉しかったんだ」




「…………ふぇ?」




「俺、強くなりたい」

「けど、それ以上に……お前達と一緒にいたい」



「一緒に、笑えるだけで幸せなんだ」

「だから、俺は手を離さない」



「絶対、置いていかない」




「けど、ルーンは……」




「置いていかないったら、置いていかないっ!!」

「俺はルーンじゃないっ! 俺は絶対手を離さないっ!!」



「大体俺は弱いんだよっ! 引っ張っていくなんて出来ない、お前等が引っ張ってくれないとダメなんだよっ!」

「何が置いてかれるのが怖いだっ! 散々俺は言ってきたっ! 一緒に進んで行きたいって!」



「お前等が嫌だって言っても、俺は一緒がいいんだよっ!」

「足を引っ張ってるだ? 存分に引っ張れっ! 俺なんかその100倍引っ張ってるぞっ!」



「迷惑かけてる? 上等だっ! 俺もかけるからお前も遠慮するなっ!」




「め、めちゃくちゃだよぉっ! それでクロノは死に掛けたんだよっ!?」

「あたしは、もう契約者を失うなんて嫌なんだよぉっ!」




「俺は死なないっ! お前を置いていったりもしないっ!」

「絶対絶対、手を離したりしない!」



「いつか、お前達を越えるくらい強くなっても、絶対に離さないっ!」

「その時は、俺がお前を引っ張って行くっ!」




「けど……根拠だってないじゃんっ!」

「言葉だけじゃ……あたしは……」




「俺はお前の、契約者だっ!!!!」

「根拠はそれで十分だっ! 言葉で足りないなら心で感じろっ!」



「怖いなら、不安なら、面倒でもなんでもいい、俺にぶつけろっ!」




「……なんで、クロノ……?」

「なんであたしなんかに、そこまで……」




「あたしなんか? ふざけんなっ! 友達が泣いてるんだぞっ!? 何かしてやりたいだろっ!」

「気の利いた事も言えない……頼りなくて情けない……俺だけどさ……!」



「言葉じゃ伝えらんないくらい……大事に思ってるんだよっ!」

「だからっ! お前が何て言っても……俺はお前を離さない!」




「何があっても、絶対にだっ!」




 正しいかなんて分からない、言いたい事をただぶつけただけだ。当然ながら、エティルは唖然としている。



「……あたしで、いいの?」




「は?」




「あたしなんかが、クロノの精霊で……後悔とかないの?」

「こんな面倒くさい、頼りになんないシルフで……いいの?」




「いい加減にしないと、マジで叩くぞ?」




「あたし、アルディ君みたいに落ち着いてないし、アドバイスとか出来ないよ?」

「ティアラちゃんみたいに凄い力じゃないし、クールじゃないし……」




「エティルにはエティルにしかない良い所あるだろ、うるさいとことか」




「元気なとこって言ってよぉ!」

「あぅ……それにそれに……あたし……リンクもちゃんと応えて上げられない有様だし……」




「関係ないね」

「俺のシルフは、お前以外有り得ない」



「ルーンの精霊だったからって訳じゃないぞ」

「俺は、お前がいいんだ」




「…………ふぇ……」

「……ふぇぇぇん……」



 滝のように涙を流すエティル、そんなエティルの頭を、クロノは優しく撫でてやる。




「お前は俺の最初の精霊で、初めて友達になった精霊なんだ」

「お前が何しても、受け止めるさ……友達なんだから」




「ごめ、んね……あたし…………」

「ふぇ、絶対……応えるから……」



「クロノの、信頼に…………絶対、応えるからぁ……」




「焦るな焦るな、俺の力量じゃ使えるか分からん」

「お前の契約者は、想像以上に弱いんだからな?」




「うぇぇぇん……格好悪いよぉ……」




「ほっとけ!」




 伝えたい事を伝えることが出来た。クロノは安心し、泣き続けるエティルを撫で続けていた。そんな二人を、物陰から見守る影が二つ……。



「どうやら、丸く収まったみたいだね」

「やれやれ……世話の焼ける契約者と仲間だよ」



「アル、親の、顔」

「心配、性……寝たふり、まで……して……」



「ふん……これが僕のスタイルなんだし、仕方ないだろう?」

「僕は契約者にも、エティルにも、辛い顔はして欲しくないんだよ」



「アルの、そーいうとこ、好き」

「……ふあぁ……」



「エティルが泣き止むまで、まだかかるだろうね」

「僕たちは先に部屋に戻ろうか、もう心配なさそうだしね」



「うむぅ……Zzz……」



「はぁ……君も十分世話がかかるよ……」



 寝ぼけ眼のティアラを背負い、アルディは部屋へと戻っていく。盗み見していた事は、契約者に悟られないようにしなければと、アルディはゆっくりとその場を立ち去るのだった。



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