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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第二章 『エルフの繋がり』
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第十話 『合図』

 クロノはリーガルの指定の位置まで移動する間に、セシルが居ない事に気が付いた。



「あれ、アイツいつから居ないんだ!?」



 あまりに興奮しすぎて視野が狭くなっていた自分が恥ずかしくなる。

 


「セシルー? どこ行ったー?」



 あんなの・・・・でも旅の同行者だ、放置する訳にもいかない。




「むぅ……迷子かぁ……?」





「一人で突っ走っておいて何が迷子だ、たわけが」




 またも、背後から声をかけられる。



「うわああああああああああっ!? だからいきなり背後に立つな!」




「貴様が簡単に後ろを取られすぎなのだ」



 尻尾を左右に振りながら、隙だらけだアホめと続ける。



「うぐっ……でも何で急に居なくなったんだよ」




「だから、離れたのは貴様だ」



 それに、と




「私が貴様と共に勇者の前に出たら、貴様、どう思われる?」




 まず間違いなく、警戒されるだろう。


 一人でも口を開けば疑いの眼差しを向けられる『変人』のクロノだ、竜人種リザードマンと共に出て行けば確実にアウトだっただろう。


 しかも相手は勇者だったのだ、最悪戦闘になっていたかも知れない……。



「貴様、少し軽率すぎるな」



 ぐうの音も出ない、まったくの正論だ。




「ごめんなさい……」




 どうにも、セシルには怒られてばかりの気がする……。



「で、何を話していたのだ」



 セシルは僅かに目を細める、何か疑っているのだろうか。



「あぁ、それがさ! 勇者様が……」



 先ほどの会話を出来る限りセシルに伝えるクロノ、その手には預かった松明が握られている。



「……って訳なんだ! 勇者様の、しかも他種族との交流の為のお手伝いだぞ!?」



「もう光栄でさぁ!」



 興奮して語るクロノの横で、セシルは何か考えている様子だった、その様子に気が付いて、クロノは眉をひそめる。



「どうした? 何か気になるのか?」




「むしろ貴様が何の疑問を持っていないのが不思議だ」



 セシルはクロノの持っている松明に目をやる。




「日が落ちたら指定地点で松明に火を付けろ、か」




 それがクロノの聞いた指示だった。




「貴様、どういった作戦なのか詳しく聞いたのか?」




「え? んーと、俺の行動は合図になってるって言ってたな」



 指定地点から煙を上げるのが、作戦開始の合図になっているらしい。



「……その作戦の内容は?」




「えーっと……そういえば聞いてないや」



 セシルは呆れ果てた様子で、論外だ、と言い捨てる。



「怪しすぎると思わんのか、お前は……」



「え、だって勇者様が人を騙す訳ねぇだろ!?」



 その言葉をセシルは信じられない、といった様子で受け止める。



「私には理解できん」



そう言って不機嫌になってしまった。



「なんだよ……だって、勇者様の言葉なんだぞ……」



「魔物である私にとっては、その『勇者様』の言葉が一番信用ならん」



 これが人と魔物の『価値観』の違いだろうか、クロノは少し悩む。




「いや、でもさ……」




「相手が勇者とかそれ以前に、見ず知らずの他人の言葉をそこまで信じれる貴様が私は信じられんな」



 口を開こうとしたところを、思いっきりさえぎられる。




「ぐっ……人の言葉も信じれない様な奴が、魔物のことを理解出来る訳ねぇだろ……?」




 自身の足りない頭を、最大限使って反論するが、



「そういった言葉は、相手の真意を正確に読み取れる者が使うのだ」



「貴様の様な脳内お花畑が使っていい言葉では、無い」



 即断……である、クロノは言い返す言葉も無かった……。






 指定された場所には松明を立てる為か、丸石が積まれていた。



「ここに松明を差し込んで……っと」



 後は夜を待つだけとなる。



「ふん、結局やるのか」



 岩の上に寝そべり、自分の大剣を尻尾でブラブラさせながら、心底詰まらなそうにセシルは言う。



「やるよ、何と言われても俺はやる」



「……あぁそうか、ならもう何も言わん」



 結局、夜になるまでセシルは不機嫌を貫いた。











「そろそろいいかな」



 完全に日も落ち、辺りは闇に包まれていた、タダでさえ不気味な森が、一層不気味に見える。



「…………」




 夕食中もだんまりだったセシルが森を見つめていた、何を見ているかはクロノも気が付いている、木の上からエルフが何人か、こちらを監視しているのだ。



 近すぎず、遠すぎない位置なのだが、それでもエルフ達は警戒態勢を解こうとしない。


 その視線が痛いのだが、クロノは気にしないように松明に火を点けようとする。



「ありゃ、点かない?」



 携帯用の魔素ライターの調子が悪く、うまく火が点かない。



 セシルは松明が立てられている場所をジッと見つめ、視線を再び森に移す、そして火が点かずに悪戦苦闘しているクロノに視線を移し、




(貴様は、やはり奴とは違うのか……)



(私は……)



 悲しげな表情で、立ち上がる。


 


「どけ、私がやろう」




「へ?」




 さっきまで不機嫌だったセシルがそう言った事に驚きながらも、クロノは言われた通り横にずれる。



「あ、でもライターが……」



 クロノがそう言いかけたが、セシルは松明の前で息を吸い込む。




(クロノ、貴様を試させてもらうぞ)




(貴様には悪いが、私の勝手でな)




 そう心で思い、セシルは松明に向かって炎を吐き出した・・・・・・・




「は!?」




 クロノは当然驚く、炎を吐く竜人種リザードマンなど聞いたことがなかった。





 いや、待て。


 そんなことはどうでもいい。


 今はそれよりもっと大事なことがある。






セシルの吐き出した炎はとんでもない勢いで放射された、その炎は松明に火を点ける所か、松明を消し炭に変えて吹き飛ばした。



 そのまま炎の勢いは止まらず、エルフの森に直撃して(・・・・・・・・・・)いた(・・)





 その光景を、クロノは放心状態で眺めていた、何が起きたか理解できない。



 それは木の上でこちらを見張っていたエルフ達も同じようで、ただただ呆然としていた。



 炎は燃え広がり、木を焼き、黒煙が空にモクモクと上がる。







 おぉ、煙が上がった……これで作戦開始の合図は送れただろう……。






「ってなにしてんだ馬鹿野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!!!!!!」







 クロノの絶叫でエルフ達も現実に引き戻される、顔面蒼白で火を消そうと動き出し始めた。



「煙を起こせばいいのなら、これでも問題ないだろう」





「問題しかねぇよ!! 何してくれてんだお前っ!!!」




 もはや涙を流しながらセシルを問い詰める、このトカゲはあろうことか森に火を放ちやがったのだ。



 エルフ達は水の魔法で消火を進めていた、かなり派手に燃えているがこれなら消化はうまくいくだろう、必死に魔法を行使するエルフの中には半泣きの者もいた、当然だが必死だ。







 数分後、火は消し止められたが・・・・その惨状には焼け焦げた木々が転がっていた。



 火は消化されたが、代わりにエルフ達の怒りに火が点いてしまったのだ。



「セ、セシル……なななな何か考えがあって……そうだろ? そうだって言ってくれっ!」



 顔を真っ青に染めたクロノが隣を見ると、セシルは何食わぬ顔で目を逸らした。



 あぁ……このまま気絶しちまおうかなぁ、とクロノが白目を向く、そして数人のエルフにクロノ達は包囲された。




「きさ、貴様ら……! よくも我らが森を……っ!!!」




 怒りに引きつった表情で、敵意どころか殺意を纏い、エルフ達が近づいてくる。





(うん、終わった……悪いなロー、俺の冒険はここまでだ……)





 エルフ達に拘束される間、クロノの頭が出した結論はそれだった。













「あいつら……予想以上にやってくれるな」



 離れた場所から、双眼鏡で様子を伺っていたリーガルは、若干引き気味に呟く。



「だが、結果的にはオーケーだ」



 合図は問題なく送られた、ついでにクロノはこちらの予想以上の働きもしてくれた。



 リーガルは3人の仲間に指示を出す、そして自身も行動を開始する。



「安心しろよ、クロノ君……作戦は順調だぜ?」



「さぁて、交流を始めようか」



 森の方を向いて、リーガルは不適に笑っていた。



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