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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十五章 『発展国に、潜む闇』
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第九十八話 『超絶天才のお姫様』

「近くで見ると、やっぱ大きいなぁ」



 ラベネ・ラグナ全体を覆うドームのような警備結界、その入り口付近でクロノは呆気に取られていた。警備ゴーレムが2体、静かに佇んでいるのが余計に威圧感を発している。



「見た限りでは、随分と厳重な警備だな」

「この国にアビスなんちゃらが潜んでいるとは、皮肉もいいとこだ」



「まったくその通りだけど……事実なんだし仕方ないよ」

「とにかく……『黒曜霊派アビス・マーケット』の情報を集めよう」



 いつまでも入り口で止まっていても仕方ない、クロノは意を決して一歩踏み出した。







「強盗が出たぞーっ!! 誰か捕まえてくれーーーっ!!!」







 そして響き渡る声、クロノは前のめりに倒れてしまう。



「治安悪いなおいっ!?」



(ゴーレムさん沈黙してるけど、これはいいのかなぁ……)



(何の為の警護ゴーレムなんだ……)



(役立たず……なの?)



 最早突っ込む気力も出ないが、強盗とやらは放っておくわけにいかないだろう。クロノは声の聞こえた方へ走り出す。その途中、爆発音のような音が聞こえてきた。




「ぎゃああああああああああああああああああああっ!?」




「ふはははははははっ!!! この国で悪事を働くとは、馬鹿か勇敢かの2択じゃなぁっ!!」

「丁度良いっ! 新たな武装の実験台となれぃ! Fire!!!!!」




 連続で聞こえる砲撃音の中、男の叫び声の様な物が混じっている。



(何だい? 公開処刑でも行われているのかな?)



「ま、まぁ……これだけ大きな国なんだし、勇者の一人や二人……普通に考えればいるよな」

「強盗は捕まったっぽいし……俺達は情報収集を開始しようか……」





「スクラップとなれぇええええええええいっ!!」




「も、ゆる……にぎゃああああああああああああああっ!?」




 何故だろう、全細胞が逃げろと叫んでいる気がする。あの声の主とは関わってはいけない、そんな気がする。




「街中だってのに、随分派手にやるなぁ……」




 建物の向こうに火柱が上がるのが見えた、強盗が生きて捕まる事を願うばかりだ。



(クロノ、これからどうするの?)



「情報と言えば酒場って決まってる、だから酒場で聞き込みかな」



(その決まりは一体どこで決まったんだい?)



「ローが言ってた」



(ダメ、な……予感)



 心の中から失礼な声が飛んできているが、クロノは気にせず酒場を目指す。後ろで「酒場……肉……」と呟くセシルは無視するのが正しいだろう。










「……『黒曜霊派アビス・マーケット』? 聞いたことないなぁ」



「そうですか……」



 聞き込みの成果は0だ。誰に聞いても『黒曜霊派アビス・マーケット』の名前すら知らないと言う。



「……貴様、もう少し考えた方がいいぞ」



「へ?」



「この国に本当にアビスなんちゃらが潜んでいるとすれば、安易にその名を口にするべきではない」

「水面下の敵に、こちらの存在を知らせることになる」



「ただでさえ不利な点が多いのだ、嗅ぎ回ってるのを感付かれると厄介な事になるぞ」

「誰が敵か、分かったものじゃないのだからな」



 幸せそうに肉を口に運ぶセシルがアドバイスをくれた。正直そんな顔で言われてもピンと来ないのだが、言ってる事は正しいと思う。




「そりゃそうか……でもだったらどうすれば……」




「……国の内情に詳しい者、権力者とかに絞って聞き込みをするのがいいだろう」

「見ず知らずの馬鹿タレ相手に、取り合ってくれるかは別としてな」




「なるほど……だったら早速っ!」







「盗みだっ!! 誰か助けてくれえええええええっ!!!」





 


 思わず「またかっ!?」っと叫んでしまった。いくらなんでも、この国は治安が悪すぎる気がする。頭を抱えるクロノに、酒場の店主が声をかけてきた。



「ははは、兄ちゃん……この国は初めてかい?」

「この国じゃこんな騒ぎ、日常茶飯事さ」




「えぇ……良いんですかそんなんで……」




「この国は盤世界ファンタジア最大の発展国として名を馳せてる」

「生み出される兵器、魔道具、生活用品ですら、他の国とはレベルが違う」



「勿論、値段もレベルが違う」

「現物や材料、開発方法を盗もうと目論む輩は後を絶たないんだよ」




「盗みが日常レベルで展開されてるって……それちょっとやばくないですか?」




「心配ないよ、この国には心強い人がいるからね」




 店主が笑ってそう言った瞬間、店の外で爆発音が響いた。




「げぇっ!? 馬鹿な、速すぎるっ!!」




「常識で測れると思ったか、この間抜けっ!」

「貴様等凡才と、超絶天才では勝負にならんわっ!」



「蜂の巣となるがよいわああああああああああああああっ!! ふはははははっ!!!!」




「砲撃じゃ蜂の巣もクソも……うぎゃああああああああああああああああっ!!!?」



 

 ……先ほど聞いたような声と共に、店の外で砲撃音が聞こえ始めた。




「……死人とか出ないんですかねぇ……」




「寸止め機能が付いてるらしいよ」




 それは科学の力でなんとかなる物なのだろうか。



(関わりたくないし、追求は止めておこう……)


「あの、この国の権力者って言えば……」




「そりゃあ王族じゃないかな?」



「王様や王妃様は勿論だけど、やっぱりラベネ・ラグナと言えば……あのお方だろうね」

「各国にその名を轟かせる超天才……我が国の姫様、フローラル・エクショナー様!」



「いやぁ、姫様は15歳の女の子とは思えないよ……我が国の誇りだね!」




「名前とその実績は聞いたことがあります」

「何でも、過去数百年を凌駕する発明品を次々と生み出してるとか……」



「ラベネ・ラグナの姫は、数千年先を生きている……とか言われてますよね」




「美しく、賢い……毎日身を削って開発に勤しむ姫様は素晴らしい方さ……」

「最早誰も成し得ないほどの結果を出しているというのに、姫様はさらに先を目指している」




「才能を持ちながら努力を惜しまない、いやいや感心だよ」




 国民からも信頼されているらしい、本当に凄い人なのだろう。是非とも会ってみたいが、多忙なのは容易に想像できる。




(流石に、会うのは無理だろうなぁ)




「姫様の発明品に興味があるのなら、近くに姫の開発した魔道具を取り扱っている店があるよ」

「地図を書いてあげるから、良かったら旅の記念に覗いてみるといい」




「親切にどうもありがとうございます」




 興味が無いと言えば嘘になる、情報収集を一旦切り上げ、クロノは地図が示す場所を目指す事にした。














「貴様、アビなんとかの情報はいいのか?」




「むやみやたらに聞いても無駄って言ったのはセシルだろ?」

「焦っても仕方ないし、俺の体も傷だらけだし……」



「どうせ休息挟むなら、時間は有意義に使わないとな」




「ウキウキして……貴様は子供か……」




「もしかしたら俺のパワーアップに役立つ魔道具があるかも知れないだろ?」




「道具に頼って強くなる、その発想が既に下の下の下だ」




 確かにそうである。失言だったと後悔する前に、アルディが首に手を回してきた。



「クロノ~? 僕達じゃ不満ってことかなぁ~~~っ!?」



「いや違……ごめ……苦し……」



(この馬鹿契約者っ! エティルが落ち込んでるタイミングでなんて事言うんだっ!?)



「ごめんなさい……すいません……失言でした……ギブ、ギ……」



 メキメキと首を絞められるクロノ、その隣でエティルは黙って俯いていた。



「最低、失望した、ディスカバリーが無い」



「デリカシーな」



「…………っ」



 顔を真っ赤にしたティアラが指を鳴らす、その瞬間クロノの頭上から滝のように水が降り注いだ。咄嗟にアルディは水を避けたが、クロノは直撃を許してしまう。



「反省、して……この、馬鹿」



「ごめんなさい……」



 荷物からタオルを引っ張り出すクロノ、ちなみに水を被るのはティアラと契約してから8回目だ。そんな騒ぎの中、エティル一人が黙ったままだ。



(…………普段は一番うるさいのに、調子狂うなぁ……)

(それだけ、落ち込んでるんだろうなぁ……)



「な、なぁエティル? その……」



「ん?」



「いや、その……ごめん」



「へ? やだなぁクロノってばぁ 冗談だって分かってるよぉ」

「えへへ~♪ クロノは馬鹿正直なんだからぁ~♪」



 ニコニコと笑いながら、エティルはクロノの周りを飛び回る。



(……付き合いだって、もう短くないんだ)



(あぁ、クソ……本当に馬鹿だった)



 エティルが無理して笑ってる事くらい、クロノにだって分かる。今はエティルの笑顔が、酷く痛々しい物に見えてしまう。




(……最低な契約者だ、俺)




 こんなんじゃダメだ、これでは、強くなる以前の問題である。



「……っ! エティルッ! 俺……」



「クロノ? あのお店じゃない?」



 何を言おうとしたのか、正直自分でも分からなかったが、その言葉はエティルに遮られてしまう。エティルが指差す方向には、魔道具専門店と書かれた店があった。



「誰か居るねぇ」



「女だな」



 店の前には、作業着を着た女の子が立っていた。その作業着も、可愛らしい顔もオイルや煤で汚れている。しかし、そんな汚れている格好でも、宝石のように輝く何かを感じた。青いロングヘアを肩の辺りで束ねているのは、作業の邪魔になるからだろうか。




 その女の子は、こちらを見つけると表情を明るくした。




「おぉう! そこの庶民っ! 今日は新しく開発した武装があるのじゃっ! 当然見ていってくれるじゃろっ!?」




「へっ? いや、まぁ立ち寄るつもりで来たので……」




「御託はいいっ! 見よこの威力っ!」




 女の子は腰の辺りから取り出した小型の銃を構えると、『クロノに向かって』引き金を引いた。小型の銃から発せられるにしては大きすぎる爆音が響き、クロノの頬を掠めた銃弾は後方の壁に風穴を開けた。




「…………………………え?」




「う~む……やはり音が自己主張しすぎかのぉ」

「小型護身銃・『アサシンベアーズ改』」……どうじゃ?」




「どうじゃ? じゃねぇっ!? 何で俺に向かって撃った!? 当たったら死んでたぞ!?」




「はっ……庶民の発想、凡才の意見じゃな……超絶天才の妾がそんなミスするか」




 ここでクロノは気が付いた、この子の声は、強盗達を追い詰めていた子と同じ声だ。




「お、お前……今日街中で暴れまわってた……」




 言い終わる前に、再び頬を弾丸が掠めた。




「うわあああっ!?」




「凡才風情が妾に対しタメ口とはのぉ、風穴開けられたいのかのぉ」

「貴様、妾を誰と心得る?」




「知らないよっ! 初対面だし! ファーストイメージは危険人物だよっ!!」




「あぁ? なんじゃ……知らんのか……ゴミめ……」




 酷い言い草である。



「仕方あるまい……名乗ってやろう……光栄に思え」



(間違いなく危ない人だ、どうにかここから逃げないと……)



「妾の名はフローラル・エクショナー、この国の姫であり、英知の結晶じゃ」



(関わったらダメな人だ……ここは……………………え?)



「まったく、妾の名も知らぬとは……クズ中のクズじゃなお主」



「はぁ!? 姫様!? ラベネ・ラグナのっ!?」



 目の前の少女が姫とは、言っては悪いが到底見えなかった。



「だって、作業着だし……」



「作業中じゃ、当然であろう」



「姫様が顔にオイルとか……煤とか……」



「開発中じゃ、仕方ないじゃろう」



「口悪いし、性格悪いし、初対面の人間に銃ぶっ放すし……」



 言い終わる前に、また銃弾が掠めてきた。



「……貴様も十分、口悪いと思うがの」




「分かったから銃をこっちに向けないでくださいっ!?」



 このままでは会話の途中で殺されるかもしれない、まさか会ってみたかった姫様がここまでぶっ飛んだ人だとは思わなかった。



「……じゃあ、本当に貴女が姫様?」

「ラベネ・ラグナの天才……国が誇る……超天才!?」




「だからそう言っておるじゃろう、クズが」

「妾こそっ! 超絶天才にして超絶美少女っ! ラベネ・ラグナが持つ英知の発明家っ!」




「フローラル・エクショナーとは妾の事っ! さぁ庶民、崇めよ」




 想像してたのとは随分違う、期待を裏切られた気がする。



「なんじゃその微妙な顔は、撃つぞ」



「いやいや引き金軽すぎるだろうっ!?」



「ふん、で? 貴様何しに妾の店に来た?」

「買うのか? 開発依頼か?」



「え……あ……」



 よく考えてみれば、この国の権力者が目の前に居る事になる。ダメ元で聞いてみるのも、悪くないかも知れない。



「その、貴女に聞きたい事が……」



「あぁ? 庶民の問いに答えろ? 貴様何様じゃ?」



「うっ……失礼は承知の上です……」

「……『黒曜霊派アビス・マーケット』って聞いたことありますか?」



 もういい加減うんざりだが、また銃弾が頬を掠めた。



「何なのっ!? 引き金ってそんなにパンパン引いて良い物じゃないだろうっ!?」



「舐めた口利くからじゃ」

「庶民風情が妾を侮辱するか? この国の事で妾が知らんことがあるわけなかろう」



「……!? じゃあ、知ってるんですか!?」



 ツカツカと近づいてきた姫様が、クロノの顎に拳銃をグリグリと押し付けてきた。



「二度言わせるな、クズが」

「この国の裏でコソコソしとる精霊売買組織じゃろうが、知っとるわ」




「……っ! 知ってて……放置してるんですか!?」




「妾は開発にしか興味ない、今は忙しい時期での」

「父上も母上もあの組織には気づいてないらしいからの、絶賛放置じゃ」




「興味の湧かない事に関わるほど、妾は暇じゃないのでの」




 心底つまらなそうな目で言う姫様に、クロノの我慢が限界になった。顎に押し付けられている拳銃を左手で掴み、クロノは姫を睨みつけた。




「……あの組織のせいで、どれほどの精霊が苦しんでると思ってるんですか」




「あ? 知るかそんなもの、妾には関係ない」




「関係ないで放って置けるほど、小さい問題じゃない筈です」

「国の裏で暗躍する存在を無視して、何が天才ですか」




「笑わせないでください」




「…………ほぉ、良い度胸じゃ」

「仮にも姫である妾に、随分とでかい口を利くのぉ」



 姫の目つきが変わった、どう見ても一国の姫の目じゃない。暗殺者とか殺し屋とか、そんな存在のほうがよっぽど似合っている目だ。



「会う前は尊敬してましたが、会って幻滅しました」

「偉そうな事言ってますが、貴女は何もしてない」




「貴女は、馬鹿以下です!」




「なっ…………貴様…………」

「言うに事欠いて……馬鹿……じゃとっ!?」




「超絶天才に向かって…………馬鹿じゃとっ!!!???」




 構えていた銃から手を離し、姫は懐から巨大な銃器を2丁取り出した。




「ふはははははははっ!!!! 面白いっ!」

「妾を馬鹿呼ばわりしたのは貴様が初めてじゃっ!!」




「初めて記念で吹き飛ばしてやろうっ! 覚悟しろこのクソ愚民っ!!」




 姫らしからぬ言葉使いで、二丁の銃を構えてきた。正直こんな展開は望んでいないのだが、あちらはもう止まらないだろう。こうなったら、流れに身を任せるしかない。




「……っ! 俺が勝ったら、『黒曜霊派アビス・マーケット』の情報を貰いますからね……」




「超絶天才に勝てると思っとるのかっ! 消し炭にしてくれるっ!」




 何故か姫と戦うことになったクロノ、前途多難の一言では済まない気がする。姫が引き金を引くと同時、クロノの後方が爆散した。セシルの事が一瞬頭を過ぎるが、いつの間にかその姿は無い。



(傍観モードに入ってるな、いつの間に……)



(それよりクロノ、あんまり余裕ぶってると死ぬよ?)



(相手は女の子で、しかも姫様なんだ……本気でやるわけにはいかないよ)

(武器を弾き飛ばしたりして、さっさと終わらせよう)



 そう高を括っていたクロノだが、構えていた左手が姫の銃器による打撃で弾き飛ばされた。




(はっ!? 接近してきたっ!?)




 そのまま姫は銃器を鈍器代わりにし、クロノの腹部を殴りつけてくる。




(……っ! これやばいっ!!)




 腹部に叩き込まれてる部分は、銃器の銃口だ。咄嗟に横に飛んだクロノだったが、さっきまで自分に接触していた銃口が容赦なく火を吹いた。




「……っ! マジで、殺す気か……!?」




「超絶天才の妾を馬鹿にした罪、貴様程度の命じゃ払い切れんからの」

「千回分くらい死ね、死んで償えクソ庶民っ!!」




 やっぱりこの姫様は異常だ。目が殺し屋の目になっている、このままじゃ本当に殺されかねない。



「気は進まないけど……仕方ないか……」

「ティアラ、頼む……!」



「私、あの子……ちょっと、怖い……」



 精霊技能エレメントフォース・心水を纏うクロノ、割と本気な勝負が幕を開けた。



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