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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十五章 『発展国に、潜む闇』
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第九十七話 『契約者として、もう一度』

 四天王の襲来を受け、毎度の事ながらボロボロになったクロノ。結局丸々一日を休息に使ってしまった。山頂付近で野宿をしていたクロノは、夜空を一人で眺めていた。




(……生き延びただけ、まだ幸運だったのかもしれないなぁ……)




 心の声に反応する者は居ない、精霊達は夢の中だ。クロノは自分の右肩を摩る、シアに切り裂かれた傷がズキッと痛んだ。



(セシルが手当てしてくれたけど……結構深く斬られたんだよなぁ)



(……どうやって斬られたのか、それすら分からなかった)



 一人で俯くクロノ、そんなクロノの背後にセシルが近寄ってきた。



「まだ起きてたのか、明日の朝には山を降りるのだろう」

「いい加減休んだらどうだ」



「……なぁセシル、強くなるにはどうすればいいんだ?」



「焦らない事だ」



「……むぅ……」



 それは分かっているのだが、あれほど圧倒的な力を目にしたのだ。いつかはあれに追いつかないといけないのだろう、クロノは焦りと不安を振り払えずにいた。そんなクロノを見かねたのか、セシルが隣に並んできた。



「……私も一応四天王なのだが、本当に気にしないのだな」

「呆れた奴だ、全く……」




「いや、驚いたんだぞ? でもそんなに気にすることでも無いかなぁって……」




「……貴様は精霊使いだ、貴様一人でもがいても強くはなれん」

「焦って見失っている今の貴様に、上は見えんだろう」




「見失ってる? 何をだよ」




「精霊学校で貴様は何とほざいていた? 貴様は一人で戦っているのではないだろう?」

「幽霊騒ぎで、精霊達はなんと言っていた?」



「伝説の勇者に連れ添っていたとはいえ、奴等も完璧ではない」

「貴様、もう一度よく考えてみろ」




「助け合う、その言葉の意味をな」




 そう言って、セシルは背を向けた。




「お、おい?」




「ある意味では、いい機会かも知れん」

「一度言っただろう、精霊使いは一人一人の形がある」




「契約者として、もう一度見つめ直せ」

「貴様と奴等の形を、見つけてみろ」




 セシルなりのヒントなのかもしれない、今までセシルが意味のない事を言ったことは無い。思わせぶりな言い方も、自分で考える事も大事ということなのだろう。



「……見失ってる、か」



「すぅー……はぁ…………よしっ!」



 深呼吸をし、気持ちを切り替える。いつまでも凹んでいては始まらないだろう。



(とりあえず、保留だ保留!)



(まずは目先の目標からだ、ラベネ・ラグナを目指すのが先決!)



 寒空の下で悩んでいても答えは見つからない、このままでは明日の朝に響くだろう。クロノは迷いを胸の奥に押し込み、眠りにつくのだった。



















 次の日の朝、クロノは久方ぶりに静かな朝を感じていた。




(……?)




 毎朝毎朝、エティルが騒がしい朝を提供してくれていたのに、今朝は随分と静かだ。



「あっ、クロノおはよ~」



「エティル、起きてたのか?」



「うん、今朝もエティルちゃん元気元気♪」



「……そっか?」



 何故だか、エティルの笑顔に違和感を感じた。



「遅いお目覚めだね、クロノ」

「既に僕達は準備できてるよ」



「Zzz……」



「本当にティアラは準備出来てるのか……?」



 アルディに担がれているティアラは、どうみても半分寝ている。



「いいからさっさと朝飯を作れ」

「食わねば山を下れんではないか」



「そう言うなら手伝ってくれよ……」



「まぁまぁ……僕が手伝うからさ」



 アルディがそう言いながら近寄ってくる。一連の流れるような動きの合間、ティアラが投げ捨てられた。



「うぎゃあー」



「いい加減起きなよ、もう」



「目覚め、最悪……扱い、酷い」



「短い間に五度寝する君が悪い」



「朝から何をしてるんだ、お前等は……」



 やれやれとクロノは食事を作り始める。その最中、エティルは岩の上に座りながらじっとしていた。



「……?」



「クロノ、どうかした?」



「……いや、エティルが静かだなぁって」



「……そうだね」

「クロノ、その……」



 アルディが何かを言いかけるが、言い淀んでしまう。




「何だ? どうかしたか?」




「……気にかけてあげてくれないかな」

「こんな事、僕が言う事じゃないんだけどさ」



「その、お願いだ」



 アルディにしては珍しく、言いずらそうな感じだ。




「……俺、何かしたかな……」




「クロノが、って訳じゃないんだ」

「エティルはね、似合ってないけど……性格上仕方ない所が……」




「? どういうことだ?」




「……彼女は、ルーンにとって最後の精霊でね」

「出会いが一番、遅かったんだよ」



「それだけじゃない、エティルにとって……契約者は君が二人目、ルーンが始めての契約者だったんだ」

「ルーンと契約した精霊で、彼女だけが……契約初心者だったんだ」




「ティアラはクソ野郎と契約して、酷い目にあったって話は聞いてたけど……」

「アルディも、フェルドって奴も……ルーンより前に契約者がいたのか」




「あぁ、僕は過去に一人、フェルドは三人と契約をしてた経験がある」

「契約未経験、そして出会いが一番遅かったって事もあってね」



「エティルはよく焦って、失敗してたんだ」

「別に焦る必要もないし、気にする必要もないのにね……」



「いつも騒がしいくらい明るいくせに、そんな事を気にして、よく落ち込んでいたよ」

「吹けば飛んでいってしまうくらい、彼女は打たれ弱いのさ」




「意外だな、言っちゃ悪いけど……」




「……今回、クロノと最初に出会ったのはエティルだろう?」

「前回は最後で、今回は最初に出会ったんだ」



「それも、焦る原因かな」

「ルーンと第二・第三の精霊技能エレメントフォースを発動させたのも、エティルが最後だったから……」



「今回は、きっと誰よりも先にその域に達したいって、思ってる」

「そう思ってたのに、あの四天王だ……そりゃ凹みもするよ」



 そうだ、シアとの戦いで……風の精霊技能エレメントフォースはその力を吹き飛ばされた。一番最初に使えるようになり、ずっと使ってきた風の力が、いとも容易く無効化されたのだ。



「……そっか、そうだよな……」



「俺……エティルの事、何も知らなかった……」

「最初に出会ったのに……何も……」



 セシルの言う通りだ、何も見えてない、何も知らないのだ。一緒に戦ってくれている仲間の事を、見失っていた。



「……僕は、クロノを信じてるよ」

「勿論エティルも……認めないだろうがティアラもね」



「だから、頼む」

「今はエティルの事を、気にかけてやってくれ」



 真の意味で助け合うというのは、そういうことだろう。クロノはアルディに向き直り、力強く頷くのだった。







「飯はまだかっ!!!?」







 セシルの咆哮が、クロノの決意を吹き飛ばした。



「くそぉ……今結構シリアスだったのに……」



「ははっ……クロノらしい展開だね」



 雰囲気はぶち壊されたが、大事な話を聞けたと思う。クロノは卵を焼きながらも、今後の方針を改めるのだった。



「エティル! 俺頑張るからなっ!」



「えぅっ!? 何々? どうしたの?」



「頑張るったら、頑張るんだっ!」



「ふぇえ~? 急に熱血だねぇ?」



 朝食を運びながらも、クロノはエティルにやる気を見せ付ける。



(うーん……今のエティルには逆効果じゃないかな? それは……)



「アル……お節介……」

「あれじゃ、ただの……馬鹿」



「クロノもクロノで……まだまだだなぁ……」

「確かに、余計なお節介だったかもしれないなぁ……」



「けど、アル、らしい」

「完全、に……保護者……」



「……よし、悪口として受け取ろう」



「何故……褒めた、のに……あぅあぅ……」



 ティアラの頬をグリグリするアルディ、今朝もここだけは変わらずに微笑ましい。朝食を済ませ、クロノ達は山道を下り始めた。



「くそっ……体の節々が痛む……」

「こんなんで『黒曜霊派アビス・マーケット』と戦えるのだろうか……」



「あれだけ蹴られて、原型を留めていられた幸運に感謝しろ」

「ミンチになっていても、不思議じゃなかったぞ」



「僕の大地の力と、あの四天王が戯れ気分で手を抜いていたのが幸いだったね」

「本気で蹴られてたら、余裕で挽肉だったよ」



「クロノォ……無理しないでね?」



「心配……痛いの、辛い」



「そう思うならさ、背中と頭から下りてくれよ……」



 エティルは頭の上、ティアラはクロノの首に手を回し、無理やり背に引っ付いていた。心配してくれるのはいいが、負担はかけてくるスタイルらしい。




「……ごめんね……」




 失敗した、エティルがまた落ち込んでしまった。



「嘘嘘嘘っ! 冗談だって! 軽いしな、全然辛くないぞ!?」



「なんか、ずるい」



「ティアラも軽いし? 全然構わないぞー? むしろいいトレーニングに……」



(やっぱり僕、お節介だったかなぁ……)



 空回りするクロノを見て、アルディは人知れず溜息を零していた。せめてもの助け舟を出そうと、アルディはセシルに話を振った。




「セシル、君の話を聞いてから少し疑問が浮かんだんだが、いいかな?」




「答えられる範囲なら、構わんが」




「今の魔王は、エフィクトだって言ってただろう?」

「そして、君とあの鳥人種ハーピーが四天王」



「なら、残り二人の四天王は誰なんだ?」




「……! 俺も気になる! 四天王の種族と名前……!」




 いつか、自分の前に立ち塞がる者達なのだ。聞いておいて損はないだろう。




「……まぁ、別にいいか……」

「あの九尾狐の子孫と、訳分からん奴だ」



「……もう少し具体的にお願いしてもいいかな」

「クロノにも伝わるように……」



「……500年前の四天王、『神獣』の朧……九尾の妖狐の子孫、そいつが今の四天王の一匹だ」

「確か、『神憑かみつき』の茜と名乗っていたな」



「もう一体は知らん、『変幻』と名乗っていたが、あんな奴は知らん」

「性別は男、種族は謎、強さは化け物、あとうざい」



「以上だ」



「最後の一人適当じゃないか?」



「一瞬交戦したが、本当に訳が分からなかったのだ、仕方ないだろう」

「……底が図れなかったのは、ルーン以来だ」



「……強いってことは、間違いないのか」



「下手すれば、私よりな」

「まぁ、あの時は剣を使わなかったし……一概にそうとも言えんが」



「そういえば、その剣ってルーンのだったんだな」

「……そのでかい剣を使ってたのか……本当に桁違いだったんだなぁ……」



 セシルはクロノよりほんの少し背が低いが、背負っている剣はクロノと同じくらいの馬鹿でかさだ。斬ると言うか、ぶった斬るとか、そんな表現が似合いそうな剣である。一目では人が扱えるとは思えない。



「どれくらい重いんだ?」



「山一つくらいだ」



「いやいや、流石に無いって」



「ばれたか、本当は城一つくらいだ」



「いやいや……」



「今回は嘘じゃないんだが……」




 ……嘘だと、信じたい。




「この剣の名は、『霊王剣(れいおうけん・ヴァンダルギオン』……『八戒神器はっかいじんぎ』の一つだ」



「『八戒神器はっかいじんぎ』? なんだそりゃ」



「使い手の望みのままに、邪を祓い、時には天を割り神を貫くとまで言われる伝説の宝具だ」

「武器そのものが使い手を選ぶと言われ、武器が認めねば持つ事すら出来ん」



「世界に8つ存在するという、究極の武器だ」

「私も、全てを見た事は無いがな」



「伝説の勇者は、使ってた武器まで凄いんだなぁ……」



「ルーンはその剣で、あらゆる困難を越えてきたんだよ」

「時には山を斬り、城を斬り、島を斬り……」



「懐かしいねぇ、空を斬ったり、空間斬ったり……」



「海、とか、割ってた……地獄まで、斬り進んだり……」



「お願いだから常識とかルールまで斬らないで、俺の理解を超えすぎてるからっ!!」



 本当に追いつけるのだろうか、そもそも人間だったのだろうか……どうしても信じられない。




「まぁこの話はひとまずここまでだ、見えてきたぞ」




 唐突にセシルが前を向く、地平線に、目指していた国が浮かんでいた。




「あれがラベネ・ラグナ……盤世界ファンタジア最大の発展国で、全ての科学が集まる国……」

「そして……『黒曜霊派アビス・マーケット』が巣食う国……」



 ドームのような物で覆われた国は、遠巻きでも分かるほど大きく、賑やかだ。アノールドやウィルダネスの国と比べると、機械的なイメージが強い。




「……不安か?」




 セシルが挑発的な笑みを浮かべ、聞いてきた。



「……不安や困難を避けた先に、俺の夢はないんだ」



「そう言った物を越えた先に、見たい未来があるんだよ」



「今回だって、俺は俺の納得できる道を進むだけだ」



 そう言って、クロノは走り出す。





「よしっ! 行くぞみんなっ!」





 一人ではなく、仲間と共に。




「急ぐと転ぶよ? まったく……」




「えへへっ…… ゴーゴーッ!」




「太陽……まぶし……」




 困難を、越える為に。



 クロノは直感で分かっていた、目指しているあの国で、マークセージと同じくらいの困難が待っている事を。



 コリエンテ大陸、最大の激戦が……待っている事を。 



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