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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十四章 『絶風襲来』
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Episode:魁人&紫苑 ③ 『私は主君に、救われたんです』

 生きる為、仕方なかった……そんな理由で納得できるわけがない。そんな理由で、許される筈が無い。自分勝手な理由で、魁人は多くの命を奪ってきた。





 それは、紛れもない事実なのだ。





「魁人君がさぁ……善人の皮なんて被れるわけないでしょ~?」


「魁人君には、死んだ目で魔物を殺しまくってるのがお似合いだよ♪」



 十数体の魔物の攻撃を掻い潜る魁人を見て、リリネアは笑いながら言い放つ。



「何で反撃しないの~? 何で迷ってるの~? 魁人君ってばい・ま・さ・ら……だなぁ~!」

「あんなに殺してたじゃん~? あんなに傷つけてきたじゃん~?」



「目の前の魔物の顔見て、自分の胸に手を当てて……それでも今の自分が格好いいとか正しいとか……言えるの?」

「言えないよね! あはははははっ! 言える訳無いよねぇ~~!!」





「相変わらず……いい性格だな! リリネアッ!!」





「や~ん! 八つ当たりしないでよぉ~!」

「事実でしょ? あんだけ殺しておいて、そこの鬼っ子ちゃんを守るんだ~って?」




「綺麗事過ぎて、反吐が出るわよ」




 目つきを変えたリリネアは、本の新たなページを開いた。




「土塊の兵隊、小さな小さなゴーレムちゃん……偽善者君を殺しちゃえ」




 本から飛び出した大量の土が、何体もの人型を成していく。リリネアの土属性の魔法を応用した土人形ゴーレムだ。生み出されたゴーレム達が、魁人に襲い掛かっていく。




(くっ! 戦闘を想定して砂漠に来た訳じゃないから、陰陽札の数も心許ない……)



(だが、反撃しないと……殺される……!)




 紫苑の方を見る魁人、紫苑に襲い掛かった水体種スライムの動きは縛り上げているが、倒したわけでは無い。紫苑の右手と両足は水体種スライムに飲み込まれ、身動きの出来ない状態だった。




「主君っ! この……離して……!」




(あの状態の紫苑を攻撃しないで放置しているのは……俺が逃げるのを防ぐ為か……)

(そして俺を精神的にも物理的にも痛めつけると…………本当に、いい性格してやがる)



 

 魁人は右手を振り上げ、袖の中から数十枚の札を取り出した。魔力を練り、札に纏わせていく。




退魔刀たいまとう紙断しだん




 数十枚の札が集まり、剣の形となって魁人の手に収まる。その剣の一振りによって、ゴーレムの体は両断された。



「魔力を斬る退魔の剣……魔力で動いてるゴーレムちゃん達なら即死ってことね」

「本当……相性悪いなぁ」




「けど……君はその子も斬れるのかな?」




 襲い掛かるゴーレムの集団を、魁人は次々と切り伏せていく。だがゴーレムと魁人の間に、蛇人種ラミアが割り込んだ。





「……っ!?」





「その子も、魁人君が半殺しにしたんだよね……?」

「楽にコレクションできたから、あの時は感謝したよぉ」



 魁人は咄嗟に剣を止めてしまう。その隙に蛇人種ラミアの魔法が、魁人の腹部に叩き込まれた。風の魔法なのか、圧力の様な力が魁人の体を吹き飛ばした。



 


「……ごはっ!」





 吹き飛んだ魁人に群がるように、魔物の集団が襲い掛かる。その目は、激しい怒りや憎しみを感じさせた。



「ほらほら……その子達の目を見てワンスモア……何を守るって?」

「魔物の為に何かしたいんでしょ? だったらさ、死んでよ」



「その子達の憎しみを解消させてあげてよ! その身を捧げて懺悔しなさいよ!」

「身の程を知って物を言いなさいよ? 君みたいな子が、今更綺麗事言うなんて……」





「冗談でもさ、笑えないのよね?」





 切り付けられ、魔法を浴び、殴られ、蹴られ、噛み付かれ、ボロボロに吹き飛ばされた魁人。通常なら死んでいるだろうが、魁人はフラフラと立ち上がる。



「流石~! 退魔の力を纏った魁人君は硬いな~!」



「魔物相手なら本当に無敵みたいなものだね、良いサンドバックだよぉ」



 退魔の固有技能スキルメントは攻撃面・防御面……その両方が魔物特化の能力だ。対魔物で、これ以上強力な力は無いとされ、反則級とも言われている。退治屋としては、喉から手が出るほど欲しい力であり、天から与えられた才能ともいえる。退治屋としてならば、これ以上向いている力は無いだろう。





「…………なんで、俺なんだ……」





 そう、あくまでも、退治屋としてならば。




「望んで、こんな力を……持ったわけじゃない……!」




 自分がまだ幼い頃、両親が盗賊に殺された。両親は命を懸けて自分を逃がしてくれたのだ。それからゴミを漁り、自らもゴミのように日々を過ごした。死ぬわけにはいかなかった、このまま死んだら、両親は何の為に自分を生かしたのか分からなくなる。



 死に物狂いで生き続け、ある日突然、『退魔』の固有技能スキルメントが目覚めた。まだ幼かった自分が得たのは、幼くても魔を滅ぼすことが出来る力だった。



 力を振るい、退治屋として生き延びた。自分の生きる意味を探して、必死に力を振るい続けた。気が付いた時には、自分は魔物殺しの達人になっていた。



「俺は……何の為に生き延びたんだ……?」

「魔物を殺す為か……? その為だけに生きてきたのか……?」



「……そうだな、普通に考えればそうなんだろう……」

「天が与えた才能が「これ」なんだ……そう考えるのが普通だよな……」



「けど、俺は非情になり切れなかった……」

「魔物を殺す事……迷っちまった……正しいのかって……これが本当に正しいのかって……」



「気づいちまった、俺は……間違った道を進んできたって……」

「俺の生きる意味が……魔物を殺す為だって……思いたくなくて……」



「否定してもダメ、償いも出来ない……」

「何でだよ、何で……! 何で俺には……こんな力が宿ったんだよっ!」



 捜し続けた生きる意味、それが殺しの為なんて……残酷すぎる。目を逸らそうとしても、自分のしてきた事からは逃げられない。自分は紫苑に手を伸ばす資格なんて無いのだ、紫苑を守ることを生きる意味にして、逃げようとしたのだ。



「何被害者みたいに泣いてるの? 君の周りの子達こそ被害者だよ?」

「本当に酷いよねぇ、殺して殺して殺して殺し続けてきた君が……守る?」



「や~ん! 気持ち悪い~!」

「ボコボコにした魔物を無理やり使い魔にして、奴隷みたいに扱ってるリリネアちゃんの方がまだ可愛いと思うなぁ~!」



 クネクネとするリリネアだが、彼女の言う事も一理ある。自分は偽善者だ、どれだけ償おうとしても無理なのだ。自分は、取り返しの付かない事をしてきたのだ。




「魁人君、安心してね? リリネアちゃんが助けてあげるよ」

「君の殺してきた魔物達で、君を殺してあげる」




「良かったね、君はやっと、君が殺した子の役に立てるよ」

「じゃ、出来るだけ苦しんで死んでね」




 リリネアが指を鳴らした瞬間、待機していた魔物達が襲い掛かってきた。自分には相応しい最後かもしれないと、魁人は思っていた。










「……ッ! いい加減に…………してくださいっ!!!!!!!!!!」










 瞬間、紫苑の叫びと共に大爆発が起こった。紫苑が左拳を地面に向けて叩き込んだのだ。その衝撃で周囲が吹き飛び、彼女を縛っていた水体種スライムも粉々に吹き飛んだ。





「きゃあああああああっ!?」





 その爆風はリリネアの体すら吹っ飛ばし、魁人やその周りの魔物達も四散するように吹き飛んで行った。



「何々っ!? 何なのよこの力!?」



(あの鬼っ子ちゃんがやったの? 普通の力じゃないわよこんなの!?)



 鬼人種オーガとは何度か戦ったことのあるリリネアだったが、ここまでの怪力は初めてみる。砂埃の向こうには、髪を靡かせた紫苑が立っていた。その雰囲気は、今まで感じた事が無いほど、強力な力を秘めているように映った。




 そんな紫苑は黙って、魁人の元へ駆け寄っていく。



「紫苑……助かっ……」



「主君、失礼します! えいっ!」



「え、な、ぎゃああああああああああああああっ!?」



 魁人のすぐ傍まで駆け寄った紫苑は、間髪容れずに魁人を殴り飛ばした。割と力が篭っていたようで、魁人の体は砂の海を3バウンドもして吹き飛んだ。




「がっ……な……何……を……」




「きゃあああっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」




 再び駆け寄ってきた紫苑は、涙を浮かべながら頭を何度も下げてくる。謝るくらいならなぜ殴ったのだろうか。そんな光景を見て、リリネアは唖然とした表情で固まっていた。




「し、紫苑……お前……一体何考えて……」




「………………主君? 私は、主君の生きる意味、です」




 頭を上げた紫苑は、いつになく真面目な顔をしていた。



「主君が過去にどんな過ちをしてきたか、それが、どれほどの問題なのか」

「私なんかには、想像も出来ないくらい難しい事なんでしょう」



「だけど、私は主君に救われたんです」

「その事実だけは、忘れないでください」



「どれほど、救われたと思います? ずっと一人で、生きる意味も見出せなかった私が……」

「主君の言葉で、手を差し伸べてくれたおかげで、どれだけ嬉しかったと思います?」



「主君が殺めてしまった魔物の皆さんには申し訳ないですが、私は救われたんです」

「誰でもない、主君の言葉に」





「その事実だけは、絶対に……絶対に消させやしません」





 そう言って、紫苑はリリネアに向き直った。



「鬼っ子ちゃん~? あなたもお馬鹿なタイプなのかなぁ?」

「実際問題さ、魁人君には無理なのよ」




「魔物殺しの力を持ってる魁人君が、守る側に立てると思ってるのっ!? 笑っちゃうわっ!!」




 そう言ってゴーレムを生み出すリリネア、複数のゴーレムが紫苑目掛けて突っ込んできた。



「力が……なんですか」



「大事なのは力の種類じゃないです、力の使い方、使い手の意思ですっ!!」



 そう叫ぶ紫苑の髪がブワッと舞い上がった。目がいつになく赤く染まり、いつもは目立たない角が光り輝くように力を発した。




心鬼一体しんきいったいっ!!!」




 右拳がゴーレムに叩き込まれると同時、爆音が周囲に響き渡る。ゴーレムの体は、吹き飛ぶとか消し飛ぶとかそんなレベルではなく、一撃で粉微塵になってしまった。





「ちょっ……何よその桁違いの一撃……」





「私は……半分は人間の血ですから……」

「その……いつもは加減が上手く出来ないんです、鬼の力の……」



「けど、加減なしの全力なら……鬼の力を前面に出せば……壊す事なら誰にも負けないです」

「……鬼の力、魔物の力……本当は……使うのは怖いんです」



「大事な物まで壊してしまいそうで、私の人の心が、魔物の心に飲まれてしまうかもしれなくて……」

「私は……あの酒呑童子しゅてんどうじの末裔です」



「この力を多用すれば、私は魔物の力に支配されるかもしれない……紛れもない、破壊の力」

「それでも、私はこの力で、主君を守ります」




「壊されないように、守って見せます」




 その言葉が、魁人の迷いを粉々に砕いた。



「何? 見せ付けてくれるわね!」

「面白いじゃない? 守る? 口だけなら何とでも言えるわよ!」



「血染めの魁人ちゃんが、君を守るって言ったのも、つまらない気まぐれなのよ?」

「そんなのにフラフラ感化されて……軽い子ねぇ? 騙されやすいタイプでしょ?」





「……っ! いいじゃないですかっ! 嬉しかったんですよ!」

「主君がどう思っても、何をしてきても、どれだけダメでも迷ってもっ!!」




「私にとっては、世界で一番大事な人なんですよっ!!」





「あぁもうめんどくさいなぁっ! リリネアちゃんの一番お気に入りの子で消し飛ばしてあげるっ!」

「出てきて! コレクションナンバー30……龍王種ドラゴニアっ!!」




 本から現れたのは、巨大な姿の龍王種ドラゴニアだ。数多く存在する魔物の中でも最強クラスの種であり、その名前だけで多くの者が逃げ出すほどだろう。全身が青い鱗で覆われている所を見ると、氷属性を宿しているらしい。



「一番苦労して捕まえた子だよ、覚悟してよね」



「グオオオオオオオオオオオオッ!!!」



「チィ……まだ……契約者の名において命ずる! 黙って従いなさい!!」



「……オノレ……オノレェ……ッ!!」



 現れた龍王種ドラゴニアは、明らかにリリネアに抗おうとしている。使い魔として、命令に逆らえないその姿は、奴隷と大差は無い。




「魁人君、それとそこの鬼っ子ちゃん! 哀れな夢を抱いて……死になさいっ!!」




「自分じゃ無理だとか、何かのせいだとか……」

「そんな事言ってちゃ、一歩も前に進めないんですよっ!!」




 紫苑に向かって振るわれた龍王種ドラゴニアの尾、その一撃を、紫苑は左手で弾き飛ばした。



「……っ! この馬鹿力!」

「いいわっ! リリネアちゃんのお気に入りの必殺技っ! 見せてあげる!」




龍王種ドラゴニアっ! やっちゃってっ!」




 翼を大きく広げ、息を吸い込む龍王種ドラゴニア、ブレスを撃つ気だ。




「怪力じゃどうにもならないわよ? さぁ、どうする気!?」




「……っ!」




「………………紫苑、下がれ」




 立ち上がり、紫苑を庇うように前に出る魁人。涙を拭い、前を見据えた魁人の目は、迷いを振り切った目をしていた。




退魔槍たいまそう貫縛かんばく




 剣の形を成していた札が、今度は槍の形に変わった。二人目掛けて氷のブレスを放つ龍王種ドラゴニアだったが、魁人の投げた札の槍が、そのブレスをぶち抜いた。




「ひゃああああっ!? 嘘っ!?」




 槍はブレスを吹き飛ばし、そのまま龍王種ドラゴニアの体に命中する。命中と同時、槍の形は崩れ、大量の札が龍王種ドラゴニアの体全体に張り付いた。




百符陣ひゃくふじん・縛っ!!」




 張り付いた札全てが連動し、巨大な龍王種ドラゴニアを縛り上げる。その状態で、魁人は魔力を振り絞った。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」






 既に使い魔契約で縛られている龍王種ドラゴニアを、自らの退魔の力で縛り付ける。膨大な魔力で上から潰すように、魁人は力を継続させた。その瞬間、龍王種ドラゴニアに刻まれた使い魔の紋に、ヒビが入る。




「へっ!? ちょっ……強制干渉……!? 嘘嘘嘘っ!! そんなの出来るわけっ!!」





「そうだな……出来るわけない……出来るわけ……」

「俺は……そんな無茶な道を……選んだんだ……」



「あの男に教えられたんだ……紫苑に誓ったんだ……」

「だったら……やってやらないと……情けないだろうがああああああああああああああっ!!!」



 全力の力を込める魁人、その気合が、龍王種ドラゴニアを使い魔の呪縛から解き放った。




「きゃああああああああっ!? リリネアちゃんのお気に入りがっ!?」

「って! ひゃあああああっ!!」




 開放されると同時、龍王種ドラゴニアはリリネアに向かってその尾を振るった。咄嗟に避けるリリネアだったが、状況は完全に不利だろう。




「う、うぐぐぐぐ……全員、本に戻ってっ!」




 紫苑の一撃で吹き飛んでいたリリネアの使い魔達が、本の中に吸い込まれていく。




「お、お、お……覚えてなさいよ魁人君っ! リリネアちゃん達はあの『討魔紅蓮』と手を結ぶんだからっ!!」

「魁人君も、マークセージだって……良い気になっていられるのは今だけなんだからぁっ!」




「絶対絶対っ! 絶対に! 後悔させてやるんだからぁっ!」

「コレクションナンバー22っ! 鳥人種ハーピー! 逃げるが勝ちよぉ!!」



 

 本から飛び出てきた鳥人種ハーピーは、リリネアの肩を爪で掴み、空へ飛び上がった。そのままリリネアは、東の空へと消えて行ってしまった。





















「……人ノ子、貴様モ我ヲ縛ロウトスルノカ」




 解放した龍王種ドラゴニアが問いかけてくるが、答えなど決まっている。




「……人への復讐を望むのなら、戦うことになるかもしれないが……」

「……元の住処に帰るというなら、お前は自由だ」




「…………ソウカ」

「人ノ子ヨ、感謝スル」




 翼を広げ、龍王種ドラゴニアは空へと消えて行った。きっと、悪い魔物ではなかったのだろう。



「…………助けた事に、なるのかな」



「あの、主君……その、さっきは……」



 なにやらオドオドしながら、紫苑は魁人に近寄ってくる。



「何で半人のお前が殺される対象になったのか、合点がいったよ」




「えぅ?」




「あの伝説クラスの鬼・酒呑童子しゅてんどうじの末裔だったからなんだな」

「上はそれに気が付いて、お前に宿った力を消そうとしたわけだ」



「流れる血は半分でも、その力は凄いんだな」




「……凄すぎて、いつもは上手くコントロール出来ないんです」

「奥へ奥へ押し込んでも、どうしても出てきちゃって……」



「一度表に出すと……私が、私じゃない何かに飲み込まれちゃいそうで……」

「怖いんです、この力が」




「……力が、怖い……か」

「俺も、自分の力が怖いよ……そんで、嫌いだ」



「けど、向き合わないとダメなんだな……やっぱ、俺はまだまだ半端だ」

「凄いな、紫苑は……俺なんかよりずっと強いよ」




「そんな事……」




 謙遜する紫苑の頭を、魁人は優しく撫でてやった。



「しゅしゅしゅしゅしゅ……主君っ!?」




「……ありがとうな」

「お前が居なかったら、俺はまた失敗してた」



「守るとか偉そうに言ったのに、守られちゃったな」




「そそそそんな事は、私は主君がいたからあんなこと、そうですあんなことを私はっ! 私は主君を殴り殴……ああああっ! なんてことをっ! すいませんすいませんすいませんっ! 痛くないですかっ!? 傷とか痕とか残ってないですか!? 腫れたりしてませんかっ!? うええええぇんごめんさないぃぃ……!!」




 どうしてあそこまで強いのに、この子はここまでオドオドしているのだろうか。さっきまでの紫苑は格好良かったと思っていたのに、魁人は内心苦笑いを浮かべていた。



「殴られて、目が覚めたよ」

「きっと、俺はまだまだ迷うんだろう」



「紫苑、その時はまた殴ってくれよな」




「えぅ……?」




「こんな頼りない馬鹿野郎だけど、これから宜しく頼むよ」

「俺は、お前と進んで行きたい」



 そう行って、紫苑の手を取った。



「いつか、俺はクロノに追いつきたい」

「まだまだ遠いけど、付き合ってくれるか?」




「……! 私で、宜しければ……」

「……どこまでも、付いて行きます!」




 そう言って笑う紫苑が、魁人にとって何よりも大切な物になろうとしていた。まだちゃんとした気持ちでは無いのだが、確かにその想いは芽生え始めていた。



 二人はまだ、スタートラインに立ったばかりだ。



 二人が選んだ道の先には何があるのか、それはまだ分からない。




(リリネアの本には、俺の過去の過ちが詰まってる事になる)



(いつか、あの本に閉じ込められてる魔物を全員解放してやる)



(そして、向き合うんだ……過去の失敗と……)




 欠片の一つが、輝こうとしていた。



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