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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第十四章 『絶風襲来』
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Episode:魁人&紫苑 ② 『裏切り者に、制裁を』

 ここはアゾット……ウィルダネス大陸の中央砂漠地帯から東に存在する国だ。錬金術と呼ばれる技術が存在し、科学者達も多く暮らしている。その為か、砂漠の中にあるにも拘らず、この国はとても賑やかで発展していると言えた。そんな国に存在している一つの退治屋、そのアジトの中で一人の男が椅子を蹴り飛ばしていた。



「じゃあ何か? まんまとしてやられたって事になるのか?」

「ターゲットをしっかりきっかり守りきられたと? しかも裏切り者はのうのうと活動中だと?」




「ふーざけるんじゃあーりませんよぉ!? 面目丸潰れ! お間抜け量産してる場合じゃねぇだろうがよぉ!?」





「いやまぁ……俺だってムカついてるっすけど……」


「流石魁人君っすよねぇ、抜け目ねぇっつうか……」



 そう語るのは、魁人の以前の仲間だったジェイクだ。右腕に装備しているマジックキャノンで頭をグリグリしながら、不機嫌そうに口を開く。



「殺す筈だった鬼娘は、新たな退治屋を設立した魁人君の使い魔……よって手出しは不可能」

「その退治屋を認め、魁人君達を保護するのは、盤世界ファンタジア24ヶ国の一つ……隔壁国家・マークセージの王……」



「しかもマークセージは、つい最近獣人種ビーストと同盟を結んだとかいう腐れた情報も入ってるっす」

「汚れてるっすねぇ、着々と魔物の『黒』が広がってるっすよぉ」





「んーなこたぁ言われなくても分かってんだよ禿野郎っ!!」

「魔物なんかと同盟結ぶイカレ国は2秒で更地にしたいところだが! 流石に手を出すのはヤバァイんだよ!」



「だからこそ俺達『魔葬砂塵まそうさじん』も、あの『討魔紅蓮』の傘下に加わるって話を進めてるんだろうがっ!」

「魔に加担する奴には容赦しない……何でも有りのイカレ集団……」



「奴等の力を借りれば、イカレ国も裏切り者も、遠慮なしでぶっ殺せるんだよっ!」

「なのにあちらさんから連絡がこねぇんじゃどうしようもねぇ! ハンカチ噛んで悔しがるしかないじゃないですかぁっ!?」





「ストレスマッハで限界突破ああああああああああああっ!!」





 ジェイクの目の前で頭を抱えて転げ回る20代半ばくらいの男、その男が叫んだ瞬間、周囲の地面に亀裂が走った。



「クレイド先輩ー魔力漏れてるっすよー」




「誰が悪いってー? 魔物が悪いんだよおおおおおおおおおおっ!」

「魁人のあん畜生めっ! 今度あったらぶっ殺してやる! あああああああそれが出来ないからムカツクんじゃねぇかあの策士がああああああああっ!」




「あーぁ……始まった……」

「あー……魁人君ー……なんで俺残して馬鹿な道選んだんすかぁ……俺一人じゃ手に負えないっすよぉ……」



 死んだ魚のような目で天井を見上げるジェイク、彼は魁人と二人で行動することが多かった為、未だにやり切れない想いを抱えていた。



(まぁつっても……戦う時が来たら、容赦するつもりとかないっすけどね)


(それに……俺にはあのガキの方が気になってたりするっす……)



 マークセージの同盟の話に、クロノの名前が出てきていた。彼の動きもまた、マークセージや獣人種ビースト達の方針に強い影響を与えている事も、ジェイクは聞いていた。上層部はまだ軽く見ているようだが、ジェイクは実際に戦った経験から、楽観して見ている事が出来なくなっていたのだ。



『俺は他族との共存の世界の為に、旅をしてるんだ!』

『話も聞かず、一方的に他族を殺すような退治屋おまえらは絶対に認めない!』



(……危険因子……消しておくべきだったっすねぇ……)

(…………ま、放っておいても死ぬだろうけど……)



 それでも、心のどこかに残るざわつきを、ジェイクは振り払えずにいた。そんな事を考えていると、不意に入り口のドアが蹴り開けられた。



「O MA TA SE ! みんなのイライラ解消しちゃいますっ! リリネアちゃん参上~っ!」



「うぜぇっ! 死ね!」



「いやんっ! 開口一番ひどーいっ!」



 20代前半ほどの女性が、ハイテンションでアジトの中に滑り込んできた。言うまでもないが、彼女もジェイクの頭痛の種だったりする。



「リリネアッ! テメェ俺が魁人に対してムカつきをバーストさせてる時にどこ行ってやがった!」

「大体テメェはアースクリスタルの依頼を……」



「みんなの良心・リリネアちゃんはあるお仕事をしてたのですよ!」

「あ、アースクリスタルはパスしたんで……」



「テメェも俺をイライラさせたいのか、あ?」



 クレイドが魔力を纏って詰め寄るが、それをサラリとかわしてリリネアが一冊の本を広げた。それを見たクレイドとジェイクの顔色が変わる。



「……リリネア先輩のコレクションじゃないっすか、随分増えたっすね」




「で、これがなんだってんだ?」




「やだークレイドさんボケた? 元から馬鹿だった?」

「大体さー……みんなのんびりすぎだよぉ、討魔紅蓮だかなんだか知らないけどさ?」



「そんな奴等の力借りなくてもさぁ、裏切り者くらい、裁く方法いくらでもあるじゃん?」

「目と鼻の先に居るんでしょ? 魁人ちゃん」




「あたしに行かせてよ、ウズウズしてんだよね」




 そう語るリリネアの目は、数多の死線を越えてきた退治屋の目だ。



「……面白い、その手があったな」

「いいぞリリネア、褒めてやるぜ」



「あのクソガキの首を持って帰ってきたら、もっと褒めてやる」




「聞いた話じゃ、魁人君って腑抜けになってるんでしょ?」

「余裕余裕、使い魔の鬼ごと殺してくるよー」




「任せといてね☆」




 意気揚々とアジトを飛び出すリリネラ、ジェイクは黙ってその背を見つめていた。




(魁人君、マジで馬鹿な道……選んだっすね……)



 

 






















 



 数日の時が経過し、視点は魁人達に移り変わる。魁人と紫苑は、マークセージから数時間歩き、砂漠でアースクリスタル集めに励んでいた。



「主君、熱くないですか?」



「まぁ熱くないと言えば嘘になるよな、けど泣き言言ってられないさ」



 彼らはまだ無名の退治屋、仕事も回ってこなければ、旅立ちの資金も心許ないのだ。地道にアースクリスタルを拾い集め、十分な資金を稼いでから本格的に旅立とうと魁人は計画していた。



「はやる気持ちもあるが……地道にやっていくしかないからな」



「……主君、最近難しい顔する事が多いですね?」



「ん? そうか? 良く見てるな」



「!!?!?!?! いやそんな良く見てるとかそんなことなくてご迷惑ですよね気持ち悪いですよねすいません本当にいやでもちがちがくて本当にそんなあばばばっ!?」



 どうして今の会話の流れでそこまで動揺するのだろうか、舌を噛んで悶絶している紫苑を見て、魁人は心底不思議に思っていた。




「お前の力なら舌とか余裕で噛み千切れそうだから、見てて少し怖いよ……」




 ちなみに舌を噛んだときの衝撃の二次被害なのか、紫苑が手にしていたアースクリスタルは粉微塵になっていた。




「まったく……貴重な資材を……」

「今日は少し集まりが悪いな……地核元アルバーンでも起こればいいんだけど……」




「あぅ……すいません……」




「ん……いいさ、気にするな」




 軽く微笑んでそう言ってやると、紫苑の表情がみるみる明るくなっていく。この前プレゼントした髪飾りも良く似合っている、笑うと本当に紫苑は可愛かった。



「主君! 私頑張りますっ!」



「主君のお役に立ちます! 見ててくださいっ!」



 勢いよく走り出す紫苑、アースクリスタルを求め、彼女は砂漠を駆け回っていた。そんな紫苑を見て、魁人は思わず笑ってしまった。




(……こんな風に、笑えるなんてな……)




(踏み出してよかった、助けようとしてよかった……手を伸ばしてみて、良かった……)

(……そうだな、きっと、こういうことなんだな……)



 大事な何かを見つけた気がする、魁人は走り回る紫苑を追いかけようと一歩踏み出した。







『お前にそんな資格があるのか?』







 胸を貫いたのは、自分の迷いの声。



(……そんなの、分からない)



『今更、笑っていいと思ってるのか?』



(俺は……)



『本当に、償えるとでも思ってるのか?』

『何体の魔物を殺した? 思い出すのも嫌なのか?』



『泣き喚き、助けを求めてた奴も居たよな? あの頃のお前には、救いを求める声なんて雑音でしかなかったんだろ?』



 生きる為、無我夢中で力を振るってきた。振り向いたときには、自分の背後には多くの死体が転がっていた。血の足跡は、どれだけ進んでも拭えなかった。血に染まったこの手を、紫苑に伸ばしていいのだろうか。



(いいのか……? いや、決めた筈だ……)



(何があっても、紫苑を守ると……)



(俺の生きる意味……決めた筈だ……今更……)



『その手で、守るのか?』



 一瞬、自分の手が血染めに見えてしまう。振り払えない、どこまでもどこまでも……過去のイメージが魁人に纏わり付いてきた。




「…………畜生…………」




「主君?」




 気が付けば、両手で大量のアースクリスタルを抱えた紫苑が、心配そうな顔で覗き込んできていた。




「お疲れ、ですか?」




「あ…………」

「…………すまない、お前だけに拾わせて……」




「そんなの気にしません、私は主君の力になれればそれで……」




 そう笑う紫苑、自分には、その笑顔は勿体無い気がしてならない。笑顔を向けてもらう資格なんて、自分にはないのだ。



「……なぁ、紫苑?」



「はい?」



「…………お前は、俺の事……」





「発見ーっ! やっと見つけたーーーーっ!!」




 魁人の声を遮り、聞き覚えのある声が周囲に響いた。



「え、誰ですか!?」



「……リリネア……!?」




「魁人君お久しぶりでーーっす! 再会の挨拶、喰らって潰れろーっ!」

「出て来いっ! 土塊の傀儡! ゴーレム君っ!」



 空から突然降り立ったリリネアが、間髪入れずに本を開く。その本から土が飛び出し、巨大な人型を成した。



「なっ!?」



「主君、下がって!」



 突然の奇襲、土で出来た巨人は魁人と紫苑にその拳を叩き込んだ。その衝撃で周囲が土煙に包み込まれる。



「リリネアちゃんの専売特許、間髪入れずに死にやがれアタック! 久々に見た感想はどう?」

「ふっふっふ、もしかしてこれで勝負ありとか~? やーん! リリネアちゃん強ーい!」




「ゴーレム君ナイスファイトッ! ご苦労様~! ……って、ありゃ?」




 リリネアの声に反応を示さないゴーレム、その体が腕の部分から吹き飛んだ。紫苑の拳が、ゴーレムの一撃に打ち勝ったのだ。





「うひゃぁ……流石鬼だね……力技で押し返されたのかぁ……」





「貴女が何者かは知りませんが……」


「主君に手を出すのなら、敵です」



 魁人を庇うように、紫苑が一歩前に出る。その目には僅かな怒りが浮かんでいた。



「リリネア、何のつもりだ」

「紫苑は俺の使い魔、そして俺は正式な退治屋として認められてるんだぞ」



「紫苑に対しても、俺に対しても、攻撃は認められないはずだ!」




「そうなんだよねぇ、その縛りのせいで魁人君の裏切りに対する制裁も与えられないんだよねぇ」

「それでクレイドさんとか怒っててさぁ、もう大変なのよね」



「けど、頭のいい魁人君ならもう分かってるんでしょ? あたしが来た理由とか」

「まさかあたしの戦闘スタイル、忘れてないでしょ?」



 そう言ってリリネアは本のページを数枚めくる、そして本を紫苑に翳した。




「コレクションナンバー04・出て来い水体種スライム




 その言葉と同時、本の中から一体の水体種スライムが飛び出してきた。



「あたしは魔物使い(ファミリアテイマー)、半殺して強制的に使い魔契約を結んだ魔物を沢山コレクションしてる」

「だからさ、こう言い訳させてよ」



「魁人君も、そこの鬼っ子ちゃんも、事故で魔物に殺されちゃったよ☆ ってね」

「契約者の名において命ずる、水体種スライムちゃん、そこの鬼を殺しちゃって?」



 本から出てきた水体種スライムは、一言も発せずに紫苑に襲い掛かった。既に感情らしいものは壊れているらしい。



「紫苑っ!」



「っ! はぁっ!!」



 紫苑は自分に飛び掛ってくる水体種スライムを殴りつけるが、流動体の水体種スライムに物理的な攻撃は効きはしない。その拳は水体種スライムに包み込まれてしまう。



「きゃああっ!?」



「くっ! 退魔符・縛!」



 紫苑の全身を包み込もうとする水体種スライムに、魁人は一枚の札を投げつけた。札に書いた文字により、込められた魔力が増大する特別製の札だ。すかさず退魔の力を流し、水体種スライムの動きを縛り付ける。



「リリネア! お前こそ忘れたか! 俺の力は『退魔』の力だ!」

「お前のコレクションじゃ、俺には勝てないぞ!」




「やーん! リリネアちゃん困っちゃうなー!」

「魁人君ったら、昔と変わらず容赦ないよー!」




「流石、『魔物殺し』の達人さんだー!」




 その言葉が、今の魁人にどれほどのダメージになるのか、リリネアは知っていた。



「随分変わったって聞いてたけど、何にも変わってないねー!」

「相変わらず、魔物に強いんだからぁ……あたしと相性最悪だよねぇ」




「ねぇ魁人君、ほら……この子とか覚えてる?」




 リリネアが本から呼び出したのは、左足が無いウェアウルフだ。



「そうだよ? 魁人君が弱らせてくれたからコレクションできた子だよ」

「こっちの子とか、最近捕まえたんだー、見て見て~?」



「ねぇねぇ、この霊体種ゴーストは覚えてる?」

「覚えてるよねぇ……魁人君が殺した竜人種リザードマンの霊なんだしさ」



「捕まえるの苦労したけどさぁ、使い魔契約は割と楽に結んでくれたんだよ?」

「…………復讐のチャンスをあげるって言ったら、簡単に結んでくれたんだ」



 そう言いながら、リリネアは本から数十体の魔物を呼び出していく。出てくる魔物達は、全て魁人が過去に傷つけた魔物達だった。




「…………リリネア……お前……!」





「魁人君……? 魔物の事、守るんだよねぇ?」

「それがどれだけ馬鹿なことか……今教えてあ・げ・る♪」



「昔手にかけた子を、もう一度殺すとかしないよねぇ~?」

「けどしないと、魁人君殺されちゃうよ~?」



「やーん! 契約者だけどぉ! この復讐心……リリネア止めてらんな~い!」

「あーん! もうだめぇ~!!」





「…………契約者の名において命ずる、その復讐心を満たすがいい、魔の者よ」





 その合図と共に、魔物達は魁人に襲い掛かった。





「主君っ!!!」





 紫苑の声が響く、魁人はその場から動けなかった。



 自らが犯した過ち、そこから伸びる鎖は、魁人の体を縛り上げていく。



 今、試練の時だ。



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