イケメンってエコな生命体だよね〜バカ猫ミーちゃん語録〜
「ねぇ、ユー。イケメンってさ、正義だよね」
「は?」
「何しても許されるよね、イケメンって」
「そうなのか?」
「例えばさ、遅刻してきたイケメンと遅刻してきたフツメンと遅刻してきたブサメンがいたとする。私が教師だったらイケメンだけを許すよ」
「サイテーだな、おい。お前、絶対教師になるなよ」
「イケメンってさ、絶対、地球に害のあるものは排出しないんだと思うんだ」
「いや、二酸化炭素吐きまくりだろ」
「イケメンの口からはミント的な爽やかな吐息が出るんだよ。きっと、イケメンは二酸化炭素を吸って酸素を吐き出すんだよ。イケメンって乙女にも、地球にも優しいんだね。エコだよ、エコ。エコな生命体」
「ばかか」
「イケメンはトイレなんか行かないんだよ。トイレに行くイケメンは、人間のふりをしたいだけなんだ。イケメンって普通の人間になりたい願望があるからね」
「お前にイケメンの何が分かる」
「イケメンってなんであんなに人を惹きつけるんだと思う?私、考えたんだよね。イケメンってさ、目に見えない、鱗粉を身にまとってるんだよ。その鱗粉には、害はない毒が含まれているんだ。どんな毒かというと、人を魅了する毒・・・。だから安易に近づいたら、危険だよ」
「お前、気持ち悪いな」
「しかし気をつけようにも、すでに私たちは魅了されている。それは何故か?何故なら、うちのクラスにイケメンがいるからですよ」
「平井のことか?」
「さらにいうと、そのイケメンの鱗粉から逃げれない配置に私たちはいる。そう、そのイケメンは私の隣の席なのだ」
「今まさにお前の隣にいて俺たちを見ている平井のことだな」
「つまり、何が言いたいかというと・・・。平井!!!お前みたいなイケメンは、羽はやして、薔薇の庭園にでも行って、ふよふよ浮いて、妖精でもやってろ!!このイケメン!!たとえ普通の人間のふりをしてても、お前はまごうことなきイケメンなんだよ!!身の程をわきまえろ!そして身の程をわきまえた結果、妖精になれ!!」
「ミー、お前、いきなりヒートアップしすぎだろ。平井がドン引きしてるぞ」
小・中・高と一貫の、この学校。
エレベーター式で進学するため、同級生全員が顔見知りだ。
羽金美衣も小学校からの持ち上がり組だ。
あだ名は、バカ猫ミーちゃんだ。
省略してバカ猫やらミーやら好き勝手にクラスメイトは呼ぶ。
何故このような、あだ名になったのかというと、2つの意味が込められている。
1つ目は、バカだからだ。
興味のある科目以外はほとんど赤点であり、補習には必ずと言っていい程参加している。
2つ目は、猫のような見た目と性格。
見た目は、小柄で華奢で色白。猫のような大きな瞳と長い睫毛、髪はセミロングで、柔らかく、色素が薄いため、日に照らされると茶髪に見える。
性格は、気分屋で、食い意地をはっている。まさに野良猫だ。
そんな美衣と話していたのは、左隣の相良勇気。
彼も持ち上がり組で、美衣とは小学校1年からの腐れ縁だ。
あだ名は、アイラブユーだ。
省略してアイやらラブやらユーやらクラスメイトは好き勝手呼ぶ。
意味は、同級生が名前を読み間違えたのがきっかけだ。『さがら』を『あいら』と読み、『あいらゆうき』→『あいらゆう』→『アイラブユー』になった。
決して、恋多き男で、愛を囁くような人物というわけではない。
彼は切れ長の瞳をしていて、ストイックな雰囲気を持つ和風男子だ。
彼は人にクールな印象を持たせる。
話題に上がっていた平井とは、美衣の右隣の席の男子生徒だ。
名前は、平井龍興。
あだ名はまだない。
何故なら、彼は数少ない高校からの外部生なのだ。
彼はイケメンだ。
日本じゃない、違う国だったら、国外追放されちゃうくらいのイケメンだった。
きりりとした眉の下にある、二重まぶたの優しい瞳。筋の通った高い鼻に、薄いが形の良い唇。高身長に小さい顔。
欠点をあげるとしたら、黒い髪が鋼のように硬いことくらいだろう。
イケメンの外部生である彼は、それはもう注目を浴びた。
ホームルームを使ってクラス全員で平井のあだ名を考えたのだが、意見はまとまらず、あだ名がまだない状態である。
いまだかつてないくらいに、真剣にあだ名を考えている。
主に女子が。
ちなみにバカ猫ミーちゃんこと美衣が考えた彼のあだ名は、『平イケメン』。
イケメンなのかイケメンじゃないのか良くわからない上に安直すぎると却下された。
アイラブユーこと勇気が考えた彼のあだ名は、『イケメン転び たつ起き』だ。
七転び八起きに、イケメンと名前の龍興をかけてみたが、なかなかいい線だが長すぎると却下された。
あだ名に必ずイケメンをつけたくなる程、彼は誰もが認めるイケメンだった。
「羽金は俺のことイケメンイケメンっていうけどさ、相良だってイケメンだろ?」
そう平井が反論をしてきた。
(いいやつじゃねぇか)
勇気は気分良くそう思ったが、この後の美衣の言葉で、地獄へ叩き落とされる。
「相良ってだれ?」
クラスがシーンと静かになった。
美衣の前の席の、目白彰という名のボブの女子生徒(あだ名はアキラメロン)が振り返って、美衣にコソコソと耳打ちをする。
そして、何事もなかったかのように目白は前を向く。
同じく何事もなかったかのように、美衣は話を続ける。
「ユーがイケメンだって?そんなわけは断じてない!」
「ちょっと待て。お前、いま、俺の苗字忘れてただろ?」勇気が口をはさむ。
「ユーがイケメンなんて断じてない!」美衣は勇気を無視して、同じ言葉を2度繰り返す。
「いや、相良はイケメンだと思うけど」平井も負けじという。
「イケメンってのは、地球に優しいって相場が決まってるんだ!ユーを見てみろ!地球に優しくみえるか?見えないだろう!そうだ、こいつは地球に害しかもたらさない!ユーはな、私と2人きりだとゲップやオナラをするんだ!剣道の全国大会の試合の前なんか緊張して、お腹を下してトイレに駆け込む!小さい頃なんて、こいつのおもらしの後処理を何度したことか!これでもイケメンと言えるのか?」
(し、死にたい)
勇気は何も言えずに、顔を隠すように机に突っ伏した。
「俺だって、ゲップやオナラをするし、普通にトイレだってする」
「嘘だ!」
「本当だって!」
「じゃあ、多数決をとろう」
「多数決・・・?」
いつの間にか、目白が黒板の前に立ち、デカデカと大きな文字で黒板に文字を書いていた。
書かれた文字はこうだ。
テーマ: 平井君はイケメンだから、ゲップ・オナラ・トイレをしない。
賛成
反対
「平井君は本人だから手を上げちゃダメだよ。平井君は、イケメンだからゲップやオナラやトイレはしないって思う人は手を上げてー!」
美衣がそう言って手を挙げたら、クラスの女子全員が一斉に手を挙げた。
このクラスは、女子が18名、男子が18名で計36名いる。
女子全員が手を挙げたということは、平井が手を挙げることが出来ない状態では、反対が17人しかいないということだ。
目白が、賛成の文字の横に18名と書いて、赤のチョークで、賛成の文字に花マルをつけた。
「賛成多数のため、“平井君はイケメンだからゲップやオナラやトイレはしない” に可決!」
美衣がそう言うと、クラスの女子生徒達が、ワァワァと拍手をする。
「いや賛成されても、俺は人間だから、するよ・・・」
「じゃあ、ここでしてみろよ」
うるさい教室の中で、寡黙な目白がボソッと呟いたのを、勇気は聞き逃さなかった。
勇気は、その恐ろしい鬼畜な発言に身を震わせた。
しかし、当事者であるイケメン平井には聞こえていないようで安心する。
「いやいや、平井君は人間じゃなくてイケメンだよ。いくら、人間になろうとしても無駄だよ。諦めなよ、イケメンの運命から逃れることは出来ないんだから」と美衣が言う。
「俺は人間だ・・・」力なく平井がそう言った。
目白は新たな議題を黒板に書き始めた。
テーマ:平井君は何者なのか。
人間
イケメン
ホモ
平井が文句を言うのより早く、美衣が司会を進行して多数決をとりはじめる。
結果がこうだ。
人間 15人
イケメン 17人
ホモ 3人
「と、いうことで、多数決により“平井君は、人間でもホモでもなくて、イケメンだ” に可決ー!」
ワァワァと拍手喝采だ。
「ちょっと待て。ホモを選んだのは誰だ?」
平井がワナワナと拳を震わせて、言った。
「ホモを選んだ人だれー?」美衣が聞く。
3人、素直に手を挙げた。
目白と、目白と仲が良いメガネがチャームポイントの鎌田心香(あだ名はメガシンカ)と、高村孝太郎(あだ名は、ドーテー)だ。
女子2人に理由を聞くのは、地雷だと判断した平井は、高村に尋ねた。
「高村、お前、何でホモに手を上げたんだよ」
「俺の姉ちゃんが “ イケメンを見たらホモだと思え! ”って言ってたからさ。俺、最初から、平井はホモだと確信してたんだよ」
しれっと高村が言う。
「俺は、ホモじゃない!」
平井は、机を叩いて立ち上がり、大声を出した。
「いいや、平井、お前はホモだ!」
高村が何故か怒鳴り返す。
「イケメンがホモだったら、相良もホモってことだろ!」
平井は負けじと言い返す。
「そうだ!相良もホモだ!」
高村が言いきった。
「そうなのか?相良!」
平井が、イケメンなその顔で、相良に聞く。
「ちげーよ・・・」相良はげっそりしながら言う。
「いいや、お前もホモだ!」
高村は高らかに言う。
「つか、もう俺以外、男子全員ホモだ!つまり、女子の恋愛対象は俺しかいないってことだ!ホモな奴らなんてほっといて女の子は俺をチヤホヤしろーー!」
高村がクラスを見渡して叫ぶ。
男子達の喧嘩が勃発した(と、いうよりも高村を男子達がフルボッコしている)。
美衣は飽きて、自分の席で寝ていた。
目白も席に戻り、読書をしていた。
他の女子達も男子を無視して各々のことをしている。
その結果、
「おい、自習してろって言ったよな?なにを暴れてるんだ男子は!」
男子達は、教師にこっぴどく怒られた。
「ねぇねぇ、ちょっとだけ国語辞書貸して」
平井は、昼休みに美衣にそう言われて、素直に貸した。
昼休みが終わる頃に辞書は返ってきた。
(なにがしたかったんだ?)
そう思い、適当に辞書をめくると、美衣が何をしていたかわかった。
【池】の文字と説明があったところが、全部、修正器で消されていた。
代わりに書かれていた文字。
【イケメン】酸素を排出する、地球に優しいエコな生命体。生態はまだ詳しくわかっていない。身体には鱗粉があり、それをふりまいて人々を魅了する。例)平井龍興って人間じゃなくてイケメンだよね。
対義語⇔ブサメン
(次からは絶対何も貸さない)
そう思った平井龍興であった。